DC後(FF7)

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3人は、ぽかん、とリーブを見つめる。
「じゃ…じゃあ、アレか?アイツは、無事なのにとっとと姿を眩ましやがったってのか?」
「おそらく。」
「俺たちが心配してるのを知ってか!?」
予想通りのリアクションに、リーブは考えに、考え抜いた返事をする。
「私が思うに…」
「おう、なんだ?」
「彼独特の奥ゆかしさではないかと。」
白けた空気が流れた。
シドとバレットは空いた口が塞がらず、クラウドは顔を手で覆ってしまう。
「随分と言葉を選んだな、リーブ。」
「皮肉ですか、クラウドさん?」
リーブは肩を竦めた。
「他に、どう言い様があるんです?」
口をぱくんと開いたまま呆然としていたシドとバレットだが、すぐに目に光が戻り、ワナワナと震え始めた。
「二人とも、落ち着いて下さい。」
二人は同時に片足を応接セットの机の上にだん!と乗せると、
「落ち着けだとおおおおーっ!」
「これが落ち着いていられるかよ!」
「お二人とも、お願いですから座って下さい!」
リーブは必死で二人を宥める。
クラウドは、なんだか子どもの頃に見たサーカスの猛獣と猛獣使いの様だな、と傍観していたが、さすがにリーブが気の毒になり、
「それで、ヴィンセントはどこに居るんだ?」
リーブに飛びかからんばかりの二人と、そしてリーブがクラウドを見る。
「リーブの事だ。もう居場所は分かっているんだろ?」
さすがに気恥ずかしくなったのか、親父3人はいそいそとソファに座り直した。
「おう、で、奴はどこに居るんだ?」
「私…考えたんですよ。」
「またそこからかよ!」
「だから結論から言え、結論から!」
「シド、バレット。」
クラウドは少し声を荒げる。
「とにかく、今はリーブの話を聞こう。ヴィンセントが無事ならいいじゃないか。」
「ったく、おめぇはどうしてこんな時でも冷静なんだよ。」
ブツブツ言いながらも、二人はとりあえず黙るが、それでも眼光でリーブを威圧するのは忘れない。それをさらりと受け流し、漸く話を続けられる状況にリーブは満足げだ。
「まず、命がけの戦いを終えた後、皆さんならどうします?」
この質問は効果的だった。途端に二人は大人しくなり、誰かの顔を思い浮かべている様子だ。
「ま、仲間ん所に戻るかな。」
「そうだな。俺ならそれからマリンの所に駆けつけるな。」
そうでしょう、とリーブも大きく頷く。
「当然、皆さんを待っていてくれる人の所ですよね。でも…私の質問に真っ先に浮かんだのは、それぞれの奥方だったり、恋人だったり、娘さんだったのではないですか?」
これはクラウドを含めて、3人とも図星だったので誰も言い返せない。
「待てよ、リーブ。けどヴィンセントにゃそんな相手は…」
言いかけたシドがあっ!と叫んだ。
「…あんの野郎!まさか!!」
「おい、シド、どういうことだ?」
まだ分からないバレットがシドに尋ねる。
「ヴィンセントはんは”ルクレツィアの祠”に居はります。」
ぽてん、ぽてん、とまたもや不思議な足音をさせてケット・シーが部屋に入って来た。
「わいがこの目で見て来ましたから、間違いないですわ。」
ケット・シーはよいしょ、と飛び上がってリーブの隣に座る。
「じゃあ、あの野郎…!俺らの事を放っておいて思い出の場所に駆けつけたのか…?」
バレットが再びわなわなと震え始める。
「皆さんもご存知の通り、彼はああいった性格ですから。」
「単に照れくさくて、みんなの前によう顔出されへんだけでっせ~。」
今度は1人と1匹での説得だ。
「あの野郎!俺等が心配しないとでも思ってるのかよ?」
「今すぐ洞窟から首根っこ引っ掴んで引きずり出してやる!」
ケット・シーが慌てて両手を振りながら、
「ま…待って下さい、バレットはん!ヴィンセントはんは悪気があったんとちゃいまっせ!きっと皆さんやったら分かってくれる、そう思うて…」
「いくら俺達だからって、分かんねーよ!」
「悪気があったらもっと許せるかよ!」
バレットとシドにコワい顔を突きつけられ、ケットシーは毛を逆立てて飛び上がった。
「俺は…少し分かるな。」
クラウドがボソッと呟く。それを聞き逃す親父二人ではない。
「どういう事だ?」
「みんなが待っているのは分かってる…1年前、俺はそれが分かって救われた。でも…」
その活躍のせいか、配達先の街で知らない人にいきなり握手を求められたりして大変だったとクラウドは説明した。
「だから…出て来ないんだと思う。」
「せやから言うたでしょう?ヴィンセントはんは奥ゆかしいおヒトやって!」
我が意を得たり、とケットシーとリーブが同じタイミングで頷いている。確かに、いくら気心の知れた仲間とは言え、ヴィンセントは仲間内でも特殊である。常人とは違う身体の持ち主だ。彼が出来るだけ人とは関わらない様に細心の注意を払って生きて来た事を思うと、
(さすがのお二人も、これで納得するでしょう…)
リーブにとって、口下手クラウドがヴィンセントの立場で発言してくれるかどうかは、賭けだったのだが、
(やはり、3人一緒に呼んでおいて良かったようですね。)
作戦成功に、リーブはまたもや満足気に頷いた。
「ですから…今は彼をそっとしておいてあげましょう。大丈夫ですよ。落ち着いたらひょっこり顔を出してくれまよ。その時は何事もなかったかの様に、彼を受け入れてあげればいいだけのことです。」
穏やかなリーブの声が、静まり返った局長室に響く。
「…まぁなぁ…」
「アイツの性格を考えるとなぁ…」
説得成功!リーブがそう確信した瞬間、
「でもよ。ちょっとおかしいんじゃねぇか?」
「電話だろうが、メールだろうが、なんでも知らせられたんじゃねーのか?」
「そ…それは…」
情に脆い二人のこと、このセリフで決まりだと確信していたリーブは思いがけない反応のすっかり狼狽えてしまっている。
「なぁ、リーブ、俺たちはな…」
「飛空艇団員に頭下げて抜け出して何日もミッドガルを歩き回って。」
「マリンにも会えずで、おまけに足が棒になっちまったぜ。」
「シェルクの見舞いにも行けなかったなぁ…」
強面2人に詰め寄られ、リーブは縋る様にクラウドを見るが、黙って首を横に振るだけだ。ケットシーはとっくに姿を眩ませている。逃げ場はない。
「お前の言い分はもっともだぜ、リーブ。」
「それにヤツの気持ちも分からないでもねぇしよ。」
「そ…そうでしょう?」
リーブは引きつった笑みを浮かべる。シドもバレットも同じ様に笑っているが、目が笑っていない。
「そこでだ。俺様にいい考えがあるんだ。」
にやりとシドが笑う。
「もちろん、お前も協力してくれるよなぁ?」
二人の迫力に押されていたリーブだが、ここで諦めるようでは今の彼はなかっただろう。
「ちょっと待って下さい、艦長。」
「んだよ?」
「確かに私は彼を庇ってはいますが、別に彼の失踪に手を貸した訳ではありません。」
気丈に言い放つと、シドをぐい、と押しやる。
「あなたが何を考えているかは分かりませんが、手を貸す理由はありませんよ。」
「おい、シド、気付かれたぜ。」
「当たり前です。」
リーブはぴしゃりと言うと、改めて二人に向き合う。
「まぁ、そう言わずによぉ、協力しろよ。」
シドは脅しが効かないと分かると、今度は懐柔策に出た。
「別に俺だって本気で怒ってるワケじゃねぇよ。それっくらい分かるだろぉ?」
「さっきと言う事が随分変わってますが。」
懐柔されてなるものかと、リーブは冷たくそっぽを向く。
「そこでだ!」
「私の話を聞いてますか、艦長?」
「もちろん聞いてるぜ!」
「では改めてお願いします。どうか彼をそっとしておいてあげて下さい。」
「星を救った英雄を出迎えるパーティと行こうぜ!」
「ですから、私の話を聞いてますか?」
「もちろん聞いてるぜ。んで、場所はティファの店な。」
「勝手に決めないでもらいたいな。」
クラウドが呟く。 どうせ聞いてはいないのは百も承知だが、一応言ってみる。
「俺の作戦はこうだ。まず、ヤツを迎えに行くのはシェルクに頼む。」
「どうしてここで彼女の名前が出るんですか?」
「そりゃあ…」
「彼を油断させる為でしょう。」
「お前ってどうしてこう…もっと言い方ってもんがあるだろぉ?」
シドはは顔を、やれやれと頭を振る。
「いいか、よく聞けよ。俺たちが行くより、シェルクが行く方がヴィンセントの野郎がびっくりして、おもしれぇじゃねぇか。」
「おもしろいとか、おもしろくないとかの問題ではないと思いますが。」
「ど~せ俺たちが行ってもよ、”あぁ、久しぶりだな”で終わっちまうじゃねーかよ。」
2人の会話は平行線で一向に終わる気配がない。いつまでこの不毛な会話が続くのだろうとクラウドが天井を仰ぎ見た時、シドが決然として言い放った。
「分かった!おめぇがそこまで言うなら俺にも考えがある!」
「どんな考えか伺ってみましょう。」
リーブは余裕の微笑みだ。
「俺様が今喉から手が出る程欲しいもんをよ、涙を飲んでおめぇに譲ってやるぜ。」
芝居のかかった、もったいぶった物言いに、リーブは思わず首を傾げてしまう。
(艦長と私が喉から手が出る程欲しい物…?)
「そんなものありましたか?、もし飛空艇団のことでしたら…」
「そうじゃねぇよ、俺が言いてぇのはな…」
ここでシドは自信ありげに一同を見渡すと、
「ドラフト権だ。」
またもや白けた空気が流れた。
「あの…艦長?」
遠慮がちにリーブが尋ねる。
「その…ドラフト権というのは?」
白けた空気に気付いていないのはシドだけだ。意気揚々と、
「ま、平たく言やぁ、交渉権ってとこかな。」
「…誰の?」
クラウドが冷たく尋ねる。あの頃は星の危機だったとは言え、よくこのメンバーをまとめていたものだとクラウドは自分で自分に感心してしまう。
「もちろん、シェルクだよ!あのコがWROに入るよう説得すんのに、力貸してやるってんだよ!」
「説得も何も彼女が決めることだ。そうだろ、リーブ?」
よもやこんなバカげた話にリーブが乗るはずはない、そう確信してクラウドはリーブを見る。が、リーブは何やら考え込んでいる様子だ。それがやがて顔を上げると、シドの顔を正面から見据え、
「本当に、力を貸してくれるのですか?」
「おい、リーブ?」
「おう!俺様が頼めばイチコロよ!」
「そうですねぇ…」
鉄壁の要塞がこんなバカげた理由で綻ぶとはクラウドは信じたくなかったが、
「リーブ!」
「まぁ…あまり騒がなければ、大丈夫かと…」
あまりものバカバカしさに、付き合いきれないと、席を立とうとしたクラウドをバレットが声を掛ける。
「どこ行くんだ、クラウド?」
「帰るんだ。」
「だとよ、シド!」
シドは立ち上がると、今度はクラウドの肩に馴れ馴れしく手を回す。
「まぁ、もうちょっと待てよ。」
「あんた達が何をする気か知らないが、俺には関係ないね。」
「関係なくてもいいから、家に帰るのはちょっと待てよ。」
「断る。」
俺の家で勝手をされてなるものかと、クラウドはすげなくシドの手を払い、ドアに向って歩き出す。それを慌ててリーブが追いかける。
「待って下さい、クラウドさん。」
クラウドは振り返り、自分の腕を掴んだリーブに何か言おうとして、不意にがくんと膝をついた。リーブがぼんやりとした緑の光に包まれているように見えた。
(…しまった…)
なんとか立ち上がろうとするが、急激に意識が遠のき、クラウドはその場に倒れてしまった。
「すいません、クラウドさん…」
リーブは倒れたクラウドの傍に屈むと、聞こえるはずのない彼に謝る。バレットは驚いて倒れたクラウドを助け起こす。
「リーブ、一体どうやったんだ?今のはまさか…」
クラウドは穏やかな寝息を立てて、すぅすぅと眠っている。
「これですよ。」
リーブはポケットから小さなブルーのマテリアを取り出した。
「”ふうじる”のマテリアですよ。今はこれくらいしか残ってませんがね。」
「おめぇ…なんでそんなもん持ってんだよ。」
さすがのシドも呆れ顔だ。3年前とは違い、今ではマテリアの数自体がかなり減っていて、最近では見かける事すらなくなっているのだ。リーブはマテリアをポケットに戻すと、
「ボディガードなんか必要ないと言ったら、スタッフが護身用にと持たせてくれたんですよ。もっとも、クラウドさんに効果があるかどうかは疑問でしたが…」
シドとバレットは同時に吹き出した。
「おまえ、貴重なモンをなんてことに使うんだよ。」
「しかも、使ったのはこれが初めてですがね。」
疲れていたんですねぇ、彼も…と呟きながらリーブは申し訳なさそうにクラウドを見る。
「んだよ、おめぇもやっぱヴィンセントのヤツが気になってたんだろ?」
「艦長があかんねんで!リーブのオッサンも我慢してたのに、
おもろそうな話ばっかりするから。」
いつの間にか姿を現したケットシーが横でぴょんぴょんと跳ねる。
「よし!じゃあ、邪魔者が寝てる間に作戦会議と行こうぜ!」
意気揚々とシドが叫ぶのを、リーブがクラウドさんが起きてしまいますよ、とたしなめ、バレットは丸太を扱う様にしてクラウドをソファに放り投げ、ケットシーは申し訳なさそうに上着を毛布代わりにかけてやり、そうして親父三人は何やら相談を始めたのだった。

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