初めての旅行(FF12/R18)

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身も蓋もない言い方ですが、二人が初めて「致す」までのお話。
私の完全妄想で甘めです。苦手な方はご注意を。


「今の時期ならバーフォンハイムがいいんじゃないかしら。」
フランがそう言った時、バルフレアは操縦席の下に潜り、繊細なオペレーティングシステムの整備に全神経を集中させている所だった。
フランの言葉の裏の意味を読み取り、少なからず動揺してしまい、モーグリ達の技術の粋である髪の毛よりも細いコードにうっかり傷を付けてしまった。
聞こえない様に舌打ちをし、操縦席の下から手だけを出して、スペアを手渡してもらう。
「あそこはダメだ。」
バルフレアは端的に答える。
「なぜ?」
「まだ、色々思い出すだろ。」
暫く無言の状態が続く。
話題に上がっているのは、バルフレアの幼い恋人のことだ。
今日も会って来たのに、バルフレアは陽の落ちると早々にパンネロを幼なじみの所に送り届け、自分も帰って来てしまったのだ。
二人で会う時は大概そんな感じである。
原則として二人の仲には口を出さないフランだが、そんなバルフレアにいい加減呆れてしまったようだ。
相手が幼いから気を遣っているようだが、かと言って焦っている風でもなく。
今日もビュエルバの空中広場でたわいもない話をし、浮き雲亭で食事をして帰って来たそうだ。
急ぐのは無粋でバルフレアの本意ではないのも分かる。
だが、長年連れ添った相棒にはそれだけではない事に薄々気付いていた。
「じゃあ、フォーン海岸はどう?コテージがあるから暫く滞在するのもいいわね。」
操縦席の下で、がちゃん、と工具を取り落とす音が聞こえ、バルフレアが不機嫌そうに顔を出した。
「おいフラン、どういうつもりだ。」
「あなたらしくない、そう思っただけよ。」
バルフレアは不機嫌そうに服に付いたホコリを払った。
「あなたが時間をかけるつもりでも、その時間を女の方は不安に思ったりするんじゃないかしら?」
バルフレアは乱暴に操縦席に腰掛ける。
「何を怖がってるの?」
バルフレア、不機嫌そうにフランを睨む。
その表情が代わりに返事をしているようなものだ。
「あなた、昔から自分と向き合うのが苦手よね。」
「……そうかもな。」
フランに隠し事は出来ないと諦めたのか、バルフレアは素直に認めた。
「このままだと、大事な宝物がどこかへ行ってしまうかもしれないわね。」
欲しいと強く思って、たくさんの嘘と歯の浮く様な言葉でお嬢ちゃんを口説いた。
でも、そんななまくらが通用するはずもなく。
最後に言った本当の気持ちで、漸くパンネロが笑顔で頷いてくれたのだ。
それから消え入りそうな声で「私も」と呟いて、恥ずかしさのあまりに自分の手で顔を覆ってしまった。その手をそっとほどいてやって、顔を真っ赤にしているパンネロの頬を両手で包み、唇に触れるだけのキスをしたのだ。
ずっと忘れていた、心の奥が温かな物で満たされた気がした。
「賢い子だ。」
「あなたより上手なようね。」
「そうだな。」
バルフレアは目を細めた。
パンネロには敵わない。それは素直に認めているようだ。
「でも、子供だ。」
「女よ。」
バルフレアは思わず顔を上げ、フランを見つめ返す。
「試してみたら?」
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「旅行?二人だけで?」
「ああ。」
パンネロは困った様な顔で、俯いてしまう。
「パンネロ。」
俯いてしまったパンネロの頬にそっと手を当てる。
「俺は急ぐつもりはないし、おまえの嫌がる事はしない。」
パンネロはおずおずと顔を上げる。じゃあ、どうして?と瞳が尋ねている。
「いつもおまえを送って帰るとき、お前を帰したくない、もう少し一緒に居たいと思うからさ。」
パンネロがふふっと笑う。
「おかしいか?」
ううん、とパンネロは顔を横に振る。
「そうじゃないの。私もいつもそう思ってたから。」
パンネロはぎゅっとバルフレアにしがみつく。
「バルフレアも同じ風に思っていてくれて、うれしくて。」
“うれしくて”の後に続く言葉をあれこれ推察しながら、バルフレアはパンネロの頭をそっと撫でてやる。
「俺が、怖いか?」
腕の中のパンネロが小さく身じろいだ。
「そうじゃなくて……」
バルフレアは腰を屈め、パンネロの顔を覗き込んだ。
「好きだけど、ちょっと怖いってところだな。」
「…そう…なのかな?うれしいけど、なんだか緊張するの。」
バルフレアは子供をあやす様に、その小さな頭に手を乗せると、
「言ったろ?俺は急ぐつもりはないし、おまえの嫌がる事はしない。」
そう言うと、パンネロはやっと安心したのか、漸く笑顔で頷いたのだった。

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