夢でよかった。(FF12/R18)

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夢を見ていて、たまに「これは夢だ」と分かる時がある。
今が正にその瞬間で、目の前で自分の恋人が小さな王子に連れ去られようとしているのも夢だと分かっている。
夢だと分かっていても、不愉快なことこの上ない。
更にムカつくのは、夢だと分かっているのに覚める手段が分からないという事だ。
バルフレアはパンネロと、生意気な(自称)弟子が目の前で仲良く頬を寄せ合う様子を眺めるしかないのだ。
(さっきまでは王子だったかもしれないが、夢なんてそんなものだ。)
芝居なら席を立てばいいだけだが、夢だとそうもいかない。
バルフレアが頭の中であれこれと毒吐いていると、不意に視界が開けた。
目に飛び込んで来たのは細い腰と、まろやかでボリュームのある尻白い華奢な背中には柔らかいウェーブのかかった蜂蜜みたいな、甘い色の髪が肩に掛かっている。
眩しさに目が慣れると、先に起きたパンネロが手を伸ばし、カーテンを開けた所のようだ。
あぁ、夢から覚めたのだと分かるまで、暫くかかった。
「バルフレア、起きた?おはよう!」
胸元をシーツで隠したパンネロが振り返って肩越しに微笑む。
そうやって胸を隠しても、お尻は丸見えなのにな…などと暢気に考えながらバルフレアはパンネロの空いた方の腕をぐい、と掴んでベッドに引き倒した。
倒した上に、すかさず覆い被さる。
「バルフレア…!もう、朝はダメって……」
いつもはお行儀の良いパンネロに嗜められ、毎朝のお約束になっている行事はここで終わるのだが、
「今朝は夢見が悪くてね。」
と、バルフレアは不埒な行為を止めようとはしない。
忙しなくパンネロの顔中にキスをする。
「もう!何を言って……あん!」
言葉が途切れたのは唇を塞がれたからだ。
硬く閉ざされ、侵入を拒まれ、バルフレアは今度は首筋に顔を埋め、そのほっそりとした首に舌を這わせると、ぴくん、とパンネロの身体が跳ねた。
「や…っ!バルフレア……!」
必死で身体を押し返そうとするパンネロの両手首をバルフレアは易々と掴み、不満げにパンネロを見下ろす。
パンネロも負けてはいない。キッと睨み返す。
「…だめか?」
「ダメ。」
いつもはきちんと整えられている前髪はぼさぼさ、寝起きの不機嫌そうな顔。
24時間母性本能全開のパンネロは、こんな風にちょっと情けないバルフレアにものすごく弱いのだが、ここで流されてはいけない、とぐっと堪える。
今日は前から二人で出かける約束をしていたのだ。
このまま行為に及んでしまうと、
(また、お休みがベッドの中で終わっちゃう…)
前に一度、うっかり許可してしまい、なんとなくベッドから出られないまま休日が終わってしまった事があったのだ。
パンネロも、それが嫌だというわけではないが、背徳的と言おうか、だらしがない様な気がするし、
(そればっかりだと、マンネリ化しちゃうんじゃないかな…)
と、可愛らしい心配もあったり、
(それに、明るいとやっぱり…恥ずかしいし…)
パンネロは改めて禁止の旨をバルフレアに宣告しようと口を開きかけたところで、それはまたすぐに唇で塞れ、あっという間に舌が侵入して来た。
「ふ……んっ…っは………」
バルフレアの舌は勝手気ままにパンネロの口内を蹂躙し、奥に引っ込んでいたパンネロの舌に気付くと、すくい上げる様にして絡ませる。
溜まらず、顔を逸らせると、今度は耳たぶに優しく噛み付かれた。
「やっ…もう!」
バルフレア、と言いかけて飛び込んで来たのは、これまた滅多にお目にかかれない真剣な顔のバルフレア。
パンネロは情けないバルフレアは「可愛くて好き」なのだが、「真剣なバルフレア」となると、てんで弱いのだ。
夜だと薄暗くてそこまで表情は分からない。
だが明るい陽光の下で、まつ毛が触れ合うのではないかという距離で、じっと見つめられると、
(だ…だめ、そんな目で見ちゃ……)
パンネロは見る見る赤くなり、口ごもってしまう。
一方夢見が悪くてパンネロに甘えたいだけのバルフレア、パンネロの様子に気付くでもなく、何故自分が拒まれなければいけないのかと子供のように拗ねている。
「世界中でおまえの身体中にキス出来るのは俺だけだろ。それを確認するのに、朝とか夜とか、何の関係がある?」
真剣モードのバルフレアに言われ、パンネロはすっかり余裕をなくし、あっけなく撃沈してしまった。
バルフレアはやっと自分の思惑通りになった事にすっかり満足し———-しかし、パンネロの抵抗の力が抜けてしまったのが自分の発言の結果とは、寝起きモードのためこれっぽっちも気付かずに———パンネロを強く抱きしめた。