なれそめ。(DDFF)

この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。

pixivでの連載に加筆・修正したものです。デュオデシムの世界でフリオニールとライトニングがどんな風に恋人同士になったかというなれそめです。


ひゅうっと鋭い空気を裂く音と共に目の前のイミテーションが粉々に砕け散った。
ガラスが割れる様な音がして、足元に透明の破片が散らばる。
きらきらと輝く屑が降り注ぐ。
その合間からライトニングを庇うかの様に長身の男が割って入って来た。
「ライトニング!」
ライトニングは遠のきそうな意識の中でぼんやりとその男の声を聴いた。
誰に命じられた訳ではない、ただ、大量のイミテーションに撤退を余儀なくされた時、ライトニングは自ら殿(しんがり)を務めた。
足止めを喰らって、動けなくなった味方の元に駆けつけ、助ける。
小さな身体がイミテーションの所に埋もれてしまったかのようなオニオンナイトの元に急行し、ガラス細工の様な敵をなぎ払い、彼が味方達の後を追って駈けて行ったのを見届けた所で自分が一人、敵のまっただ中に取り残された事に気がついた。
そのひずみの辺りはいつも冷たい雨が降っていて、それは瞬く間に孤軍奮闘するライトニングから体力を奪った。
ガーランドの言っていた言葉、完全なる消滅という言葉が脳裏をかすめた時にその男はやって来たのだった。
「大丈夫か?」
大したことはない、そう言いたいのに油断するとふっと意識が遠のきそうになる。
フリオニールは槍を振るい、イミテーション達をなぎ払う。
鬼神が如く敵を打ち倒すフリオニールの闘気と、彼が砕いたイミテーションの欠片が放つ光に酔いそうだ。
気がつくと、地面がすぐ目の前に迫っていた。
が、倒れた時の衝撃がいつまで経ってもやって来ない。
フリオニールの逞しい腕が崩れ落ちそうになるライトニングを身体ごと抱えたのだ。
「守りたい」という気持ちが強く、いつもピリピリと神経を尖らせているライトニングにはひどく馴染みの薄い感覚だった。
だが、抱きとめられた腕がこの上なく心地よく思えて。
疲れ切った身体に濡れた衣服がべっとりとまとわりついて気持ち悪いのに、なんとなくこうなる事は分かっていたような、心が踊るような。
それを最後に目の前が真っ暗になった。
意識を手放したライトニングが口元に笑みを浮かべていたのを、敵を退けるのに必死なフリオニールは気付く余地もなかった。
(キリがない…)
このままでは共倒れだとフリオニールはライトニングを担ぎあげた。
怒涛のごとく攻め寄せる大群に意思はない。
駆け引きや牽制は一切効かなず、物理的に距離を置くしかない。
つまり、
(囲まれる前に、走るしかないか…)
フリオニールは意を決してライトニングを抱え直した。
迫り来るイミテーションを蹴り倒し、その隙に槍を収め剣に持ち替えた。
イミテーションの群れに脅しは効かないのを知っているが、つい威嚇するように大声を上げ、イミテーションの層が薄い辺りに切り込んでいく。
次々と降り注ぐ攻撃をかいくぐり、ライトニングを守る。
ライトニングを抱える左腕が痺れ、身体が少しずつずり下がって来るのを抱えなおそうとすると、視界の端にイミテーションが迫って来るのが写り、身体ごと体当たりをして結露を開いていく。
どうにかイミテーションの大群を振りきったところで、ライトニングを抱えたままフリオニールはへたり込んでしまった。
よくもまあ、あの大群を振りきって走れたものだと我ながら驚いてしまう。
仲間を失いたくないという気持ちがこの男を動かしているのだが、フリオニール自身はその事に気づいてはいない。
雨の降らない軒下なり岩陰を探そうとしててフリオニールは途方に暮れてしまった。この世界はいつも空が高く、広い広い荒野が広がっていて、身体を休めるような場所はコスモスの聖域を除いてどこにもない。
一つ思い当たったのがあの悪趣味な宮殿だが、あそこではフリオニールが休んだ気がしない。
(そうだ…)
少し遠いが、玉座のある崩れかけたあの神殿なら。
(皆の合流先から少し逸れるが、仕方がない…)
フリオニールはライトニングを抱えなおした。
背中には弓や槍を背負っているのでライトニングを背負う事が出来ずに腕に抱えたままだ。
ライトニングは女性にしては長身で、
(思ったより、重いな…)
フリオニールは苦笑いをして、ライトニングを抱え直した。
女性はもっと軽いものだと勝手に思っていたのだが。
だがすぐに彼女が跳躍したり、敵の攻撃を躱(かわ)しながら駆け抜ける様を思い出した。
女性の戦士は魔法や召喚で戦う者が多い中、ライトニングは銃と剣が一体型の武器を使っている。
(そうか、鍛えてるんだな…)
と、一人納得し、ぐったりとしたライトニングを見下ろした。
雨に濡れて寒いのだろう、顔色がひどく悪い。
微かに震える唇は紫色だ。
フリオニールは不謹慎な事を考えた自分を悔いると、ぎゅっと唇を噛み締めて前を見据えた。
「すぐに、休める所に連れて行ってやるからな。」
フリオニールは未だ瞳を閉じたままのライトニングに向かってそう呟くと、カオス神殿に向かって歩き出した。
歩みを進めるにつれ、腕の中のライトニングはずっしりと重くなり、ずるずると腕が下がって来るのを何度も抱え直した。
腕が肩から抜けそうに感じて、歩みも徐々に遅くなる。
雨の降るエリアを抜けもう少しで神殿だ、という所まで来た頃には腕はしびれ、とうに感覚はなくなってしまっていた。
フリオニールは大きく息を吐いた。
「あと、少しだ。」
そうライトニングに囁いたところで、突然背中に殺気を感じた。
咄嗟にライトニングを抱えたまま頭を低くすると、頭上すれすれの所を刀の切っ先がかすめた。
そのまま剣を抜きざまに振り返ると、長い刀を持った長髪のイミテーションがそこに居た。
(まずい…)
剣を抜いた右腕は疲れ切っていて、剣を握り、剣先を敵に向けるだけで精一杯だ。
(これではとても戦えない…)
そうこうしている内にかまいたちの様な鋭い刃が迫り、フリオニールはなんとかそれを受け止めた所で腕が痺れ、剣を取り落としてしまった。
「しまった!」
さすがにもうライトニングを抱えておれず、フリオニールはライトニングをそっと地面に横たえたところで背中から槍を取り、振り下ろされた刃を受け止めた。
腕がびりびりと痺れ、今度は槍を取り落としそうになったが、セフィロスのイミテーションの長刀と戦うのに槍は手放せない。
なんとか左手を添えて耐えると、そのまま大きく前に踏み込みながら突きを入れる。
フリオニールの渾身の一撃も、イミテーションは優雅な動きでふわりと後ずさり、かわしてしまう。
(とにかく、今はこいつをライトから離さないと…)
フリオニールは声を張り上げ、相手を威嚇するかの様にめちゃくちゃに槍を振るう。
イミテーションは嘲る様に軽やかにそれを避け、フリオニールの思惑通り、徐々にライトニングから距離を置く事が出来たかのように見えた。
が、突然そのイミテーションはフリオニールの頭上を軽々と飛び越え、ライトニングに迫った。
「ライト!」
フリオニールは槍を肩の上で持ち変えると、
「うおおおおおお!」
と、吠え、その背中に向け、ありったけの力をこめて槍を投げた。
槍はイミテーションの背を貫き、ガラスが砕けるような派手な音がし、砕けが破片がシャラシャラと音を立てて地面に落ちた。
フリオニールもそのまま膝を落とし、地面に手をつき、その場に座り込んでしまった。
肩で大きく息をし、それでもライトニングがの方に視線をやり、無事なのを確認すると、フリオニールはホッと息を吐いた。
(さすがに、立てないな…)
それでもなんとか仲間を守る事が出来た。
でも、もう指一本動かせそうにない。
(あと少しだ…)
なんとか退けたが、またいつ敵に見つかるか分からない。
ふと、さっきのイミテーションがライトニングに向かって行った場面をふと思い出した。
あの刃がライトニングに振り下ろされたいたら、と思うと背筋が凍った。
「あと、少しだ。」
フリオニールは今度は声に出してそう言うと、重い身体を起こし、落ちていた剣と槍を拾った。
足を引きずるようにしてライトニングの傍らに向かった。
倒れているライトニングの背中に手を差し入れ、身体を起こそうとしたところでライトニングが身動いだ。
「…ライト?」
フリオニールは疲れも忘れ、ライトニングを抱き起こした。
つづきます。