DC後(FF7)

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そうでしょ?と問われ、皆が彼の人となりに思いを馳せる。
「これがヒントよ。どこに居るか、もう分かったでしょ?」
ユフィとシェルクの二人があっと小さく叫び、何かを口を言いかけた同時に、だだだだだ!と階段を駆け下りる音がし、かと思うと勢い良くドアが開いた。
「ケット・シーだぁ!」
「こんな遅くにどうしたの!?」
マリンとデンゼルが歓声を上げて部屋に入ってくる。マリンはスツールによじ上ると即座にケット・シーを抱きしめ、頬ずりをする。デンゼルは目を輝かせてリーブは一緒ではないのかと聞いて来る。
「ねぇねぇ、何があったの?」
「どうしてぐるぐる巻きにされてるの?」
「かわいそう…ねぇ、ほどいてあげてもいい?」
一点の曇りもない子ども達の目に見つめられ、 ケット・シーはがっくりと項垂れた。
「この子達も心配してるんだよ。」
遅れて入って来たナナキに言われ、
「ナナキはん…あんた、ズルですわ~…わいが子どもに弱いの知ってて…」
「女性にも弱いと思うよ。放っておいても話してたと思うけど。」
ケット・シーは大きくため息を吐き、一同をぐるりと見渡した。
「ティファはんの仰る通り、ヴィンセントはんは”ルクレツィアの祠”です…」
「それは分かったけど、なんで夜中に忍び込んだりするんだよ。」
ユフィの追求は容赦ない。
「そ…それは…」
ケット・シーは思わずデンゼルに目がいく。自分を慕い、憧れてくれている少年を目の前にドラフト権だのパーティで懐柔されたとはさすがに言いにくい。ましてやシェルクにドラフト権の話がバレたら、
(あかんわ、そんなん…!)
かと言って、隠し通せるはずもなく…
「あの~…これ言い出したんは艦長とバレットはんと、うちのおっさんであって…」
ケット・シーはあまり言い訳になっていない言い訳をぼそぼそと言うと、親父3人の悪巧みを、漸く話し始めたのだった。
「信っっっじられないっ!」
全てを話し終えたケット・シーを前に、ユフィはわなわなと震える。
「大体、リーブのおっさんもおっさんだよ!何悪巧みに乗ってんだよ!」
怒りのオーラ全開のユフィを恐れ、ケット・シーは思わずマリンにしがみつく。
「いえ…その、おっさんも日頃任務任務で鬱屈してはると言いますか…」
一応フォローしてみるが、ユフィの耳に届いているかどうか。シェルクはワケが分からず、ただ目を丸くするばかりだ。
「どういう…事なのです?」
隣に居るティファに聞いてみる。 ティファはう~ん…と少し考えて、
「男の人って子どもっぽい所があるから…心配した反動で、ちょっといたずら心が起きたのよ。」
「ティファっ!」
ユフィがじれったそうに地団駄を踏む。
「どぉしてティファはそう甘いの!」
「だって…本当にそうなのよ?クラウドだって、配達を頼まれた頃なんか私に内緒でもらったお金を 全部バイクにつぎ込んだり。高いパーツが欲しい時なんか、なかなか言い出せなくて私の周りをウロウロしたりして。」
「はぁ…!?」
聞いてもいないノロけ話を聞かされ、ユフィは脱力して傍らのソファにへたり込み、ケット・シーとナナキは顔を見合わせて笑っている。仏頂面のクラウドが子どもみたいにティファの後を付いて回っている姿を想像したのだろう。
「ティファあ~…」
「ご…ごめんなさい。」
ティファは何故か赤くなる。しかし、今の例え話のお陰で、ティファの言わんとする事がシェルクにはなんとなく分かった気がした。ディープ・グラウンドにいた時、確かに自分もヴァイスに従ってはいたが、ネロやアスールらの心酔ぶりを見て、自分とは違う何かを感じていた。
(彼らが無邪気にヴァイスに心酔して見えたのは、そういう事なのかも…)
考えてみれば。
真っ先に最愛の人の元に駆けつけるヴィンセントの行為も、なんだかそれに似ているような。
(でも…そういう所が…彼にもあったんですね…)
大人だと思っていた彼の意外な一面を発見したようで、シェルクは思わず微笑んでしまう。
「ユフィ。」
すっかり毒気を抜かれ、テーブルに肘をついてふて腐れていたユフィが顔を上げる。
「ユフィが怒る気持ちは私にも分かります。でも…」
「あ~!もう、分かったよ!」
ユフィは肩を竦めると、ちろり、とシェルクを見る。
「まったく…みんな、男どもには甘いんだから!」
やれやれ…と胸を撫で下ろすティファとシェルクとナナキだったが、
「ただし!条件がある!」
ユフィはやおら立ち上がると、にやりと笑ってケット・シーを見る。
「ななななな…なんでっか、ユフィはん…?」
カタカタと震えながら、ケット・シーはおそるおそる尋ねる。
「パーティは、するっ!」
「は…?」
途端に子ども達が”パーティだ~!”と歓声を上げる。
「ユフィ…はん…?」
「もう、アイツが困って、困って、困りまくるくらい派手なのね!い~い?中途半端なのにすると、アタシが許さないからねっ!」
「はっ、はい~っ!」
一旦は喜びかけたケット・シーだが、
(それって…ユフィはんが仕切るって事で…)
しかも、中途半端は許されないそうだ。
「す…スグ戻って準備させてもらいますうううぅぅ~っ!」
わたわたと慌ただしく出て行くケット・シーに、
「分かってると思うけど、星を救った英雄なんだからね~!」
と、更にプレッシャーをかける事を忘れない。シェルクは心配そうにティファを見上げる。ティファもやれやれと困り顔だが、
「これくらい息抜きさせてあげないと、ユフィがかわいそうだもんね。」
と、ウィンクしてみせる。シェルクも釣られて笑い、
「じゃあ…私は彼にはパーティの事は内緒にしておきます。」
それを聞き逃すユフィではない。
「さっすがぁ!シェルクも分かって来たじゃん!」
ユフィはシェルクの両手を取ると、ダンスでも踊るかの様にフロアをぐるぐる回る。最初は戸惑っていたシェルクだが、いつの間にか楽しそうに笑い出し、いつの間にかマリンとデンゼル、ナナキまでもが加わり、大はしゃぎする。ティファはそれを微笑ましく見ていたが、
(そう言えば…クラウドはどうしたのかしら?)
ケット・シーの様子だと、親父達ににWRO本部に足止めを喰らっているようだ。試しに電話をかけてみるがやはり出ない。
(心配ないと思うけど…)
電話をテーブルに置いて、小さくため息を吐く。と、いきなりユフィの手が伸びて来て、引っ張られた。
「きゃ…ユフィ!…もう、ダメよ、ご近所に迷惑…」
「ティファも辛気くさい顔しない!ヴィンセントが無事だったんだからさ!」
そして、ティファも加え意味もなくぐるぐる回ったり、歓声を上げ、抱き合ったりと大はしゃぎだ。ティファはご近所の事を考えると気が気ではなかったが、
(でも…無事で本当に良かった…)
もっとも、その翌朝の喧噪を思えば、これくらいの騒ぎはどうって事なかったのだが。
漸く解放され、家に戻ったクラウドは、その瞬間真剣に引っ越しを考えた。家の周りに人だかりがしているのを見た時から嫌な予感がしていたのだ。
「リーブ!!」
傍らに居るリーブに掛ける声が荒くなるのは仕方がないだろう。脛に傷を持つリーブ、申し訳なさそうに肩を竦め、
「これでも…マスコミだけはシャットダウンしたんですよ。」
クラウドは続ける言葉が見つけられない。
何故ティファがこの趣旨に賛同したのかが分からない。
だって、ユフィさん、怖いじゃないですか…と、情けないな声で言い訳するリーブを背に、『蜜蜂の館』顔負けの電飾とモールで彩られた我が家にクラウドが入ろうとすると、上空を七色の排気煙を吐き出しながら飛空挺団が横切る。ふと、玄関の横を見ると、バレットとデンゼルが嬉々として花火を仕掛けている。目眩を覚えつつも扉を開けると、中は表同様、壁や天井が見えない程びっしりとモールで覆われていた。カウンターの中で、いつもと変わらず料理を作るティファを見た時、クラウドは情けない話だが安堵のあまり、目の前がぼやけた程だった。が、彼のオアシスは瞬く間に何かに遮られる。料理を抱えたユフィがカウンターを飛び越え、クラウドの背後に隠れたのだ。
「だめだよ、ユフィ姉ちゃん!そんなの食べたら死んじゃうって!」
小さなエプロンを着けたマリンがカウンターから出て来る。
「アタシの動きを見切るなんて、マリン、アンタ、ただ者じゃないね!」
クラウドの肩越しにユフィが叫ぶ。クラウド、キンキン声を耳元で怒鳴られ、腰が抜けそうになる。
「クラウド!ユフィ姉ちゃんを捕まえて!そのお料理、タバスコ漬けにして、ヴィンセントに食べさせるつもりなの!」
高周波攻撃に自分を見失っていたクラウドが我に返って手を伸ばすと、ユフィは料理をこぼさないないようひらりと身をかわす。
「もう!クラウドはダメね!」
一晩帰してもらえなかったのに、労りの言葉を掛けてもらえないどころかダメ出しまでされ、クラウドは言い返す事も出来ない。
そんな彼のダメージを知る由もないマリンはその傍らをすり抜けると、ユフィを追いかけてクラウドを見向きもしない。呆然と立ち尽くすクラウドに、ティファが慌てて歩み寄る。
「ティファ…これは…」
「ごめんなさい…みんながここまでやるとは思ってなかったの…」
ティファはまるで自分のせいだとばかりに謝る。
「クラウドはんはまだマシですわ…」
足下から声がして、クラウドが見下ろすと、身体中にペイントや飾りを着けられたナナキに跨がったケット・シーがいた。
「ワイなんか、ユフィはんにお仕置きやってこんな格好でっせ…」
クラウドも見覚えのあるマリンの人形のドレスを着せられて、細い目にアイラインと着け睫毛までされ、ケット・シーは悲しそうに俯く。
「オイラは巻き添えだよ。」
ナナキも憤慨気味だ。
「いや…」
何かを言おうとして、クラウドが吹き出す。
「…似合ってる。」
一応笑っては悪いと思ったのか、声を上げない様に肩を振るわせ、それでもやはり笑っている。
「ひどいよ、クラウド!」
「ほんまやぁ~!」
ティファはほっとして、クラウドの頬にお帰りのキスをする。それを受けながら、ここにやって来た時のヴィンセントの反応を想像し、そして、1年前自分が帰って来た時は何事もなくて本当に良かったと心の底から思うクラウドだった。
おわり。

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