変わらないね。(FF7)

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どこかで見たことのある部屋だけど、ここはどこだろう?
ぼんやりとベッドの中から部屋を見渡してティファは記憶をたぐり寄せる。
中世の古い屋敷のような部屋、だがよく見るとそれを精巧に再現された部屋だと分かる。隣のベッドに誰か眠っている。
(マリン…?)
だが、よく見てみると髪の色が違う。黒髪のショート・ボブ。
(…ユフィ…?)
部屋の造りからみると、ここはホテルの部屋のようだ。ゴシック仕様の重厚で薄暗い室内と、わざと傾けられてかけられたほこり(と見せかけた綿を毛羽立たせたものだ)だらけの古い肖像画を見て、ここはゴールドソーサーのゴーストホテルだと漸く気がついた。
7th Heavenの自分の部屋で眠っていたはずなのに何故ここに居るのだろう?
(…皆で旅行に行こうって話はしてたけど…)
そういう話になると、どこからかその話を聞きつけてきたユフィがちゃっかり加わってきて。最初は渋い顔をしていたクラウドも、マリンとデンゼルが喜ぶのに仕方なくそれを受け入れて。
でも、あの時の旅行はコスタ・デル・ソルだった。ゴールドソーサーではない。ティファは訳が分からなくなってふと隣に寝ているマリンを起こしてどうして私たちがこんな所にいるのか尋ねようと身体を起こし、ふと違和感を感じた。
マリンにしては体重というか、質量が違うとでも言うのか、とにかく違和感は感じていた。ひょっとして自分と背中合わせに寝ているのはクラウドではないかとも思っていた。だが、隣にユフィが居るのに、クラウドが自分のベッドに潜り込んでくる、という事態はまずありえない。
(それに…クラウドより身体が柔らかくで華奢で…)
それが誰かという答えに行き着くまでに彼女の様々なことが思い出された。普段、ひとまとめにされている髪は下ろすとゆったりとしたウェーブで、
「ほんっと!髪が多くてやんなっちゃう。だからいつもこうやってまとめてるの。」
いつもそう言いながら慣れた手つきでまとめた髪をくるくると捻って、鏡を覗きこみ、仕上げにピンクの大きなリボンを飾る。きっぷの良さと女の子らしさがバランスよく備わった彼女の魅力にティファは時折嫉妬もし、同時にとても憧れ、救われていた。
そうだ、今思い返すと、あの時彼女もクラウドがどこかおかしいと気付いたいたと思える言動がいくつかあった。過去に戻ることは出来ないけど、あの時、エアリスともっとクラウドのことを話して、二人で支えていたらあんな悲劇は……
ここまで考え、隣に眠る人物の名前が出たところでティファは跳ね起きた。ベッドと反対側に置かれた、ご丁寧に蜘蛛の巣で飾られた大きな鏡台、そこに写っていうる自分を見て息を呑んだ。
(私…私だけど、これは…)
三年前、セフィロスを追い、世界を救うためのあの旅をしていた時、あの時の自分が目を見開いてこっちを見ている。
ティファはおそるおそる、横に眠っている人物に目をやった。
そこにはもう二度と会うことが叶わないと思っていた恋敵でもあり親友でもあった大切な仲間が気持ちよさ気にすうすうと寝息をたて、穏やかに眠っていた。
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「ティファがおかしい…?」
扉を激しく叩かれ、文字通り叩き起こされ不機嫌だったクラウドはユフィの言葉に眉を顰めた。
「そっ!なんかさ、アタシが何言っても聞いちゃいなくて、エアリスにしがみついて、わんわん泣いてるの。」
泣いていると聞いてクラウドの眉間の皺が一層深くなる。
「…悪い夢でも見たんじゃないのか。」
「そぉやってカッコつけんのもいいけどさぁ、じゃあアンタの代わりに他の誰か男衆を呼んでもいんだね?」
瞬間、バレット、ケット・シー、レッド13の顔が浮かんだ。泣いているティファをその面々に見せていいかというとものすごく、嫌だ。だが、見透かしたようなユフィの物言いにもクラウドは表情を変えず、瞳だけを動かしてユフィを睨む。
「ユフィ。くどくど言わなくていい。俺が行く。」
ほら!と言わんばかりの得意そうな顔のユフィを冷たく一瞥し背を向けると、クラウドは一つ上の階にある女性陣たちの部屋に向かう。
「スカしてばっかり!素直じゃないんだからさ~。」
ユフィの言葉を聞き流し、ティファの居る部屋をノックする。
「クラウド?」
「入るぞ。」
返事も待たずにドアを開けたのはドアを開けてみると、ベッドの上でティファがエアリスにしがみついている。
「ティファ…?」
クラウドは驚いて二人が居るベッドに駆け寄る。ティファはエアリスの首に腕を回し、肩に顔を埋めていたが、クラウドの声に顔を上げる。
「…どうしたんだ?ティファ?」
「う…ん、なんだか視線を感じて目を覚ましたの。そしたらティファが、じぃ〜って、私を見てて…”どうしたの?”って声を掛けたら、突然。」
ティファの背中をずっとさすってやっていたエアリスが答える。ティファが何か言おうと口を開くのだが、喉からは虚しく苦しげな吐息が漏れるだけだ。
「ティファ…!声が!」
クラウドは思わず身体を屈めてティファの顔を覗き込む。
「そうなの。それでクラウド、呼ぼう、お医者さまに見せようって。でも、嫌がるの。」
「ティファ、どうしてだ…?」
どうして、と言われても…と、ティファは困惑する。目が覚めたら星を救うあの旅の時間に自分は戻ってきていて、もう二度と会えないと思っていた仲間と再会して。穏やかな寝息のエアリスが奇跡の賜物に思えて思わずじっと見つめてしまい、視線で気配を察したのか目を覚ましたエアリスが、「なあに?ティファ?」と優しく微笑みかけてくれたのに、すべての感情のたがが外れてしまい、思わず彼女にしがみついてしまったのだ。
「どうしたの?ティファ?怖い夢、見た?」
辛い辛い旅を経て全てを終わらせたはずなのに、またあの旅の始まりに戻ってきてしまい、これが悪夢でなくなんだろうか?
(それでも…また…会えた…)
ティファは顔を上げ、じっとエアリスを見つめた。心配そうに自分を見つめているエアリスの頬にそっと触れてみると、
(…あたたかい…)
生きているんだ、もう一度会えたんだと思うと涙が後から後から溢れて止ならない。感極まって再びエアリスにしがみついたところでこの騒ぎで起きたユフィがエアリスに頼まれてクラウドを連れてきた、というわけだ。驚く二人に、まさか自分は2年後のティファだと言えるはずもなく。
そんな時にベッドサイドテーブルのメモとペンが置いてあるのが目に入った。ゴーストホテルらしく、白いゴーストの型のメモ用紙に黒猫のチャームがついたボールペン。そうだ、このホテルに泊まったとき、エアリスはこのボールペンをとても気に入っていたっけ、とまた思い出して涙が出そうになるのを必死に堪える。
ペンを手に取り何を書こうと考え、大丈夫だ、医者を呼ぶ必要はない、と書こうとして手が止まった。
(…字が…思い出せない…)
たとえば、普段使わないような語彙のスペルが思い出せない、それと同じような感覚で字、そのものが思い出せないし書けないのだ。驚いてメモ帳の傍らにあるホテルのメニューに目をやるが、どこかで見たような気はするのだが、それを読むことがどうしても出来ない。
ティファは途方に暮れてしまった。もとより自分が2年後のティファである、などと言うつもりは毛頭ない。が、医者を読んだり、迷惑をかけるのは避けたい。これでは旅に影響する。自分の行動が元で皆が進むべき道のりを反らせてはいけない。
ティファは決意すると立ち上がり、いぶかる二人を置いてバスルームに入り顔を洗う。顔を洗って鏡を見つめるとやはり2年前の自分だ。ティファは鏡の中の自分に語りかける。決してこの時間の仲間たちに干渉しないこと。
(もっとも、話すことも書くことも出来ないんだけど。)
鏡の中の自分が苦笑いをしていて、ティファは自分が笑っていることに少し驚いた。2年前の自分は今の自分よりも少し幼く見えた。反面、つい昨日までこの顔だったかのような懐かしい気持ちもあって。
そうやって少し落ち着いたところで誰かが扉をノックした。
「ティファ?大丈夫か?」
いてもたっても、という風情でクラウドが何度も何度もノックを繰り返す。その横でエアリスがそれをたしなめているのも聞こえてきた。やはり女同士とでも言うのだろうか、エアリスはコミュニケーションの手段が全て断たれたティファの心の機微をよく分かっていてくれている。
(…そうか…)
ティファは決心して扉を開けた。そうして心配のあまり自分に掴みかからんばかりのクラウドの瞳を見つめ、頷いた。クラウドは何故かティファに気圧されようにティファの肩をつかもうとした腕を下ろした。今度はエアリスをじっと見つめる。
「…ティ…ファ…?」
最初は戸惑ったエアリスもティファをじっと見つめ返す。
ティファの決心は、こうなったら頼りはエアリスしかいない、ということだ。首を縦に振るか横に振るかでしか意思表示が出来ないティファは彼女の察しのよさ、そうして不思議な力、それに賭けることにしたのだ。
エアリスは綺麗なエメラルドグリーンの瞳を何度かぱちぱちとまばたかせ、それからきゅっと眉間に皺をよせてティファの瞳の奥を覗きこんだ。そして一瞬真顔に戻ったかと思うと、目を細め、にっこりと微笑んだ。まるで花が開いたみたい、とティファはその笑顔に見とれ、同時に自分の意図をエアリスが悟ってくれたのだと知る。
「クラウド。」
エアリスはくるり、とクラウドの方に振り返る。
「ティファ、落ち着いたみたい。ね?」
ティファも頷いて見せるが、急にそんなことを言われても納得のいかないクラウド。
「私、ちゃんと話、聞くから。ね?」
今度の「ね?」はクラウドに向けられたものだ。クラウドはエアリスに弱い。きっとこのまま部屋に戻ってくれるだろう。
「…分かった。だが、明日になって元に戻らなかったらちゃんと医者に行くんだ。」
「お尋ね者の私たちが?ふふ、どんな先生が診てくれるのかしら、ね?」
「エアリス…」
「クラウド。」
喰い下がるクラウドの瞳をエアリスはじっと見つめ、
「ティファが心配なの、分かるけど、私を信じて。」
クラウドはティファの顔を見、そうしてティファが頷いたのを見て漸く頷いた。
「あと、ユフィ!」
「ん〜?」
「ちょっと、外してくれる?」
ユフィはえぇ〜!と悲鳴をあげる。
「なんでアタシがぁ?」
「ティファのプライバシー、だからかな。」
「だからってさ、こんな夜中にどこに行くのさ!」
「ゴールドソーサーってね、眠らないの。みんな、夜通し遊ぶの。だから、ユフィも、好きなだけ遊んでられるよ。」
「アタシはベッドで寝たいの!」
「そうだ!クラウドと二人で遊んで来たら?」
二人が同時にげんなりとした表情になり、お互いがお互いを見る。
「さ、行った行った!」
エアリスはクラウドの背中を押し、部屋から押し出すとユフィの耳元に、
「マテリア、クラウドが持っるよ。チャンス、でしょ?」
途端にユフィの目がキラリと光った。
「クラウドーっ!」
ユフィは部屋を飛び出すと、部屋に戻ろうとするクラウドの腕を引き、嫌がるクラウドを無理矢理連れ出してしまった。ユフィが嬉々としてクラウドを連れ出すのと、合間にクラウドがユフィに何やら文句を言っているのが聞こえていたが、やがてその声もどんどん遠のき、やがて聞こえなくなった。
「さて、と。」
エアリスは部屋の扉を閉め、ティファに向き合う。
「あなた、誰?」
エアリスはすっぱりと言う。
「ティファだけど、ティファじゃない。でしょ?」
つづきます。


実はFF7本編での時間軸でお話を書いたことがなくてかなり難しいです。頑張って完結させたいです…


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