オペラ座の空賊(FF12)

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東門から王都に入り、パンネロは近くに居た子供達に声を掛け、ヴァンを見なかったか尋ねてみると、
「戻って来たのに、またどこかへ行っちゃたの…?」
戻ってすぐに旅支度を整えると、そのままどこかへふらりと出かけてしまったそうだ。
「どうするの、パンネロ?」
「探しに行く。」
パンネロはいつもの踊り子の服に着替えていた。
やっと本来の自分に戻った様な気がする。もう迷いはない。
「このコ、使ってちょうだい。」
アーシェは乗っていたチョコボの手綱をパンネロに渡す。
「アーシェ…」
パンネロはアーシェにぎゅっとしがみついた。
「色々ありがとう…大好き。」
「気を付けてね。」
パンネロは、今度は一人でチョコボに乗る。
「そうそう!ヴァンはああ見えてもてるわよ。気を付けてね。」
アーシェの腰の短剣の鍔がカタカタと鳴り出し、パンネロはチョコボの上から不思議そうにそれを眺める。
「剣が…鳴ってる……?」
「気にしなくて良いのよ。さ、行きなさい。」
パンネロはうれしそうに頷き、チョコボに鞭をやると元来た道を引き返す。
母性本能全開のパンネロには、はぐれ鳥を追いかける事など容易い事だ。
何度も振り返ってアーシェに手を振り、その姿は門の外に消えて行った。
**************
ギーザ平原を越え、オズモーネ平原までやって来たところで、パンネロは水場を見つけ、チョコボに水をやった。
自分も手綱を持ったまま、隣に跪いて泉で水を掬おうとした時、何かが上空を横切り、空が暗くなった。
振り返ると、巨大な鳥のモンスターがパンネロとチョコボを狙って急降下して来た所だった。
パンネロは慌てて身を翻して攻撃を避ける。
その時に手綱を手放してしまい、怯えたチョコボは興奮してパンネロを置いて逃げ出してしまった。
「ああ…!」
パンネロが気が付いた時にはチョコボの姿は見えなくなっていた。
パンネロの武器は小さな短剣だけだ。これでは攻撃は届かない。
突然の事で攻撃魔法の呪文が口から出て来ない。
何度か攻撃を避けたが、モンスターは諦めない。
立ち上がって走ろうとして、勢いが余って前につんのめって転んでしまう。
「ヴァン…!」
背後に鋭い爪がすぐそこまで迫って来た。
パンネロは頭を抱え、もうだめだと目をぎゅっと閉じた。
その時、つがえられた矢が、ぶん、と放たれる音がして、頭上でモンスターがすさまじい悲鳴を上げた。
パンネロがおそるおそる顔を上げると、更に何本もの矢が頭上を飛んで行き、モンスターを貫いた。
絶命して、羽ばたくの止めたモンスターがパンネロの上に落ちて来る。
突然の事に何が起こったのか分からないパンネロは動けず、落ちてくる巨体が迫って来るをぼんやり眺めていると、誰かが腕を強く引っ張った。
どう、と地響きを立てて落ちて来たモンスターの下から引っ張られ、間一髪でパンネロは下敷きにならずに済んだ。
「パンネロ!」
懐かしい声に顔を上げる。
「大丈夫か?」
パンネロはこくん、と頷いた。混乱した頭の中を整理する。
(危なくなって、”ヴァン”って呼んだらヴァンが居て……)
試しに名前を呼んでみる。
「…ヴァン?」
もし、会いたいと逸る気持ちが見せた幻だったどうしよう。
「怪我はないか?どうしてここに…?」
ヴァンは消える事なく、心配そうにパンネロの腕や肩に怪我がないか調べている。
触れられた腕や肩にヴァンの体温を感じる。
目の前に居るのは間違いなくヴァンだとパンネロは認識した途端、パンネロは気持ちを抑えきられず、感情が一気に弾けた。
パンネロはヴァンの首にしがみ付くと、自分の唇を勢い良くヴァンのに合わせた。
勢いが良すぎて歯と歯がぶつかって、痛くて目に火花が散る。
痛いと叫ぼうとしたら鼻と鼻がぶつかる距離にパンネロの顔があって、ヴァンは伏せられた睫毛に釘付けになり、そのまま勢い余って
パンネロを抱えたまま後ろ向きに倒れてしまった。
しかも、間の悪いことに、倒れた所に拳大の石が転がっており、ヴァンはそれに後頭部を思い切り打ち付けた。
頭は痛いし歯は痛いしで、ヴァンは目を回してしまう。
驚いたパンネロが慌てて水場で手のひらに水を掬って、ヴァンの額に少しずつ垂らした。
「ヴァン…ごめん!私…うれしくってつい…」
パンネロはオロオロとハンカチを出してヴァンの顔をそっと拭いてやる。
ヴァンはうぅ~ん、と呻いて目を開いた。
ぼやけていた視界が徐々にピントが合って来て、心配そうな顔のパンネロが見えた。
(今…うれしくってって言ったよな…)
頭を打ったせいだろうか、パンネロの後ろに虹が見えるのは。
頭を打ったせいだろうか、パンネロの後ろに広がる風景が急に生き生きと息衝いて見え始めたのは。
(違う…)
「パンネロに会えたからだ…」
ヴァンは跳ね起きると、パンネロを強く抱きしめた。
「俺に会えて、うれしいって……」
腕の中で身じろぎせずに居たパンネロが驚いてヴァンを見上げる。
ヴァンもパンネロを見下ろす。
「パンネロがそう言ったらさ、そしたら!俺!世界がカラーになった!」
熱弁を振るうヴァンがおかしくて、パンネロが吹き出した。
釣られてヴァンも笑い出す。
ひとしきり笑った後で、ヴァンはパンネロを抱く腕に力をこめた。
「…ごめんな。」
パンネロがすぐに答える。
「もういいよ。」
穏やかに微笑み、小首を傾げるパンネロのなんと可愛らしいことか。
ヴァンはおずおずと顔を近づける。パンネロは大人しく目を閉じた。
今度は歯がぶつからないように、そっとキスをした。
パンネロの唇は柔らかくて、触れただけで溶けてしまいそうだ。
唇が離れると、ヴァンは立ち上がり、パンネロに手を差し伸べた。
「行こう。」
「うん。」
パンネロもヴァンに手を引かれて立ち上がる。
陽が傾きかけ、空がラベンダー色に変わっていく。
その中を、二人は穏やかで誇り高い仮面の一族の集落に向かって歩き出した。
このままずっと手を離さないで、そうして、二人で一緒に大人にろうとヴァンは心に決める。
ずっとパンネロの名前を呼んでいたいと強く思う。
パンネロも同じ事を考えているのであろう、ヴァンの気持ちに応えるかのように繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
おわり
サンクロンさんが作中のチョコボに乗るアーシェとパンネロを描いて下さいました。(クリックでイラストのページへ)


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