バルフレアの風邪(FF12/R18)

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「ありがとう、フラン!」
パンネロが勢いよく立ち上がったので、椅子がガタリ、と大きな音を立てて、レストランの客が一斉にパンネロを見る。
しかし、パンネロはそんな視線は気にならない。
心臓が早鐘を打ち、身体中をエネルギーが一気に駆け抜ける感じがする。
パンネロはフランにきゅっと抱きつけると、レストランの入り口へと小走りに走り抜ける。
「あ、お客様?」
パンネロ達のテーブル付きの給仕が慌てて呼び止める。
「あの、お帰りでしょうか?お荷物は…」
そう言えばフランとした買い物を給仕に預けていたのだった。
パンネロは可愛らしく小首を傾げ、
「あの、じゃあ、持って来て下さる?」
給仕は直ちに、と恭しく一礼をして一旦置くに引っ込み、パンネロにショッピングバッグを持って来た。
「ありがとう!」
パンネロはそれを受け取ると、しっかりと胸に抱えてレストランを後にした。
エレベーターのボタンを押し、1階から上って来るエレベータにジリジリとし、我慢出来ずにその横の非常用扉を開き、薄暗い階段を足音を響かせてを駆け下りる。
カンカンとヒールが階段を叩く音が耳障りだが、パンネロは半ば飛ぶようにして駆け下りる。
すぐ下のフロアの扉を開くと、落ち着いた照明と、廊下に敷き詰められた絨毯がパンネロの足を優しく包んだ。
パンネロはすぅっと深呼吸をしてバルフレアの部屋を探す。
(エレベーターを降りて…何番目だっけ…)
心がふわふわと浮ついて、フランの言葉が思い出せない。
パンネロは手の中の鍵を見、部屋の番号を確かめる。
(1097号室…)
ふと真横のドアを見ると、1095というプレートが貼られている。
(じゃあ、このお隣…)
パンネロの鼓動はピークに達して、自分の心臓の音が部屋の中のバルフレアに聞こえてしまうのではないか、と思えるほどだ。
この期に及んでパンネロはまだためらっていた。
だが、バルフレアの部屋をノックしても返事がない。
パンネロは扉の前で盛大にため息を吐き、そのままエレベーターに向かって歩き出したのだが、
(あと、一回だけ…)
そう思い直し、もう一度扉の前に戻りる。
二回目の深呼吸をして、さっきよりも心持ち大きな音でノックをしてみた。
やはり返事がない。
(寝てるのかな…?)
パンネロは思い切って鍵を差し込み、出来るだけ音を立てないようにして鍵を開けた。
そして、静かに、静かに扉をほんの3センチほど開いて中を覗いて見る。
(…真っ暗。)
扉を開けると廻廊の奥に寝室があるようで、そこに微かに人の気配がする。
不意に奥の部屋で灯りが点った。
「…フランか?」
いつもより掠れたバルフレアの声。
気付かれてしまったからには仕方がない。
パンネロは扉を閉めると、足音を忍ばせて部屋に向かう。
「パンネロはもう帰ったか?俺に会えないで、しょげかえってなかったか?」
「…バルフレア…」
パンネロが呼ぶと、バルフレアはぎょっとして起き上がった。
「…パンネロ?」
パンネロはベッドの足元でもじもじしてしまう。
「…ごめんなさい。私……私……」
申し訳ない気持ちと後悔で言葉が続かない。
バルフレアは会いたくないと言っているのに、無理やり押しかけてしまって嫌われたりしないかとパンネロは身を固くしている。
「…フランが鍵を渡したのか?」
バルフレアが身体を起こした気配がするが、パンネロはバルフレアの顔が見られない。
俯いたまま、
「違うの。私が…メソメソしたからいけないの。…ごめんなさい。わ、私、帰るね。ごめんなさい…」
「パンネロが鍵をねだったりしないのはよくわかってるさ。」
驚いて顔を上げると、バルフレアは穏やかな表情で両腕を広げている。
「おいで。」
パンネロは駆け寄るようにして、その腕の中に飛び込んだ。
きゅっとしがみついてくるパンネロの頭を、バルフレアは優しく撫でてやる。
やはり熱があるのだろう、バルフレアの身体はいつもより熱く、汗の匂いがした。
でも、パンネロにとってはそれはよく馴染んだ、何よりも安心する香りなのだ。
「あのね、私…」
「いいんだ、俺が悪かった。」
「だって、風邪だもの。仕方がないよ。私がわがままなの。」
「じゃあ、見舞い一つ許さないのも、俺のわがままだな。」
「そんな…」
驚いて顔を上げるパンネロの頬を、バルフレアは優しく撫でてやる。
「後悔してた。くだんねぇ意地なんか張ってないで、顔だけでも見たかったってな。」
「本当?」
「本当さ。」
優しく唇が降りてきて、パンネロはうっとりと目を閉じる。が、それは寸前で動きを止めてしまう。
「と、うつしちゃ、やばいな。」
そうして、指先でちょん、とパンネロの額を突く。
「それより、今日のドレスを見せてくれるか?」
パンネロは言われるままに立ち上がり、バルフレアの前でくるり回ってみせる。
「どう?」
「ああ、似合ってる。」
「”俺の目に狂いはない”?」
「そんなところだ。」
体調のせいだろうか、バルフレアはいつもの饒舌さがないように思える。
そのせいだと分かってはいるけど、
(やっぱり、あまり似合ってないんじゃないかなあ…)
と、不安になってしまう。
風邪なんかじゃなけりゃこの場でひん剥いてやるのに、などとバルフレアが不埒な事を思っているなどと、パンネロは知る由もない。
(大人っぽいって言われたいのにな。)
今日は仕方がない、とパンネロが目を落とした所で、床に置きっぱなしのランジェリーショップのショッピングバッグが目に入った。
(そうだ…)
パンネロはショッピングバッグを手に取ると、
「ちょっと待ってて!」
そうして、バスルームに一旦引っ込むと、結い上げた髪をほどき、ベビードールを身に着ける。
(どう…かな…?)
いつもの踊り子の衣装と露出度はそう変わらない気がする。
一応、お揃いで買ったショーツはフロントとバックがV字型にカットされ、サイドはひも状にデザインされて、
(あ、おしりがまる見え…)
鏡に写った自分の後ろ姿を見て、パンネロは顔を赤くする。
バルフレアに見せたいけど、やっぱり恥ずかしいし。
それに、具合が悪い所にこんな格好見せたりしたら気を悪くしないだろうか。
(あ…)
パンネロはシャワーの横の棚にきれいに畳んで置かれているバスローブを見つけ、それを羽織った。
そして、遠慮がちにバルフレアのベッドの前に戻る。
「随分待たされたと思ったら、シャワーでも浴びてたのか?」
「ううん…そうじゃなくって、あのね、あの…」
「うん?」
パンネロは今日フランと買い物に行ったこと、そこで新しいランジェリーを手に入れた事を話し、
「それでね、バルフレアに見せたいなって思ったの……ダメかな?」
そう言った途端、ベッドヘッドにぐったりともたれかかっていたバルフレアが身を乗り出さんばかりに背筋を伸ばした。
パンネロは驚いて半歩後退ってしまう。
「え…と、いいの?」
「もちろんだ。」
真剣なバルフレアにパンネロはくすり、と笑う。
予想以上のバルフレアに反応に少しだけ自信を得て、ゆっくりとバスローブをはだけで見せる。
それでも、やっぱりTバックでまる見えのおしりが恥ずかしくて肩をはだけた所で手が止まってしまう。
「あの…あの、どう…かな?」
風邪なんか吹っ飛ぶ可愛らしさだった。
不安そうに小首を傾げ、恥じらいで頬は真っ赤だ。
「ああ、すごく可愛いな。」
(可愛い…?)
バルフレアの反応は上々のようだが、可愛いという言葉が納得いかない。
「大人っぽいって思ってこれにしたのに…」
思った通りの反応にバルフレアは頬を緩める。
「フランと」「ランジェリーショップ」という時点でパンネロの目論見はお見通しだ。
「そうやって、半分しか見せてくれないと、大人っぽいかどうかは分からないな。」
いつもの調子をすっかり取り戻したバルフレアにいっぱいいっぱいのパンネロ。
「そう…かな?」
パンネロはためらいながらもバスローブを全部脱いでしまい、それを空いている隣のベッドにきれいにまとめて置いた。
その際に少し屈んだのだが、柔らかなレースの裾がひらひらと揺れ、レースに透けてパンネロのまろやかなボリュームのおしりと、それに果たして役目をちゃんと果たしているのかと疑いたくなる華奢なサテンのリボンがきちんと蝶結びにされていて。
(すげぇ破壊力だ…)
熱が上がって鼻血が出そうだ。
「どう?」
もじもじしている様がまた可愛い。
「う〜ん、まだよく分からないな。」
「そう?」
「ちょっとここで回ってみてくれ。」
「踊るみたいに?」
「ああ。」
言われた通り、パンネロは緩く手を広げてくるり、と回って見せる。
アンダーバストの所から、ベビードールの裾がふんわりと踊る。
その下から覗くウエスト、そして腰にひっかかるタンガショーツ、むっちりとしたヒップライン。
(もう限界だ…)
「どうかな…きゃっ…」
バルフレアは宙に舞った裾が落ちない内にパンネロを目にも留まらぬ早さで抱き寄せる。
「あん!バルフレア…!」
バルフレアはパンネロを強く抱きしめて、顔中にキスをする。
「もう…ダメ!」
「ダメじゃないだろ?」
「だって、お風邪……」
この先がどうなるのかパンネロには分かっていた。
確かにバルフレアにもっと関心を持って欲しい、誘惑したいと思ったが、風邪をおしてまでとまで思っていなかったのに。
パンネロは必死に身体を捩ってそこから抜けだそうとするが、もがけばもがくほど、より強い力で抱きすくめられる。
身体にさわるからという言葉はバルフレアには右から左だ。
完全に絡め取られたところで、問答無用で唇を塞がれた。
触れた唇はいつよもり熱い。
それは角度を何度も角度を変えて、どんどん深くなる。
パンネロはもうそれに逆らわず、忍び込んで来たバルフレアの舌を受け入れる。
受け入れるだけでなく、自らも激しく絡める。
驚いて唇を離すバルフレアに、パンネロはぷぅと頬を膨らませてみせる。
「もう、知らない!バルフレアったら…私…私…ちょっと今日会えないよって言われただけで、悲しくなって、小さな子どもみたいなのに…今だって、お風邪なのに、こんなことしちゃダメなのに…なのに、私…」
ああ、また子供みたいなわがままだ、とパンネロは悲しくなる。
バルフレアはバルフレアでパンネロへの愛おしさががますます募る。
この愛らしい恋人は、柔らかな春風とか甘いお菓子とか優しい色彩といった、自分と正反対の世界に属している。なのにどうしてそんな世界と正反対に居る自分をこんなに心地よくさせるのだろう。
「お前は、どうしてそんな風に可愛いかな。」
「違うの…そうじゃなくって…もっと…」
「努力は称賛するし、俺はパンネロならどんなスタイルでも構わないさ。」
「でも…」
「だがな、俺が惚れたのは今のパンネロだ。抱きしめたらちっちゃくて、柔らかい、俺にだけ甘えん坊の可愛いパンネロだ。分かるか?グルグの噴火口に放り込まれたって、氷河で氷漬けにされっって、それを変えるつもりはないな。」
真っ直ぐに見つめられ、優しく頬を撫でられると、パンネロは頷くことしか出来ない。
「だが、そうやって背伸びをするパンネロも、可愛くて仕方がないんだがな。」
「そう…なの?」
「ああ。」
「これ、ヘンじゃない?」
パンネロはベビードールの裾をちょん、と摘んで見せる。
「最高だ。」
「本当に?」
「鼻血が出そうなくらい色っぽい。」
「本当!?」
笑みがこぼれる。
そのまま二人、ゆっくりとベッドに倒れこむ。
「でも、お風邪…」
「ああ、忘れてたな。」
「大丈夫?」
「このままお預け喰らう方がやばいさ。」
バルフレアはパンネロの前髪を指でそっとかき上げて、そこに唇を落とした。

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