目隠し。(FF7/R18)

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昨日の夜は二人でお互いを求め続け、眠ったのは空が白み始めるころだった。
とても忙しい二人。
すれ違いの毎日で、漸く抱き合えたのは何週間ぶりのことだろう。
「3週間ぶりだ。」
はっきりとブランク期間を答えたクラウドに、ティファは吹き出していたっけ。
笑いながら自分の手のひらで目元を覆って、クスクスと笑っていた。
フェンリルを走らせていて、何故か急にその時の事を思い出した。
その事に動揺して、小さな石を踏んだだけなのに、ハンドルをとられそうになった。
目元が隠れたティファの表情にものすごく欲情してしまったのだ。
自分でも理由が分からない。
もちろん、セックスの際に目隠しをしたりするプレイがあるのは知っているし、その手のポルノ雑誌も見た事がある。
だが、そういったあくまでも性的な刺激を得るためだけのものをティファに対して用いたいと思った事などなかったのに。
分からないまま、もやもやした悩ましい気分はその日1日続いたのだった。
仕事を終えてフェンリルをガレージに置き、家の前まで戻って来た時、クラウドは途方に暮れてしまった。
なんだかティファを「そういった」目で見てしまいそうだからだ。
(しかも、昨日…したところだ…)
しかし、ここでぐずぐずと思い悩んでも仕方がない。
ティファと出来るだけ会話せずに早く休もうと諦めて、扉を開けようとした。
と、タイミング良くティファがステンレス製のゴミバケツを持って中から出て来た。
「クラウド、おかえりなさい!」
笑顔が正視出来ない。
「ああ…それ、持とう。」
気まずさをごまかす為にティファからゴミバケツを奪おうとするが、当のティファは、
「平気よ。それよりご飯出来てるの。早く着替えて来て。」
と、ゴミバケツを軽々と持ったままスタスタと家の裏のゴミ置き場へと歩いて行ってしまう。
クラウドは理由の分からない罪悪感をごまかす為、慌ててティファの後を追う。
ティファがゴミを捨てる為にバケツを置いたとき、コントロール不能な何かがこみ上げてきて、思わず後ろから抱きしめた。
そうして、そっとその目を手で覆ってみる。
「なぁに?どうしたの、クラウド?」
ふざけているのだろうと、ティファがクスクスと笑う。
だが、当のクラウドは大変だった。
思った通り、目隠しされたその姿はクラウドにとても扇情的に映ったからだ。
危うく自分を見失いそうになるクラウドだったが、その前にティファがするりとその腕から抜け出し、クラウドの頬に軽くキスをして、
「すぐに支度するから、着替えて来てね!」
まさかクラウドがそんな事を考えているなど思いもよらず、甘えてくるクラウドがなんだか可愛く思えて、ご機嫌で先に立って家に入ってしまった。
取り残されたクラウドは、慌ててまたティファの後を追って家に入る。
夕食時ということもあって、セブンスヘブンの店内は賑わっていた。
一番済みのボックス席でマリンとデンゼルが手を振っている。
そこに、ティファがクラウドの食事を運んでいる所だった。
「冷めない内に食べてね!」
ティファはてきぱきとクラウドの分の料理を運んでしまうと、カウンターに戻り、他の客の酒や料理の用意を始めた。
クラウドは言われるままに着替え、子供達と食事を摂った。
マリンもデンゼルもクラウドと食事を一緒に食べられるのがうれしいのか、色々と話しかけてくる。
クともすれば不埒な考えに陥りそうになりつつも、クラウドはなんとか三人での食事を終えると、子供達に早く寝る様に促した。
別に不自然ではない。
下心があるわけではない、とクラウドは自分に言い聞かせる。
ティファが店が忙しくて、自分が早く帰って来た時は子供達の面倒を見るのはクラウドの役目だ。
クラウドの仕事の伝票整理を手伝うと言ってくれるマリンや、もっと話したげにしていたデンゼルに良心の呵責を覚えつつも寝室に送り込む事に成功した。
さて次は。
クラウドはある物を探す為に、バスルームやリネンを直してあるクロゼットを物色し始めた。
ティファが見たら不審に思った事だろう、クラウドはベッドカバーやテーブルクロスがどこにあるかなんて関心を持った事など一度もなかったからだ。
だがクラウドにとって幸いな事に、今日のティファは忙しそうだ。
目的の為の丁度良い布帛を見つける事は出来た。
後はティファにどう切り出すかだ。
家に戻った時の決意はどこへやら。
クラウドは自分の暴走に気付く事なく、本気で、真剣に考えていた。
最後の客が帰った後、クラウドはティファの後片付けを手伝った。
テーブルやカウンターに残った食器を下げ、テーブルクロスを外してランドリーに放り込む。
クラウドは「今夜もしたい」という気持ちをひた隠しにしているつもりだったが、ティファにしてみると、お見通しである。
でも、もちろん嫌なはずもなく。
くすぐったくて、恥ずかしいけど、うれしくて。
手早く洗い物を片付けてしまう。
明日の仕込みも、朝から準備しても大丈夫な様に頭の中でメニューを書き換えた。
「ティファ…」
後片付けが終わったのを見計らって、クラウドがそっと背後からティファを抱きしめる。
ティファの首に、優しく腕を巻き付けて、耳元で熱っぽく名前を呼ぶ。
耳元から甘い痺れが瞬く間に全身に広がる。
ティファは巻き付いた逞しい腕に触れ、そっと後ろを振り返る。
クラウドがじっと自分を見つめている。
欲されている事がうれしくて、肩越しに軽くクラウドの唇を啄んだ。
「シャワーを浴びてくるわ。いい?」
「ああ。」
クラウドも軽いキスを返して、名残惜しげにティファから身体を話すと寝室へと上がって行った。
ティファは火照った頬を洗い物をしていて冷えた手で冷ましながら、暫くそうっとりとした気分を楽しんだ。
その後でまさか、クラウドがとんでもない事を言いだすとは思いもせずに。
クラウドはティファの顎を軽く持ち上げると、唇を覆う様にして自らのを重ねた。そのまま舌を差し込むと、ティファが応える。
ベッドの上でゆっくりと腕を絡め、クラウドがゆっくりとティファをベッドの上に横たえた。
鼻と鼻がぶつかりそうな距離で、ティファは恥じらいと愛おしさを込めてクラウドを見つめる。
いつもなら、ここから優しい愛撫が始まって…
なのに、今日は違った。
クラウドは無表情のまま、じっとティファを見下ろしている。
「…クラウド…?」
「ティファ…」
いつもと違うクラウドの表情に、ティファは眉を顰めた。
「…どうしたの?」
クラウドは両肘をベッドに付け、身体を密着させると、
「…頼みがある。」
「???何かしら……」
浮かない表情のティファに、クラウドは一旦身体を起こすと、
ベッドサイドテーブルに置いてあったナプキンを手に取った。
「これで……目隠しをしても良いか。」
目が点になる、というのはこういう状態なのだろうか。
ベッドに横たわったまま、ティファは呆然とクラウドを見つめた。
(と…とにかく、落ち着かなくちゃ……)
ティファは自分に言い聞かせる。
クラウドは長い間監禁生活を送って来た。
その為か野菜の名前を知らないとか、世間を知らないが故の天然発言をしてティファを驚かせる事があった。
きっと、今もその状態なのだろう…そう思いたかったが、クラウドの手にはどこから持って来たのか、店で使う白いナプキンが握られているのだ。
「そ…それをどうするの?」
「目隠ししたいんだ。」
「わ…私…に?」
「だめなら、縛っても良い。ティファはどっちが良い?」
いつも二人で愛し合っているクラウドのベッドが急に泥沼の様にどろりととろけ、そこに沈んで行くような感覚をティファは味わった。
目隠しにしろ、縛るにしろ、ティファにとってはアブノーマルなセックスにしか思えない。
なのに、どちらかを選べとは。
面食らって、何も言えずにいるティファに、クラウドがナプキンを帯状に畳んだ物を目元にそっと当て、頭の後ろで結んだ。
そうして、ティファの身体をそっと起こすと、優しく抱きしめて耳元で囁く。
「…嫌、か?」
声も仕草もこの上なく優しい。
そうなると、ティファも突っぱねる事も出来ず。
「…途中で“いや”って言ったら、外してくれる?」
「もちろんだ。」
クラウドの声がうれしそうだ。
ティファはまだ戸惑ってはいたが、とりあえずはその約束を信じる事にした。

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