パンネロのリベンジ!(FF12/R18)

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もう少し眠っていたいのに、何かが身体にまとわりついて、その重みで目が覚めた。
目を開いて真っ先に飛び込んで来たのは逞しい二の腕。
パンネロが首を横に向けると斜め上にバルフレアの寝顔があった。ぼんやりとその寝顔を見つめ、今度は反対側を見る。カーテンが朝の光を蓄えきれず、隙間から明かりが洩れている。大体の時間と自分が置かれた状況が、ぼんやりと理解出来た。パンネロはもう一度反対側を向き、自分の身体に腕を巻き付け、まるで甘えるように首筋に顔を埋めて眠る男の寝顔を見る。穏やかな寝息がパンネロの丁度こめかみの部分に当たり、
(ちょっと、くすぐったいな…)
今度は自分の身体に注意を移す。身体には何も身に付けていないが、昨夜の行為の後だけはきれいに拭き取られていた。それが誰によって行われたかを考え、パンネロは一人、赤くなる。
(やだ…やっぱり寝ちゃったんだ…)
そして、人の気も知らないで、気持ち良さげに眠る男を上目遣いに睨む。
(いつもそうなんだから…)
昨夜だってそうだ。あんな恥ずかしい事をされ、こんな恥ずかしい言葉を囁かれ。そして結局はバルフレアの思うがままに乱された事がなんだか悔しいのだ。おまけに行為の後始末までされたのも恥ずかしい。
(それに…また自分だけシャワー浴びて…)
きれい好きのバルフレアはセックスの後、大抵シャワーを浴びている。一方パンネロはと言うと、一晩中海を漂流して漸く岸に打ち上げられた難破船の船員みたいにぐったりと疲れてしまい、すぐ眠りに落ちてしまう。その事も余裕を見せつけられた様で、また悔しい。
(もう…知らない!)
パンネロは乱暴にバルフレアの腕を払いのけて起き上がる。起きるかと思ったバルフレアはそのままモゾモゾと寝返りを打ち、また寝入ってしまった。
(やっぱり、知らない!!)
パンネロはバルフレアをベッドに残したままシャワールームに入ると、それでも眠っているバルフレアを起こさない様にそっと扉を締めた。
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(まだ寝てる…)
シャワーを浴びて、中からベッドの様子を伺い見ると、相変わらずベッドからは安らかな寝息が聞こえてくる。腹を立てていたせいで着替えを持って入るのを忘れてしまったので、バスタオルだけを身体に巻き、パンネロは抜き足差し足でクロゼットの前に立ち、扉を開く。と、扉の軋んだ音が予想以上に大きくて、慌ててベッドを見るがそれでもバルフレアは起きる気配がない。さすがに呆れてしまい、バスタオル姿のままその寝顔を覗き込む。バルフレアはパンネロが居なくなった代わりに自分を抱きしめる様に丸くなって眠っている。いつもはきちんと整えられた前髪が額に降りていて、その姿と相まって、いつもよりずっと幼く見える。なんだか拍子抜けしてしまい、パンネロはベッドに腰を下ろし、額にかかった前髪をそっと撫でてみる。
(この方がずっと若く見えるな…)
バルフレアがこんなにあどけない寝顔なのはパンネロだけの秘密だ。バルフレアも知らない秘密に少しだけパンネロの気持ちがおさまる。それでもやはり理不尽な気がするし、不安にもなる。
(いつも恥ずかしがって、子供みたいで…バルフレア、嫌にならないかしら?)
「私…ちゃんとバルフレアのお相手出来てる?」
小さく声に出してみるが、やはりバルフレアは起きない。パンネロは小さくため息を吐き、どうすればいいのかと考えを巡らせる。
(やっぱり…経験の差なのかなぁ…)
どうすればそれをカバー出来るのか。
(踊りや剣なら一生懸命練習すればいいけど…)
こんなに困っているのに暢気に寝ている恋人がが恨めしい。しかし、その寝顔を見つめていて、パンネロにある考えが浮かんだ。
(練習…すればいいのよね。)
パンネロはバスタオルが落ちない様にをしっかり留め直すと、いつもバルフレアがしてくれる手順を思い出す。
(えっと…まずはキスしてくれて…)
バルフレアの寝顔を真上から見下ろす。ゆっくりと顔を近づけるが、顔が間近に来ると恥ずかしくなって離れる。これではダメだと自分に言い聞かせるが、いざ唇が重なりそうになると離れ…を何度も繰り返し…
(だって、ずるいわ…いつもより、 なんだかわいい顔してるんだもん。)
パンネロは赤くなった頬を両手で包み、すぅっと息を吸ってから吐き、気持ちを落ち着かせた。ぎゅっと硬く目を閉じ——それでも場所を間違えない様に時々薄目を開けながら——パンネロはやっとバルフレアの唇に自分のを重ねた。途端にバルフレアが顔を逸らせたのに、きゃあ!と、叫び出しそうになるのを必死で堪える。おそるおそる様子を伺うとバルフレアは寝返りを打って壁側を向いてしまっている。
(もう、驚かせないで!)
パンネロは反対側を向いてしまったバルフレアの肩越しに、またキスをする。キスしても目を覚ます様子がないのに安心して、そっと舌を差し入れてみるが、しっかりと閉ざされた歯に阻まれる。それではと、角度を変えて何度も口付けたり、下唇をそっと含んでみたりする。次第に大胆になる行為に、今のままの姿勢だとやりにくくなる。パンネロはバルフレアの肩を静かに引き寄せ、仰向けにする。あどけない寝顔が愛おしくて、その顔を手で包み込む様にして額や頬、まぶた、すらりとした鼻梁に口付けた。中でも彫りの深い顔の、まぶたから鼻の根元にかけてにキスするのがパンネロのお気に入りになった。
(もっと…大人のキスも練習したいんだけどな…)
先ほど拒まれたのをどうやって突破しようかと考え、試しに鼻を摘んでやると、微かに口が開いた。パンネロは大喜びでその隙に口づけ、舌を差し入れると今度はするりと受け入れられたので歯列をなぞり、自分の舌先で恋人の口内をじっくりと探検する。歯並びがいいのは知っていたけど、虫歯もないのね、などとセクシャルな練習とは程遠い感想を抱きながら舌を絡めてみる。息苦しげに眉が寄せられるのに、
(私のキスで感じてくれてるのかしら…?)
パンネロは気を良くして、無意識に顔を背けようとするバルフレアを追いかけるが、息苦しさからか、唇を離されてしまう。
(あぁん…動いちゃだめ…)
だが、これ以上するとバルフレアが起きてしまうかもしれない。パンネロはキスの練習を断念し、横を向いてしまった事であらわになった首筋に唇を移動させる。バルフレアが時折軽く吸い上げたり、歯を立てたりするのを真似ながら鎖骨から逞しく盛り上がった胸元を伝い、下へ、下へと移動する。そして引き締まった腰と腹、臍の周りに舌を這わせてみると、腹筋が引き攣る様に、ひくり、と動いた。それに驚き、跳ねる様にパンネロは身体を離した。ここまではいつも自分に施される愛撫を真似て来たが、
(ここからは…)
どうすればいいのかは知っている。実際に何度もバルフレアの物を教えられるままにぎこちなくその部分を愛撫し、口に含んだことさえある。
(でも…でも…)
いつもと状況が違う。バルフレアの下半身はシーツで覆われている。これは、パンネロが気恥ずかしさで全てを剥ぎ取る事が出来なかったからだ。今からパンネロが行おうとする事のためには、まずシーツをどけてから、もしバルフレアが何かを身に付けていたら更にそれを脱がさなければならない。
(いつもだと…もう脱いでるし…それに…)
そう、いつもだと髪を振り乱すまでよがらされ、さんざイかされた後で、
(頭が空っぽになっちゃってる時…なのよね…)
その時の状況を思い出し、パンネロはまた赤くなる。そして、さんざん悩み、その“頭を空っぽ”にされないための練習なのだと言い聞かせ、おずおずとシーツに手を掛けた。すると、突然肩を掴まれて引き寄せられ、気が付くと視界が一転してバルフレアの顔が下にあった。
「続きは?」
一瞬何が起こったのか分からず、パンネロは呆然とバルフレアの顔を見る。そして、その言葉の意味を理解すると、
「…起きてたの?」
バルフレアが肩を竦めてみせる。ニヤニヤと笑うその顔にパンネロはその白い首まで赤くなる。
「いや…離して!バルフレアの意地悪!」
パンネロは身体を捩ってバルフレアの上から逃れようと暴れるが細い腰と華奢な背中に腕が回され、しっかりと抱きしめられてそれも出来ない。パンネロはバルフレアの胸に顔を擦り付け、まるで子供の様にいやいやと首を振る。
「バルフレアなんて…嫌い!いつもそうやってからかって…」
バルフレアは回した腕の力を緩め、泣き出さんばかりのパンネロの頭を優しく撫でる。パンネロが髪を撫でた時に既に目が覚めていた。暫く寝た振りをして“早く起きて”とかなんとか言われたら、その手を引き寄せて押し倒し、昨日の続きを…などと考えていたら思いがけないパンネロの行動に、お手並み拝見と寝たフリをしていたのだ。パンネロのおそるおそる、といった風に少し触れては離れる愛撫や新鮮な果物の様な瑞々しい唇が身体の上に降って来るのにバルフレアの寝た振りも限界に来ていた。ちょっとからかうつもりが、思いがけない拒絶に戸惑ったがパンネロが落ち着くまで根気よく髪を撫でてやる。何も話さないバルフレアに焦れて、先に口を開いたのはパンネロだった。
「ねぇ…いつから起きてたの?」
バルフレアはパンネロの身体を少し起こし、正面からその顔を見つめる。眉を寄せ、目を潤ませ、唇を尖らせて。
(まだ拗ねてるな…)
バルフレアはパンネロの鼻に、ちゅっと音を立ててキスしてやる。そして、表情が少し緩んだのを確認すると、
「ちょっと触れただけで可愛い声で鳴いて、俺の名前を呼んでぎゅっとしがみついて。肌は上物の絹よりも柔らかい。 おまけに…」
パンネロが問いかける様にじっと見つめる。
「踊りで鍛えた腰と柔らかな身体で どんな体位も思うがまま、だ。俺に言わせるとこれで満足しない奴がいたら、 そいつは男じゃないな。 」
瞳がぱちぱちと瞬き、言葉の意味を反芻しているようだ。どうやらさっきの独り言を聞かれていた事と、後半のあまりもの言い方にパンネロは再び怒り出した。小さな手で拳を作り、ぽかぽかとバルフレアの胸を叩く。
「やっぱり嫌い…!バルフレアなんて大嫌い!」
それが不意にかわいい攻撃が止み、不安げにじっと見つめて来る。
「ねぇ…本当に?」
「何が?」
「…さっき言ったこと…」
「どんな体位でもってヤツか?」
「もう!そうじゃなくって…!」
ムキになるパンネロに、バルフレアはとうとう笑い出し、パンネロを強く抱きしめると無茶苦茶にその頭を撫でる。
「笑わないで!」
もみくちゃにされながらも抗議の声を上げるパンネロに、バルフレアは男の生理という物をどういう風に伝えようかと頭を巡らせる。
「おまえに満足しなかった事なんて、一度もない。 」
まずは不安を取り去ってからと、バルフレアはストレートに答える。
「男ってのはバカな生き物なのさ。 可愛い女の子ほど、いじめたくなる。 」
いじめてこの掌で握りつぶしたくなる、という心の声は噛み殺して。
「それが惚れた相手だと尚更だ。 」
バルフレアの言わんとする事はパンネロにも理解出来た。悪ガキの見本とも言える幼なじみを持ったせいだろうか。だが、理解は出来ても納得がいかない。
「…パンネロ?」
バルフレアが怪訝な顔で呼ぶ。そろそろ続きを…と思った所でパンネロが何かをじっと考え込んでいるのだ。

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