DC後(FF7)

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シェルクが快方に向かうにつれて、クラウドが7th Heavenに立ち寄る回数も減った。食欲が出て来てきた為栄養剤に頼る必要がなくなったからだ。ヴィンセントはまだ見つからない。時間が許す限りシドが手伝ってくれたが、クラウドが居ない時はバレットがほとんど一人で探しているのだ。
「頼みたい物が出来たらまた連絡するわ。」
ティファにそう言われて、ヴィンセント探索に戻ったのだ。生命反応を調べる携帯型の端末を持って、ミッドガルの廃墟を歩き回る。バレットにシェルクの様子を聞かれ、それに答えている時にふと思い出したことがあった。
「なぁ…バレット。」
「なんだ?」
捜索を終えた地点に赤いサインペンでバツ印を付けながらバレットが答える。
「家に届けたい物がある。」
「なんだ?ティファから連絡でもあったのか?」
「いや、そうじゃない。」
バレットが顔を上げてクラウドを見る。
「その…俺が、勝手に思っただけだ。これがあればティファ達が助かるんじゃないかって。」
「何を持ってくつもりだ?」
クラウドの答えにバレットは感心した風で、快く許してくれた。
「お前にしちゃあ、珍しく気が利くことを言うじゃねぇか。いいぜ、行ってこいよ! その代わり…頼むから早く戻って来てくれよ。ここは一人だと気が滅入るからな。」
毎日廃墟を歩き回って楽しい気分になれるはずもない。それにここは色々と思い出す事が多い。出来ればクラウドも長居したくはない場所だ。バレットはそんな場所で一人で長時間過ごして来たのだ。
「悪いな。」
「いいってことよ!」
バレットは笑い飛ばし、マリンへの言伝(ことづて)を頼み、クラウドを送り出してくれた。
手近に居たWROの隊員を捕まえ、目当ての物の調達を頼む。ここに運ばせると言う隊員の申し出を自分で行くからと断り、クラウドは病院にフェンリルを走らせた。目当ての物を受け取ると、フェンリルの後部座席に積み、通い慣れた道を我が家に向う。家に着くと、入り口には鍵がかかっていないのに、店には誰も居ない。おかしいと思っていると、フェンリルのエンジン音を聞きつけたデンゼルが飛び出して来た。
「おかえり、クラウド!」
クラウドはただいま、と答えると、
「デンゼル…ティファは上か?」
「ユフィ姉ちゃんと二人で出かけたよ。すぐに帰るって。」
「そうか…」
クラウドは二人が戻るのを待とうかと思ったが、ここへ来る時のバレットの言葉を思い出し、
「デンゼル…これをティファに渡しておいてくれ。」
「何…?これ。」
クラウドが持って来たのは折りたたみ式の車椅子だった。足下のバーを軽く踏んで広げるだけで組み立てられるタイプだ。実際にやって見せると、デンゼルは大喜びだった。
「うわ~!すっげーや、これ!シェルクの?」
クラウドが頷く。
「シェルク、きっと喜ぶよ!俺、知らせて来る!」
デンゼルはクラウドの返事も待たずに階段を駆け上ってしまった。
(…参ったな…)
このまま帰る訳にも行かず、クラウドは仕方なくデンゼルの後を追う。
「シェルク!」
デンゼルはシェルクの傍に息を切らせて駆け寄る。
「クラウドがいい物を持って来てくれたよ!」
ベッドに座っていたシェルクと、傍でシェルクに絵本を読んであげていたマリンが驚いて顔を向ける。
「なぁに?デンゼル!今ご本を読んであげてるのよ。」
「違うんだよ、マリン!クラウドが来たんだ。」
マリンは開けっ放しになっているドアに佇んでいるクラウドに気が付くと、驚いて椅子を降り、駆け寄る。
「クラウド!どうしたの?お遣い?」
「いや…」
マリンの頭に手を置き、クラウドはどう答えた物かと必死で考える。
「シェルクの為に車椅子を持って来てくれたんだよ、な?クラウド!」
「私の…?」
シェルクに見つめられ、クラウドはますます言葉に詰まってしまう。口下手で人見知りのクラウドは、まだ数回しかシェルクと言葉を交わした事がない。頼りのティファも勝手に騒いでくれるユフィも居ない。
「…ずっとベッドに居ると、良くないからな。」
考えに考え抜いて、やっと出た言葉がこれだった。シェルクが目を丸くして自分を見ているのがいたたまれない。クラウドはそのまま踵を返して部屋を出ようとしたが、マリンがそうはさせない。
「もう!クラウドったら!ちゃんとシェルクに言ってあげてよ。」
クラウドの手を引くと、強引にベッドの傍まで引っ張って来る。そして、ませた口調でシェルクに、
「ごめんなさい。クラウドは恥ずかしがり屋さんなの。」
「マリン…!」
(恥ずかし…がり…?)
シェルクはまじまじとクラウドを見つめる。クラウドの顔が心なしか赤い。
「シェルクの為に持って来てくれたんでしょ?」
クラウドはマリンには敵わないな…と小さく呟くと、
「俺も…長い間寝たきりだった事がある…治ったら身体中ガタが来ていた…だから、具合がいい時は少しでも外に出た方がいい。」
「そうだったんですか…」
シェルクの返事はは車椅子の事を指しているのではない。
“クラウドは恥ずかしがり屋さんなの”
(じゃあ、あの時の…)
ここに初めて来た時の”クラウドの失礼な物言いに腹が立ったが、あれはどうやら、彼なりに心配してくれた故の言葉らしい。車椅子も、ベッドから起きられない自分を心配してわざわざ探して来てくれたようだ。得心がいくと、今までのわだかまりが消えていく気がした。また、胸の中がほんわりと温かくなる。
「…ありがとう…ございます…」
「…いや…たいしたことじゃない…」
「とても…うれしいです。」
微笑むシェルクに、クラウドは俯いてしまう。ふと横を見るとマリンがいたずらっぽく笑っている。デンゼルは状況が良く飲み込めない様でぽかんとクラウドを見ている。
「…バレットが待ってる…ミッドガルに戻る。」
クラウドはやっとそれだけ言うと、そそくさと部屋を出て行ってしまった。デンゼルが慌てて追いかける。その後ろ姿を見送って、マリンとシェルクは思わず顔を見合わせた。
「クラウドはね、仲良しになるのにすごく時間がかかるの。」
一緒に住み始めた頃は大変だったのよと、マリンがこぼす。
「…でも…優しいんですね。」
マリンは腕組みをして、やれやれ、という顔をシェルクに見せ、
「まあ…ね!」
シェルクは思わず吹き出してしまった。父親代わりより娘の方がよっぽどしっかりしているではないか。そして、慌てたせいで、マリンへの伝言を忘れていたクラウドは、ミッドガルに戻ってからバレットに呆れられたのだった。
広大なミッドガルの瓦礫の山の中でヴィンセントを探す…という不毛な作業を続けるクラウドとバレットの所にシドがやって来た。
「リーブが呼んでるんだとよ。」
クラウドとバレットは顔を見合わせた。
「おい、まさか探すの止めろって言うんじゃねぇだろうな。」
「いや…そんな事は言ってなかった。が、なんだか要領を得ねぇ…ってか…」
なんでも3人揃ったら話すとのことらしい。だったら行って話を聞く事だとリーブの居るWRO本部に向う事にする。道すがら、シェルクの話になった。
「あの娘はどうだ?倒れたって聞いたときはびっくりしたぜ。」
「今ではすっかり元気だ。時々寝込む事はあるが、大した事はないらしい。」
「マリンやデンゼルとも仲良くやってるそうだ。」
「そーか、そりゃ結構。」
シドは満足げに頷く。
「俺も忙しくて見舞いに行けなかったからよ、気になってたんだ。時々ナナキのヤツがメールくれたんだが…俺も忙しくてな。」
「今、暇なヤツなんか居ねぇだろ。俺だってマリンに会いに行けねぇし。」
「ったく、ヴィンセントの野郎、どこに隠れてやがるんだぁ?シエラも心配してっしよ。」
襲撃の傷跡が生々しく残るWRO本部の巨大なビルの前に佇み3人は上空遥か彼方にある局長室を見上げた。
「随分やられているな。」
「…なんだか嫌な予感がするぜ。」
バレットは高層ビルを見ると、嫌な事を思い出さずにはいられないのだ。中に入るとがらん、としていて誰も居ない。電力が回復していないのか薄暗く、床や柱には銃痕があり、かつての賑やかさを知るシドは思わず溜め息を吐き、そして煙草に火を点けた。
「ま、こんな調子じゃ、禁煙だなんだ言う奴はいねぇだろ。」
そして突き当たりにあるエレベーターを見ると、見事なまでに破壊されている。
「で、エスカレータも動かないってかぁ?」
回廊の上の方見て、シドとバレットはあんぐりと口を開け、何も言わずに階段を上り始めたクラウドの後にしぶしぶ続く。
「リーブの野郎、毎日この階段を上ってんのか?」
「ケット・シーはともかく、アイツ、俺らより年上だよな?」
半分上った所で、真っ先に音を上げたのがシドだった。
「俺みたいにタバコ吸う奴にゃ、キツイぜ、この階段。」
階段にどっかと腰掛けて、首にかけていたタオルで汗を拭う。
「おい、行くぞシド。」
バレットは容赦ない。
「うっせぇなぁ、ちょっと休ませろよ。」
シドはうんざりした口調で言うと、また煙草に火を点けた。これはなかなか動きそうにない。
「悪いが俺はもっと長い階段を上った事があるんだよ。これくらいなんともねぇさ。」
バレットが言っているのは、神羅ビルのあの長い階段の事らしい。あの時、さんざゴネてティファを困らせた事は
ここでは黙っていた方ががいいな、とクラウドは思った。かと言って先に行くと言うと、親父二人に文句を言われているのは目に見えてるし。ポーカーフェイスのまま、うんざりとそんな事を考えていると、書類の束を持った女性隊員が通りかかった。3人の姿を見ると、直ちに敬礼すると、遠慮がちに、
「ところで…皆さんはこんな所で何をしておいでですか?」
「リーブの野郎にに呼ばれたんだ。」
「それで、この因果な階段を上ってる所だよ。」
女性隊員は言いにくそうに、
「あの…エレベーターが使えないので、局長室は2階に移ったのですが…」
「お呼びだてして申し訳ありません。」
局長室には書類が山積みになり、リーブの顔も疲労の色が濃い。それでも仲間が訪ねて来てくれたのがうれしいのか、目を輝かせている。が、すぐにシドとバレットが不機嫌そうなのに気付いた。
「…どうしました?」
「なんでもない。」
横からさらりと言ってのけたクラウドのせいで、リーブに文句を言う気満々だったシドとバレとは気勢をそがれ、腹立ち紛れに、どかりと乱暴に来客用のソファに座った。クラウドもリーブに勧められ、空いている一人掛けのソファに座る。
「どうしてもここから離れられないので、わざわざ来て頂きましたが…話とは、ヴィンセントの事です。」
「ま、そうだろうな。」
階段の事をまだ根に持っているのか、シドが不機嫌そうに答える。
「何か分かったのか?」
クラウドはそれを無視し、リーブに尋ねる。
「それが…」
言いにくそうに言葉を濁すリーブに嫌な予感を覚え、シドとバレットは身を乗り出した。
「なんだよ、ヤツの身になんかあったのか?」
「もったいぶらずに早く言えよ!」
「私…考えたんですよ。」
また話をはぐらかされて、シドとバレットはあっさりキレてしまう。
「勿体ぶんなっつってんだろ?」
「結論から話せ、結論から!」
二人の剣幕に目を丸くするリーブだが、簡単にペースを乱される彼ではない。
「順を追ってお話しますので…」
おだやかな口調で言われると、またもや二人のイライラのベクトルが乱されてしまう。
「わぁーったよ!」
「黙っててやるからさっさと話せ!」
「私…考えたんですよ。」
「そこからかよ!」
「クラウドさんとバレットさんが不眠不休で探しているのに、彼が見つからないのは何故かと。」
「その内の何日かは俺一人だったぜ。」
むすっとして、バレットが口を挟むが、リーブは無視して話を進める。
「私たちの誰もが彼の生存を信じています。
なのに見つからないという事は、彼はもうここには居ないのではないかと。」

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