彼ニット。(FF12/R18)

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※新婚さんのバルフレアとパンネロで完全捏造です。結婚後空賊を引退し帝都に工房を構えたバルフレアと新妻のパンネロ。そういうネタが苦手な方はご注意ください。

別にだまし討ちをしようとしたわけではない。

飛空艇のメンテナンスを頼まれて、珍しく3日間の出張となった。予定では2日目の深夜には帰宅できそうだったのだが、その航路は延着が多いことで有名だったので、パンネロが待ちくたびれてはかわいそうだと、次の日の始発便で帰ると伝えたのだ。

だが、予想に反して定期便は時間通りに出発し、定刻通りに到着した。バルフレアの帰りを待ちわびているであろうパンネロに、早く帰れると一言知らせてやろうかとも思ったのだが、びっくりさせるついでに、もう一つびっくりさせてやろう、そんな他愛のないサプライズのつもりで連絡はしないでおいた。

家に着くと部屋に明かりがついていた。こんな遅くまで起きているのかとバルフレアは少し驚いた。もし寝ているのなら、眠っているパンネロを起こさないようにベッドに潜り込んで、朝に驚ろかせればいい。だが、起きていたのならそれはそれで構わない。寝ているのうっかり起こしてしまうよりはいいかと鍵を探し、玄関の扉を開いた。

鍵は開けて玄関のホールの明かりをつける。上のフロアにいるであろうパンネロに階下から声をかけた。すぐにパタパタと足音がして、寝室の扉が開いき、パンネロが飛び出してきた。

「うそ!バルフレア、本当なの!?」

階段をトントンと跳ねるようにかけ降りてきて、バルフレアの胸にうれしさを隠し切れないといった笑みで飛び込んでくる。目を輝かせて喜びをその愛らしい顔いっぱいに表して、バルフレアにどうして早く帰って来られたのか矢継ぎ早に尋ねてくる。合間に、食事は風呂はと、バルフレアを気遣うことを聞いてくるのがまた愛おしい。

「パンネロ。」

はしゃぐパンネロの手を取って、その顔を覗きこむ。

「まずは“おかえりなさい”のキスだろ?」

パンネロは肩をぴょん、と跳ねさせ、そしてクスクスと笑うと、

「おかえりなさい。」

と、はにかみながら伝えると、つま先だって背伸びをし、バルフレアの首に腕を回す。バルフレアもパンネロの高さに合わせて体を屈め、パンネロからのキスを待つ。パンネロは高い鼻に自分のがぶつからないように何度か首を傾げて角度を調節し、バルフレアの唇に自分のを合わせる。その愛らしい仕草に、バルフレアの方が我慢ができないとパンネロをきつく抱きしめ、顔中にキスをする。

「きゃっ!バルフレア…!」

体を折るように屈めていたのがもどかしくて、バルフレアはパンネロを抱き上げ、再びキスの雨を降らせようとして、その動きを止めた。抱き上げたパンネロを下ろし、その姿をまじまじと見つめる。視線を何度も上下させていて、パンネロはすぐにバルフレアが何を見ているのか気づいたようだ。

「あ、これ……?」

パンネロはバルフレアのセーターを着ていた。ざっくりとした白いオフタートルのセーターで、カシミアとモヘアを撚り合わせた糸はふんわりとした柔らかさと、滑らかな落ち感の両方を合わせもった上質なものだ。

華奢なパンネロには男物のセーターはまるでワンピースのようだった。セーターの裾はパンネロの太ももの、ちょうど真ん中くらいだ。肩幅は当然パンネロの方が狭いので、肩のラインは二の腕の真ん中まで落ちていて、てろんと垂れ下がっている。その袖口の裾からは、パンネロの小さな指先がかろうじて覗いている。襟も大きく垂れ下がり、そのせいで襟元からは鎖骨が覗いてるのだが、ボリュームのあるニット生地からのぞく肌は妙になまめかしくて。まるで素肌の上に雲の衣装をまとっているようだとバルフレアは息を飲み、言葉が出てこない。

「ごめんなさい…勝手に着ちゃって…あのね、これ、お洗濯に出すつもりだったの……」

バルフレアは服にうるさい。勝手に大切にしているセーターを着てしまい、バルフレアが怒ってしまったのではとパンネロはオロオロしている。

「違うんだ、パンネロ……」

バルフレアは心配させないように、額に唇を落とす。

「あんまりかわいいから、びっくりしたんだ。」
「そうなの?…でも、ブカブカだよ?」

そこがイイんだ、かわいいんだ!バルフレアは熱をこめて語りたかったのだが、“ブカブカだよ?”と言ったパンネロが、指先で袖口をきゅっと握りしめ、両腕を軽く折り曲げたそのポーズがまた涙が出るほどかわいかった。イヴァリースでかわいいとされるありとあらゆる生物が束になったところで敵わないほどの愛らしさだ!とバルフレアには思えた。自分の服を新妻が着てるのいうのは、これはもう、飛空艇と同じくらいの男のロマンだと言い切ることができる。

しかも、パンネロはセーターを素肌のその上に直にセーターを着ているようで、ニットの裾から覗く太ももがまた破壊力抜群のむっちりさだ。さらにその下に目をやると、素足にヒールのあるミュールタイプの室内履きを履いているのだが、甲の部分はふわふわとしたファーに大きな造花がついたかわいらしいもので、そのつま先からはきれいに整えられ、淡いピンクに染められた足の爪が覗いている。

バルフレアはもう我慢の限界だとパンネロを抱き上げた。驚くパンネロの唇を塞ぎ、舌をねじ込んだ。いきなりの激しい口づけに、パンネロはバルフレアの胸を両拳で叩いていたのだが、やがてそれを受け入れ、シャツを手できゅっと摘んだ。バルフレアが家を空けたのはたったの3日だ。それなのに寂しくて寂しくてたまらなかったパンネロは、即座に熱い唇を受け入れてしまう。窒息しそうなほど貪らせるがままにさせ、唇が離れた頃にはもう身も心も蕩けきっていた。

パンネロはうっとりとバルフレアの厚い胸板に頬を埋め、バルフレアはふかふかの生地に埋もれているようなパンネロの体を抱え、寝室の扉を開き、ベッドの上に腰掛けパンネロを膝の上にのせる。てっきりベッドに横たえられると思っていたパンネロは驚いてバルフレアを見上げる。

「かわいいから、な。もう少し見させてくれ。」

そんなことを言って、パンネロの髪を撫で、頬に唇を寄せる。かわいいと言われてうれしいパンネロだが、単にバルフレアのセーターを着ているだけで、サイズも合わなくてブカブカなのに、どうしてなのかと不思議でしかたがない。そんなパンネロの疑問にお構いなしに、バルフレアはパンネロの顔中に唇を押し付けるのに忙しい。

「そう言えば……どうして俺のセーターを着ているんだ?」

パンネロは部屋着、寝間着をそれこそチェストいっぱいに持っている。持っている、というか、バルフレアがパンネロに着せて、そして脱がせるために買ったものなのだが。シルクのスリップとローブのセットアップ、柔らかいダブルガーゼのボリュームたっぷりのネグリジェ、サテンのベビードール、チョコボのプリントの入ったパーカー、タンクトップ、レディース用のトランクスの3点セットから、鉄板中の鉄板、フランネル地のピンクのチェックのパジャマまで。寝室の様子を見ると、パンネロは寝ようとしているところだったようだ。なのに、それらのナイトウェアを差し置いて、何故かバルフレアのセーターを着ているのだ。

実のところ、バルフレアにはその理由の見当がついていた。だが、パンネロの口から聞きたくて、わざとそんな風に聞いてみる。案の定、パンネロはポッと頬を染め、うつむいてしまう。

「そのセーターは出かける前に着てたやつだな?クリーニングに出しておくように頼んでた思ったんだが?」

パンネロが言い逃れができないように、わざとさも不思議そうな風を装う。

「あの…ね……」

パンネロは右手の指で、左腕のセーターの袖をそっと摘んだ。

「これを着てたら……バルフレアに抱きしめてもらってるみたいな感じがするの。着ていたらバルフレアの匂いがして……」

そうして、ぷぅ、と頬をふくらませる。

「もう、バルフレア、知ってるんでしょ?そうやって…私に言わせて…意地悪なんだから。」
「寂しかった?」

パンネロは素直にこくん、と頷く。だが、表情はまだ不機嫌なままだ。

「バルフレア、ずるい。私にばかり言わせて……」
「俺も、寂しかったさ。」
「本当?」

バルフレアはゆっくりとパンネロの体を横たえ、その顔を真上から見下ろす。パンネロは、“もう夜が遅いから”とか“帰っていきなり”とか、そんなたしなめる言葉を口にしようとして、でも、一人寝が寂しくてバルフレアの着ていた服を持ち出すほどだったわけだし。

「バルフレアも、寂しかったの?」
「もちろんだ。」
「私がいなくて?久しぶりに一人でのんびりしたりしなかったの?」
「海の上を走ってでも、早く帰りたかったさ。」
「……本当に?」

すると、バルフレアはパンネロの耳元に口を寄せ、何かを囁いた。最初はくすぐったくて首をすくませたパンネロだが、バルフレアの言葉にカッと頬を赤くして、

「もう……!バルフレア!」

そんな風に怒って、拗ねて見せてもかわいいだけなのにな、とバルフレアはパンネロの鼻の頭にチュッと音を立ててキスをする。

「心配しなくていい。言ったろ?“どれだけ寂しかったかちゃんと分からせてやる”ってな。」
「……出かける前、いっぱいしたのに。」
「お前とのセックスはストックが効かないんだ。」

“セックス”というあからさまな言葉にパンネロがまた抗議の胸ぽかぽかをする。バルフレアは笑いながら容易くその腕をとり、両の手首をベッドに押し付け、パンネロの顔をごく間近で見つめる。

「おしゃべりはもう終いだ。俺は早く、綿菓子に包まれたピンク色の飴玉みたいなお前を味わいたいんだが。」

甘いキャンディを口の中で転がして、しゃぶり尽くしてやりたい。本当はそう言いたいのだが、これ以上からかうと、胸をぽかぽかでは済まされない。おそらく反撃は“枕を抱えて背中向けたままこっちを向かない”もしくは“シーツに潜って絶対に出てこない”のどちらかだ。

バルフレアのさじ加減が良かったのか、焼き菓子のように膨らんでいたパンネロほ頬はいつのまにかしぼんでいて、色づいた果実のようにほんのりとした赤みがさしていた。目と鼻の先にバルフレアの顔があり、照れくさいのか、きょろきょろと落ち着きなく視線をさまよわせていたが、おずおずとバルフレアの瞳を見つめ返し、そうして目を閉じた。

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