パンネロの料理。(FF12/R18)

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それでも涙は後から後から溢れてくる。バルフレアは一旦食事を諦め、椅子を引いてパンネロを引き寄せ、いつもの様に膝に乗せてやる。
「どうした?料理が美味すぎて涙が出るってのはあまり聞いたことがないが?」
目元に口唇を寄せ、それからパンネロの小さな頭を胸に引き寄せ、優しく撫でてやる。
「…ごっ…ごめん…っ…なさい…っ……わた…しっ……」
パンネロは尚もしゃくりを上げていて、言葉を上手く紡げないようだ。バルフレアはそんなパンネロの髪を優しく撫で続ける。
「いい。何も言うな。」
料理が上手く出来て感極まった…というわけではないらしい。もしそうならこんな風に声を押し殺し、何かに耐えるような泣き方はしないはずだ。そうして声を詰まらせて泣くパンネロはバルフレアをもどうしようもなく切なくさせて、心が痛む。
そんな自分にバルフレアは驚く。今までパンネロが喜んだり悲しんだりしても、いつもそれを傍で見ているだけだった。もちろんパンネロの感情を理解し、一緒に喜び、悲しんでいる時はなぐさめてきた。だがしかし、こんな風に深く共感し、同じように心が苦しくなって胸が引きちぎられるように痛む、そんなことは今までなかった。
「…バルフレア?」
ふと頬にパンネロの手のひらの温かさを感じた。
「…どうして、バルフレアが泣いてるの?」
パンネロが触れ、指でなぞった後が微かに湿っている。
パンネロが言ったことが俄に信じられず、バルフレアは自分の手で自分の頬を撫で、指先についた僅かな水分を眺め、そうして泣きはらした目で不思議そうに自分を見上げるパンネロを見た。
「…どうして、かな…。」
バルフレアは膝のパンネロを抱え直した。
「パンネロが、泣いてるから…だな。」
「私が…?」
パンネロはバルフレアが涙を流すという事態に驚いているようで、いつの間にやら涙は止まっている。
「お前がどうして泣いているのかは分からない。だが…どうしてだろうな、同じように悲しくなった。」
バルフレアはパンネロの頬を両手で覆い、親指でそっと涙をぬぐってやる。
「パンネロを悲しませる何かに対する怒りでもない。同情でもない。もっとシンプルな…不思議な感じだ。心が澄み渡っていて、でも深いところでお前の悲しみと繋がっていたみたいだ。」
そう言ったところで、自分らしくないと思ったのか苦笑いを浮かべ、
「…らしくないか…」
「ううん。」
パンネロが微笑む。
「バルフレア、ありがとう。」
「礼を言われる理由がわからないな。」
「バルフレアが分かってくれたから。一緒に…悲しいって感じてくれたから。」
パンネロはバルフレアの首にきゅっとしがみつく。
「それがうれしいの。」
そう言って微笑んで見せる。
「同じように悲しんでくれるのって…どんな言葉よりも届く気がするの。私が悲しいとバルフレアも悲しい。でも、バルフレアが悲しいと私も悲しい。だから、笑わなくっちゃって思えるんだよ。」
「無理しなくていい。」
「大丈夫。心からそう思えるの。バルフレアのお陰だよ。あのね、このお料理、お母さんの味ととてもよく似ているの。私、お母さんのお手伝いをしてたけど、味付けとか仕上げを教わる前に…お母さん、亡くなっちゃったんだって思い出したの。」
「そうか…」
バルフレアはいつものからかうような口調はなく、余計な言葉を挟まずにじっとパンネロの話を聞いている。
「お母さんにもう会えないの。お料理も、もう教えてもらえない。でもね、そんな悲しい気持ちをバルフレアが治してくれたんだよ。」
パンネロの言葉にバルフレアは不思議な感覚に陥った。全ての謎が解けて殻が割れて光が差してきたような、そんな感じだ。バルフレアはまじまじとパンネロを見つめた。パンネロはいつもの癖で、また、なあに?と小首を傾げる。
確かに自分はパンネロの家族の消失の傷を癒やそうとしてきた。でも、どんなに手を伸ばしても手が届かないようなもどかしさをいつも感じていた。だが、やっと分かったのだ。旅行にドレス、アクセサリーに高価なお菓子、そんな物ではない。
「また…一緒に作ろう。」
皮肉なことに答えは当のパンネロから教わったのだ。家族との思い出、亡くしてしまった人々を一緒に悼み悲しみも分かち合う。そうして、新しい思い出を一緒に築き上げていく。それがパンネロを癒やすことになるのだ。
「また…お前に教えられたな。」
パンネロは今度はバルフレアが言っていることが分からず首を傾げる。バルフレアは笑ってその柔らかい頬を指でつつく。
「なんでもない。可愛い顔が戻ったところで食事にしよう。」
「バルフレア、ずるいわ。また一人だけ分かったようなことを言って…」
よく分かっているのはパンネロだ、とバルフレアは思う。泣いて笑ってひたむきに生きていく。それは人間が生きていくということをそのまま体現している。そのことを何度、この少女に教わったことだろう。
「つまり、俺はパンネロにベタ惚れってことだ。」
「ごまかさないで。」
バルフレアは心外だ、と大げさにパンネロの瞳を覗きこむ。
「ずっと一緒だ。」
パンネロが顔をほころばせる。バルフレアの想いがなんとなくだが伝わったようで、 優しいまなざしで目を細め、バルフレアの額にキスをした。
****************
食事の終え、後片付けを済ませ、バルフレアの酒にお相伴をしようとパンネロは砂糖とミルクたっぷりのお茶を淹れた。コーヒーテーブルにお茶の入ったカップを置いて、当然の様にソファで待つバルフレアの膝の上に座る。
バルフレアはグラスをテーブルに置いて、パンネロの小さな頭をそっと抱き寄せた。
「おいしかったね。」
「ああ。」
「バルフレア、にんじんもちゃんと食べたし。」
バルフレアがきまり悪そうな顔をしたのをパンネロは見逃さない。
「隠してたって分かるよ。食べてる時は顔に出てるし、時々残してるし。」
「…別に隠してるつもりはないさ。」
「”ただ言わないだけだ”、でしょ?」
バルフレアの口真似をしてくすくすと笑うパンネロの頬をきゅっと摘む。柔らかい。
「じゃあ、全部食べたご褒美をいただこうか。」
バルフレアはパンネロの頬を捕らえ、顔を上げさせる。小指でつとふに、と柔らかな口唇をなぞる。バルフレアが目を細め、その瞳に妖しい光が灯る。途端にパンネロの胸は高鳴って、まるで魔法にかかったかの様に大人しく目を閉じた。そのまま口唇が重なった。
最初は啄むだけのキスにする。今日はパンネロを啼かせてしがみつかせるよりも、優しく優しくしてやりたいのだ。キスをしながら優しく髪を撫でてやると、パンネロは安心しきって身体を預けてくる。口唇が離れると、閉じていた瞳をぱっちりと開いてバルフレアを見上げ、首を伸ばして自らも口唇を合わせてくる。バルフレアのシャツをきゅっと掴んでいた手を背中に回し、小さな手のひらでバルフレアの背中を優しく撫でる。
窓の外は日が暮れて、夜もなお明るい帝都の灯りが薄暗い部屋を照らす。大都市の中の部屋なのにパンネロを抱きしめていると、まるで暖かい春の日差しの草原にでも居るかのような穏やかな気持ちになる。
「バルフレア、どんどん優しくなるね。」
バルフレアの首に腕を回し、その耳元でパンネロが囁く。まるで歌でも歌っているかのように耳に心地よい
「最初っから優しかっただろ?」
「そうだけど、ちょっと違うの。」
バルフレアはパンネロが言った意味をちょっと考えて、
「そうだな。」
「でしょ?」
バルフレアの答えにパンネロは嬉しさを隠せない。いつも優しく自分を包み込んでくれる恋人が、今日は同じように共感し、涙を流してくれたことに心から感謝したい。一人じゃないと心から思える。
パンネロはバルフレアの顔を正面から見つめなおす。緑色の瞳が優しく見つめ返してくれる。自然と口唇がまた重なる。パンネロの柔らかく小さな舌が控えめにバルフレアの口唇を割ると、待ち構えていたかのように捕らえられ、絡められた。
「っふ……ん……あぁ……」
パンネロの身体はそれだけであっけないほど簡単に蕩けてしまう。くったりとして崩れそうになる身体をバルフレアの逞しい腕が抱きとめる。パンネロは安心してその身を任せうっとりと瞳を閉じる。赤ん坊の様に愛らしくて頼りないその様にバルフレアは胸が締め付けられるような愛おしさを感じる。口唇が離れるとほう…と小さく息をつき、それから瞳を開いて切なげにバルフレアを見上げ、口づけをねだる。
「可愛いな、パンネロは。」
感じたまま思わず口に出してしまう。そうして、二人の唾液に濡れて光るその口唇をまた指でなぞる。
「バルフレアのキスが好きなの。うっとりするよ。」
「そりゃ、お前に口唇がイヴァリースで一番甘いからだ。」
バルフレアはパンネロの身体を掻き抱くと、今度は激しく口づける。舌で口内の奥を探ると、パンネロは小さな舌で懸命にそれに応えていく。
「ん、あっ……はぁ…!」
息が出来ず、思わず顔を反らせてしまい息を大きく吐いたところで、バルフレアの口唇が首筋に移る。最初はキスだけだったのが、パンネロの身体が小さく跳ねて艶めいた声が漏れたのを機に、舌で舐められ、ぞわりとした快感が背筋に走った。
「あっ……んっ……」
髪をかき上げ、現れたうなじにもキスをする。
「ひゃっ……ん!」
くすぐったさと、ゾクゾクした感触にパンネロは悲鳴を上げる。パンネロの全身が火照り始め、身体中が淡く桃色に染まる。相変わらず感じやすい身体にバルフレアはひそかに笑う。まだ触れていないが、淡い色をした可愛らしい乳首は服を押し上げるようにぴんと立ち、秘められたところはもう蕩けて甘い蜜を流しているのだろう。そんな風に官能が高まり、全身をバルフレアに触れれて欲しくなると、パンネロの身体は甘やかな芳香を放つ。
いつもならソファだろうがお構いなしに行為を続けるのだが、今日はただひたすらパンネロに優しくしてやりたいバルフレアは全身どこもかもが柔らかいその身体をそっと抱き上げた。軽々と抱き上げられたのがうれしくて、パンネロはバルフレアの胸に頬ずりする。
バルフレアはパンネロをベッドに座らせると、身体を折るようにして屈め、着ている物を脱がせてやる。いつもなら部屋を暗くして、とか恥ずかしくてイヤ、などと言うパンネロは今日は大人しくされるがままだ。バルフレアも着ている物を脱ぎ捨てると、パンネロの身体をゆっくりと押し倒しながら身体を重ねた。バルフレアはパンネロを見つめ、顔の輪郭を指でたどり、頬を撫でる。
「ねぇ、バルフレア?」
パンネロはバルフレアの頭を抱き寄せ、秘密を打ち明けるように耳元にそっと囁きかける。
「私が今、どんなに幸せかわかる?」
「さあな…多分、俺と同じくらいじゃないか?」
パンネロはうれしくてバルフレアの耳たぶにキスをして、
「バルフレアに触って欲しいの。いっぱい、たくさん。」
「仰せのままに。」
バルフレアはパンネロの鼻の頭にちゅっと音を立ててキスをした。
「触るだけじゃないさ。この綺麗な身体の全身にキスして…」
ついいつもの調子で軽口を叩きかけ、またもやパンネロを恥ずかしがらせたかと思ったら、パンネロは目を細め穏やかな笑みを浮かべている。
「私も…私もよ、バルフレア。あなたの身体中に触れて、キスしたいの。」
「…パンネロ…」
「大好き。大好きよ、バルフレア。」
いじらしいさと愛おしさがこみ上げ、バルフレアはパンネロにめちゃくちゃに口づけた。余裕など消し飛んだ。パンネロへへの愛おしさで胸がちぎれるほど切ない。それを埋めるために遮二無二口づけた。

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