ヴァンとパンネロの約束(FF12)

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登場人物:ヴァン×パンネロ

FF12本編終了後に預かったシュトラールで旅をしているヴァンとパンネロのお話です。ぬるいですが恋愛要素をふくみます。


パンネロは夕焼けがあまり好きではない。
明るい日差しの下だと全てが明らかで、悲しいもの、寂しいもの、そんなものはこの世には存在しない、そんな気持ちになる。
辛い過去などとっくに消えてしまって、今この時と明日の事だけ考えていれば良いと思える。
(だけど、夕焼けは嫌い…)
マシントラブルでモスフォーラ山地の窪みに辛うじて不時着したヴァンとパンネロ。
パンネロはコックピットの窓から夕焼けを眺めていた。
理屈ではないのだ。
美しすぎる夕焼けは全ての感情を露にする。
パンネロが涙を流し歯を食いしばりながら蓋をした悲しい思い出、居なくなった人達、行方が分からない人達、そして決して居なくなる事はないラバナスタの街の孤児達、そういった者達が蓋を蹴破って飛び出して来るからだ。
油断すると涙が溢れそうになる。パンネロは奥歯を噛み締めた。
「パンネロ!スパナ取ってくれ。」
声に振り返ると、操縦席の下に潜って操縦系統のシステムの不調を調べているヴァンが手だけ出している。
パンネロは景色に背を向けると工具箱からスパナを取ってヴァンに手渡し、そのまま操縦席に膝を抱えて座りこんだ。
ラバナスタに戻るには燃料がギリギリだった。 そんな時にシステムの不調で不時着。
たとえ直ったとしても離陸にどうしても燃料を喰う。
果たして今日中に戻れるだろうか。
運悪くガス欠で砂漠に不時着でも、野宿すれば良いだけの事だ。
夜が明けたら近くの村でチョコボを調達して燃料を運んで… そこまで考えて、パンネロは財布の中身を思い出してため息を吐いた。
バルフレアとフランから預かったシュトラールを、ちゃんとドックまで連れて帰る事が出来るのだろうか。
それよりもあれ以来行方の分からないバルフレアとフランは本当に帰って来るのだろうか。
心細くて泣きたくなって、ヴァンに声を掛けた。
「ねぇ…帰れるのかな、私達。」
本当に聞きたいのは帰られるかどうかじゃないのだけど。
「大丈夫だ。」
「本当?」
「山地は明け方に気温が上がると上昇気流が生まれる。それに乗って出来るだけ高く上るんだ。 後は少しずつ下降しながら帰る。そうすれば余裕さ。」
パンネロは驚いてヴァンを見る。
「いつの間に…」
「そりゃ、俺だって守りたい者があるからな。」
手を休めず答えるヴァンがとても頼もしく思えて、パンネロはうれしくなる。
「うん、そうだね。シュトラールはバルフレアさんとフランとの約束だもんね。」
不意にヴァンの手が止まった。
「どうしたの…?」
ヴァンは縦席の下から顔を出し、驚いて自分を見ているパンネロに気付くと、不機嫌そうにまた操縦席の下に潜ってしまった。
パンネロは驚いた。
自分でも言ったように、シュトラールはパンネロにとってバルフレアとフランが戻ってくるための約束であり、お守りだった。
(ヴァンは違うのかな?)
てっきり自分と同じだと思っていたのに。
(ヴァンの大事な物って…?)
パンネロは考えてみた。 ラバナスタの街で面倒を見ている子供たち、かつて旅をした仲間達…どれもヴァンにとっては大事な物に違いない。
だが、今の不機嫌さにそれらは関係ないような気もする。
考えてもどうしても分からない。
ただ、パンネロはヴァンの守りた存在が、
(…私だったら良いのにな。)
そう思った。
そう思うと、さっき堪えていた涙が溢れて来て、パンネロの頬を伝って床に落ちた。
パンネロが黙り込んだので、さっきの自分の態度のせいで気分を害したのかと、ヴァンがおそるおそる操縦席の下から顔を出した。
「ヴァン…」
ヴァンは身構えた。
またお小言かと思ったからだ。
「私を……もう、一人にしないでね。」
突然の言葉にヴァンはうろたえ、そして耳まで赤くなった。
「な…なんだよ、急に?パンネロらしくねーぞ?」
パンネロは頭を振る。
「ずっと続くんだと思ってたのに、でも、突然、壊れちゃうから。もうそんなの、嫌だよ。 アーシェもバッシュ小父さまもラーサー様も居るんだから、もうそんな事ないって分かってるんだけど、 それでも突然不安になるの。
また…皆居なくなっちゃったらって。 私…弱虫だよ。皆言うけど違うの。しっかりなんかしてない。」
ヴァンの守りたい者は言うまでもなくパンネロだ。
パンネロを守りたい。
誰よりも好きだ。
そう伝えたいけど、幼なじみという距離の近さが障害になってしまう。
気持ちを告げた所で「何を言ってるの?」と笑われたら?
いや、笑われるくらいなら構わない。
パンネロに距離を置かれてしまったら?
どうすれば良いか分からず、気持ちをひた隠しにしてパンネロを見ていた。
誰よりも近くに居て、ずっと見守って来たのだ。 危ない目や心細い思いはさせたくないから一生懸命航空学や地理や気象の勉強をした。 どうか気付いて欲しいと祈る様な気持ちだった。
(「一人にしないで。」てことは、パンネロも同じ気持ちでいてくれたという事で…)
そう気付いてヴァンは急に逆上せたかの様に一気に頭に血が上った。
ここの所ずっと二人きりで気持ちを抑えるのが辛くて切なくて。
そこから一気に解放されたのだ。
立ち上がって、パンネロに何か言おうとして口を開いた所で、パンネロの泣き顔が目に飛び込んで来た。
「パンネロ…」
今まで自分は何をしていたんだろう、とヴァンは腹立たしく思った。
気付いて欲しいと思ってばかりで、守りたいと思っていたパンネロの不安に気付きもしなかった。
パンネロの不安を取り除きたい。
その為には何を言ってあげれば良いのだろう?
「俺…」
舌が鉛のようだ。
「俺…さ、逃げるんじゃなくて本当に空賊になりたいって思ったんだ。 あの旅で…戦いで、本当に悪いのは誰だって考えた。でも、考えれば考える程分からなくなった…」
パンネロは時折、すん、と鼻を鳴らしながら、ヴァンの話に聴き入る。
「だから、何にも…関係なしにさ、色んな…世界とか、人とか見たい。 そうすれば答えが見つかるかも…ってさ。それで…」
また言葉に詰まる。
喉の奥が締め付けられるようだ。
「色々…探して、見てみたいけど、それは俺一人じゃダメなんだ。そのっ……パンネロと一緒じゃなきゃ。」
ここまでなんとか話した所でヴァンはしまった!と一人焦る。
パンネロの不安を取り除くどころか、
(これじゃあ男と男の友情みたいじゃないか…!)
ちゃんと言葉にしなければ
。今、言わなければ…でも、焦れば焦る程何故だか息が苦しくて。
「だから……つまりっ…」
「私を一人にしない?」
言いかけたヴァンを、不意にパンネロが遮った。
「一人にしない?」
パンネロは尚も畳み掛ける。
ぎゅっと唇を噛み締めて、祈る様な表情でヴァンを見つめている。
真剣な眼差しに気圧されたヴァンだが、
「しない。」
パンネロを真っすぐに見つめて答えた。
「パンネロ、俺…置いていかれた寂しさを知ってるから。だから、もし何かあってもパンネロの所に戻って来る。
飛空艇もチョコボもなくても、自分の足で這ってでも、パンネロの所に戻って来る。だから、心配せずに待ってろ。な?」
パンネロはヴァンの胸に飛び込んだ。
ぎゅっとしがみついて来る。
ヴァンは心臓が口から飛び出すのではないかと思う程驚いた。
しかしパンネロがもう泣いていないと分かり、ホッとして、それからおずおずとパンネロを抱きしめた。
「…ヴァン?」
「ん?」
「そう言えば最近ケンカしてないね、私達。」
いつも些細な事で言い合いになったり、喧嘩になったりしていたのに。
でも、そんな子供みたいなじゃれあいは卒業しなくては、とヴァンが心に決めたからだ。
パンネロが気付いてくれていたんだとヴァンはうれしくなる。
「パンネロがずっと大事だ。ガキの頃よりも今の方がずっと。」
さっきはあんなに言葉に詰まっていたのに、今度は自然と口から言葉が溢れた。
「ヴァン、ずっと大人だね。小さい時よりも。」
二人は顔を見合わせ、そうして同時に大きな口を開けて笑った。
気まずさとうれしさがないまぜになって、幸せでくすぐったい。
さっきパンネロの気持ちを沈ませた張本人である夕陽まで笑っているように思える。
もう大丈夫だ、とパンネロは思う。
「ね!早く直しちゃお!」
この続きの展開にものすごく期待をしていたヴァン、あっさりと裏切られてしまう。
さっきまで泣いていたパンネロが突然元気になったのに釈然としない気持ちになったのだが、
「ああ、朝までに間に合わせないとな。」
と、強がってみせる。
パンネロが微笑んで頷いた。
その笑顔にヴァンの心臓がまた跳ねる。
なんだかパンネロが急にきれいに見えたからだ。
(やっぱ…大丈夫…じゃないかも。)
気持ちは通じたのだ。
そうなるとつい考える事は一つで。
仮眠用のベッドがあるけど、そこはやっぱりヤバいよな…やっぱりラバナスタに戻ってから… でも我慢出来るか自信がない…そんな不埒な事を考えていて気が付いた。
(俺!風呂!入ってね~!三日も!)
さすがにこれでは今晩は無理だろうと絶望的な気分になる。
ヴァンのヨコシマな気持ちなど知るはずもないパンネロ。
ご機嫌で、ヴァンの腕からするりと抜け出すと、
「じゃあ、私、お夜食作ってくるね!」
そう言ってパタパタと駈けて行ってしまった。と、思うとひょい、と顔だけを出し、頬を赤らめて、
「ずっと…一緒だよね。」
そうしてすぐに顔を引っ込めると、足音だけを残して夕食の支度に行ってしまった。
その仕草がまた可愛かった。
無事に帰ったら一晩中抱きしめようとヴァンは心に固く誓う。
そうしてパンネロの好きな所をちゃんと言うのだ。
今なら言える。いくつでも言える。
(ずっと…一緒だもんな。)
守ると決めたのに浮かれているだけじゃだめだ、と自分に言い聞かせてヴァンは再び操縦席の下に潜って作業を再開した。
まずはパンネロを無事に連れて帰ってやる事なのだ。
それでも作業をしながら、操縦席の横でナビをしてくれたり、パンネロの歌を思い出してとても幸せな気持ちになった。
もっとも、この後栄誉ある召還が待っているので彼の期待がお預けになるのはお約束なのだが。
おわり。