オペラ座の空賊(FF12)

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一方、ソーヘンを無事に抜けてツィッタ大草原に辿り着いた バルフレア、フラン、パンネロ。
無事に辿り着いたのは、パンネロの獅子奮迅の活躍のお陰なのだが。
後衛のはずのパンネロの矢で、モンスター達は次々とハリネズミになっていた。
(やっぱりヴァンの事が心配なのかねぇ…)
どうやらヴァンの事を考えまいとして、張り切り過ぎたようだ。
(ま、突然だから動揺もするか…)
まさかあんな所で鉢合わせとはバルフレアも思っていなかったし。
(しかし、あの二人はあんな所で何をしてたんだ?)
しかもヴァンはともかく、何故アーシェまで?
自分たちを追って帝都まで来たのだろうか?
だがそれも一見すると正しい様で、どこかがおかしい。
考え込んでいたバルフレアの思考はパンネロの言葉に遮られた。
「バルフレア!私、おいしいお魚が食べたい。」
空元気なのか、自棄になっているのか、バルフレアにはもう判別がつかない。
「私は魚はちょっと…ナンナのチーズがいいわ。」
と、フラン。
バルフレアもいい加減振り回され過ぎて、考えるのがばかばかしく思えてきて、
(それならいっそ、両手に花を楽しむか。)
そう開き直ると、二人に大げさに肩を竦めて見せ、
「ご馳走しましょう。」
と、うそぶいた。
**************
暗がりから外に出ると眩しさに目が眩んだ。
ヴァンはぎゅっと目蓋を閉じては開き、何度かそれを繰り返した。 漸く明るさに慣れると、欠けた路石の隙間から生える雑草、 ひびわれた壁、そして暗い目をした住人達が訝し気にこちらを見ている。
「兄ちゃん達、”氷の女王”を倒して来たの!?」
気が付くと周りに子供達が集まって来ていて、ヴァンとアーシェを取り囲んでいる。
「まぁな!」
ヴァンが得意げに人差し指で鼻を擦ると、歓声が上がった。
「だったら賞金を貰いに行くんだろ?」
「俺達も一緒に行っていい?」
「いいけど、橋には見張りが居るだろ?」
「皇帝が新しく変わってから、行き来出来るようになったんだ。」
「それでも、6時になると閉められちゃうけどさ。」
新皇帝はなかなか革新的なようだ。
「でも、やっぱ”上”ってめったに行けないから。」
「”氷の女王”を倒したハンターと一緒だったら大丈夫!」
「夕方には門が閉まるから急いだ方がいいよ。」
口々にそう言うと子供達はヴァンやアーシェの手を引いて走り出すそうとする。
「よし!案内してくれよな。」
アーシェは慌てた。あちこちに情報屋の目が光っている。
目立ってはいけないのにとアーシェは咎める様にヴァンを見るが、当のヴァンは気にする風でもない。
(仕方ないわね…)
アーシェはため息を吐くと、露店で売っている大きな布を買い、ヴァンに被せた。
「ないよりマシでしょ?」
「そっか、ありがとな。」
笑顔で言われると、アーシェも弱い。
(すぐに”ありがとう”とか”ごめん”って言うのね。)
こういう性格をどう言い表すんだっけ…とアーシェは頭を巡らせる。
(屈託ない…かな?)
ほんの一瞬で子供達と打ち解けてしまったヴァンが微笑ましく思えて、 アーシェは仕方ないなぁと小さく呟いた。
帝都のクラン支部に足を踏み入れると、そこに居るハンター達が一斉にヴァンに声を掛けてきた。
「今日はパンネロはどうした?一緒じゃないのか?」
「” 氷の女王 “を倒したんだって?お前ならやると思っていたよ。」
布なんか被っていても、気心の知れたハンター仲間達には一目で分かるらしく、
(なんだ…こんな変装、意味がなかったのね。)
だったらこんな暑苦しいもの、さっさと脱ぎ捨てようとしたが、
「よお!ヴァン!今日の連れはワケ有りか?」
という声が聞こえてきて、慌てて布を被り直す。
ヴァンはハンター達と言葉を交わしながら賞金を受け取ると、
「悪い。今日は急ぐんだ。」
とハント仲間達に手短に別れを告げると、アーシェの手を引き、子供達を伴ってクランを後にした。
外に出た途端、子供達が騒ぎ出した。
「兄ちゃん、有名人だったんだな!」
「すげぇ!」
「まぁな。俺くらいになると、あんなの楽勝だからさ。」
ヴァンが答えると、子供達はますます大騒ぎだ。
子供のあしらいがうまいなぁと思いながら、と思いながら、 ヴァンと子供達より少し下がった所でアーシェはその様子を眺めている。
(でも、いつまで連れて行くるもりなのかしら。)
すると、ヴァンは一軒の店の前で立ち止まると、子供達を連れて中に入って行ってしまった。 アーシェは慌ててその後を追って店に入る。
(……洋服屋?)
ヴァンは店の店員と何やら話している。
「ヴァン、何をしているの?」
「今から俺達は学校の先生だ。で、コイツらが生徒。」
店員達は子供達に着せるための揃いの服を出して来たり、子供達に着せたりと大忙しだ。
「ダルマスカの服で帝都の博物館に言ったら目立つだろ?だから変装するんだ。」
「それを先に言ってよ。」
「アーシェがそれ、被ってるの見て思い付いたんだ。」
行き当たりばったりなのか考えて行動しているのか、ヴァンはつかみ所がない。
でも、言っている事に一理あるので、アーシェも大人しくヴァンに従って着替えた。
アーシェが着ているのは、白いオフショルダーのブラウスに 紺のシルクサテンに細かいキルティングが施されたベスト。
同じシルクサテンに花柄のキルティングが施された足首まであるタイトスカート、 スカートの裾と、深いスリットからはスカートのラインに沿ったペティコートが覗いている。
「アーシェ、青も似合うな!」
「ありがとう。」
まんざらでもない、とアーシェは微笑む。
「先生って感じがする。いつもより上品そうに見える。」
(褒めてくれたと思ったらこれなんだから。)
良くも悪くもそれがヴァンなのだ。いちいち腹を立てていたらきりがない。
「でも、コルセットなんて初めて。パンネロはよくこんな物を着けて歌えたわね。」
アーシェはふぅ、と大きく息を吐く。
「本当にな。なんでこんな窮屈な服、着んのかな。」
ヴァンは丈の短いジャケットに細いストライプの入ったシャツにぴったりとしたパンツとブーツ。
「ヴァン、あなたもなかなかよ。」
「そうかぁ?暑苦しくてしょうがないよ。早く脱ぎたい。」
「じゃあ、さっさと済ませて帰りましょう。」
「そうだな!」
ヴァンは手早く子供達をまとめると、外に連れ出す。
博物館に向かう道中も、自分たちの事を「先生」と呼ぶように指導したりして、
「本当に先生みたいね。」
「そうか?」
「お勉強の方はどうだか分からないけど。」
さっきのお返しとばかりにアーシェはチクリと針を刺すが、
「あー、俺、全然だめ。アーシェは?」
「え?」
言われて頭に浮かんだのは、チョビ髭の年老いた教育係。
教科書をただ読み聴かされるだけの授業にうんざりして、逃げ出したのは一度や二度ではない。
「私も…かな。」
二人は顔を見合わせて笑う。
こんなのどかな会話をしていると、今から盗みの下見に行くなんて思えない。
(だめだめ。私がしっかりしないと。) アーシェは気持ちを引き締めようと、博物館の建物を見据える。が、
「お~い、早く来いよ!”アマリア”先生!」
というヴァンの緊張感のない声にがっくりと肩を落とした。

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