その後の二人。【前編】(DDFF/R18)

この記事を読むのに必要な時間は約 15 分です。

フリオニールは微かに眉を顰めた。分かったいたとはいえ、改めてライトニングの口から聞くとやはりショックだったのだ。
「私は…さっきの邂逅を含めて、この世界で二度、皇帝と戦った…一度目は、私たちがここの宿の前に泊まったあの狩猟小屋…あそこだ。そこで、奴が私に言ったんだ…この世界に私を召喚したのは奴だと。」
フリオニールは驚いてライトニングを見る。
「…私は今でもそれを信じていない…信じたくない…あいつに…あんな奴に召喚されたなどと。」
ライトニングは自分で自分を抱きしめるようにしてぎゅっと両腕を掴んだ。
「まるで、私を生かすも殺すも奴に握られてる様な気がして…おぞましさすら感じる。それをお前に話すことがどうしても出来なかった…」
ライトニングがあまりにも打ちひしがれているので、フリオニールはライトニングの肩を抱いて引き寄せた。ライトニングもその逞しい胸にそっと頭をもたれかけた。
「奴の罠にはまって危なくなった時に、突然、あの世界での仲間が現れた。…ラグナと言って……私たちの仲間の中で一番年長者だったのに、子供っぽくて、不思議な魅力を持った男だった。」
仲間の話をする時、ライトニングは優しい表情になった。
「ラグナ…か…」
フリオニールにのばらの花を与えた張本人なのだが、フリオニールは思い出せないでいる。
「じゃあ、これは…」
フリオニールは狩猟小屋から捨てられずに持っていた弾丸を取り出し、ライトニングに見せる。
「…そうだ、これはその時にラグナにもらった。」
「…そうだったのか…」
「フリオニール。」
ライトニングはフリオニールを見上げる。
「お前の用意してくれたものは…私の武器には合わなかった。でも…」
「気を遣ってくれたんだろう?俺の厚意を無駄にしたくないって。」
ライトニングが頷くと、フリオニールはライトニングの額にそっと唇を寄せた。
「…ライトは優しいんだな。」
「だが…それも嘘だぞ?」
フリオニールは手のひらでラグナの残した弾丸を転がしながら、
「そうかもしれないけど…不思議だな、ライトは嘘を吐いたと思うかもしれないが、俺は今それがうれしい。いろいろ悩んだりしたけど、報われた気分だ。」
そして、フリオニールはハッと顔を上げてヴァンが残した武器を見て、
「じゃあ、あれも…?」
ライトニングが頷く。
「あれは…ヴァンという戦士が残していった…飛空艇に乗った空の盗賊…空賊だと言っていた。お前の様にたくさんの武器を持っていて、それをスイッチして使っていた。」
「それであんなにたくさんの武器を持っていたのか…」
この期に及んで、かつての仲間の名前を聞きフリオニールが何かを思い出すのではないかと、ライトニングはついついフリオニールの反応を見守ってしまうが、その様子はない。
「お前がクアールと呼んでいたモンスター、あいつらに身体を麻痺させられて私は動けないでいた。やられそうになった時、ヴァンが現れて助けてくれた。」
フリオニールはライトニングの言葉を聞いて考えこむ。
「本当に…君の危険に駆けつけるんだな。」
「ああ。それで…さっき現れたのはティファだ。」
「ライト意外にも女性が居るのか…?」
「そうだ。私がさっきお前に何も言わずに飛び出したのは…奴が私を誘う罠を仕掛けたからだ。さっきも言ったように、私があいつに召喚されたなどとお前に知られたくなかったから…一人でケリをつけるつもりで飛び出した。」
「…そうだったのか…」
「だが、冷静ではなかった私はあっさり奴の罠にかかった。そこをティファに助けられて…二人で戦って、奴を追い詰め…でも、奴は影を送って来ていただけで本体はどこか別の場所に居るようで、結局、逃げられてしまった。」
ここでライトニングは言葉を切り沈痛な面持ちで、
「フリオニール。」
ライトニングは自分の肩を抱いているフリオニールの手に、そっと反対側の手を重ねる。
「…お前に…嘘を吐いたり、起こったことを話さなかったことを許してほしい…ただ、私も…色んなことが起こったが、どうしてそれが起こったかは全く分からなくて…お前にどう説明すれば良いか分からなかった…お前が信じてくれなかったり、お前の心が離れたら…と、それが怖かった。」
言葉にして気がついた。”フリオニールに話すと、全てを失ってしまいそう”それは、
(…フリオニールが信じてくれなかったら…私から離れていくのが怖かったのか…)
話を聞いてみて、ライトニングの危機に突然この世界に現れて彼女の仲間、というのがどうもピンと来ないが、弾丸や武器が彼らの存在を如実に物語っている。
しかし、次元を飛び越えて現れる存在、というものはフリオニールの理解の範疇をとうに越えていた。
だが、さっきまでライトニングに対して疑心暗鬼に陥ったりもしたが、フリオニール疑問に思っていたことは全て真摯に話してくれた。何よりもライトニングの口調がとても嘘を吐いているようには見えないし、彼女も一人で思い悩んでいたことがよく分かった。
「…話してくれて、うれしい。」
フリオニールはライトニングの顔を正面から優しく見つめ、抱きしめた。
「君のほうが俺よりもたくさんの記憶を持ってる。そして皇帝の狙いは君だ…当然、君の方に負担がかかる…俺の方こそそれに気付かなかった…だから、謝ったりなんかしないでくれ。」
「フリオニール…」
「俺の方こそ、君の危ない時に駆けつけられなかった…君の仲間はすぐに飛んできたのに。」
「それは…私が単独行動をしたからだ。」
ライトニングは驚いて身体を離し、フリオニールの肩に手を置いた。
「私が…勝手に飛び出したんだ…お前のせいじゃない。」
フリオニールはここで何故か顔を赤くする。
「?…どうした…?」
「それでも…その……君が危ない時に、やっぱり俺が一番に駆けつけたかった……」
ライトニングはその言葉に、今まで自分を縛っていた物が解けて消えていった気がした。
「やはり、お前はお前なのだな、フリオニール。」
それがうれしくて、ライトニングフリオニールをぎゅっと抱きしめた。ライトニングの言葉に、フリオニールは彼女の胸のつかえが取れたのを知った。それに後押しされて、フリオニールも思っていたことを話そうと思い立ち、
「ライト、俺の方こそ聞いて欲しい話がある。」
「…なんだ?」
「さっきの…星の話だ。」
「星…?女槍士の話か…?」
「結末を…俺は知らないと言ったが、本当は知っているんだ。」
なんだそんなこと、と言いかけてライトニングは口を噤んだ。フリオニールは真剣な表情だったからだ。
「女槍士は最後には恋人に会えたんだ。でも…やっと会えた恋人は記憶を無くしていた。」
「…まるで、私たちのようだな。」
フリオニールが頷く。
「それで、最後まで話せなかったのか…」
「ああ…その話を思い出してやっと気付いた。やっとの思いで再会した恋人は、女槍士の目にどう映っていたかと思ったんだ。」
フリオニールは自嘲気味に笑った。
「子供の頃は…その恋人がなんてひどい奴なんだろうって思ったさ。でも、今の俺はそいつと同じ立場だ。」
「その話は…最後はどうなるのだ?」
「どうだったかな…よく覚えていないんだ。と言うか、ちゃんと聞いてなかった。その恋人がひどい奴だ!って腹を立てて。」
答えられなくて、ライトニングはおし黙った。
「…きっと星の物語になるくらいだから女槍士はとても美しかったと思う…記憶なんかなくったって、その恋人は彼女をすぐに好きになっただろうな。今の俺と、同じ様に。」
「…また、それだ。」
「え?」
ライトニングは拗ねているようだ。口がへの字になっている。
「え…っと、”またそれだ”って、俺、何か言ったか?」
「お前はすぐに”きれい”だのなんだの言って…!」
「だって本当のことだろ?」
思ってもいない方向に話が進んでしまい、フリオニール驚く。ライトニングはライトニングでまたもや直球な反応に早々に戦意を削がれてしまうが、ここは引いてなるものかと、
「そうではなくてだな、お前は見た目のことばかり言う、ということだ。」
「でも、きれいな物をきれいと言って何か…いけないのか?ライトは本当にきれいだし。」
「最後の一言が余計だ!」
フリオニールはライトニングが何を言いたいか分からず首を傾げるばかりだ。
(怒っているのではないのはないようだが…)
ライトニングはぎゅっと唇を結び、フリオニールを見上げている。
ライトニングにすると”きれい”ばかりだと照れくさいし、外見ばかり見られている様な気がして少しばかり面白くないのだ。突き詰めると、見た目さえ良ければそれで良いのか?ということだ。
「分かった!俺は、ライトが言って欲しいことをちゃんと言ってないんだな?”きれい”じゃなくて、もっと他に…」
やっと伝わったか、とライトニングの表情が一瞬明るくなるが、
「ライトは、俺がライトの好きな所をもっと他に聞きたいってことか?」
ライトニングの複雑な乙女心を一言で言うとそうなのだが、フリオニールの言葉あまりにも率直すぎて”はい、そうです”とは言えない。言えるわけがない。
自分はひょっとしてとんでもない地雷を踏んだのではないかとライトニングは焦り始めた。この調子だと、フリオニールの愚直なまでの素直さを発揮して”きれい”以上にライトニングを困らせる言葉を連発するのではないか。
「でも…そうすると、俺はライトが俺のどこが好きかって聞いたことがないな。」
この台詞を、駆け引きではなくナチュラルにそう思って言ってのけるフリオニールにいライトニングが太刀打ち出来るはずもなく。
「私が言いたいことはそういうことではない…」
「そうなのか…?あ、そうか、俺が言わなくちゃいけないんだな。」
「いや、それも違う…」
フリオニールに女性のデリケートな心情を察しろ、というのがどだい無理な話なのだ。それくらい察しろ!という傲慢な思いと、言われてみると”フリオニールの好きな所をちゃんと本人に言ったことがないな。”と、頭の片隅でちらりと生真面目に考えたり、考えた先から”そんなこと、言えるか!”と大いに照れたりと、一度にたくさんの思考がライトニングの頭の中を奔走し、遂には、
「う〜ん、でもやっぱり聞いてみたいな。ライトは俺のどこか好きなんだ?どうして俺なんかと?」
ここでライトニングの思考活動は停止してしまった。容量をオーバーし、限界を越えてしまったのだ。
「…そんなに、聞きたいか?」
「もちろんだ。」
この時ライトニングが考えていたのは、とにかく目の前の呑気な恋人をこてんぱんにすることだけだった。決して愛を囁こうと思ったわけではなかった。そういった行為は自分らしくないと信じていたし、不似合いだと思っていた。
(フリオニールが逃げ出すまで言ってやる…!)
そう意気込んで、ライトニングはフリオニールの後ろの束ねた髪が胸元に垂れ下がっているのをぐい、と引張り、顔と顔を寄せてその目を真っ直ぐに見据えた。驚いて見開いたフリオニールの瞳に自分の姿が映っているのが見えるほど近い距離だ。
完膚なまでに叩きのめすつもりだったが、フリオニールの不思議な色の瞳に見つめられ、心がふわりと浮ついて、踊り始めた。
「お前の…」
唇が勝手に動いた。
「長い…まつ毛が…好きだ…その、瞳の色も…好きだ。薄暗いところだと、金色に光って…初めて会った時は…目つきが悪い奴と思ったが…笑うと…優しくて…。」
フリオニールはまばたきもせずライトニングを見つめている。お互いがお互いの視線に囚われた様に身動き一つ出来ない。
「声も好きだ。私を呼ぶ声が…いつも優しくて…。お前の…大きな身体も…好きだ。分厚い胸板も…とても暖かくて安心して…大きな背中も、弓をひく時の逞しい二の腕も。…武器を手入れするのを見るのが好きだ。お前の手は大きくて…でも、器用でなんでもこなして…」
言葉が勝手に溢れだして止まらない。きっとその不思議な瞳の色のせいだとライトニングは思う。ライトニング言った通り、薄暗い部屋の中で幻想的な光を放っている。フリオニールも一言も言葉を発せずにいた。ライトニングのどこまでも澄んだ青い瞳の呪縛をかけられたのようだ。
「優しいとこも好きだ…私は、こんな性格だから良く…いや、たまに、だが…人と衝突する。でも、お前はそんな私を分かってくれていて…包んでくれて…。気が付けばいつもお前を見ていた…他の誰かと一緒に居ても、お前と…比べていた。フリオニールならこう言うのに、とか…そんなことばかり…考えて…お前の姿を目で追って…」
ライトニングは漸くここで言葉を切って、
「どうしたんだ…私…話す前は、そんなこと言えるもんかと思っていたのに…言葉が止まらなくて…」
ライトニングが自分で自分に驚いて混乱しているのが分かる。
「大体…お前に今までのことを話そうとしただけなのに、どうして…」
フリオニールもライトニングにどう接して良いか分からず、同じ様に混乱する。
彼女の言う通り、お互いのわだかまりを告白し合っていたはずなのだが。しかも、予想外の流れから、どうやら自分は彼女にものすごく愛されていたのだということをまざまざと教えられ、気持ちがどこまでも高く舞い上がりそうになるが、ライトニングのひたむきな言葉に応えなくてはと必死でこらえる。
「ライト、俺も……」
感極まりすぎて、言葉が続かない。
「何を言っていいか分からないよ。なんだか胸が苦しくなる。」
「…どうしてそうなる…?」
「……幸せ過ぎると、息って止まるんだな。」
フリオニールの言葉にライトニングの緊張が解ける。引きあうように唇が重なった。お互いの背に腕を回し、強く抱き合う。
「それで、お前はどうなのだ?」
唇が離れた合間にライトニングがぽつりと呟いた。フリオニールは、ああ、とライトニングの耳たぶに口づけて、
「意地っ張りなライトが素直になる時かな。普段は凛々しくてカッコいいのに、そういう時はすごく可愛くなる。」
これは確信犯だった。案の定、ライトニングはフリオニールの腕の中でじたばたと暴れだし、フリオニールはそんなライトニングの両手首を優しく捕らえ、そのぽってりとした唇を押し包むようにキスした。ライトニングは驚いてその細い肩を跳ねさせ、フリオニールを上目遣いに睨んだが、やがてうっとりと目を閉じた。キスしてくれる時の唇のことを好きだと言い忘れたな、などと思いながら。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32