DC後(FF7)

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「あの子は…シェルクはどうだ?」
「まだ…分からないけど…」
「けど…なんだ?」
「シェルクは…あなたに似てるの。あなたにも似てるし…ここに来た時のデンゼルにも…あと…」
ティファは言葉を切って、目を伏せた。
口ごもるティファを、クラウドはじっと見つめる。
「私にも。」
「…そうか。」
「ね、クラウド?シェルクが居たいって思う間は、ずっと家に居てもらってもいいよね?」
「もちろんだ。」
「あ…でも…ベッドが足りないよね!」
さっきの暗い表情でクラウドに心配を掛けてはいけないと、ティファが努めて明るい声で言う。
「もう一つ買えばいい。」
さらりと言うクラウドに、ティファの顔に笑顔が戻る。
「クラウドったら…簡単に言うけど、そのベッドはどこに置くの?」
「俺の部屋に置けばいい。」
「え…?」
一瞬、意味が分からずにティファはきょとんとクラウドを見る。
「えっと…それは…シェルクのベッドをクラウドの部屋に置くの?だったら、クラウドのベッドはどこに置くの?」
「俺のベッドはそのままだ。ティファのベッドを俺の部屋に置けばいい。」
ティファの顔が見る見る赤くなる。
「今まで別々だったのがおかしいんだ。」
「ど…どうしたの?クラウド?」
「そうすれば、朝こっそり自分の部屋に戻るなんて面倒なマネはもうしなくていい。」
耳まで赤くなったティファを見て、クラウドが笑う。その笑顔に、ティファは少しホッとする。
「もう…からかったのね、クラウド?」
「いや、本気だ。」
再び固りかけたティファだが、クラウドの計画をなんとか阻止しようと必死になる。
「だ…だめよ!私…!そう!イビキとか、かくかも!」
「今まで聞いた事はない。」
一歩踏み込むと逃げようとする。ティファのそういう所は相変わらずのようだ。
「ベッドは頼んでおく。」
「クラウド…!」
我に返った時、フェンリルはもう走り去った後だった。ティファは途方に暮れてクラウドの姿が見えなくなるまで見送ったが、諦めて店に戻る。
(そうよ…ユフィだって居るんだもの…必要なのよ)
自分に言い聞かせても、何故か言い訳がましく聞こえる。
「ティファ。」
呼ばれて、いつの間にか目の前に居たシェルクに慌てて目をやる。
「彼は…ティファの配偶者なのですか?」
「え…えぇ、そうよ。…いえ、みたいな者かしら…」
しどろもどろに答えながら、ティファはハッとなる。
「うれしいわ、ティファって呼んでくれて。」
シェルクは相変わらず無表情のままだ。
「別に…敬称で呼ばれるのは、場合によっては不愉快だという事に気付いただけです。」
彼女の言葉が自分の亭主のあんた呼ばわりを指しているとは、少々逆上せ(のぼせ)気味の今のティファが気付くはずもなかった。
「私はちゃんと名前で呼びました。だからどうして…」
シェルクが言い終えない内に、弱々しくバスルームの扉が開く。
「あ~死ぬかと思った…」
まだ青い顔でフラフラとユフィが出て来た。ティファは、ちょっと待ってね、と言い残し、ユフィに歩み寄る。
「あれ?クラウドは?」
「ミッドガルに戻ったわよ。」
「ちぇーっ!なんか言ってから戻れよな~!」
ユフィはいつもの右手でシュシュッをやるが、すぐにへたり込んでしまう。
「無理しないで。」
ティファが屈んで、ユフィを助け起こし、さっきまでシェルクの指定席だった窓際の席に座らせてやる。
「アタシも戻る!アタシが居ないと、ヴィンセントの奴、見つけられないじゃん!なのに、シドもバレットもさ!アタシを邪魔者扱いして~!」
「それは違うわ、ユフィ。」
ティファの言葉に、ユフィは唇を噛んで、肩をすくめる。
「分かってるんでしょ?みんなあなたを心配してたの。」
「アタシは平気だよ!?」
「バイクに酔っただけじゃないでしょ?足下、フラフラだったわよ。」
敵地中枢まで行き、人知外の物を見聞きしてきたユフィは自分で気付かない内にダメージを蓄積していたようだ。
「ヴィンセントなら大丈夫だから、ここで一緒に連絡を待ちましょ?」
「いーやーだっ!」
ダダをこねるが、いつもの子供っぽい表情ではない。
「だってさ、アイツ…アタシのこと、何度も庇ってさ…」
シェルクにはユフィの言動が意外だった。だが、姉がアスールのせいで植物状態に陥った時の彼女の反応を思い出し、悲しい事は悲しいと素直に表現する人物なのだと思い直す。
(表現…?違う…もっと自然な…)
あれは感情をアウトプットするというより、勝手にわき出して来ているとでも言う方が正しい気がする。さっきクラウドに対して腹が立ったこと、ティファにからかわれて恥ずかしかったこと。ほんの一日の間に色々な感情が思い出された。
“それが、人、なのだろう”
ここに居ない彼の言葉が浮かぶ。
「そうね、ヴィンセントはそういう人だもんね。」
ティファの相槌に、ユフィはスン、と鼻を鳴らす。
「大体さ、アイツ…アタシよりジジィのくせして…無理すんなっつーの!」
「ユフィ。」
ティファが優しく諌める。
「ゴメン。」
「彼が無茶ばかりする所を見てたから、心配なのね?」
ユフィは答えない。 頷きもせず、何かを堪えている様にテーブルの上をじっと睨んでいる。
「ティファ。」
「ん?」
「シャワー借りていい?…もう、ホコリと汗でぐっちゃぐちゃ。」
「いいけど、お湯は出ないわよ?」
「平気。」
ユフィはえい!と勢いをつけて立ち上がる。
「真冬でも、滝に打たれて修行してるからね!」
「本当かしら?」
本当だよ~と、ユフィはおどけて顔をしかめてみせる。
「んじゃ、一風呂浴びて来ますか!」
ユフィはヒラヒラと手を振り、再びバスルームに消えて行った。
「心配…してたんですね。」
ユフィがバスルームに消えた後、シェルクがぽつりと呟く。
「そうね。信じてるけど、心配なの。矛盾してるようだけど。」
「私も心配しています。」
「私もよ。」
ティファが微笑む。
「さてと…ユフィの着替えを出してあげなくちゃ。」
ティファはそう言って、階段を上りかけ、足を止める。
「あ…シェルク、さっき何か言いかけなかった?」
「いえ…別に。」
ティファはそう?と訝しげな顔をしたが、後でゆっくり聞こうと思い直し、部屋に着替えを取りに入る。残されたシェルクは、クラウドの持って来た段ボールからカプセルを一つ取り出す。胸の部分のを外し、付け替える。背中のもそうしようとして、思い留まった。もう魔晄エネルギーはないのだ。仮に調達出来たとしても、次に手に入るのはいつになるか分からない。これだけの量でどれだけ活動出来るかは分からないが、
(少しでも長く保たせなければ…)
残りのカプセルを戻そうとして、箱の底に別の物を見つけた。
(何…?)
手に取ろうとした途端、バスルームの扉が開く。
「ティファーっ!着替えー!」
バスタオルだけを纏った(まとった)だけのユフィがガチガチと歯を鳴らしながら出て来た。
「うっひゃ~!寒い!氷水でも使ってんじゃないの?」
身体を縮込ませ、足をバタバタと踏みならす。さっき言っていた事と、現在の行動には大きな矛盾が感じられたのと、ユフィの様子がおかしくもあり、シェルクが思わず吹き出す。
「あーっ!笑ったな!」
目敏く気付いたユフィが拗ねる。その顔を見て、シェルクはさっきティファが自分を笑った理由が分かった気がした。ここに来る時に纏っていた毛布が椅子に掛けてあったのを思い出し、それをユフィに手渡してやる。
「あ…ありがと。」
少し赤くなりながら、ユフィがそれを受け取る。階段を下りて来たティファがユフィの様子を見て吹き出す。
「なぁに?冷たい水は平気じゃなかったの?」
「だってさ~、雪ん中で滝に打たれるのって意味あると思えないもん。」
「やっぱり、サボってたのね?」
シェルクも声には出さないが、やはりそうなのかと納得してしまう。
「もぉ、いーじゃん!ねぇ、着替え貸してよ。」
「私の部屋の、ベッドの上に出してあるわ。」
ユフィはやかましく階段を上って行ってしまう。ティファはやれやれとそれを見送ると、例の段ボールを抱えてその後に続く。箱の中身を確認しようと思っていたシェルクは、なんとなくそれが言い出せなくてそれを見送った。
部屋に入ると、早々に着替えたユフィが何やらブツブツ言っている
「なぁに?」
「大きいよ。」
「そのパンツ、ウエストの内側に紐が付いてるの。それで絞って…」
ティファは、色が気に入らない、胸が余る、等等、やかましいユフィの世話をあれこれと焼いてやり、最終的にグレイのコットンのパンツに淡いイエローのタンクトップ、それに白いパーカーを羽織る…という格好に落ち着いた。
「ねぇ、ユフィ。ミッドガルに戻りたかったら、今度クラウドが来た時にまた連れて行ってもらえばいいわ。それまでここで少し休んで行きなさい。」
「それまでに…見つかるかな。」
「きっと見つかるわ。」
ユフィはくるりとティファに背を向ける。
「しょーがないなぁ。それまで居てやるか。」
泣いてる顔を見られたくないんだろう、ティファはそう思い、
「少しこの部屋で休んでらっしゃい。私、夕飯の支度をしてくるから。」
そう言って、部屋を出て、ドアを閉めた。一人で降りて来たティファは、ユフィは少し休んでるからとシェルクに伝え、カウンターに入ると夕食の支度を始めた。

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