その後の二人。【前編】(DDFF/R18)

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※フリオニールとライトニングが12回目の戦いのどうなったか、というお話。
※ライトニングがFF2の世界へ来てしまう、という私の完全妄想です。「そういうのもアリだな」という方はどうぞ。

 
パチッと何かが弾ける音がして目が覚めた。
木の梁に漆喰の白い天井が目に飛び込んで来た。
時代がかかった天井にはオレンジ色の光が写っていて、それがユラユラと揺れている。
光の源の方を見ると、そこには暖炉があり薪がくべられていた。
まだ幼かった時、両親や、やっとよちよち歩きを始めた妹とスキーに来た時に止まったペンションに似ているな、とライトニングはぼんやりと考えた。
その時の出来事を目覚めたばかりのはっきりとしない頭で思い出しながら、何故自分がそんな所に居るのかを思い出そうとした。
(…だめだ…)
どうしても思い出せないのだ。
おまけに、自分は何一つ身に付けていない。
どうして自分が真っ裸でペンションのベッドに横たわっているのか。
背中から自分を抱きしめ、たくましい腕を首に回して眠っている恋人なら知っているかもしれない。
ここがどこか分からないし、何故自分がこんな所に居るのか分からないけど、顔を見なくてもこの腕が誰の物なのかライトニングにはすぐに分かる。
肩越しに見やると、フリオニールはライトニングの首筋に顔を埋めるようにして眠っていた。
あまりにも気持ちよさそうに眠っているので起こしたものかとライトニングが迷っていると、腕の中でライトニングが身じろいだせいか、フリオニールが目を覚ました。
「ああ…すまん、起こしたか?」
フリオニールはぼんやりとライトニングを見つめる。
先程のライトニング同様、まだ半分眠っている状態なのだろう。
フリオニールはしばらくライトニングを見つめていたかと思うと、不意に目を見開いた。
「…どうしたのだ?」
フリオニールは「いや、その!」「すまない!」と口走りながら慌ててライトニングから身体を離すと、転がる様にベッドから飛び出した。
「おい…フリオニール…」
あまりの慌てぶりにライトニングが呆れて呼びかけるのも聞かず、フリオニールは必死で何やら言い訳を始めた。
「すっ…すまない…おおおお、俺は!その!君には何も…」
「別に気にしてない。それよりも…」
「や、宿屋のおかみさんがっ、冷えた身体を温めるのは人肌が一番だって…それでっ!」
「それは分かったが、それよりも…」
「ずっと!目を瞑っていたから、きっ君の身体はっ見ていない!誓っても良い!信じてくれないかもしれないが、それでも俺は…」
「フリオニール!!!」
いつまでも途切れない弁明にいい加減うんざりしたライトニングが少し大きな声で叫んだ。と、フリオニールは信じられない…という目でライトニングをじっと見つめるのだ。
「漸く黙ったか…それよりこの状況を説明してくれ、フリオニール。私は凍えていたのか?それでお前がここに連れて来てくれて、温めてくれたのか?」
しかしフリオニールは返事をしない。
ライトニングは眉を寄せた。
フリオニールはまるで目の前のライトニングがこの世の物ではないような目で凝視しているのだ。
「フリオニール?」
フリオニールはやはり答えない。
沈黙の中で薪がまたパチッと弾けた。
フリオニールは大きく息を飲み込むと、青ざめた表情で、
「君は…どうして俺の名前を知ってるんだ…?」
胸の辺りがズシリと重たくなって、息が苦しくなった。
「フリオニール…」
ライトニングは震える唇でようやくその名前を呼んだ。
「私の事を…覚えていないのか…?」
暖炉の炎がフリオニールの顔を照らす。その表情を見て、ライトニングは唇を噛んだ。
(ばかな……)
そうして、なんとか自分の記憶を手繰ろうとする。
そうだ、自分は何かを成し遂げようとしていた。
(コスモスとカオスが対峙するあの世界で……私は戦っていた…)
徐々に記憶が蘇ってくる。
完全なる消滅を覚悟をして挑んだ次元の扉の破壊と、懐かしい仲間たち。
(確か…フリオニールはカインが眠らせたと言っていたが…)
無垢な愛情を与え続けてくれていた恋人が自分の事を覚えていないという事実がライトニングから冷静な思考を奪いそうになる。
フリオニールの目は明らかにライトニングを恐れているのだ。
「本当に…私の事を覚えていないのか…?」
フリオニールが目を伏せた。また長い長い沈黙。
「…君は……」
口火を切ったのは、フリオニールだった。
「君も、戦士なのか…その、変わった武器を持っている。」
鼻の奥がツン、となって涙が溢れそうになった。
あの世界で初めて出会った時、フリオニールは同じ事をライトニングに尋ねたのだ。
「…ああ。」
堪らない気持ちになって、ライトニングも目を伏せた。
目の前に居る男はやはりフリオニールだ。
ライトニングが愛した、正義感に溢れる熱血漢のフリオニールなのに。
(敵の魔法か罠か、それとも…)
「君はどうして俺を知ってるんだ…?君の口ぶりだと…俺の事を良く知っているようだが…」
ライトニングはどう答えたものかと考え、
「…私達は…一緒に戦っていた…」
何故か、恋人同士だったとは今は言わないでおこうと決めた。
「じゃあ、君も反乱軍なのか?」
「反乱軍…」
ライトニングの事は覚えていないフリオニール。
(…ということは、自分がコスモスに召喚されて戦っていた時の記憶が抜け落ちている、という事か…)
「反乱軍か…」
自嘲気味にライトニングはつぶやいた。
何故だろう、自分はいつも絶対的な者達に対して不信感を持っていた。聖政府しかり、コスモスに対してもそうだった。
(そういった意味では、反乱軍かもな。)
さっきはフリオニールが自分を覚えていないことにショックを受けたが、今は、言葉を交わす事でだんだんと気持ちが落ち着いて来た。
「フリオニール。」
ライトニングは顔を上げ、フリオニールを真っ直ぐに見つめる。
「たとえ私を覚えていなくても、お前はお前なのだな、フリオニール。」
暖炉の炎の明かりだけではなく、フリオニールの顔が赤くなったのが分かった。
ライトニングがフッと笑うと、フリオニールはますます顔を赤くする。
「私の事を覚えていない今のお前に話しても、お前は混乱するだけだろう。」
そう、ましてや自分が神々の戦いに召喚された選ばれし戦士だなどと言えば、この純朴な青年は戸惑うだけだ。
幸いここは宿屋のようだ。あの世界の様に色んな次元が複雑に入り組んだ世界ではないようだ。敵の急襲はないだろう、とライトニングはそう判断した。
「少しずつ、説明する。それで良いか。」
フリオニールは少し考えたが、小さな溜息を一つ吐き、
「…分かった。」
それを見てライトニングは微笑む。
ライトニングはフリオニールがそう答えるとちゃんと分かっていたからだ。
「だが、一つだけ教えてくれ。」
「なんだ?」
「君は…その…」
フリオニールは口の中で何かモゴモゴ言い、それが突然、
「そうだ!君の名前…」
「ライトニングだ。」
「そ、そうか…。」
意気込んで何かを言おうとして、どうやら言い出せない様子だ。
ライトニングはそんなフリオニールの様子を微笑ましく見つめる。
「聞きたいのは私の名前ではないだろう。」
「いや!…ああ、そうだ。その…君…ライトニングは…」
名前を呼ばれると、少しだけ胸が痛い。
「俺の…その…」
「なんだ?」
「特別な…」
「特別な…なんだ?」
「…そう!味方、なのか?」
純情フリオニールは自分とライトニングとの間柄が気になるらしい。が、素直に特別な仲と聞けないのがいかにもフリオニールらしい。
「私はお前と共に戦った仲だ。」
「そうか。」
ライトニングの言葉にフリオニールはホッとうれしそうな表情を浮かべた。

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