俺が浮気したらどうする?(FF12/R18)

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新婚さんのバルフレアとパンネロで完全捏造です。結婚後空賊を引退し帝都に工房を構えたバルフレアと新妻のパンネロ。そういうネタが苦手な方はご注意ください。
「#好きなCPの攻に俺が浮気したらどうするって言わせて受がどう返すかでのCPに対して理想が現れる」のタグで思いついた話です。


軽い気持ちで観に行ったその芝居は、その動機に反して重く、後味の悪いものだった。若い男に言い寄られたヒロインが、その男との関係を断ちきれず、ついには夫を殺してしまうという話だ。衣装協力が2人が気に入っているブランドだった、それだけの理由で劇場に足を運び、なんの予備知識もなかった。そのため、救いようのない重苦しいラストは、胸の中にどんよりとしたものを残した。
淡いブルーのクラシカルな花柄のワンピースに、キラキラ輝くパールをつま先に散りばめた、ピンクのサテンのハイヒールはバルフレアのチョイスだ。背伸びをしてるのと同じくらい高いヒールをコトコト鳴らしながら歩くパンネロは、むっつりと黙りこくっている。バルフレアの腕に自分の腕を通し、小さな頭をもたれさせ、どこを見るでもなく、さっきの芝居の内容に思いを馳せているようだ。
「………ねぇ?」
不意にパンネロが顔を上げ、首をかしげてバルフレアに尋ねる。
「……どうして、浮気ってしちゃうのかな。いい旦那さまだったのに……」
芝居のヒロインのことを言っているらしい。この話題は自分にとっては鬼門のような気がするのだが、あのひどいシナリオに心を痛めているパンネロのためなら、とバルフレアは答えてやる。
「ああいう時はな、あの優男に恋をしてるんじゃないんだ。」
「どういうこと?」
「浮気ってのはな、好きとは違う。あれは、自分がかわいいだけだ。」
「あ、そう言えば、あの女の人、最初は旦那さまにナイショで楽しんでた。どっちともうまくやろうって。自分が楽しむことだけで、旦那さまのことも、浮気相手のことも、考えてあげてなかった。」
少しばかりヒントを与えただけで、賢いこの少女はバルフレアの言わんとすることを、ちゃんと察する。
「挙句の果てに、邪魔になった亭主を葬る。自分が好きで、自分しか見えてないヤツにしかできることじゃない。」
バルフレアの説明が腑に落ちたようで、パンネロは何度も頷いている。
「好きと浮気は違うってこと、だね。」
「……多分、な。」
パンネロは、ふうん、と呟くと、また何やら考えこんでいる。が、不意にうれしそうにバルフレアの腕にぎゅっとしがみついた。
「ね、バルフレアは浮気したこと、ある?」
「奥様にべったりで、俺にいつそんな時間があるんだ?」
「知ってる。そうじゃなくてね、空賊だったとき!」
帝都の高いビルの間に設けられたゆったりとした遊歩道を歩きながら、勘弁してくれ、とバルフレアは思う。
「おまえに、そういう話はしたくないな。」
「どの女の人にも本気じゃなかったから?」
「どうだったかな。」
浮気と言っていいのかはわからないが、パンネロが言う通り、女が居なかったことはないし、同時進行で通っている女が居たこともあった。一応バルフレアなりに愛情を注いたつもりだし、別れのときは喪失感もあった。だが、いつも傷つかない安全なところでそれを楽しんでいた。歯の浮くような口説き文句はこのとき身につけたっけ、などと思い出す。あれは自分の本質を隠すために、いつの間にか覚えていたスキルだ。
そんなことを、パンネロに話せるわけがないし、話したくもない。
「フランが“あの頃の彼は本気で女の人と向き合うのを避けてた”って。」
「パンネロ。」
たしなめるように呼ばれ、パンネロは首をすくめた。
「だって、ちょっと素敵だなって。最速の空賊バルフレアは女の人にもてて、恋人がいっぱいいて…って。」
今となっては虚しさだけが残っている過去の出来事をそんな風に言われても。だが、恋愛に関してはまだまだ幼いパンネロには、華やかに映るのだろうか。この気まずさとパンネロの追求をどうかわそうか、そう考えたときに、角を曲がってようやく愛しい我が家が見えてきた。バルフレアがほっと胸を撫で下ろしたその時に、パンネロがとんでもないことを言い出した。
「ねぇ、バルフレア、もし私が浮気したら、バルフレアはどうするの?」
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「信じられない!!」
パンネロはそう叫ぶと、バルフレアの体の下からするりと抜け出して起き上がり、そのまま頭からシーツを被って背を向けた。
パンネロが軽い気持ちで言った冗談が、バルフレアのスイッチをオフからオンに切り替えた。その場でパンネロを抱え上げたかと思うと、玄関を蹴破る勢いでくぐり抜け、階段を駆け上がり、気がつけばもう寝室だった。抗議するパンネロの唇を塞ぎ、暴れる華奢な体を体で封じてコトに及び、そして終えたところなのだ。
ベッドの周りには乱暴に脱ぎ散らかされた服が散らばり、パンネロのお気に入りのピンクのサテンのヒールが転がっている。
「もう!ひどい!体中……アトだらけ!」
パンネロは腕の内側の柔らかいところや、太ももの内側、胸、へその周りにつけられたキスマークを見て、信じられない!ともう一度叫ぶ。
「あぁ……もう、…ひどい顔……」
ベッドの傍のドレッサーの鏡に映った自分の顔を見て、パンネロは愚痴る。化粧を落とさないまま激しく愛されたせいで、時間をかけて3度も重ねづけしたマスカラはダマになっているし、頬骨の上にふんわりのせたチークは見る影もない。口紅ははみ出ていて、シーツやバルフレアの体に紅色の跡を残している。ぷぅ、と頬を膨らませているパンネロを、バルフレアも起き上がると背後から抱きしめる。
「あと、1ダースくらいつけとかないとな。」
「もう!なに考えてるの?」
大人げないバルフレアの行動にパンネロは本気で怒っていて、回された腕をはねのけた。バルフレアはやれやれ、と膝を立て、その上に肘を乗せて座り直し、怒るパンネロを、どこか気だるげに眺めている。
「バルフレア、ひどい!私が浮気するって思ったの?」
「お前が浮気なんかするはずないって、誰よりも俺が一番よく知っているさ。」
いつものような、からかうような軽い調子ではない。どこか苦しげなその声に、パンネロは驚いてシーツから抜け出し、バルフレアに向き合った。バルフレアは眉を寄せ、怒っているような、ふてくされているような、そんな顔をしている。唇を、むぅ、と少し尖らせていて、パンネロにはそれが、自分が軽い気持ちで浮気と口にしたのに、ヤキモチを妬いているように見える。
「………じゃあ、どうして?」
バルフレアは大きく息を吐いた。
「パンネロは浮気なんかしないさ。もし俺以外の誰かに惚れたんなら、それは心変わりだ。そしてお前は、俺にも、自分にも嘘は吐けない。きっと泣きながら俺に“ごめんなさい”って言うんだろう。」
パンネロは呆気にとられ、バルフレアを見つめなおした。軽い気持ちで「浮気」と口にしただけで、バルフレアは本当にここまで考えたのだろうか?
「目の前でパンネロが“ごめんなさい”って泣いたら、俺は“わかった”としか言えない。そんな風に考えたら、自分でもワケがわからなくなっちまったのさ。」
その言葉に、ぽっと胸に火が点った。胸が苦しいのに、うれしくて心がふわふわと踊る。喜びが全身を駆け抜け、涙が出そうになる。
「もう……なに、言ってるの……」
どうしようもない人なんだから、パンネロはそう思いながらも、目の前の男が愛おしくてしかたがない。わがままなところも、情けないところも、子供っぽい執着心も、全部だ。パンネロがそっと腕を伸ばすと、バルフレアはすぐに抱きしめてくれた。
「イヤなこと言って、ごめんね。」
「あの芝居のせいさ。」
パンネロは頭を横に降る。
「私もね、本当は、ちょっとヤキモチだったの。バルフレア、昔の恋人ってたくさん居たのかなあって。」
バルフレアは驚いて腕の中のパンネロを見る。パンネロは瞳だけでバルフレアを見上げ、微笑む。
「それでね、ちょっと意地悪したくなったの。」
そう言うと照れくさいのか、顔を伏せ、固くて弾力のある胸板に顔を埋める。
「でもね、もう、そんなの忘れちゃった。」
「パンネロ……」
「ずっと一緒にいようね。」
バルフレアはパンネロのはみ出たルージュを、シーツでそっと拭き取ってやる。
「ああ、そうだな。」
いつもなら“洗濯しても落ちないのに!”とお小言を言うパンネロがニコニコと笑っている。バルフレアはそれだけで、“ずっと一緒”という他愛のない約束が永遠に続くように思え、うれしくなって、パンネロを強く抱きしめた。
おわり。


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