オペラ座の空賊(FF12)

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バルフレア、フラン、パンネロの3人はバーフォンハイムで海の幸を堪能していた。
ただ、レストランに居ても、街中を歩いていてもどうも監視されているようで。
最初はこれ見よがしに両手に花でグルメ三昧を楽しんでいたバルフレアだったが、 行く先々で目を光らせている無表情な男達にいい加減うんざりし、二人を誘って小さなヨットを借りて、沖へ漕ぎ出した。
水平線に沈もうとしている太陽がきれいで、パンネロはそれを眺めて歓声を上げた。
帝都を脱出してからバルフレアとフランに連れられて、遊んでばかりだし、朝昼晩とご馳走尽くしでとても楽しいのだが、
「でも、少し太っちゃった。」
「パンネロは痩せ過ぎだ。もう少しぽっちゃりした方がいい。」
「そうかな?」
「でも、踊り子としては失格ね。」
「大変!帰って練習しなくちゃ。」
一頻り笑うと三人の間に沈黙が訪れ、後は波の音だけが聴こえた。
パンネロは舟の縁から身を乗り出し、指先を波に落とし、ぼんやりと海面を眺めた。
「ねぇ、バルフレア…」
「今度はなんのおねだりだ?デザートならもう喰っただろ?」
「もう!デザートの話じゃないの!」
パンネロは頬を膨らませ、バルフレアに正面に座り直す。
勢い良く座ったため、小さなヨットが激しく揺れた。
「…っと、こんな所で海水浴はごめんだぜ。」
「ちゃかさないで。まだ聞いてもいないのに。」
「そういう”前振り”の時の質問はどぉせロクでもない話に決まってんだ。」
「違うわ。真面目な話。」
「お聞きしましょう?」
バルフレアはぞんざいに答えると、寝そべってしまう。
話を聞く態度じゃないじゃないわ、と思いつつも、ここで引き下がれないとパンネロは頑張る。
「あのね、アーシェのこと。」
「女王様がどうかしたのか?」
「アーシェはバルフレアのこと、好きなんでしょ?バルフレアはどうなの?」
「やっぱりその話か。」
またもや女学生のノリでバルフレアはうんざりして海に飛び込みたくなる。
「おいフラン、なんとかしてくれ。」
「そうやって、あなたがいつもはぐらかすからでしょう?」
「バカバカしい質問に答える必要があるのか?」
フランはそうねと頷き、艶やかに微笑んだ。
「ただ、今答えないと次に答えるまで質問され続ける、とは思うわね。」
パンネロはほらね!とうれしそうにバルフレアを見下ろす。
「ソーヘンでアーシェが危なかった時も真っ先に助けてたでしょ?
でも、バルフレアはちゃんと言葉にした事ないし、女の子の方から告白しておいて知らんぷりって失礼だと思うの。
アーシェもきっと不安なんじゃないかな?もちろん、アーシェは女王様になっちゃったんだし、気軽にそんな事を言えないかもしれないけど、でもね…」
どうしてこういう話になると、女の子という生き物はぺちゃくちゃと口の回転数が上がるんだ?大体、帝国軍と反乱軍の大艦隊が集結した場所で大々的に告白とやら(なのか!?)をされた俺はどうなる、とバルフレアが心の中でぼやいていると、
「ねぇバルフレア、聞いてる?」
焦れたパンネロの声で、なんでこんな気恥ずかしい話に付き合わなければならないんだと我が身を呪っていたバルフレアは遂に切れた。
いい加減にしろとでも怒鳴ってやろうかと起き上がり、正面からパンネロを見据える。
が、当のパンネロはバルフレアの怒気を含んだ視線を意にも介さず、目をキラキラさせてバルフレアの返事を待っている。
さすがに毒気を抜かれ、バルフレアは頭を抱えて大きくため息を吐いた。
「バルフレア?どうしたの?」
パンネロは跪いてバルフレアの顔を覗き込もうとする。
バルフレアはやれやれと頭を上げ、パンネロの頭にぽん、と掌を乗せる。
「…お嬢ちゃんには敵わないな。」
「”パンネロ”。」
「そうだったな。」
バルフレアは空を見上げ、そして覚悟を決めて話し始めた。
「…俺とアーシェは何も始まっていないし、これからも始めるつもりはない。」
「それは…アーシェに迷惑になっちゃうから?重荷になるから?」
「少し違うな。アーシェは”自分らしくいたい”って言ってただろ?」
パンネロは大人しく頷く。
「俺もそうさ。」
パンネロは首を傾げ、何やら考えている。どうやら納得がいかないようだ。
「それじゃあよく分からないわ。バルフレアがアーシェの事を大事に思っているのは分かったけど、なんだかはぐらかされたみたい。私、バルフレアの気持ちが知りたいのに。」
バルフレアはフランを見る。フランが”教えてあげて”と瞳で答えたのでやむを得ず、
「いいか、パンネロ。」
パンネロはいよいよ答えが聞けると、膝を乗り出して聞く体制だ。
「たとえ俺がシュトラールを奪われてフランとも引き離されて、身体一つで放り出されたとしても、それは俺の中に残る物だ。誰にも触らせない。分かるか?」
パンネロは最初はぽかん、とバルフレアを見つめていたが、顔が見る見る赤くなる。
「これで安心した?」
フランに声を掛けられてパンネロは我に返り、慌てて立ち上がると、その背後に隠れてしまった。
「聞いた方が照れてどうする?」
「ごめんなさい…」
「フランなら口に出さなくても分かる。相棒ってのはそういうもんだ。俺達みたいになりたいなら、もう少し大人になることだな。」
バルフレアのキツい言い方にパンネロはすっかり意気消沈してしまう。
フランから咎める様な視線を向けたが、バルフレアはそれを真っ向から見つめ返し、
「ついでだから聞くが、何を考えている?」
フラン、答えない。
「あそこにヴァンとアーシェが居たのは偶然じゃない。誰かが手引きしないとな。」
パンネロは驚いてフランを見上げる。
「相棒なら、分かるんじゃないの?」
ぴん、とした空気が漂った。パンネロはオロオロと二人を交互に見るしか出来ない。
不意に、バルフレアがふっと笑った。
「……おせっかいなことで。」
フランは表情を変えないが、彼女が纏う空気が緩んだ。
「パンネロ。」
バルフレアに呼ばれて、パンネロはおずおずとフランの背中から顔を出す。
「言い過ぎた。悪かったな。」
パンネロは驚いて顔をぶんぶんと横に振る。
「ううん、私…聞いちゃいけないこと、聞いちゃったから…」
「良い子だな、パンネロは。」
さっきは怒られていたのが突然そんなこと言われても、と戸惑うパンネロがおかしいのか、バルフレアはくっくと笑う。
「アーシェの事が心配で心配で仕方がなかったんだな、そうだろ?」
“そうだろ?”という言葉はフランに向けられたもののようだ。フランが静かに頷いた。
二人の会話の意図が分からず、パンネロは途方に暮れてしまう。
バルフレアとフランはそんなパンネロの様子を楽しそうに眺めながら、
「そろそろ帰るか。」
「そうね。」
いつの間にか辺りは暗くなっていて、港の灯りが星の様に瞬いている。
(きれいだな…)
バルフレアが帆の向きを変え、舵を切ると、ヨットは港に向かって滑り出した。
バルフレアもフランもとても優しくしてくれるのに、
(どうして寂しいんだろう…)
答えは分かっているのに、パンネロはそれを夜の海のせいにした。

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