DC後(FF7)

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登場人物:ヴィンセント以外のオールメンバー、シェルク、マリン、デンゼル
DCで対オメガ戦終了後からエンディングまでの間のお話。シェルクがどんな風にオリジナルメンバーに受け入れられて行ったのかが軸になっています。シェルクが苦手な方はご注意を。
最初シリアスだったのに後半おじさん達が大はしゃぎで、ちょっとコメディっぽくなりました。


「さてと、奴を迎えに行くか。おい、リーブ!」
タバコの吸い殻を放り投げようとして、 慌ててポケットから携帯用の吸い殻を取り出したシドが言う。
「なんでしょう?」
「あの野郎は俺達で探す。お前は残りの後始末を頼まぁ。」
「分かりました。…と、シェルクさん。」
呆然と空を見上げ、どこか遠くで男達の話を<聞いていたシェルクは驚いてリーブを見上げる。
「あなたはしばらくはゆっくり休まれた方がいいかと思います。」
休むと言っても帰る場所のない自分にどうしろと言うのだろう。それに、シド艦長はヴィンセントを探しに行くと言っていた。 出来ればそれに加わりたい。
「エッジにWROの宿舎があります。とりあえずそこに…」
「待って!」
「なんでしょう、ティファさん?」
「そんな味気のない所より、家に来ない?ヴィンセントがお世話になったお礼がしたいわ。ね、クラウド、いいでしょう?」
「あぁ、大歓迎だ。」
「なるほど…それは名案ですね。」
「でしょ?」
そう言われても、初対面、しかも日常と隔絶された地下の住人だった自分に、いきなり他人との共同生活が可能なのだろうか?
「俺と、バレットとユフィは残ってヴィンセントを探す。先に戻っていてくれ。」
クラウドの言葉にティファは頷いて、優しくシェルクの肩に手を置く。
「え~!?アタシもぉ~?」
「探すのは得意だろ?」
不満の悲鳴を上げるユフィの頭に、シドの親父拳骨が落ちて来る。
「アタシだって女の子なのにぃ!差別!さべーつ!」
「ティファは子ども達が待ってんだよ。」
と、シドはにべもない。シェルクは困惑を隠しきれない。この中で自分の生い立ちを一番よく知るリーブを縋るように見上げる。だが、リーブはにこにこと笑うだけだ。
「ご心配な気持ちは分かります。でも、あなたが滞在されるのに、7th Heavenより最適な場所を思い付きませんよ。」
なんたろう、この人達は。ヴィンセントが行方不明なのに心配する素振りも見せず、かつての敵だった自分の心配ばかりしている。
「あなた方は彼の事が心配ではないのですか?」
不躾な質問にティファは小首を傾げてじっとシェルクを見つめる。
「あなた方はおかしいです。私のことよりも、彼の心配を…」
言いかけて、シェルクはハッと口を噤んだ。
『なぜか私の周りには、理屈抜きで飛び出して、誰かを助けるお人好しばかりだ。』
彼の言葉を思い出し、目の前にいるこの連中こそがその”お人好し”なのだ。困惑の次に湧いて来たのは好奇心だった。一緒に行動していたら彼らの行動の根源にある物が見つかるだろうか?考え込んでしまったシェルクをリーブは穏やかに見つめている。この人は曲者だとシェルクは思う。柔らかな物腰で、そのくせ嫌とは言わせないのだから。
「…分かりました。」
リーブは大きく頷き、バレットとシドも満足げだ。
「よろしくね、シェルク…私はティファ。シドは…もう知っているのよね。こちらがクラウドとバレット。みんな…仲間なの。ヴィンセントのね。」
クラウドは軽く頭を下げ、バレットはシェルクに握手を求める。
「バレットだ!ヴィンセントが世話になったみたいだな。」
大きな身体に大きな声だが、アスールの様に冷たい感じはしない。シェルクがおずおずと手を出すと、バレットはその小さな手をそっと握る。
(暖かい…)
誰かの手を握るなんて久しぶりだった。
「ティファの所には俺の娘も居るんだ。マリンっていってな。仲良くしてやってくれ。」
「男の子も居る。」
クラウドが短く言葉を挟む。
「デンゼルというんだ。」
子供の存在が再びシェルクを困惑させる。
「二人ともいい子よ。大丈夫。」
まるでシェルクの心配を察したかの様にティファの手が優しく肩を抱く。
「ところで、シェルクさん。」
「なんでしょう?」
「落ち着かれたら…WROに来ませんか?」
「え?」
「今回の戦いのせいもあるのですが…うちは慢性的に人手不足です。あなたはネットワークのスペシャリストだ。是非、お手伝い願いたい。」
シェルクがどう返事しようか頭を巡らせていると、シドが割り込んで来た。
「待てよ!リーブ、何もこんな時に言わなくったっていいじゃねぇか。」
「それもそうですね、失礼しました、シェルクさん。」
リーブは大仰に両手を上げて、冗談めかして答える。
「大体シェルクはなぁ、俺んとこに来て飛空艇団員になるんだよ。」
シドの言葉に一同が、そして誰よりもシェルクが目を丸くする。
「シ…シドぉ?」
呆れたユフィが肘で彼を突いても、シドは気にする風でもない。
「うっせぇな!俺だってちゃんと考えあってのことなんだよ!あんたは大した力の持ち主だ。俺と一緒に飛空艇の謎を解き明かしてみねぇか?」
最後の言葉に、ちゃんと理由があったことにその場にいた全員が驚きつつも、シェルクを除く一同はなんとなく納得した気分になる。
「物探しが得意ならなら油脈探しはどうだ?」
どういう対抗意識か、バレットまでそんな事を言い出す。
「バレット、彼女はネットワークのスペシャリストで、 ダウンジングが得意というわけではないのですよ。」
呆れたリーブが横やりを入れる。
「なんだ、その…ダウ…なんとかは?」
「ダウンジング…な。」
「クラウドぉ!てめぇはまた俺の間違いを小声で訂正したな。」
ティファがくすくす笑っているが、シェルクは笑うどころではない。自分の行き先を巡って、親父三人が言い争うのを呆然と見ているだけだ。
「だーっ!もぉ!親父ども、うるさあああい!」
ユフィが叫んで、親父三人が黙る。
「シェルクはね!アタシと一緒にウータイに行くの! あそこならのんびり出来るし、最近温泉も湧いたの! そこでゆっくり身体を癒すの。」
そして、シェルクの前に立つと、気まずそうに、
「あん時は…ひっぱたいたりして悪かったよ。」
シェルクの目が驚きで見開かれる。別に気にしてません。そう言えばいいだけなのに、胸の中にくすぐったい何かがわき上がって来て、言葉が出ないのだ。
「みんな…もういいでしょ?」
笑っていたティファが助け舟を出し、シド、バレット、リーブ、ユフィが黙る。
「私とシェルクは店で連絡を待っているわ。早くヴィンセントを見つけて来てね。」
「いけね!そうだった!」
「リーブ、お前が余計な事を言い出すからだぞ。」
「私のせいなんですか?」
親父連中がワイワイ言いながらそれぞれの持ち場に向う。特に打ち合わせをする風でもないのがシェルクにはまた不思議だった。
「気を付けてね、クラウド。」
「あぁ。子ども達を頼む。」
クラウドは軽く手を振ると、バレットの後に続く。
「あ~あ、もう!ヴィンセントのヤツぅ~面倒かけるんだから…」
ブツブツ言いながら、更にユフィが従う。
「頼んだわよ、ユフィ!」
ティファの言葉に、ユフィは思い切り顔をしかめて見せたのだった。
「ごめんなさい、びっくりしたでしょう?」
事実なので素直にはい、と答える。ティファとシェルクはエッジに怪我人を運ぶ車に便乗させてもらっている。黙って座っているシェルクに、ティファも余計な事は言わない。ただ、一言だけ、
「大丈夫。きっと彼は生きてるわ。彼が特別な身体だっていうことを別にしてもね。」
「どういう意味ですか?」
「ヴィンセントはね、私達には想像もつかない重荷を背負ってるけど、そのことで弱音を吐いたり、愚痴を言ってるのを聞いたことがないの。そんな人があれくらいの事で死んでしまうわけないわ。」
分かったような、分からないような。
「彼のことも私たちのことも、外の世界も、ゆっくり知っていけばいいわ。」
そう言って微笑むティファに、姉の顔が重なる。
「あなたは…リーブ・トゥエスティに何を聞いたのですか?」
「何をって…あなたのこと?」
「はい。」
ティファはシェルクをじっと見つめる。さっき、”はい”と答えても、顔が動かなかった。
(普通、返事をすると自然に頷いたりするのに…)
まるで昔のクラウドのようだとティファは思う。
「あなたが閉ざされた世界の住人だったこと。それと、ヴィンセントを助けてくれたこと。それだけよ。」
「私が滞在するのに、あなたの所より最適な場所を思い付かないと彼は言いました。その理由は?」
「ティファでいいのよ、シェルク…」
「答えて下さい。」
「あなたが”ティファ”って呼んでくれたらね。」
「問題をすり替えないで下さい。」
機械的な返事を返すシェルクが痛々しい。急いではいけない…とティファは思い直し、
「そんなつもりはないわ。気に障ったらごめんなさい。家が最適なのは、おいしくて栄養のある食事が摂れること。」
そんな理由で…と呆れるシェルクにティファは笑って答える。
「あら、大事なことよ。もう一つは…そうね、やっぱり”ティファ”って呼んでくれるまでは秘密にしておくわ。」
これ以上の会話は無意味と判断し、シェルクは黙り込んだ。ティファも何も言わない。車の揺れに身を任せている内に頭がとろんとして来て、 いつの間にか眠ってしまった。

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