DC後(FF7)

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「…はん、シェルクはん…」
耳元で聞き覚えのある声がして、シェルクはぼんやりと目を開いた。
枕元に何かの気配を感じ、すぐに跳ね起きた。ベッドヘッドにかけてあるホルダーに手を伸ばし、スピアを抜くと、枕元の何かに突き付ける。
「ひいぃぃ~、い、命ばかりはお助けを~っ!」
暗闇に目を凝らすと、毛を逆立てたケット・シーが両手万歳の降参ポーズで震えている。
「ケット・シー!」
思わず声をあげるシェルクを、ケット・シーは人差し指を口に当てるという古典的なポーズで黙らせる。
「あ~ビックリしましたわ。ところで、これ、下ろしてもらえまへんか?」
シェルクは慌ててスピアを下げる。
「すいません、私たちはこうするように訓練されてましたから。」
ケット・シーはさもありなん、と何度も頷く。
「仕方おまへんわ。夜中にコッソリ来たわいが悪いんや。」
そして、隣りで寝ているユフィの気配を伺う。
(よし…大丈夫なようやな。)
しかし、相手はユフィだ。
「油断は禁物…っと。」
ケット・シーはベッドからピョン、と飛び下りると、ユフィのベッドによじ登る。
「よぉ寝てはるなぁ。」
どんな時でも冷静に状況分析が出来るよう訓練されてきたシェルクだが、ケット・シーが何をしようとしているのかさっぱり分からない。やっと彼らが強い絆で繋がっている事を理解出来たところなのに、
(それなのに、何故味方が味方の所に忍び込むのでしょう?)
わけが分からず、呆然と彼の様子を眺めている。ケット・シーは眠るユフィの頬を突いている。かと思うと、おもむろに自分の髭を1本抜いて、それでユフィの鼻をこしょこしょしたりしている。ユフィは無意識にそれを払いのけると、うぅ~んと寝返りをうち、シェルクやケット・シーに背を向けてしまった。ケット・シーはしめしめと頷くと、ユフィのベッドを飛び降り、また、シェルクのベッドによじ上る。そして、目を丸くして自分を見下ろしているシェルクに何度も頷いてみせ、
「なーんも心配おまへんで~。実はこっそりシェルクはんを迎えに来ましたんや。」
「私を?」
「そうです。ナイショですけどヴィンセントはんが見つかったんですわ。」
「彼は無事なのですか?」
思わず声を上げるシェルクに、ケット・シーはまた手をバタバタさせて黙らせる。
「無事です。だけど、他の皆さんには申し訳ないですが、もうちょっとナイショにしててもらえへんやろか?」
「私を迎えに来たと言いましたね?それはどういう意味ですか?」
「それは…その…ヴィンセントはんをシェルクはんに迎えに行ってもらいたいんですわ。」
「私に…?」
はい、とケット・シーが大きく頷く。でも…とシェルクは隣で寝息を立てているユフィを見る。気丈に明るく振る舞ってシェルクを励ましているが、ユフィは時折溜め息を吐いて外をぼんやり眺めている。いや、それはユフィだけでなく、ティファやナナキも同様だ。
「心配していたのは私だけではありません。」
「ま…そら、仰る通りですけどな…」
「どうして私が迎えに行かなければならないのですか?みんなと一緒ではいけないのですか?」
「シェルクはん…」
シェルクの言い分はもっともだ。そして、僅かの間に彼女に仲間を思いやる気持ちが育っている事にケット・シーは深く感動した。しかし、シドやバレットに任せておけと胸を叩いてみせた手前、ここで彼女を連れて帰らなければ、
(2人に何言われるか分からへんどころか、”スカウト権”まで取り上げや…)
「どうしても、一緒に来てもらえまへんか?」
「はっきりした理由がないのならご同行出来ません。」
「どうしても?」
「はい。もしくは、ティファに断ってからにして下さい。」
「そうでっか…」
頑なシェルクの反応にケット・シーは腕を組んで考え込む。しかし、もちろん、この事態は彼にとっては想定内だ。
(しゃあないなぁ…)
ケット・シーはどこからか青白く光るマテリアを取り出し、シェルクの目の前にかざした。
「悪いけど、一緒に行ってもらわへんと困るねん。」
「それは…!」
その時だった。
何か黒い塊が2人の間に割って入り、ケット・シーはあっという間に床に押さえつけられていた。
「ユ…ユフィはん…!」
「ウータイのNo.1忍の目の前で、随分ナメた事してくれるじゃん、ケットぉ?」
首を掴まれ、床に押さえつけられているケット・シーは必死でじたばたと暴れる。
「そ…そんな、寝てはったんや…」
「アンタが入って来たとき、とうに目は覚めてたんだよ!シェルクに魔法をかけてまでして連れ出そうとして、一体何を企んでるの!?」
「お許しを~!」
「しかも、アンタ、ヴィンセントが無事とか言ってなかった?」
「ひぃぃぃぃ~!地獄耳!」
「ユフィ?」
騒ぎを聞きつけたのか、ティファがドアをノックする。
「ユフィ…何事?ナナキがケット・シーが来てるって…」
「ティファ!入って!」
ティファがドアを開けると、ケット・シーを見て目を丸くする。
「ケット…?どうしたの、こんな夜中に…?」
後に続いてナナキも部屋に入って来る。
「やっぱり居たね、ケット・シー。」
「ナナキはん…」
ナナキは床に組み伏せられているケット・シーの顔に鼻を擦り付ける様にして喜ぶ。
「なんで分かりはったんや?」
「ケットの臭いがしたからすぐに分かったよ。」
「うかつやぁ~~」
ケット・シーは床を叩いて悔しがる。
「うかつも何も、アンタ、アタシらをなめてんじゃない?さぁ、何でこんな夜中に忍び込んだのか言いなってば!」
ますます強く押さえつけられ、ケット・シーは悲鳴を上げる。
「ユフィ…ちょっと待って…」
ティファが慌てて駆け寄って、ケット・シーの傍に屈む。
「そんなに強く押さえたら、話も出来ないわ…ちょっと緩めてあげて?」
「ティファはぁ~ん…」
ケット・シーは地獄に仏とティファを見上げる。
「ケット…一体どうしたの?あのね、クラウドも帰って来ないのよ。 一緒じゃないの?何かあったの?」
あぁ、クラウドはんなら…と言いかけて、ケット・シーは慌てて手で自分の口を押さえた。
(あかん…クラウドはんに”スリプル”かけて眠らせてるなんてティファはんにバレたら…!)
地獄に仏どころか、前門の虎、後門の狼だ。
「ティファ~…どうやらコイツ、クラウドの事も何か知ってるみたいだよ。」
押さえつけられる手に、再び力がこもる。
「白状しちゃいなよ、ケット。」
ナナキは気の毒そうに、首を傾げる。
「言っとくけど、回線切ったりしたらこっちも徹底抗戦だからね。シェルクを渡さないどころか、アタシとティファでWRO本部に殴り込みだよ。」
ユフィにすごまれ、ケット・シーはがっくりと顔を伏せた。
(ああああ~…パーティが、ドラフト権が…)
そこまでしなくても…というティファを一喝し、ユフィはケット・シーをロープでぐるぐる巻きにすると、店のカウンターに放り投げるようにして乗せる。
「で、ヴィンセントはどこよ。」
「いえ、わいはホンマに知ら…」
「嘘だね!」
言い終えない内にぴしゃりと言うと、ユフィは冷たくふん、と笑う。
「リーブのおっちゃんが根拠もなしにこんなことしでかすワケないじゃん。」
「ねぇ、ケット…私達が心配しているのは知ってるはずでしょ?」
「私が彼を迎えに行くというのはどういう意味でしょう?」
女性陣3人にアメと鞭の両方で懇願されるが、ケット・シーは口をきゅっと結び、なかなか白状しようとしない。
ナナキは時間の問題だなぁと思いつつ、これからの持久戦を思って大きなあくびをした。そこでふと妙案を思い付き、ユフィの怒声を背にこっそりと2階に上がる。
「ちょっとぉ!なんでわざわざシェルクなのよ!」
「参考までに聞かせてもらいたいんやけど、わいがヴィンセントはんが居る場所教えたら ユフィはんはどないするんです?」
「決まってんじゃん。」
ユフィはケット・シーに顔を突きつけると、
「みんな心配してんのにさ!なんで隠れてたんだよって、首根っこ捕まえてみんなの前に連れて来るよ。」
「ひぃぃぃ~!やっぱり…」
「ユフィ…彼が隠れている理由、本当は分かってるんでしょ?」
ティファに優しく宥められ、ユフィは頬を膨らませる。
「ねぇ、ケット・シー…私、彼がどこに居るか分かったわ。」
一同が驚いた様にティファを見る。
「ヴィンセントは一見冷たいようだけど、そう振る舞うのは、人と深く関わると、後で辛いからって知っているからでしょ?本当は優しくて繊細で…ちょっとロマンティストよね。」

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