パンネロのお留守番(FF12/R18)

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今夜は特に念入りだからきっと何かあるんだろうな、
(それもきっと言い出しにくいことね。)
情事の後の気怠い身体を預けながら、何かお痛でもしたのかしら?などと思って問い質したら、
「お出かけ…?十日も…?」
バルフレアはちょっと顔歪め、パンネロを引き寄せた。
「心配しなくていい。危ない所に行くんじゃない。」
「じゃあ…遠い所なの?」
心配そうに自分を見上げるパンネロにバルフレアは胸が締め付けられる。
こんな顔をさせたくないからギリギリまで言い出せずにいたのだ。
「え…明日から…?」
パンネロは言葉が続かないようだ。
“明日から”と言ったきり、呆然としている。
バルフレアは必死で宥める。
別に危ない仕事でも遠くに行く仕事ではない。
駆け出しの頃に世話になった空賊仲間の飛空艇のメンテナンスを頼まれただけだと説明する。
危険な仕事ではないと聞いて、パンネロのはホッとした表情をする。
「でも、どうして十日もかかるの?」
「でかくて骨董品みたいに古い船なんだ。それで、時間がかかる。」
パンネロはそっかぁ…と小さく口の中で呟く。
「海の方に行くのね。じゃあ…おみやげは真珠がいいな。」
「バスタブに一杯ぐらいでいいか?」
バルフレアの大風呂敷にパンネロがクスクスと笑う。
「耳飾りでいいの。」
「じゃあ、卵ぐらいデカいヤツだな。」
「チョコボの?」
「お望みとあらば。」
そんな軽口を叩きながら、バルフレアはパンネロを抱く腕に力を込める。
「さっさと済ませて帰るから、いい子で待ってろよ。」
「ダメよ、ちゃんとしないと。
その子がいい子になるまで帰って来ちゃダメ。」
パンネロは飛空艇を呼ぶ時はよくそういう言い方をする。
「女の子を宥めるのは得意な方でね。」
「どうかしら?」
“早く帰って来てね”とか“寂しい”とか、そんなワガママを決して言わない。
寂しくても心遣いを忘れないパンネロが健気で愛おしい。
珍しくおみやげをねだったのも、長く留守にするバルフレアの後ろめたい気持ちを少しでも軽く…という気遣いなのだ。
反面、もう少し甘えてくれてもいいのに…と寂しい気もしないではない。
バルフレアは俯いたパンネロの顎をそっと持ち上げ、上を向かせる。
はにかんで、首を傾げる仕草が可愛い。
バルフレアはその額に口づけると、
「行く前にヴァンの所まで送って行く。
俺が帰るまで子供達と待っててくれ。」
「じゃあ、みんなにもおみやげが必要ね。」
その口ぶりがヴァンの所に行くのがうれしくて仕方がない、そんな風に聴こえたので、なんだかおもしろくないバルフレアだった。

さて、余裕な素振りのバルフレアを見送った一日目。
何も問題なく一日が過ぎた。
フィロやカイツを始め、仲間達には腕を上げたと自負する料理を食べさせ、ミゲロさんの店をあれこれと手伝い、明日からは散らかって足の踏み場もない
(ヴァンのお部屋のお掃除ね!)
と、張り切ってシャワーを浴びて、ベッドに横になろうとした。
横になろうとして、パンネロは立ち竦んでしまう。
突然、ものすごい喪失感がパンネロを襲ったのだ。
不安でたまらなくなり、意味もなく部屋をきょろきょろと見回した。
当然だが、部屋には誰も居ない。
「やだ…」
パンネロはモンスターでも見る様な目でベッドを見つめた。
それから自分の突飛な考えに少し気恥ずかしくなり、ほぅ…と息を吐く。
「やだ…私ったら、どうしたんだろ?」
部屋はバルフレアが取ってくれていたごく普通の宿屋の部屋だ。
ベッドも、もちろん普通のベッドだ。
「それが怖いだなんて…私、どうかしている。」
まだ少し胸がザワつくが、その部分にシャッターを下ろして横になった。
「わぁ…フカフカ。」
寂しさを紛らわせる為にわざと明るく言ってみる。
「…寂しい…?」
気持ちがざわつくのは、
(バルフレアが居ないから…?)
気付いた途端、堰を切ったかの様に涙がぽろぽろと溢れた。
毎晩、毎晩一緒に眠っていた。
それが当たり前になっていたのだ。
眠りに落ちる前のちょっとした会話とか、触れ合う肌の温もりとか、 身体の重みとか、体臭や整髪料の匂いとか、いやらしいささやきとか。
「バルフレア…」
パンネロはすん、と鼻を鳴らし、目を閉じたが、その日はなかなか眠る事が出来なかった。

それからパンネロの不眠症は続いた。
眠れないので昼間はしゃかりきに働くが、また夜が来ると眠れない。
顔色が悪いと心配する幼なじみにも、まさか一人が寂しくて眠れないとは言えないし、相談するのも何故かためらわれた。
眠るためにと昼間はしゃかりきに働くのだが効果はない。
却って疲労が蓄積されて、周りがますます心配する。
さすがに疲れて、五日目にパンネロは一日部屋で休む事にした。
(あの部屋で一人は嫌だけど…)
これ以上仲間達に心配はかけられないのでそう決めたのだ。
何もする気になれないので、寝間着のままベッドでゴロゴロしていると、嫌な考えばかりが頭を過る。
「どうして…お留守番なのかしら…。」
機工師としての評価も高いバルフレア、あちこちでお呼びがかかるのはパンネロにも誇らしい。
(でも、シュトラールの整備の時はお手伝いさせてくれるのに…)
確かに“ここを押さえておいてくれ”とか、“あれを持って来てくれ”レベルではあるが。
(え?え?それって結局邪魔してたの…私…??)
それとも、昔、世話になった人だと言っていたが、その人に幼い恋人を見せたくなかったのだろうかとか。
いや、それならまだいい。
(誰か…キレイな人が待っていたり…?)
疑心暗鬼で自己嫌悪に陥る。
「…もう…イヤ…」
それでも、さすがに寝不足が続いてウトウトしていると、誰かが扉をノックしている。
扉を開くとそこには、
「バルフレア……!」
ただもううれしくてつま先だって、背伸びをし、バルフレアの首に腕を回す。
「どうしたの?まだ5日も残ってるのに?」
不意の事で感情が制御出来ず、パンネロはしゃくりを上げていた。
「…寂しくて寂しくて、頭がどうにかなりそうだったのよ。」
バルフレアは分かっている、と言わんばかりに腰を屈め、パンネロの顔を覗き込む。
涙の跡に口づけられ、抱き上げられた。

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