フリオニールとライトニング(DDFF)

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登場人物:フリオニール×ライトニング

ライトニングがフリオニールの野ばらに興味を持ってから、なんとなくお互いを意識し始めた二人の話。


フリオニールはものすごく困っていた。仲間四人で野営をしていたら、その内の二人が急に見張りに行くと言い出して。
残ったのはライトニングと名乗る女戦士だけだ。
男だろうが女だろうが、仲間である事に変わりはない。
だが、少し前に彼女と言葉を交わした。
彼女が自分の大切にしている夢に関心を持ってくれてそれ以来、彼女の事が気になって仕方がないのだ。
席を外した二人を恨めしく思いながら、隣に座る変わった服装の女性を横目でそっと盗み見た。
たき火の炎に照らされた横顔が美しく、柔らかそうな髪は彼の好きな花を思わせる甘い色をしている。
すっと通った鼻筋、伏せられた眼を縁取る長いまつ毛が落とす影、思わず見とれてしまう。
さすがに不躾だろうと慌てて目を反らしたが、その仕草が逆に隣に座る女戦士に気取られる結果となってしまう。
「なんだ?」
どうしてこの女性は男の様な話し方をするのだろう。
男勝りな女性は仲間にも居たが、それでも、そのまんま男の様な話し方をしたりしなかった。
「ライトニングは、その…どうしてそんな話し方をするんだ?」
ライトニングは怪訝な表情でフリオニールをじっと見つめる。
フリオニールの顔が瞬く間に赤くなる。
よく日焼けした彼の顔がたき火の炎に照らされていても、それでも分かるくらいに。
ライトニングにも男女の機微には疎い方だが、彼が少なからず自分に好意を持っていることくらいは分かる。
以前の自分はそんな感情を疎ましく思っていたのだろう。
でも、この男だけは何故か違った。
何故だろう、この男と一緒に居ると心が安らいだ。
良く言えば何を言っても受け入れてくれる、悪く言えば何を言っても許してくれるような、そんな感じだ。
博物館から抜け出て来た様な鎧姿に武器、堂々たる体躯にも関わらず口をついて出てくる言葉は少年の様にあどけない。
今だって、ライトニングの男勝りの言動を咎めているのではないのが分かる。
「おまえは何故そんな格好をしているのだ?」
フリオニールはライトニングが言っている意味が良く分からず、首を傾げる。
「俺のこの、格好の事か?」
フリオニールは落ち着きなく、自分の鎧に触れ、
「どこか変か?」
「いや…そうじゃない…」
慌てる初心な反応がなんだか可愛い。
「お前の居た世界ではそれが当たり前なんだろう?」
「そうだな…兵士は大体こんな感じだ。もっとも、俺みたいに歩く武器屋みたいな奴は居ないけどな。」
ライトニングに怒っている様子はない。
お互いの話が出来るのがうれしくて、フリオニールは勇気を出して言葉を続けた。
「俺の仲間にも女の戦士が居た…と思う。でも、ライトニングの様な喋り方はしなかった。だから不思議に思ったんだ。」
こんなに美しい人が、と言いかけてフリオニールは慌てて口を噤んだ。
「ライトで良い。」
相変わらず男の様な言い方だが、声が優しい。
「悪かったな。お前の姿がおかしいんじゃなくて…私の居た世界でもお前やセシルの様な格好をした人達が居た。だがそれは遥かな昔の話で、今はもう物語の中でしか見られない。」
「俺たちの世界では古い戦記を口述で伝える。それくらい古い、という事か?」
やはりフリオニールには分かりにくいのだろう。
まるで過去から来た人間と話しているみたいだ。
「そうだな。」
その伝承とやらがどれくらい古いのかは分からないが、これ以上フリオニール混乱させないように、そして少しでも緊張を解いてやろうとライトニングは否定はしないでおいた。
「お前の世界では女性はみんな裾の長いドレスを着るのか?飾りがヒラヒラ付いた…」
「高貴な女性はそうだな。皆、華やかで美しいと…思っていた…」
「どうした?お姫様にフラれたか?」
からかう様な口調にフリオニールは気色ばんだ。
「そんなんじゃない!」
その剣幕にライトニングは驚いてフリオニールを見た。
膝を立てて今にもライトニングにつかみ掛からんばかりだ。
以前誰かがフリオニールがお姫様にひどい目にあった事がある、と言っていたのを小耳に挟んだだのを思い出し、
(少しひやかそうと思ったのだが…)
どう詫びようかと考えを巡らせていると、いきなり両肩を掴まれた。
痛みに顔を上げると目の前にフリオニールの顔があった。
「俺は…っ!ゴテゴテ着飾った女よりもあなたのような…」
掴まれた肩も向けられる視線も熱くて、ライトニングは目を反らす事が出来ない。
フリオニールは吸い込まれそうな青い瞳に見つめられ、赤い顔を更に赤くして顔を背けた。
そのくせ、ライトニングの肩から手を離さない。
「私は…」
フリオニールの言葉の続きがなんとなく分かって、不思議と心が浮き立った。
真っすぐな気持ちがうれしい。
「何かを守りたくて、軍人になった…と思う。周りの…他の奴らに負けたくなかったから…」
この男になら話しても良い、そう思った。
肩を掴んでいた指から力が抜けたのが分かった。
「俺も…そうだった…」
長い長い沈黙の後、フリオニールがやっと口を開いた。
「仲間と一緒に…野ばらの咲く世界…でも、今は…そこに…あなたが居てくれたら…と思う」
ごくり、と唾を飲み込んで、なんとか言葉を絞り出す。
「守りたいんだ。」
最後の方は聞き取れない程小さな声だった。
ライトニングは既視感を覚えた。
以前にも誰かにもそんな事を言われた事があったような気がする。このひたむきさとか。
だからこの男に心を許してしまうのかと、ライトニングは漸く気が付いた。
「残念だな。」
崖から飛び降りる気持ちで伝えた言葉をあっさりと否定され、フリオニールは言葉を失う。
だが、ライトニングはにやりと笑ってみせると、
「生憎と大人しく待っている性分ではなくてな。どうせなら、共に肩を並べて戦う方が良い。」
フリオニールは思い出した。
この女性の美しさだけではなく、彼女の言う「性分」にも惹かれていた事を。
(この人は強い…)
気圧されて何も言えなくなったフリオニールにライトニングは尚も畳み掛ける。
「抱いてくれないのか?」
「え…!?」
ライトニングの言葉にフリオニールは飛び上がらんばかりに驚いた。
「こっ、ここでか…?」
「ばか。考え過ぎだ。」
「そ…そうか…」
そういう意味か…と口の中でもごもごと言い訳をしつつ、フリオニールは大きく深呼吸をした。
肩に置いた手をそっとライトニングの背に回す。
ライトニングも素直に身体を預ける。
女性の身体はもっと柔らかいものだと思っていたが、良く鍛えられたライトニングの背中には無駄な肉が一切付いていない。
だが、手のひらに感じる筋肉はやはり男性のそれとは違う。
そして、自分の胸に押し付けられる彼女の柔らかい胸。
頭がくらくらして、周囲の光景が回転しているのではないかと思う程だ。
だが、胸の中のライトニングを見ると、安心しきった表情でフリオニールにもたれかかっている。
その表情はフリオニールの胸をしめつけた。
(…今だけは。)
先の事は何も考えないでおこう…そう思って、フリオニールは抱きしめる腕に力を込めた。
おわり。