その後の二人。【前編】(DDFF/R18)

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宿のロビーで知らせを受け取ったフリオニールは呆然としていた。これをライトニングに知らせたら彼女はどうするのだろう?
この宿に滞在してもう1週間になる。
朝は遅めに起き出して、午後は狩りに出る。暗くなると宿に戻り夕食を食べてはセックスにふける、そんな蜜月を過ごして来たが、ライトニングは時折遠くを見つめたり、ぼんやりと窓の外を見ている時があった。彼女が情報屋からの連絡を待っているのが見てとれて、それがフリオニールをやるせない気持ちにさせていた。皇帝の所に向かわなければならないのは理解していたが、それでもライトニングを死地に赴かせたくはなかった。
(ひょっとして、この知らせを聞いたら彼女も諦めるかもしれない…)
そう思って、すぐに自分の考えの甘さに気付く。諦めた所でなんの解決にもならないことも分かっているし、なによりも、
(ライトは…決意を翻したりはしないだろう…)
それでも、皇帝と戦うよりはライトニングを彼女の世界に戻す方を優先させたいし、危機におもむくよりは今の夢のような暮らしをもう少し続けられたら…と思わずには居られない。
フリオニールは朝と昼を兼ねた食事の入った籠をレストランで受け取る。中身はパンで干し肉や野菜を包んだサンドイッチのような物に温かいスープ、冷たい水をつめた瓶、そして干した果物だ。それを持って足取り重く部屋への階段を上る。扉をノックして部屋へ入ると、ライトニングは着替えを終えて窓の外を眺めていた。
「ライト、飯だ。」
フリオニールは籠を掲げてライトニングに見せる。遅い朝食はいつも部屋でベッドに腰掛けて食べる。ライトニングはベッドに腰掛けて、フリオニールもその隣に座って二人の間に籠を置く。代わり映えしないメニューだが、ライトニングはサンドイッチの中の干し肉がお気に入りでいつも真っ先にそれを食べる。
「…良い知らせは来なかったようだな。」
サンドイッチを頬ぼりながらライトニングが言う。フリオニールの顔色を見て察したようだ。瓶の栓を抜こうとしていたフリオニールは手を止めて俯いた。
「パラメキア城には…誰も居ないそうだ。すっかり廃墟になって、人や物が出入りして気配は一切ないらしい。地下や隠し通路も念入りに調べたそうだがそれもなかった。」
「…手詰まりだな。」
フリオニールはいつも口いっぱいにサンドイッチを頬ぼりながら話すライトニングを見るのが好きなのだが、さすがに今朝は幸せな気分にはなれない。フリオニールは食事を食べる気分にはなれず、ぼんやりと手にした瓶を眺めていた。次の行動を考えなくてはいけないが、手がかりが一切ない状態だ。
「俺達を幾度と無く襲って来たあの兵卒達は一体どこから来たのか…」
「なあ、フリオニール。」
サンドイッチを平らげ、ナプキンで口を拭きながらライトニングが口を開いた。
「私が一度奴と戦ったあと、皇帝にもヤツの配下にも襲われることがなくなった。」
言われてみればその通りだ。
「確かにそうだな…ここは大きな街だ。何か事を起こしたら目に付くからだと思っていたが…それを含めて皇帝の罠…なのか?」
泳がされているのだろうかと思うと気分が悪い。二人だけの甘い日々も皇帝の思惑だとしたら…そこまで考えたところで、フリオニールははっと顔を上げた。
「ライト、だめだ!」
「まだ何も言っていない。」
「君は自分がおとりになるつもりだろう?」
「手がかりがないならそれしかないだろう。私が動けば奴も動くはずだ。」
「危険だ。」
「お前が守ってくれればいい。」
「…簡単に言わないでくれ。それに、約束しただろう?自分を差し出すような真似はしないでくれって。」
「だがこの状況なら仕方あるまい。」
「ライト!」
思わず声を荒らげたフリオニールをライトニングは呆然と見つめる。
「…ごめん。」
フリオニールは持っていた水をぐっと飲み干した。そうしてライトニングを止めたくて言葉を探す。
(口先だけではだめだ…)
感情にうったえてもだめだ。彼女が安全で、且つ具体的で効果的な”作戦”でないと。必死に考えてふとさっき二人の行動全てを監視されているのではないかと思った時に感じた嫌悪感を思い出した。
「ライト…」
一度気が付くと、おかしいと思う点が次々とフリオニールの中で浮き彫りになってきた。
「皇帝は…何故俺たちを二人一緒にさせているんだ?」
ライトニングも言われてみれば…と考えこむ。
「別に、俺の世界でなくても良かったはずだ。君の世界でも。」
「この世界は…皇帝の言わば本拠地だ。だから…」
「ライト、俺達は二人一緒に雪原に倒れていた。どうして二人一緒でなくてはいけないんだ?俺やライトを異世界から連れて来ることが可能なら、ライト一人を奴の元に連れて行くことなんで簡単だろう?」
「それは…」
確かにおかしい、とライトニングも考える。
「奴が必要としているのは私だけではない、ということか?」
「それは違うと思う。でないと、君が一人の時に襲われる理由がない。」
「ますます分からなくなって来たな…」
「正直言うと、俺もだ…何か…掴みかけた気がするんだ。喉元まで出かかっているような…俺とライト、二人が必要で…でも、俺になくて…ライトにあるもの…」
「…クリスタルだ。」
「クリスタル?」
ライトニングは大きく頷いた。
「12回目の戦いの中、私達は女神コスモスから力を授けられた。」
「それが…クリスタルか?」
「ああ。だが、コスモスはクリスタルは私たちが戦いを繰り返すことで私たちと馴染み、クリスタルに変わる、と言っていた。そのクリスタルがどんな力を秘めているのかは分からない…だが、敗戦を繰り返していた戦況をひっくり返すだけのパワーはあるのだろう。」
「クリスタル…」
「12回目の戦いで、イミテーションと呼ばれる無限に増殖する敵の雑兵が出現した。そのせいで私達は授かった力をクリスタルに変える時間がなかった。そこで…」
その後に起こったことをライトニングはフリオニールに話した。ライトニングは出来るだけ事実を淡々と語ったのだが、それでもフリオニールは次元の狭間を破壊した件で眉を潜めた。
「俺は…君がそんな悲壮な戦いをしていたのに眠っていたのか?」
「それは…カインがお前を眠らせていたからだ。」
ライトニングはカインが自ら汚名を受けるのを覚悟で味方を倒し、眠らせていたことを語った。
「私と…私をこの世界で助けてくれた何人かの仲間はクリスタルを形にすることが出来なかった。だが、お前は違う。13回めの戦いで目覚め、おそらくクリスタルを手に入れてカオスを倒し、この世界に戻って来たのだろう。」
フリオニールはそんな壮大な戦いに参戦し、しかも勝利をおさめてこの世界に帰って来た、というのが未だに信じられないのだが、今はそんな事を言っている場合ではない、と更に考える。
「じゃあ、クリスタルを手に入れた俺と、クリスタルを形に出来なかった君との違い…」
「しかも、ティファやユウナ、それに他の仲間ではなく、私を狙った理由…」
「ついでに言うと、わざわざ俺とライトを一緒に行動させているのは何故か、だ。」
「まだある。どうして次元の狭間を破壊しに行った仲間がこの世界で私の危機に現れることが出来るか…」
「それだ。その仲間達も、クリスタルを形にすることが出来なかったんだろう?何かその辺に秘密が…」
二人はう〜ん、と考えこんでしまった。
「…考えるのは苦手だ。」
フリオニールがぼやく。ライトニングも思考に詰まって、籠の中のドライフルーツを摘むと、フリオニールの口に放り込む。ライトニングのちょっとしたいたずらがうれしくて、フリオニールもライトニングが好きなベリーを乾燥させたのをひとつを摘んで、ライトニングの口の中に入れてやる。二人でもごもごとフルーツを噛み締め、思わず顔を見合わせて笑う。その仕草から、フリオニールはライトニングから悲壮な決心が消えているのを感じ取ってホッとする。
フリオニールは立ち上がると、
「ライト、出かけよう。どのみち金は要る。ここで考えてるより、外で身体を動かした方が良い考えが浮かぶかもしれない。」
「…そうだな。」
二人して装備を整える。当然フリオニールの方が重装備なので時間がかかる。
「…なあ、ライト。」
「なんだ?」
「君は気付いていたと思うけど、俺は未だに君と皇帝を戦わせるのに、どうしても賛同出来なかった。」
「…ああ、そうだな。」
それが分かっていたから、ライトニングも情報屋からの知らせがいつ届くのかフリオニールに尋ねることが出来なかったのだ。
「だけど、今、君と話して考えが変わった。大変な決意をして戦いに向かった戦士たちの話を聞いたら…俺がクヨクヨしている場合じゃないって思ったんだ。」
「フリオニール…」
ライトニングはそっとフリオニールに寄り添った。
「明日、出立しよう。」
「…どこへだ?」
「パラメキア城の跡へだ。君か、俺のどちらかが鍵ならば、俺達がそこへ向かえば、何かが起こるはずだ。」
結論こそでなかったが、二人で考えを整理し、話し合ったことで漸くフリオニールも皇帝との対峙に積極的になったようだ。
「だけど、奴の目的が分かるまでは…」
「分かっている。軽はずみなことはしない。ワケの分からないの企みにのっかるのも癪だしな。」
「そうじゃなくて、ライトにもしものことがあったら、俺が心配なんだ。」
ライトニングの胸がとくんと高鳴る。でも、それを素直に認めるのがやっぱり悔しくて、
「それはお前にも言えることだろう?」
と、憎まれ口を叩いてソッポを向く。向いてからしまった!と正面を向き直すとフリオニールはやっぱりライトニングの言葉を自分を心配してくれるものだと受け取って、感極まって、ライトニングを見つめている。
「どうしてお前はそう…」
言いかけて、ライトニングは黙り込んだ。
皇帝と戦う決意をしたフリオニールだが、それは異世界での戦士たちの戦いぶりに勇気づけられたもので、二人で話し合った結果ではないのだ。
(フリオニールの意思では…ない…)
「あいつ、笑うのが苦手だろ?」
不意にラグナの言葉が頭に浮かんだ。脈絡もなく何故その言葉が浮かんだのかが分からない。でも、うまく言えないが、大切な何かに結びついているような気がする。
「フリオニール、お前は…」
いつもなら顔を真赤にしてつかみかかってくるライトニングが、何やら深刻な表情で自分を見つめているのにフリオニールは驚く。
「どうしたんだ?ライト…俺、何か変なことを言ったか?」
「…お前は…今、何のために戦っている?」
「え?」
突然の質問に驚いたフリオニールだが即座に、
「もちろん、ライトのためだ…それがどうかしたのか?」
「いや、そうじゃなくて…」
ライトニングは自分の動揺の原因がつかめず、フリオニールに何を尋ねてよいのか分からない。
「皇帝が戻ってきて…またお前の世界を脅かすかもしれない…お前は…それが気にならないのか?」
「…そう…かもしれないが…今のところそんな動きもないし…奴の狙いはライトだろ?だからライトのために戦う…それが結果的に奴の野望を阻止することに繋がると思っているが…何かおかしいか?」
フリオニールは淀みなく答える。ライトニングもフリオニールの回答になんらおかしい箇所を見つけられないでいる。正論過ぎて、違和感をうまく言葉に出来ない。
「すまない…私の考え過ぎだ。」
フリオニールはライトニングの意図をはかりかねて首を傾げるばかりだ。
「ライト、今日は休んでいた方がいいんじゃないか?」
フリオニールが心配そうに聞いてくるが、ライトニングは大丈夫だ、と言い先に立って部屋を出る。フリオニールは訝しがりながらもその後に続く。
「ライト、明日の出立の準備もある。今日は早めに切り上げよう。」
「分かった。」
ライトニングは笑顔で答える。こうやって話をしていると、さっき感じた違和感は、本当に自分の考え過ぎではないかと思える。
二人でそれぞれモンスターを何匹仕留めたかを競い、宿に戻ってからは雪花亭の料理に舌鼓をうち、この宿で過ごす最後の夜ということでいつもよりもより深く、激しく愛されてライトニングはその時に感じた心の引っかかりをいつの間にか忘れてしまっていた。

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