その後の二人。【前編】(DDFF/R18)

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猟師小屋を発った後も皇帝の配下の兵士たちの襲来が何度かあった。それを退けながら次の村に辿り着いたのは深夜を回ってからだった。ライトニングのデュアルウエポンの銃が使える様になったのは良いのだが、やはりフリオニールの装備不足がたたり、敵を退けるのが難しかったのだ。
ライトニングは途中の道のりでフリオニールが何か問いたげな表情を何度か見せたのに気付いてはいた。しかし、話の流れで皇帝に会ったこと告白しなくてはならないことになったら…と彼女自身も不安で口火を切ることが出来なかった。
唯一の救いは、寒い中で敵がいつ襲ってくるのか常に気を張っていなければならない状態で、また足元の悪い雪上での戦いに神経をすり減らした挙句、やっとの思いで辿り着いた村にはもう雪はなかったことだった。二人はとうとう雪原を渡りきったのだ。
「もう雪はおしまいだ。」
フリオニールはライトニングにうれしそうにそう語りかけた。
「もうブーツの中で足のつま先がかじかんで、なんてないから。」
そこはこの世界に来たばかりの時滞在した村よりもずっと大きな村で、宿屋だけでも何件もあるようだ。武器屋に防具屋もある。深夜なのに人の往来も多く、あちこちに灯りがついて賑やかだ。人の出入りも多そうで、ここならライトニングが目立つこともないし、帝国兵もあからさまに仕掛けてくることはないだろう。
フリオニールはいくつかの宿屋に目星をつけて交渉をし、
「ライト、今夜はここに泊まろう。」
フリオニールがそう行った宿は屋根が高い大きな建物だ。作りも頑丈そうだ。
「ヘタに小さな宿だと狙われやすいかと思ったんだ。それに、ここだと熱いシャワーがある。」
「分かった…だが、宿代はあるのか?」
「とりあえず今夜の前払いの分は。払ってくるから、ここでちょっと待っててくれ。」
フリオニールがフロントに行っている間、ライトニングは辺りを観察してみる。
使い込まれて黒光りした皮のソファのセットがあって、フロアの一番奥にはバーが、反対側の奥はレストランのようだ。もっとも、深夜なだけあってレストランはとっくに閉店しているが。地下には賭場もあるようで、いくら買っただの負けただの言い合いながら酔っ払った二人組が部屋に戻って行くのをライトニングはぼんやりと眺めていた。
「ライト!」
チェックインの手続きを済ませたのか、フリオニールが手招く。後について入った部屋はフロントから階段をひとつ上がったフロアで、回廊から宿の入り口とロビー一望できるようになっている。
「一応、見渡しの良い部屋にしてみたんだけど、どうかな?」
「ああ。いいんじゃないか?しかし…」
ライトニングがぎろり、とフリオニールを睨む。
「地下には出入りするなよ。」
フリオニールは一瞬何を言われてるのか分からなかったようだが、すぐに笑い出し、
「大丈夫だよ。俺はルールすら知らないから。」
そう言ってライトニングを誘って部屋に入る。
部屋は板の間で、中央に毛足の長い丸いラグが敷かれている。ベッドサイドテーブルを挟んでクイーンサイズのベッドが2つ、チェストとクロゼットにバスルーム。
ライトニングは奥のベッドに腰掛けると、早々にブーツを脱ぎ捨てて、そのまま横向けにこてん、と倒れた。
部屋の作りはライトニングの世界のホテルに似ている。窓際にはオイルヒーターらしき暖房機、温水シャワーの出るバスルーム。あとはランプがオイル式だとか、ベッドの横にタッチパネルや電話がないくらいでほぼ同じだ。
知らない世界に来ていたライトニングは何日ぶりかで、まるで自分の世界に戻ったような心持ちになり、清潔で暖かな部屋にリラックスした。
(落ち着くな…)
武器を片付け、残しておいたわずかな甲冑を外したフリオニールが反対側のベッドに腰掛ける。
「部屋は気に入ったみたいだな。」
「ああ。どこの世界でも宿というのは同じなのだな。」
「どこの世界でも、人間の休み方っていうのは同じってことか。」
そう言いながらベッドの上でくつろぐライトニングを見て、フリオニールは密かに顔を赤らめる。小屋で足の爪先を温めていた時のことを思い出し、そっとブーツを脱いだ足先を盗み見る。
「心配しなくてもさっさと温まって来る。」
まるで心を読まれたかの様な言葉に、フリオニールは驚いてベッドの上で小さく跳ねた。
「…どうして分かるんだ?」
「さっきブーツがどうとかを言ってただろ?」
フリオニールにはライトニングの足のつま先がよっぽど華奢で可憐に見えたのだろう、それが冷たい雪が染みこんだブーツの中で冷たさにかじかんでいるのが気がかりで仕方がなかったのだ。
「それと、確認しておきたいのだが、前払いの分というのはどういうことだ?」
「そのまんまの意味だ。」
「それが分からないから聞いている。」
「ここの宿は、宿に入ったときに幾ばくかの金を払う。で、出る時に精算する。」
「つまり、その出る時の精算する金はないのだな。」
「ああ。どのみち、ここを拠点にしばらく狩りだ。それで装備も整えないといけない。俺と君でなら宿代くらいはあっという間に稼げる。」
フリオニールが狩りのメンバーに自分をちゃんと入れているのが気に入って、とライトニングは頷く。宿代の目処がついた所で、とろん、とした心地良い眠気がおそって来てライトニングは小さくあくびをした。
「ライト、先にシャワーを使ってくれ。」
「一緒に入らないのか?」
「え!?いいのか!?」
身を乗り出さんばかりのフリオニールがにライトニングは呆れてしまう。
「…即答するな。冗談だ。」
フリオニール、耳はもとより首まで赤くなる。その様子に、少しからかいすぎたとかライトニングも自省して、頑張ってフリオニールの頬にキスをしてみる。
「…すまん。まさか本当に即答するとは思ってなかった。」
結果的になんのフォローにもなっていないのだが、フリオニールはニコリと笑い、ライトニングもその笑顔にホッとして、
「じゃあ、先に入るぞ。」
「うん。」
チェストから出したバスローブとバスタオルを持ったライトニングがバスルームに消えると、フリオニールは再び落ち着かなくなる。
シャワーを浴びているライトニングの様子は気になるし、ベッドは2つということは今夜は別々に寝なくてはならないのだろうか、とかそんなことがぐるぐると頭のなかを回りだしたのだ。
それからちょっと冷静になって、自分もライトニングに小さな嘘を吐いたことを思い出した。
博打のルールを知らないというのは嘘だ。
狩りの合間戦の合間、夕食のあとに家族で遊んだりと、この世界では誰でも知っているゲームだ。でも、それを言うとライトニングを不安にさせるかもしれないと、わざとあんな風に言ったのだ。
(俺だって嘘を吐いた…)
だますつもりはなかったが、ライトニングを安心させたかったからだ。
(だから弾丸のことも…そんな感じかもしれない…)
フリオニールはそう自分に言い聞かせた。しかもあの弾丸はどう見てもこの世界の物ではないし、ライトニングが最初から持っていたものとも違うように見えた。こんな風に些細なすれ違いについてあれこれ相手の背景や心境を推し量るのは、この男にとっては慣れない作業で、
(誰かを愛するのは楽ではないって聞いたことあるけど…本当だ。)
フリオニールは頭に巻いてあるターバンや装飾品を丁寧に外してベッドサイドテーブルに起き、ベッドに身体を投げ出した。
(好きになるってそれだけじゃダメなんだな…いや、そうじゃなくて…守る、ということもそうだ…)
目を閉じながらそんな事を考えていると、疲れが倍増だ。
もう、どっちがどっちのベッドで眠るのか、もしくはどうやってライトニングのベッドに潜り込むのかなど、フリオニールにとってはどうでも良く思えてきて、そのまま眠気に身を任せようかと思ったその時、
「フリオニール!」
呼ばれて慌てて跳ね起きると、バスルームの扉がわずかだけ開いてライトニングが顔を出している。
「すまない、寝ていたのか?」
「いや…」
フリオニールは頭を振り振り答える。
「タオルを落とした。新しいのをくれないか?」
「ああ。」
言われるままフリオニールはチェストから新しいタオルを取り出した。そのまま振り返ってライトニングに手渡そうとして、ぱさり、とタオルを床に取り落とした。
ライトニングは右手でドアを押さえ、左腕と右腕の肘で胸を隠しているがその隙間からむっちりとした胸とその谷間が覗いている。体勢を少し屈めてフリオニールを見上げているため、自然と上目使いになる。湯と湯気で白い肌は上気していて、頬はまるで恥じらっているかのようにピンクだ。額には濡れた前髪が貼りつき、その間から濡れたまつげに縁取られたぱっちりとした瞳がじっとフリオニールを見つめている。
あまりにも艶かしいその姿は半分眠っていたフリオニールの頭だけでなく、欲情をも激しく覚醒させる。
「らっ…ライト…!」
「…?…どうした?タオルを…」
さすがになんらかのリアクションがあるとは思っていたライトニングだが、これまで何度と身体を重ねあった仲だ。まさかこれほど慌てるとは思いもせず、後ろ手に必死にタオルを手繰ろうとするフリオニールに言葉が続かない。と、同時にちょっとイタズラ心がこみ上げてくる。
「やっぱり、一緒に入るか?」
カチーン!と音でも立てたようにフリオニールが固まる。
動くに動けないのだろう、「いや…」とか「その…」とか、口の中でもごもご呟いているだけだ。
ライトニングはこっそりと肩を竦めて笑い、
「早くしないと、ドアを閉めるぞ。」
からかわれて、フリオニールの中でぷちんと理性が切れた。やおら立ち上がり、のしのしとライトニングに歩み寄る。その迫力にライトニングが気圧されている間に勢い良く扉を開け足を中に踏み入れた。
「フリオ…っ…」
ニール、と続けようと思った時にはもう唇が塞がれて強く抱きすくめられていた。

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