前兆(FF12)

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登場人物:バルフレア×パンネロ

この二人が恋人同士だったらなぁ…という夢見がち度MAXな甘めのお話。
ピロートークと言いましょうか、そういった雰囲気をにおわせる物なので苦手な方はご注意を。


お待ちかねの就寝時間。
エンジンンの調整に手間取り、バルフレアは一足遅れて寝室に入る。
いつもなら寝間着の裾をふんわりとひるがえし、出迎えてくれるはずのパンネロが、ベッドで枕を抱えて何やら考え込んでいる。
バルフレアは眉を顰めた。
そう言えば今日一日、何か塞ぎ込んでいるようだった。
それでもバルフレアに気付くと立ち上がり、慌てて駆け寄る。
「お疲れ様。今日はもういいの?」
笑顔がどこか痛々しい。
「あぁ、俺の手にかかりゃ、大したことないさ。」
いつもなら顔中にキスして、ついでに首筋にもキスして、そのまま抱き上げてベッドに直行なのだが、
「そんな事より…どうした?どこか具合でも悪いのか?」
パンネロはほんの一瞬だけ顔を曇らせたが、すぐにまた笑顔に戻る。
「そう?全然元気だよ?どうして?」
とりあえずベッドに座らせ、自分も隣に腰掛ける。
「心配しないで。なんでもないの!ほら、こんなに元気だし!」
「パンネロ。」
空元気を遮り、その瞳を覗き込む。
「具合が悪いんじゃないなら何か悩みでもあるんじゃないか?」
「………」
パンネロはきゅっと唇を噛み締めると、何かを決意した表情でバルフレアを見据える。
「どうした…うわっ!」
パンネロが勢い良く首にしがみついてきて、2人でベッドの上にひっくり返った。
パンネロはそのままバルフレアの上に馬乗りになると、両手を頬で包み込み、 一瞬ためらった後、柔らかいその唇でバルフレアのを塞いだ。
2人が身体を重ねる様になってまだ3ヶ月ほどしか経っておらず、ベッドの中でのパンネロは為すがままだったのだ。
なので、突然のこの行動はうれしいというよりも、戸惑いを隠せない。
(おいおい…一体どうしちまったんだ…?)
すぐさま身体を引き剥がそうとしたが、パンネロが拙いなりにあまりにも必死なので、とりあえず気が済むまでさせてみる事にする。
背中に左腕を回し、優しく抱きしめてやり、右手で髪を結わえている紐を軽く引っ張ってほどく。
柔らかな金色の髪がふわりと落ちて来てパンネロの顔を彩る。
しかし、その顔はどこか苦しそうだ。
唇が離れて、パンネロは途方に暮れた様にバルフレアを見下ろす。
バルフレアの追求を躱そうと頑張ってみたが、先が続けられないようだ。
「…続きは?」
パンネロはまた唇を噛み締める。
バルフレアは身体を起こすと、パンネロの頭を抱き寄せた。
「積極的なのは大歓迎だが、らしくないな。どうした?何があった?」
パンネロが小さく頭を振る。
「パンネロ。」
「…だめ…言えない。」
「どうして?」
「言ったら…バルフレア、私のことを嫌いになるわ。だから言いたくないの。絶対に言わない。お願いだから、もう聞かないで。」
こうなったら梃子(てこ)でも話そうとしないだろう。
「分からないな。」
バルフレアはパンネロを引き寄せ、自分の膝の上に座らせる。
正面から見据えられ、パンネロは困った様に眉を寄せる。
その部分にバルフレアはそっと口づけた。
「なぁ…もし、逆の立場だったらどうする?」
「逆…?」
「俺が塞ぎ込んでいて、そのくせお前には空元気で何もない振りをして。」
「………」
「いつもなら真っ先に押し倒してるのが、パンネロに背中を向けてぐーぐー寝ちまうんだ。」
パンネロの顔が漸く綻ぶ。
「それは…大変ね。」
「だろ?」
パンネロは小さな手をバルフレアの頬に添える。
「本当に…嫌いにならない?」
「あぁ。」
「本当に?」
バルフレア、頷く。
自慢ではないが、今の自分ならパンネロが何をしても許せる大いなる自信があったし、そもそもパンネロがそんな失態をしでかすとは思えない。
どうせ他愛もないことだろうと高を括っていた。
パンネロは小さく溜め息を吐くと、
「あのね、私以外に、このベッドで眠った女の人ってたくさん居るのかなって。」
その瞬間、バルフレアは自分が寝た子を起こしてしまった事に気が付いた。
(そう来たか…)
「こんなコト…気にするなんてヤキモチ焼きで…私、自分でそんな自分が嫌になっちゃったの。」
「おいおい!なんでそこで自分を責めるんだ?」
「だって…気になり出したら止まらなくて…そういうのって、私嫌いなのに。」
どうやらバルフレアの過去の女性遍歴が気になる自分が許せないようだ。
「いいか、お嬢ちゃん…っと。」
つい、以前の呼び方の癖が出た。
「いいか、パンネロ。…それは…”過去に捕われる”のとはちょっと違う。パンネロが悩んでる事は…その…17歳のかわいい女の子なら当たり前の事だ。」
バルフレアの物言いに、胸の中に居るパンネロが少し笑った。
「惚れた相手の過去が気になるのは俺も同じさ。過去どころか今だって心配でたまらくなる。ずっとこの部屋に閉じ込めておきたいくらいだ。」
パンネロが驚いた様に目を見開く。
そんな表情にいちいち撃ち抜かれながらも、バルフレアは優しく髪を撫でてやる。
「でも…きれいな人ばっかりって聞いたもの。」
また俯いてしまうパンネロの顎を指で持ち上げ、こちらを向かせる。
内心、余計な事を言ったのはどこのどいつだと罵りつつ。
それに、パンネロが言った”きれいな人”の顔がどうしても思い出せない。
思い出そうとして浮かぶのは、何故かトマトとタマネギとカボチャのモンスターの顔だ。
だが、そんな事を言ったところで、空々しく聞こえるだけだろうし。
「なぁ…パンネロ。」
肩にかかる髪を指先で優しく梳いてやる。
「そうだな、庭一面に咲いてる薔薇の花と、野原に咲いてる百合とどっちがきれいだと思う?」
パンネロは脈絡のない質問に意味が分からず、首を傾げる。
「確かによく手入れされた薔薇はきれいだ。だがな、俺が歩き疲れてへたりこみそうになった時、前へ進む事を教えてくれたのは薔薇じゃない。そこに、自分の力でしっかり咲いてた百合の方さ。」
パンネロがぽっと赤くなる。
「それが…私…?」
「そうさ。」
バルフレアはパンネロの額に自分のを軽く合わせる。
どうやら説得は成功したようだ。
パンネロがはにかんで、もじもじとするのが可愛くて仕方がない。
「もう薔薇の花に見とれたりしない?」
「もちろん。」
「はっきり言い過ぎると、ちょっと怪しいよ。」
思わず非難めいた言葉が出たのは、気が付けば腕が背中に回され、ベッドに横たえられていたからだ。
(もう…私が機嫌を直したと思ったらすぐこれなんだから。)
人の気も知らないで呑気なんだから…と半ば呆れながらもパンネロは、ちゃんと分からせてやるさ、などとうそぶくバルフレアの首に優しく腕を絡めて目を閉じた。
おわり。