DC後(FF7)

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確かに、シェルクの容態を見ての対応や家族への指示の出し方、挙げ句の果てには点滴までやってのけたのだ。
「そぉー言えばそうだっけ。」
横でユフィが素っ頓狂な声を上げる。
「クラウドなんてさ、ティファが居なけりゃ未だに廃人だもんなぁ。シェルク、安心してティファに任せなよ。」
「ユフィ。クラウドが未だに廃人だったら、この星はとっくになくなってたわよ。」
ティファは手を止めず、シェルクの髪を撫で続けてやる。
「クラウドもね…重度の魔晄中毒だったの。他にも色んな…本当に色んな事が重なって…歩けないし、意識もハッキリしなくって、ひどい状態だったわ。私も、もうダメって何度も 諦めかけたけど、今では元気に子ども達のパパ代わりで、配達屋さんよ。」
ティファの最後の言葉が、シェルクは笑ってしまう。ぶっきらぼうなあんた呼ばわりのクラウドが、子ども達のパパ代わり…そして、ティファの言葉通りなら、ひょっとしたら自分も再び起き上げれる時が来るかもしれないと思える。
「ティファ…」
「なぁに?」
「どうして…みんな私に親切にしてくれるんですか…?私…敵だったのに… ヴィンセントやWROを手伝ったのも…成り行きで…」
「私たちだって、成り行きみたいなものよ。そうね…確かに最初は星を救うためだ!って強く思ってたし、その気持ちに嘘はないわ。」
「ヴィンセントが言ってました。『私の周りには理屈抜きで飛び出して、 誰かを助けるお人好しばかりだ。』と。これはあなた達の事ですか?」
その言葉にユフィは大憤慨だ。
「な…なんだよ!自分だって、相当お人好しのくせしてさっ!」
ユフィの様子がおかしくて、ティファはくすくすと笑った。
「彼にそう言われるなんて光栄ね。でも…ずっと星のためだと思って戦ってきたけど、本当は自分のためだって分かったの。大切な人といつまでも一緒に居たいって…大切な人と…会えなくなるのは嫌…失いたくない…」
ふと、ティファは言葉を切った。
ユフィも、ナナキも顔を伏せてしまう。
「上手く言えないわ。でも…私はあなたに元気になって欲しいの。それだけ。」
ティファは明るく言うと、血圧計に目を移した。
「ねぇ、ティファ。」
ナナキが口を開く。
「さっきクラウドの話で思ったんだけど、魔晄エネルギーを浴びるのって、オイラ達が封印した”古の薬”に似ているんだ。」
「なに、それ?」
ユフィが尋ねる。
「昔、戦いの前に戦士が飲む特別な薬なんだ。それを飲むと魔力も体力も強くなるんだ。だけど、飲み過ぎたり、飲み続けると…クラウドみたいになっちゃう。聞きかじっただけだけど、シェルクの力は他のソルジャーと違って、とても集中力が必要なんじゃないかな?それと、10歳の女の子がずっと地下で色んな実験をされて来たんでしょ?とても怖かったと思うんだ。」
宝条に捕まって実験動物扱いを受けた時、強がってはいたが、本当はとても怖かったとナナキは言う。
「だから、能力を高めるのと、ストレス緩和の両方を魔晄エネルギーに依存してたんじゃないかな?」
「麻薬みたいなものね…」
溜め息まじりにティファが呟く。
「でもさ!ってことは、もう怖くないんだし、すぐに良くなるよ。」
「…だと…いいのですが…」
楽観的なユフィの言葉にシェルクは苦笑いしつつも、
「…私も…最初は思っていました…いつかこの服を脱ぎたい…魔晄に頼らず…」
自由に。そう言いかけた途端、シェルクの身体が大きく痙攣した。
「シェルク…?シェルク!」
「ユフィ!押さえて!」
ガクガクと身体をのけ反らせるシェルクを、ユフィが覆い被さって押さえる。ティファは箱の中から銀色のケースを取り出し、中の注射器を手に取ると、一緒に入っていたアンプルから薬を吸い取る。動かない様に腕を押さえて消毒すると、注射をする。暫くして痙攣は収まったが、シェルクはそのまま昏睡状態に陥った。
夜になっても、シェルクは目を覚まさなかった。ティファとユフィは交代で側についていたが、血圧や脈を測る以外にはただ見守る事しか出来なかった。
「ユフィ…私、食事の支度してくるわね。」
ユフィは椅子に反対向きに、背もたれを抱える様にして座っている。
「うん、分かった。」
ティファは入れ違いに、マリンが入って来た。
「シェルクは目を覚ました?」
「まだだよ。」
マリンはさっきまでティファが腰掛けていた椅子によいしょ、と座ると、持っていた絵本を開いた。
「シェルク、眠ったままでしょ?ご本を読んであげようと思って。」
「あ~…その話なら今のシェルクにはぴったりかもね。」
マリンは声を上げて、その本を読み始めた。魔女の呪いで100年間眠り続けたお姫様の話だ。意識がなくなってからずっと、点滴のお陰で血圧は安定している。身体の力が抜けてしまうので呼吸が浅くなるから…と酸素マスクもされている。もう必要ないだろうと、ディープグラウンドソルジャーの服もティファが用意したパジャマに着替えさせられている。
「あとは…シェルクの気力次第だと思うの。」
ティファはそう言っていた。マリンが語る物語を聞くともなしに聞いていたユフィだったが、
(もし、シェルクがこのまま眠り続けて目を覚まさなかったら…)
ユフィは慌てて頭を振り、血圧計に目をやる。その数字を見て、一気に血の気が引いた。
「大変だ…!」
慌てて脈を取る。今にも途切れそうだ。
「ティファ!!…マリン、ティファを呼んで来て!」
マリンは椅子から滑り降りると、急いでティファを呼びに走る。ティファが部屋に飛び込むと、ユフィが必死で心臓マッサージをしている。
「ティファ!血圧が…脈も弱ってるの…」
ティファは箱の中からまた注射器を取り出す。
「強心剤よ。効いてくれるといいけど…」
「効くよ!」
即座にユフィが叫ぶ。
ティファは驚いてユフィを見る。
「そうね…ごめんなさい。」
ティファは心臓マッサージを続けるユフィの傍に屈むと、シェルクの細い腕に注射をする。子ども達とナナキが心配そうにドアの外から様子を伺っている。
「あ、クラウドだ。」
店の外で聞き覚えのあるエンジン音がして、デンゼルが階下に走る。扉を開けて、また大きな箱を抱えてクラウドが入って来る。
「クラウド!シェルクが…!」
クラウドが箱を抱えたままティファの部屋に入ると、昨日とはうってかわって、死人の様に青ざめたシェルクが横たわっていた。
「どうした…?」
「クラウド…」
ティファはクラウドの持っていた箱を受け取った。
「良くないの…意識がなくなって…急に呼吸も心拍数も落ちて…」
箱の中を漁りながらティファが答える。ふと、見た事のない点滴パックを見つけ、取り出す。
「クラウド、これは?」
「神羅ビルの地下にいた研究者達に話を聞いて、必要な薬も貰って来た。ティファが持っているのがそうだ。」
「ありがとう…これね。」
ティファは早速、薬を点滴に繋ぐ。
「ユフィ、代わろう。」
「クラウドぉ…」
ユフィは涙でぐちゃぐちゃの顔でクラウドを見上げる。
「手ぇ…っ…止めたら、シェルクが死んじゃいそうで…」
「ちゃんと薬を持って来た。大丈夫だ。少し休め。」
クラウドとユフィが代わる。
「ティファ…シェルクがこうなって、どれくらい経つ?」
「朝からよ。」
「シェルクの担当者が呼吸が浅い状態が長くなると良くないから気を付けろと。脳に酸素が充分行き渡らないと障害が残ったり、手足にも血液が行き渡らなくて、 最悪の場合、切断しなくてはいけない場合もあるそうだ。」
「そんな…」
二人の会話を聞いていたユフィは突然立ち上がると、部屋の外に飛び出した。そして、台所で何かを物色する物音がし、だだだだ、という けたたましい足音と共に階段を駆け上って部屋に戻って来た。手には料理用のオリーブオイルが握られている。
「ユフィ…?」
一体何事かと呆然とする二人に構わず、ユフィはシェルクの足下の毛布を捲る。
「な…何をするの?」
「要するにさ、血行を良くすればいいんでしょ?」
ユフィは手にオイルを垂らして、よく馴染ませるとシェルクの足をごしごしと擦り始めた。
「ウータイ流のマッサージ!目が覚めて、手や足がなくなってたらシェルクがかわいそうじゃん!」
「ユフィ…」
ティファはユフィの傍に座ると、同じ様にオイルを手に取る。
「私にも、教えてくれる?」
子ども達をナナキに任せ、3人は付きっきりで看病を続けた。クラウドの持って来た薬のお陰で、なんとか持ち直したようだが、油断すると数値ががくんと下がるのだ。 設備も薬も足りない状態で、心拍数が落ちれば心臓マッサージをし、手足を擦り続けた。空が白々と明けかけて来ても、シェルクの病状は一向に良くならない。
「WROの施設に運んだ方がいいのかしら…」
クラウドは首を横に振る。
「あそこは…もっとひどい。」
そこが今どういう状態なのか、クラウドの表情を見れば十分だった。
「でも…!リーブに頼んで…なんとかならない?このままじゃ…!」
「ティファ、落ち着いてくれ。」
珍しく取り乱すティファの肩にクラウドは手を置く。
「…ごめんなさい…」
「…見て…」
ずっと手を握っていたユフィが二人を呼ぶ。
「シェルク…何か喋ってる…」
酸素マスクの中の唇が微かに動いている。
「寝言…?夢を見てるのかしら。」
「目…マブタも…ほら!」
睫毛が震えている。
「クラウド!カーテンを開けて!」
ティファが叫ぶ。クラウドはすぐにカーテンを開け放つ。上りかけの朝日が差し込み、シェルクの顔を照らす。と、眩しげに眉が寄せられ、睫毛がさっきよりも大きく動いた。
「シェルク!」
ティファとユフィが必死に呼び掛ける。目蓋が、ゆっくりと開く。うっすらと開かれた目が、ユフィと、その後ろに立つティファとクラウドを見つめた。その目が閉じられ、今度はぱっちりと開かれた。頬にも、少しずつ赤みが戻る。
「…良かったぁ…」
ユフィはその場にへたりこむと、すん、と鼻を鳴らした。

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