媚薬。(DDFF/R18)

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Thanks 50,000Hits !企画にいただいたluxさんからのリクエストです。お題は「フリオニールかライトニングの一方が媚薬、または他の何かしらの刺激をうけて、性的興奮状態に陥ってしまうお話」でした。


「…こんな物があるなんて…」
バスルームに置かれた琥珀色の遮光瓶を手に取ってフリオニールは呆れたように呟いた。
「なんだ、それは?」
バスタブに湯を張っていたライトニングが振り向きざまに尋ねる。
「ああ…風呂に入れる………その……何かだ。」
言葉と言葉の間に妙な間があった。フリオニールも良く知らないのだな、とライトニングはその時は軽く考えていた。風呂に入れるということは芳香浴を楽しむとか、肌に良いとか、そういった類のものだろう。
ライトニングはフリオニールが自分のことを綺麗だ綺麗だと言い続けているのに少々閉口気味なのだ。まるで女神のごとく美しいと褒め称えてくれてはいるが、ライトニングにしてはとんでもない、実際は旅と戦いの日々で髪はボサボサ、肌もガサガサだと思っているからだ。
(これを入れたら…あるいは…)
自分の容姿がどうなのかライトニングは今まで考えたこともなかった。そんな事は強くなりたいと思って生きてきたライトニングには何の意味も持たなかったからだ。だからフリオニールがいつもうっとりと自分を見つめ、心の底から「きれいだ」と感嘆しながら言うのを聞くとどうも居心地が悪くなる。果たして自分はフリオニールの称賛に値するのだろうか、とふと思う時があるのだ。
だが、フリオニールのために綺麗でいたい、綺麗になりたい、という感情を受け入れるのはライトニングにとって決して容易ではない。
(でも…)
ライトニングはフリオニールが置いたままにしている茶色の小瓶をちらり、と見た。
(…これくらいなら…)
ライトニングは小瓶を手に取り、湯を貯めているバスタブに瓶の中身を全て注ぎ込んだ。
途端にエキゾチックな香りがバスルームの中に一気に広がった。バスタブの湯を手でかき混ぜてみると、手の動きに合わせて空気の中で香りが渦を作るようにかき回される。大きく深呼吸をすると香りで体内が満たされてうきうきとした気持ちになって来る。
ライトニングは着ている物を全て脱ぎ捨てて、床に派手に放り投げた。ジャケットやニット、下着までがふわふわと空中を漂い、床に落ちた。らしくない行為ではあるが、なんだかそういう気分だったのだ。
バスタブの縁に腰掛けてまずは足だけを浸してみる。まるで子供のように足で湯をパシャパシャと軽く跳ねさせると湯のしぶきまでが芳しい。ふと自分の脛を見下ろすと、オイルを混ぜられた湯はしっとりとライトニングの足にまとわりつき、肌に潤いを与えてくれる。ライトニングは思わず自分で自分の足を撫でてみると、表皮は滑らかで手のひらに吸い付くようだ。
(これなら…)
ライトニングは今度は肩まで浸かってみる。全身をまろやかな湯で包まれた。いくら瓶の中身を全て入れたからといって、ごくごく小さな小瓶だった。それなのに湯全体に心地よいとろみが加わって肌がしっとりとするのに、ベタベタせず絶妙な感触だ。ライトニングはその心地よさに思わず目と閉じた。手足を伸ばし、心の底から寛いだ気持ちを満喫する。
肌への劇的な効果も素晴らしいのだが、何よりもこの香りだ。もっと香りも楽しもうと大きく息を吸い込むと、途端に肌が湯水からぐんぐんと水分を吸収するような感じがするのだ。リラックスしているのに心が浮き立って、嫌なことを全て忘れてしまいそうな。心から寛いでいるのに感覚がどんどん鋭敏になっていって、細胞の一つ一つがが潤いを取り戻す感覚を全身で感じて夢心地になる。手のひらに湯を掬い頬や額になじませると、乾燥させた肌が水分を吸い上げて、みるみるうちに張りとしっとりした感触を取り戻す。
(不思議な香りだ…)
そう思ったとき、バスタブの表面に水草のように漂っているピンクブロンドの髪が目に入った。
(髪も…傷んでいるな…)
まともな思考が出来ていないことに気付かず、ライトニングは濃厚で甘い香りを胸いっぱいに吸い込んで、バスタブの中にとぷん、と頭まで全身を沈めた。
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一方フリオニールはやきもきしていた。いや、ライトニングの入浴中はいつもやきもきしているのだが。最初の10分は落ち着かずにそわそわとベッドに座ったり、部屋の中を意味もなくうろうろと歩き回ったり。20分経ったところで我に返って少し落ち着いてきて武器の手入れを始め、30分経ったところで遅いな、と心配になりつつも、
(そう言えばバスタブに湯を張っていたな…)
と納得し、納得ついでにバスタブで寛ぐライトニングの姿を想像して一人でわたわたと慌てふためき、40分、50分経ったところで漸くおかしい、と思い始めた。フリオニールは武器を片付け、バスルームの扉をノックする。
「ライト…?」
返事がない。
フリオニールは扉を、今度は強く叩いてみる。
「ライト!どうしたんだ?大丈夫か?」
それでも返事がない。フリオニールはドアノブに手をかけた。幸い鍵はかかっていない。
「ライト、開けるぞ!」
一応一言断って扉を開けると、中から湯気と一緒に濃厚な香りが溢れて来た。
(これは…)
フリオニールにはこれが何の香りなのかすぐに分かった。湯気越しにバスルームの中を見ると、ライトニングはバスタブに浸かったままぐったりとその縁に顔を伏せている。
「ライト!」
フリオニールは慌てて洗面台の横にかけてあったバスタオルを取り、自分が濡れるのも構わずライトニングを抱き上げてバスタブから引き上げると、バスタオルで包んだ。
「ライト…ライト!」
長い時間湯に浸っていたのぼせたにしては様子が変だった。湯はすっかり冷めていて、むしろ身体は冷え始めている。軽く身体を揺すってみるとライトニングはゆっくりと目を開いた。
「フリオ…ニール…」
気が遠くなっている間に何か夢を見たような気がした。よく覚えていないが気だるく甘い、淫らな夢だ。そのせいか身体がひどくだるい。
「ライト…しっかりしてくれ…どうしたんだ、一体?」
目を開いて目の前にフリオニールの顔があった。背中に回された逞しい腕、抱きしめられている厚い胸板を感じる。心配そうにじっと見つめられ、途端に身体の中で何かが弾けた。
「あっ…あっ…あ……っ!」
身体が熱い。どうしようもなく熱くて勝手に息が上がる。
「ライト…大丈夫か!?」
耳元で喋るな、とライトニングは思う。声はいつもよりもクリアーでまるで弦楽器の様に声が幾重にも重なって聞こてくるのだ。更には信じられないことにその声を聞いただけで下肢が痺れ、とろり、と蜜が零れたのを感じたからだ。
最初は芳香浴を楽しんでいただけだった。だが、湯に浸かれば浸かるほどだんだんと意識が朦朧とし、身体が言うことをきかなくなってきたのだ。そこにフリオニールが飛び込んで来た。バスタブから引き上げられたのにライトニングの身体に起こった現象は収まるどころかますます異常な様相を呈し始めたのだ。
「あれは……なんだ……?」
身体を駆け巡る熱のせいでうまく話せない。ライトニングの視線の先にある小瓶をフリオニールも見て、やはり、という顔をする。
「これは…その…新床を迎える新婚夫婦のための物だ。」
(新床?…新婚?)
ライトニングは眉を潜めた。
「つまりそれは…」
「…その…そういう気分を盛り上げるもの、らしい。」
フリオニールはライトニングを抱えて浴室を出ると、そのままベッドにライトニングを座らせた。ライトニングは身体を震わせ自分で自分を抱えるようにしている。それは決して湯冷めしたせいではないとフリオニールにもすぐに分かった。少しでも香りを逃がそうと窓を開けると、水差しからコップに水を注ぎ、ライトニングに手渡した。
「…なんで…そんなもんが……」
自分たちの部屋に置かれているのだ、と文句を言いたいがそれも出来ない。渡された水を飲もうとして、コップに歯を当たってカチカチと音を立てている。口に入れた水ですらどろりとしたぬめりを感じ、飲み込むと喉をくすぐかのようだ。
「なんで…って、ここいらでの風習だ。宿の人間が俺達が新婚と勘違いして置いていったんだろう。」
フリオニールは浴室に瓶を置きっぱなしにしたことと、ライトニングに説明を避けたことを後悔した。
「…ごめん、俺がちゃんと説明していれば…」
だが、おかしい、とも思う。確かにあの精油は男女、とりわけ女性をその気にさせるものだ。が、どちらかと言うと香りを楽しむためと、原料の花が婚姻の神のシンボルになっていて、儀礼的な意味合いが強い。催淫効果にしても、あるにはあるが、ここまで顕著に兆候が現れることはない。
「…普通はそこまでの反応は起こさない。だから…どうしてライトがそんなに…」
身体が火照ってまともに思考が働かないが、それでもライトニングはあの瓶の中身がなんであるか漸く理解した。ここまで過剰な反応を起こしたのはおそらくはライトニングの世界にはないもので免疫がなかったせいかもしれない。だが今はそんなことはどうでも良くなっていた。
呼吸はますます早くなって身体が火照って仕方がないのだ。敏感な箇所はとりわけ甘くむず痒いような熱をもって、誰かにそこを弄ってもらいたくてどうしようもない。
「…アッ……!」
火照る身体にライトニングはたまりかねてベッドに身を投げ、身体を丸めて熱が去るのを待つが、一向にその気配は感じられない。フリオニールが身体を包んでくれたバスタオルですら身にまとっていると熱い。
(…どんどん…熱くなって…)
「ライト!大丈夫か?」
ベッドの傍でフリオニールがオロオロと自分を見ているのが分かる。うろたえてないで早くこの熱をなんとかして欲しい。早く抱いてほしいのだ。抱いて、めちゃくちゃにしてほしい。そうしてくれないと、我慢できなくてフリオニールの目の前で自分で自分を慰めてしまいそうだ。フリオニールの前でそんなこと出来るはずもない。でも、尚も残る理性とプライドがライトニングにそれを口に出すことを許さない。
「すぐに医者を…」
「…待て!」
医者と聞いてライトニングは焦った。
「でも、ライト…」
「医者にこんな姿を見せるなんて…冗談じゃない…っ!」
触れられてもいないのに胸の頂きは痛いほど張り詰めているし、秘められた場所はもうぐっしょりと濡れそぼって男を待ちわびている。もどかしさを逃そうともじもじと太ももを擦り合わせ、息を荒らげ目尻を朱に染めているそんな表情と火照りきった身体をフリオニール以外に見せるなんて。ライトニングに言葉にフリオニールはふと真顔になり、
「そうだな…それは困る。」
真面目に返すフリオニールにライトニングはイライラと、
「だったら……早くなんとかしろ…!」
「なんとかって……」
またもやうろたえだしたフリオニールに、ライトニングの体内のもどかしい感覚が余計に膨れ上がるような感じがして。
「…どうすれば…」
ひたすら困っているフリオニールに、お前が抱いてくれさえすればいいんだと言えば済むことなのだが、どうしてもその言葉が言えない。
(だが…もう…)
限界だと、ライトニングは朦朧とする意識で必死に考え、生真面目に何か応急処置を検討しているらしいフリオニールのシャツの裾の端をそっと摘んだ。落ち着きなくそわそわしていたフリオニールがぴたりとその動きを止め、自分のシャツの裾を見下ろした。ライトニングの指は本当にシャツのギリギリの端っこを摘んでいて、フリオニールはライトニングの意図が分からず思わずその顔を見ると、ライトニングは慌てて目を反らしてしまう。
(…なんとかしろって…それは…つまり…)
強い酒でも飲まされたかのように顔に急激に熱くなって、フリオニールはごくりと息を飲み込んだ。おそるおそるライトニングの身体の横に手をついて、そのわななく身体を真上から見下ろす。ライトニングはきゅっと目を閉じた。今フリオニールに触れられたら自分はどうなってしまうのだろうか。まるで達する直前のように身体中のどこもかしこも感覚が鋭敏になっていて、ちょっと触れられただけではしたない声を張り上げてしまいそうだ。
フリオニールがゆっくりと体重をかけてライトニングの身体に伸し掛かる。触れた肌が驚くほど熱い。ライトニングを刺激し過ぎないようにそっと抱きしめ、その顔を覗きこむと、瞳がもう蕩けきってフリオニールを見上げてくる。行為が極まった時に見せるような悩ましい表情をいきなり見せつけられ、フリオニールはあっけなく理性を手放し、遮二無二にライトニングに口づけた。

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