小話(FF12)

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登場人物:ヴァンとアーシェ

久々に再会したダウンタウンのスリと王女殿下の短いお話。


薄暗い城内の廊下の角をいくつも曲がり、漸く奥まった一画に辿り着いた。
案内してくれた侍女が扉を開けると、そこから溢れんばかりの光が差し込み、ヴァンは思わず目を細めた。
漸く目が慣れるとそこはバルコニーで、光の中に懐かしい仲間が立っていた。
ラバナスタの強い陽射しの中でもそこだけ凛とした空気が漂っているようだ。いつもの調子で声を掛けるつもりだったのに、そこに立つアーシェの美しさに声も出ない。
「よく来てくれたわね、ヴァン。」
少し首を傾げ、アーシェが微笑む。
「う…うん、久しぶりだな、アーシェ…」
それだけ言うのがやっとだった。
(こいつ…こんなにきれいだったっけ…?)
旅の間は終始悩み、一人で重圧に耐えていたアーシェが、今、お陽様の下でふんわりと微笑んでいるのだ。
「どうしたの…?ヴァン?」
心配そうにアーシェがヴァンを見上げる。
(なんだよ…なんか、いい匂いがする…)
それだけで頭がクラクラするし、目も回る。
「あ…アーシェがさっ…きれいになったから、びっくりして…さ。」
最後の「…さ。」はアーシェにはほとんど聞き取れなかっただろう。
「まぁ、ヴァンもお世辞が言えるようになったのね。」
クスクス笑う声が耳にくすぐったい。
気持ちがいいけど、のぼせるようだ。なんだかいたたまれない。
(お世辞じゃなくて、本当に…)
白いドレスが良く似合っていた。
だが、悲しいかな、それを表現する語彙力がヴァンにはなかった。
でも、伝えなければ。
(俺は決してお世辞じゃなくて本当にアーシェがきれいだと思ったんだ!)
その想いが一気に喉から迸った。
「お世辞なんかじゃないって!だってさ!アーシェ、旅の間いつも眉間にシワ寄せて暗い顔してたろ?髪もボサボサで日焼けしてさ!それが今じゃ本当に…」
言い終わらない内にパチーン!と、小気味の良い音が明るいバルコニーに響き渡った。
その後ヴァンは出入り禁止か、それとも城内でもっとも口やかましいしつけ担当の侍女頭にみっちりとマナーを教わるかのどちらかを迫られ、泣く泣く後者を選んだのだった。
おしまい。