下品な自慢。(FF12/R18)

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[前提]
・アメリカのドラマの「Supernatural」にて主人公(女好き)の「彼女、ヨガのインストラクターなんだぜ?わかるだろ?」という意味深な台詞が大好きで、そこから。
[注意事項]
・下品。


その街に着いたとき、2人ともどうしようもないほと腹が減っていた。夜遅いこともあって、何かを食べようとなると酒場くらいしか開いていない。パンネロがどこでも構わないと言ってくれたので、できるだけ清潔そうなパブを見つけてそこに入った。パブならボックスシートがある。そこに座れば、品のない輩にパンネロが絡まれるようなことはないだろうと思ったからだ。
しかし入ってみると店は人でいっぱいで、カウンターにわずかな空きしかない。
「ここでいいよ。バルフレア、気を遣いすぎ!」
と、言いながらバルフレアの腕を引いてパンネロはカウンターのスツールに行き、飛び乗るようにして座った。バルフレアも仕方ないな、と隣に座る。注文を聞きにきた年老いた人の良さそうなバーテンダーを見て、これなら大丈夫かと思い、
「俺にはワイン、俺の連れには同じものをソーダで割ったものだ。あとは…何か腹に溜まりそうなものを頼む。腹が減ってるんだ。」
(俺の連れだって……)
こんな風な「大人の店」に連れて来られると、バルフレアは決まってそういう言い方をした。気取った店なら「こちらの女性」とか、くだけた雰囲気の店なら「俺のかわいい恋人」とか。それらは、はっきりと言葉にはしないが、パンネロが受けるサービスを大人の女性のものにするように、という店員に対する要求だ。いつも子ども扱いするけど、こういう時はわきまえているんだな、パンネロは毎度感心してしまう。
(夜遅い居酒屋だと、“俺の連れ”なんだ…)
言い回しがなんだかくすぐったい。遅い時間の酒場ということもあって、ますます「大人のデート」っぽく思えてパンネロは上機嫌だ。すぐに運ばれてきたグラスをカチンと合わせて、少し気取って一口飲み、それから飾りにつていたハーブの小さな葉を口の中に入れた。噛みしめると口の中がすぅっとして、
(今、キスをしたらバルフレアの口の中までスーってなるのかな………)
「ずいぶんご機嫌だな。」
パンネロはカウンターに頬杖をつき、目を細めて自分を見ているバルフレアを見つめ返した。いつもならこんな風に見つめられると照れてしまうのだが、パンネロは余裕で微笑み返す。それから、どう返事すればこの場にふさわしいか考えた。今しがた頭の中で考えた、スーッとするキスのことを打ち明けるのは子供っぽいと考えて、
「大人の恋人に、大人のお店。ね、素敵!」
バルフレアにすると、そこそこの店だな、くらいの感想しかない。料理も酒もまずくもない代わりに特別においしいというわけではない。店の中は騒がしいし、反対側に座ってる男達は煙草くさい。他に店がなくて仕方なく入っただけで、パンネロが一緒のときなら絶対に入らない店だ。
だが、はしゃぐパンネロを見ていると、そんなことはどうでもよくなってくる。薄暗いオレンジ色の明かりの中で、パンネロが座っている辺りがなぜだかほの明るく見えたり。柔らかな唇はいつもより美味そうに見える。今、パンネロにキスをしたら、さっきかじっていたハーブの、あの涼しい味がするのだろうかなどと他愛のないことを考える。
「バルフレア、ねぇ、あそこに書いてある料理!おいしそう!頼んでもいい?」
好奇心に瞳を輝かせ、カウンターの上に貼られた「今日のおすすめ」の黒板を指差す様は、パンネロが口にした「大人の恋人」の仕草とは程遠い。
「ねぇ、バルフレアはフランといつもこんなお店でお食事してるの?」
「まぁ、そうだな。」
バルフレアが誰よりも信頼し、通じ合っているフランと同じような店に一緒に来た!という事実が、またパンネロを有頂天にさせる。
パンネロはバルフレアの周りの何もかもがきらびやかな大人の世界だと思っていて、憧れ、そこに向かって一生懸命に背伸びをする。当の本人にすれば、ありきたりの日常だ。
(何がそんなに珍しいのかねぇ………)
そうはいうものの、大人の世界(とパンネロが思っている)に憧れ、懸命にそこに手を伸ばそうとするパンネロが可愛くて仕方ないのだが。
そんなことを考えている間に、パンネロはお喋りと食べることに忙しい。あの人達も恋人かしら?あの人達はきっと空賊よ、見て、樽をテーブルの代わりにしてる!などなど。そんな時、背後から声がした。
「コドモ連れで夜更かしたぁ、感心しねぇな!」
パンネロのとりとめもないお喋りが耳に心地良くて杯が進み、程よく酔いが回っていた。そのせいか、酒場の喧騒もどこか遠くから聞こえていた。しかし、せせら笑うようなその声は、はっきりとバルフレアの耳に届いた。他にも何やら下品な言葉を投げかけられた気がする。バルフレアはすぐにそれらがパンネロの耳に届かないようにと、その小さな頭を引き寄せ、胸元に抱えこんだ。
「バルフレア、気にしないで、私、大丈夫だよ。」
パンネロが小さな声でうったえている。あんなにはしゃいでいたのに、と、バルフレアは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。こんなことがあるから、夜の酒場なんかに連れて来たくはなかったのだ。バルフレアは席を立つとパンネロの肩を抱く。いつもよりか細く感じる。
「出るか。」
パンネロが頷いて、スツールからぴょん、と飛び降りた。バルフレアは、もうこれ以上粗野で下劣で卑しい視線にパンネロを晒してたまるものかと、小さな体を覆うようにして肩を抱いた。気まずそうにしているバーテンダーの前に勘定を置き、その男たちの前を通り抜けようとしたとき、
「今から宿に戻ってお楽しみだとよ。」
「俺ならもっと、尻も胸もでけぇ女がいいよなぁ!」
バルフレアの動きがピタリ、と止まった。ゆっくりと男たちの方を向く。男たちは身構えた。
「な、なんだよ…」
声が震えたのは、バルフレアが逆上して掴みかかってくるのを待っていたのに、どこか白けた風にじっと見据えられたからだ。ほんの10秒にも満たない沈黙だったが、酔っぱらいどもを黙らせるには充分な時間だった。ついでにパンネロを不安にさせるにも。
「バルフレア……?」
心配そうなパンネロの頭を撫で、心配しなくていいと片目をつぶって見せる。相手にしないよう諌めようとし口を開いた瞬間に唇が塞がれた。一瞬何が起こったのか分からず、近づいて、すぐに離れていったバルフレアの顔を、パンネロは呆気にとられて見つめている。絡んできた酔っ払い達も、ついでにこの騒ぎに気付いて成り行きを見守っていた他の客たちも目を白黒させて2人を遠巻きに見ている。
「ああ、仰せの通り、朝まで楽しむつもりだぜ。」
言葉の意味が理解できるまで時間がかかった。パンネロはその意味を、客達の視線が一斉に自分に移ったのを見てようやく理解した。
(それって……つまり……)
たくさんの人の目の前でキスをされ、とっても恥ずかしいことを宣言された。頭が真っ白になって言葉が出てこない。反して顔は湯気が出るのではないかと思うほど赤くなり、バルフレアの体に顔を押し付けた。そんな仕草がかわいくて仕方がない、という風にバルフレアは目を細める。
「ついでにいい事を教えてやるぜ。俺のかわいい恋人はな…」
バルフレアはここでもったいぶって言葉を切り、周囲の観客を見渡し、
「ラバナスタ一の踊り子なのさ。つまり…わかるよな?」
酔っ払いどもも他の客も固まったまま目だけ動かしてバルフレアを見て、それからパンネロを見た。一度にたくさんの視線が集まり、パンネロはいたたまれなくなる。一刻も早く店を出たいと、バルフレアのシャツを引っ張った。早足で店から出て、一つ目の角を曲がったところで、パンネロは肩を抱くバルフレアを振りほどき、叫んだ。
「信じられない!!」
バルフレアは心外だ、と大げさに肩をすくめてみせる。
「あんなにたくさんの人の前で……もう……!」
眉をキュッと吊り上げ、パンネロは上目遣いにバルフレアをにらんでいる。
「キスだけじゃなくて……恥ずかしいこと言って……あれだと、今からしますってお店の人みんなに……あんなに大っぴらに……」
バルフレアは思わず、だって本当に今からするだろ?と言いかけて慌てて口を噤む。確かに、多感なお年頃の少女にあれはちょっとやり過ぎたかと思い、
「ごめんな。」
体を屈め、パンネロの目線に自分のを合わせ、詫びの言葉を口にする。パンネロは仕方がないな、という風にため息を吐き、
「私のために…っていうのは分かるの。でも…ケンカになるんじゃないかってすごく怖かった……」
あんな愚鈍な連中を相手にするつもりは毛頭ない、そう言いかけて、バッガモナンとのいざこざにパンネロを巻き込んでしまったことを思い出した。バルフレアはパンネロの肩に手を置き、
「怖がらせるつもりはなかった……ごめんな。」
俯いてしまったパンネロの頬を両手で包み、額と額を合わせる。言い訳をせず、真剣な口調にパンネロにようやく笑顔が戻った。
「本当はね……ちょっと、うれしかったの。」
パンネロが落ち着いたところで、バルフレアはパンネロの肩を抱いて宿に向かって歩き出した。いつまでも夜更けの道端で立ち話などしていたら、また酔っぱらいに絡まれるのではないかと思ってのことだ。
「バルフレア、私がちゃんと恋人って見られてるか気にしてるの、わかっててくれたんだなぁって。」
「あの酔っぱらいどもがイイ女ってのを分かってないから、つい教えてやりたくなったのさ。パンネロが、最高の恋人だってな。」
恥ずかしかったけど、2人の関係を暗示するような切り返しで守ってくれたのが、とてもとてもうれしい。
(ラバナスタ一の踊り子だって……)
心がふわふわと浮き立つ。が、パンネロは踊り子と性行為の関係がいま一つわからない。
「ねぇ……バルフレア?」
「なんだ?ホテルならすぐそこだ。」
「そうじゃなくて……なんで、あんな風に言ったの…?私が踊り子だって。ラバナスタで一番だから…?」
でも、まだ一番じゃないし…とパンネロは小さく呟く。それからベッドの中での睦言で、何度かそれらしいことをバルフレアが言っていたのを思い出して、
「それとも……えっと、体が…柔らかい……から…かな?」
バルフレアは肩を抱いていた手の甲で、パンネロの頬をそっと撫でる。
「そいつは今から教えてやるさ。」
「もう、またごまかす……」
「ごまかしてるんじゃないさ。一晩中、ベッドの中で、手取り足取り、だ。」
もじもじと恥ずかしがるかと思ったパンネロだったが、「まだ何かごまかしていることがあるんでしょう?」と、言いたげに、じっとバルフレアの顔を見つめている。
「また、やらしいこと言って、うやむやにしようとしてるでしょ……?」
耳たぶや、胸元がうっすらと赤く染まり、口元をぎゅっと固く結んでいる。バルフレアの意図を探り終えるまでごまかされてたまるものかと頑張ってはいるものの、口説き文句はそれなりに効果を上げているようだ。もうひと押しだ。
「お前の体は柔らかくて、抱きしめると、体がどこまでも海の底に沈んでいくような感じがするのさ。今夜は」
バルフレアはここで言葉を切って、耳元にささやきかけた。
「お前に溺れたいんだ。」
ここでパンネロの限界が来てしまった。薄暗い路地裏でもそうとわかるほど、顔が真っ赤になっていった。バルフレアはパンネロのこめかみにそっと口づけ、もう熱くなっている小さな体を引き寄せて宿へと急ぐ。
なんとかごまかせたが、本当のことは言えない。言えるはずがない。行為中、パンネロの中に入ったとき、すごく(・・・)絞まる(・・・)
パンネロの性器の圧はバルフレアが今までベッドを共にした女性たちの中で群を抜いている。挿入しただけでぴったりと吸い付き、気持ちよく締め付けてくれるのだ。それだけで腰が抜けるかと思うほどの快感を与えてくれるのが、バルフレアが動き始めると暖かな愛液をたっぷりまぶし、襞がからみつき、絞り上げ……何度吐精しても腰が止まらないほどの気持ち良さだ。思いがけない鉱脈を発見した幸運さに、子供の頃以来長らく使っていなかった神への感謝の言葉を口にしたほどだ。
しかし、いったいどうして、かくも可憐な少女がこんな名器の持ち主にとバルフレアはずっと不思議に思っていた。
謎は相棒が解決してくれた。と言っても、直接聞いたわけではない。踊り子としてのプロ意識だろう、パンネロは体作りに余念がない。片足を高々と上げたままずっとそのままのポーズでいたり、横向きになった体を片手で一本で支えたり。腹筋をしていても、まるでボールが弾むみたいに軽々とバルフレアと同じ回数をこなしてしまうのだ。あの華奢な体のどこにそんな筋肉が、と不思議に思っていて、それをふと口にしたことがあった。物知りのヴィエラは、筋肉は繊維が撚り合わせれたシートになっていて、それが何層にも重なっている。ダンサーの、とりわけ女性のダンサーは体の奥深いところにある層が鍛え上げられており、それが身体機能を向上させていると教えてくれたのだ。その話を聞いて、バルフレアはものすごく腑に落ちたのだ。
だが、それをパンネロには言えない。もちろん「気持ちいい」とは言っている。が、それが一番だとか、お前のは最高だとか言うと、「誰と比べているの?」という話になる。それだけではない。セックスに精神的な繋がりを強く求めるパンネロにそんなことを伝えたら「私のカラダ(正確には性器だが)がいいからなの…?」となりかねない。
もちろんカラダだけなわけがない。溢れる声を抑えようと口元で手を覆い、手首を掴んでシーツに押し付けるときゅっと首をすくめて固く目を閉じる、そんな恥じらう仕草は背中がゾクゾクするくらい興奮させられる。顔をもっと見たいと囁きかければ、おずおずと顔を上げ、快楽の涙で潤ませ瞳で、これでいいの?という風に首を傾げられたときなどは、頭がおかしくなるほどの愛おしさと強烈な性欲がないまぜになって、欲しい、欲しい、と暴れまわる欲望を止めることができない。
今回はうまくごまかして話を反らせることができて本当によかったとバルフレアは胸をなで下ろす。「お前のがすごくいいから。・・・・・・・・・・」なんて言おうものならパンネロは口をきいてくれないだろう。それでも、2人の関係がずっと続いて、パンネロが大人びてきたら、そんな艶話もできるようになるのだろうか。
(いや……)
身勝手な願望だが、パンネロには今のままでいて欲しい。
「ねぇ……バルフレア……」
バルフレアがそんなことを考えていると、パンネロが消え入りそうな声で呼びかけてきた。
「私、ドキドキして…頭がおかしくなっちゃいそう……バルフレアがあんなこと言うんだもの。」
その時、胸中にこみ上げが感情をバルフレアは言葉にすることはできなかった。バルフレアの心を救い、優しく包んでくれる愛らしい少女を何よりも大切にしたいと心から思った。精神的な繋がりを求めているのはパンネロだけではないのだと気付かされる。パンネロの小さな胸に抱きしめられたときのあの安らぎは、性的な快楽とは比べ物にならない。
「愛しているよ、かわいいパンネロ。」
バルフレアの言葉にパンネロはとうとう怒り出して、小さな拳でバルフレアの胸をポカポカと叩く。またからかわれたと思ったようだ。そんなパンネロに「あんまり暴れると、ホテルまで抱いて行くぞ」のひと言で大人しくさせ、バルフレアは苦笑いを浮かべる。
(俺としては、真剣な告白だったんだけどな……)
ホテルの看板を照らすほのかな明かりが見えてきた。艶っぽい話にはまだまだ時間がかかりそうだ、と、バルフレアはぷぅ、と膨らませているパンネロの頬を指先でつついた。


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