オペラ座の空賊(FF12)

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登場人物:ヴァン×パンネロ
FF12本編終了後に預かったシュトラールで旅をしているヴァンとパンネロのお話です。ぬるいですが恋愛要素をふくみます。


「おぉ、待っておったよ、二人とも。」
久しぶりに顔を出したヴァンとパンネロを見つけると、ミゲロは両手を広げて二人を迎えた。
ラバナスタのミゲロの店は相変わらず繁盛しているようだ。
たくさんの人が出入りしているのに、ミゲロは二人が来るとすぐに気付くのだ。
「なんだよ、珍しいな。いつもなら”盗賊の分際で堂々と正面から入ってくるな”って怒るのに。」
言いながらヴァンは地方で手に入れた珍しい酒をミゲロに手渡す。
「これ、旨いんだってさ。」
「おぉ、いつもすまんな。ありがとうよ。丁度いい、今夜頂くとするか。」
ヴァンはいつもミゲロの店を訪れる時には必ずなにかしらの土産を持って来る。
パンネロを連れて空賊となってしまったのを”親不孝”とでも思ってくれているのだろうか。
ともあれ、ヴァンにしては珍しい気遣いがミゲロにはうれしかった。
「それよりミゲロさん。私たちを待っていたって?」
目を細めて手に持った酒瓶を眺めていたミゲロは慌てて顔を上げる。
「そうだった、そうだった。実は二人に相談というか…頼みがあるんだ。」
「頼み?」
「俺たちに?」
ミゲロは堅気の商売人だ。それが空賊である自分たちに頼み事とは?
「立ち話もなんだし、今夜家に来てくれんか?会わせたい人が居るんだよ。」
パンネロはどうする?という風にヴァンを見る。
「う~ん、そうだなぁ…」
一応、悩む振りをしてみるが、ヴァンの答えは決まっている。
「分かったよ、じゃあ今夜!」
「ありがたい、お前達の好物を用意して待っとるよ。」
**************
マーケットやダウンタウンで時間を潰してからミゲロの家に行くと、店での言葉通り、二人の好物でテーブルが埋め尽くされていた。
ヴァンは目を輝かせ、視線は何度もテーブルを往復する。
「すっげぇな、これ!全部食べていいの?」
「もう、ヴァンったら…子供みたいだよ。」
「なんだよ、パンネロだって楽しみにしてて、屋台でお菓子も果物も我慢してただろ?」
あの旅を経て少し大人びたと思っていた養い子だったが、 キャンキャンと子犬の様にじゃれあう所は変わらないようだ。
ミゲロはうれしさ半分、呆れるのが半分で二人を座らせると、
「実はな、わしの古くからの友人が訪ねて来ておるんだが…」
その友人が大変困っていて、二人に相談したがっている。
ここに通しても良いか?というミゲロの頼みに二人は快く頷く。
「ありがたい。おい、ダンチョー!」
呼ばれて入って来たのは小太りのヒュムの中年男性だった。
金色の髪が耳の横で不自然なくらいクルクルに縦ロールしている。
「この子達だよ、例の空賊と知り合いなのは。」
「おぉ、あんたらか。頼むから、あの空賊をなんとかしてくれんか?」
よっぽど切羽詰まっているのだろう、ダンチョーと呼ばれた男は挨拶も自己紹介もなく、いきなり用件を切り出してきた。
ヴァンとパンネロは思わず顔を見合わせる。
「あの空賊って…?」
「おい、ダンチョー、あれを見せた方が早い。」
ダンチョーがポケットから取り出したのは白い封筒。
「これって…?」
ヴァンの肩越しに手紙を覗き込んだパンネロが訝しげに首を傾げる。
「見て分からんかね!ウチの看板女優を誘拐に来ると大胆にも予告しとるんだよ!」
「…バルフレアが?」
「そこにそう書いとるじゃないか!」
ダンチョーはイライラと答える。
「この国の最も高貴なご婦人…って、アーシェ…陛下のこと?」
ダンチョーはどこか誇らしげに大きく頷く。
「もちろん、決まっとるじゃないか。明後日に帝国とダルマスカの親善イベントがある。劇場にはアーシェ陛下と、帝国の若い皇帝の…」
「ラーサー様。」
「そう!そのラーサーと…それと、砂漠の国からナントカという王様が ひと回りりも歳の離れた許嫁を連れて来るんだよ! そんな時に騒ぎを起こされたらわしの劇団は…劇場は…!」
騒々しいダンチョーを横目に、封筒と手紙を マジマジと見つめていたヴァンがぽつりと呟いた。
「違う…」
喚いていたダンチョーも、ミゲロも、そしてパンネロも思わず口を噤んだ。
「偽物だよ、これ、バルフレアじゃない。」
「どういうことかね?」
パンネロはヴァンの手から予告状を受け取る。文面は、
『この国の最も高貴なご婦人が観覧される日に看板女優のマリアを頂きに参上する。 バルフレア』
と、それらしく書かれて入るが、
(確かにこれはバルフレアさんが書いた物じゃないわ…)
以前、バルフレアがヴァンにシュトラールの操縦法を教えていた時、パンネロはそれを横で見ていた。
飛空艇の操縦はチョコボに乗るのとは違う。
精密機械を扱うのだから驚くほどたくさんの数字が出て来る。
バルフレアはヴァンにそれを丁寧に、根気よく教えてやっていた。
燃料の計算、方向、位置の割り出し、計器の見方…
それらをバルフレアは紙に書いて説明していた。
少し癖があるが、はっきりとした読み易い字だった。
(こんな、ミミズが這ったみたいな字じゃなかったわ。)
バルフレアを騙るならもう少し似せればいいのにと思う。
パンネロはバルフレアの事がちょっぴり好きなので、なんだかとっても不愉快だ。
それにしても、他にもツッ込みどころが満載の予告状だ。
よくぞヴァンがそれに気付いてくれたが、
(ちゃんとダンチョーさんに説明出来るかしら?)
パンネロの懸念は見事に的中する。
「しかし、なんで偽物なんて分かるんだい? VIPが勢揃いの劇場でヒロインを誘拐なんて 派手好みのあの空族がいかにもやりそうな事じゃないか?」
「違うって!確かにバルフレアのやり方は目立つけど、 派手にしようと思ってそうしてるんじゃないんだって!」
ヴァンは何故だか得意そうに人差し指で鼻を擦りながら答える。
「訳が分からんな。」
ダンチョーはふん、と鼻で笑う。
こんな子供の言う事なんぞという気持ちがありありと見てとれる。
やっぱり、とパンネロは小さくため息をついた。
あーだこーだと懸命に説明しようとするが、今ひとつ的を得た説明が出来ないヴァンをパンネロは控えめに遮る。
「あの…」
ダンチョーがじろりとパンネロを睨むが、ここで汚名挽回をしないと 自分達を頼ってくれたミゲロさんに申し訳ない。
「字が…違うんです。バルフレアさんの字はもっと線が細くて、 でも、はねる部分やはらう部分はしっかりしていて、とても読み易い字です。」
「ほう…」
ダンチョーの表情が変わる。
「それに…あの人はこんな安っぽい便せんは使いません。
身の回りの物にもちゃんとこだわりがあって、 いつも質の良い物を身に付けたり、使ったりしていました。」
「確かにパンネロが言う通り、これはどこででも買える安物だな。」
目利きのミゲロさんが口を挟む。
「まだあります。バルフレアさんは確かに目立ちますが、 それは私たちみたいな街に住む普通の人たちを困らせる悪い商人や お役人を狙うからヒーロー扱いをされているだけで、 こんなたくさんの人の注目を集めるような劇場型犯罪を企む人ではありません。」
理論整然と説明するパンネロの言葉に、ダンチョーはう~ん、と唸る。
「な?分かったろ?バルフレアじゃないって!」
ダンチョーはじろり、とヴァンを睨むと、
「じゃあ…それを出したのがバルフレアじゃないとして、犯人は誰だ?
それに、マリアが狙われている事に変わりはないんだぞ?」
「だから、俺に任せろよ、おっさん!」
「おっさん!?」
ダンチョーが目を三角にして怒っているが、 今の所頼りになるのが目の前の若造しかいないので ぐっと堪えているのがパンネロには分かる。
「どんな考えか聞かせてもらおうか?」
ダンチョーの声が心なしか震えているのをパンネロはハラハラしながら見守る。
「囮を立てるんだよ。」
「…どこかで聞いた話だな。」
「パンネロをマリアの代わりに舞台に立たせるんだ。
そこに賊がやって来た所を俺が捕まえる。」
ダンチョーは手の平で顔を覆ってしまったし、ミゲロは早速抗議の声を上げる。
「ワシは反対だぞ。パンネロにもしもの事があったらどうする。」
「パンネロなら大丈夫だって!な?パンネロ!」
確かに、自分だって空賊の一人なのだから危ない仕事を避けて通る気はないが、 こうもあっけらかんと言われると、パンネロは何か引っかかりを覚えてしまう。
でも、パンネロにも他にいい方法が思い付かない。
だが、囮になるのはいいとしても、
「でも…ヴァン?ラーサー様やアーシェにはすぐバレちゃうと思うよ。
それに…あんな大きな舞台に立つのって私には無理だよ。」
「大丈夫だって!砂漠の国の王様にバレなきゃいいんだろ?
それにさ、きっとラーサーもアーシェも驚くぜ!」
「どうするね?パンネロ?」
心配そうに伺うミゲロさんとダンチョーを見るとパンネロは嫌とは言えなくて。
まるでいたずらでも企む様にはしゃぐヴァンに若干の不安と
うまく口に出来ない不満を押し隠し、パンネロは大丈夫!と笑顔で応えたのだった。

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