列車の旅。(FF12/R18)

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駅は様々な国の人、種族で溢れていた。
飛空艇は最早当たり前ではあるが、この路線は景色がとても美しいこと、更には走る列車のサービス、料理、内装が素晴らしく、豪華列車として根強い人気を誇っているのだ。
その豪華列車に乗るべく、駅の中をパンネロはバルフレアと腕を組み、人ごみをすり抜けて歩いていた。
バルフレアはともすれば遅れがちになるパンネロの歩調に合わせ、何か不快な目に、例えば失礼な輩に足を踏まれてしょげかえったりしていないかと、身体を折り曲げる様にして顔を覗き込む。
パンネロはバルフレアの意図が分かっているのかいないのか、その度にうれしそうに微笑みを返す。
やっとの思いで目的の車両に辿り着き、タラップを上る。待っていたキャビンアテンダントが切符を受け取り、恭しく一礼をすると、この凸凹カップルを客室に案内した。
部屋は落ち着いた雰囲気で、天井はオーク材、一点の曇りも無く磨かれた大きな窓に、ランプなどの調度品は金で揃えられている。それでいて列車という狭いスペースを機能的に使うために様々な工夫がなされていた。例えば、テーブルは壁に作り付けになっていて足の部分がなかったり、ゆったりとしたソファは夜になるとベッドになるとか。
アテンダントは一通り部屋の説明を終えると、早く二人きりになりたいバルフレアと、早く部屋の中を探索したくてウズウズしているパンネロに夕食の時間を告げ、もう一度丁寧に礼をすると、部屋を出て行った。
パンネロは途端に軽くステップを踏み、くるくると回転する。
「素敵!列車の中なのに!」
そうして文字通り踊る様にして化粧室の扉を開け、バスルームに感嘆の声を上げ、クロゼットを開けたり閉めたり。
漸く一通りの偵察が終わった所で、その様子を眺めていたバルフレアに駆け寄ると、
「本当に素敵!連れて来てくれてありがとう!」
「こちらこそ、ついて来てくれてありがとう、だ。」
「もう、またそんな、からかうみたいな言い方。」
パンネロがぷぅと頬を膨らませる。バルフレアにしてはパンネロの喜ぶ顔が見たいが為なので、
「嘘偽りのない本心なんだが?」
パンネロはすぐに顔を赤らめ、
「あ、ごめんなさい……」
「パンネロは、もう少し自信を持って良い。」
「どんな?」
「俺の方がパンネロの事が好きだってな。」
バルフレアの唇が優しく額に落ちて来る。
「……うん。」
はにかみながらパンネロが頷く。ゆっくりと二人の唇と唇が触れ合いそうになった時、出発の汽笛が鳴った。
*************
列車は街中を抜け、景色の良い田園風景をひた走る。
バルフレアは窓からの景色が良く見えるように置かれたソファに座り、パンネロを膝に乗せる。パンネロは後頭部をバルフレアの胸にもたれかけ、外を眺めていた。
なんとなく昨日どこからか聴こえてきた歌を口ずさむ。
恋人が居て幸せだけど、いつまでそれが続くのか、そんな不安を歌った他愛もない歌だ。
歌の歌詞を思い出し、パンネロは慌てた。なんとなく耳に残っていて歌ったのだけど、不安がっているとバルフレアに勘違いされたらどうしよう。パンネロはこの動揺を悟られまいと必死に頭を巡らせる。何か言わなくちゃと咄嗟に出た言葉は、
「ひ…飛空艇なら、すぐに着いちゃうのにね。」
そう言って、しまった!とまた慌てる。さっき、列車の旅はゆったりした時間の流れを楽しむ物だと教えられたばかりなのに。
が。
返って来たのはおだやかな呼吸。
「…バルフレア?」
見ると、バルフレアはうたた寝をしている。パンネロは拍子抜けして、バルフレアを見上げた。
眠っているバルフレアの頬にそっと手を当てる。起きる気配はない。パンネロはほっと息を吐いた。
(良かった…聞かれてなかったのね。)
そうして改めてバルフレアの寝顔を見つめる。寛いだ姿を見せてくれるのは自分だけなのだと思うと、それだけで温かい何かが身体中から溢れてくる。
「連れて来てくれて…ありがとう…」
バルフレアの耳元に唇を寄せて、そっと呟いてみる。すると眠っていたと思っていたバルフレアが返事をした。
「こちらこそ。」
パンネロが驚いて身体を離すと、バルフレアは薄く目を開いて片目を瞑って見せる。
「ごめんなさい、起こした?」
オロオロするパンネロを、バルフレアは優しく引き寄せた。
「ああ。すまん、うとうとしていたな。」
バルフレアはパンネロを抱く腕に力をこめる。列車の揺れと、まるで生まれたての動物を抱いている様なパンネロの体温が心地よく、いつの間にか眠ってしまったのだ。
「どうした?退屈させたか?」
柔らかい頬を指でそっと撫でてやる。
「それとも、うるさいイビキでもかいてたか?」
「どうかな。」
パンネロがクスクスと笑う。
「ねぇ、こんなにのんびりするのって、ひょっとして初めてかな?」
「そうだな。」
「いつもの旅行と違うね。」
「気に入ったか?」
パンネロはすっかりリラックスしていた。バルフレアの膝の上に座り直し、頭を勢い良く厚い胸にもたれかけると、そのまま上を向いてバルフレアを見る。起きたてで、まだ少し眠そうな顔が愛おしい。
「うん。」
そうして、また窓の外を眺める。もっとぴったりと寄り添いたい、そう思った時に髪飾りが邪魔になった。パンネロは髪飾りを外すと、窓際のテーブルに置いた。すると、背後からバルフレアの手が伸び、緩く編み込まれたお下げをゆっくりとほどく。編まれている髪の間に指を滑らせ、優しく。
「あ、だめ。」
突然の拒絶にバルフレアが驚いて手を止め、大げさに驚いたふりをする。
「髪、触られると眠くなっちゃうの。」
「昼寝も悪くないだろ?」
「だって、夜、眠れなくなっちゃうでしょ?」
バルフレアは止めていた指を再び動かし始めた。
「丁度いい。」
「どうして?」
柔らかい髪が指に心地よい。
「今夜は寝かさないつもりだったからな。」
パンネロが何か非難めいた言葉を口の中で呟くが、もうすっかり眠たくなっているようで、何を言っているのかバルフレアにはよく聞き取れない。半分起きていて、半分眠りに落ちた状態なのだろう。
バルフレアは髪を優しく耳にかけてやり、今度は人差し指を、ふっくらとした耳たぶに滑らせる。パンネロはぴくりと少しだけ身体を跳ねさせたが、すぐにうっとりとした表情でバルフレアに身体を預ける。
列車の振動がバルフレアの身体を通して伝わってきて、さっきバルフレアが眠ってしまったのはこの為なのだとなんとなく納得しつつ、意識がどんどん深く沈んで行くのを感じる。耳たぶに触れるバルフレアの指が心地良さを加速させる。
バルフレアは小さな子供を寝かしつける様な気分で、パンネロの耳たぶを揺らす様にして優しく愛撫する。やがて、穏やかな寝息が聞こえてきた。
「…パンネロ?」
眠ったのだろうかとそっと唇に触れてみると、パンネロはその指先を無意識についばんだ。頬に触れると、いやいやと首を振る。
小さな動物を膝に乗せて可愛がっているような優しい気持ちになると同時に、恍惚とした表情とうっすらと開いた小さな唇が誘っている様にも見えて。
色香とあどけなさを併せ持つパンネロに引きつけられてどうしようもない。試しに今度は首筋に指を這わせる。パンネロを驚かせないようにそっと。
「…やぁ…ん…」
パンネロは可愛らしく抗議すると、バルフレアの手の甲に頬をすり寄せる。拒絶されるどころか、無意識に甘えてくるのがまた愛らしく、バルフレアのいたずらは更に続く。指が首筋からうなじ、鎖骨へと移ると、寝息が甘い吐息に変わっていき、時折眉がきゅっと寄せられる。
バルフレアはパンネロを横向きに抱き直すと、さっきまで愛撫していた耳たぶを優しく噛んだ。
「あ……」
思わず漏れた声の後に、パンネロはうっすらとまぶたを開く。
「…もう…意地悪しないで…」
それは、昼寝の邪魔をしないでということか、それとも。
(可愛い……)
声を出すのは無粋と心の中だけで呟くと、パンネロの唇に、触れるだけのキスをする。夢うつつのまま、パンネロはバルフレアの唇をついばみ、それから下唇を優しく口の中に含む。ぼんやりとした頭で、目の前のぬくもりにきゅっとしがみつき、バルフレアの唇の周りを舐める。と、バルフレアの口が開いてすぐに舌を捕えられた。まだ意識がはっきりとしないパンネロの目覚めを促す様に優しく舌と舌を絡めてくれる。
夜のベッドとは違うゆったりとした愛撫の流れにパンネロは陶然となる。
いつもは恥ずかしさが先に立つのだが、今は酔ったかのようで、そんな事はどうでも良くなってくる。もっともっと、バルフレアに触れられたい。
「…あ…バルフレア……」
唇が解放されるとパンネロは堪えきれずに甘い声を出し、バルフレアに頬寄せる。
「お願い……」
「何だ?」
「あのね。」
パンネロはバルフレアの耳元で囁く。恥じらいではなく、その方が“大人”な気がしたからだ。
「もっと、触って…欲しいの……」
そうして、バルフレアの手を取って胸元に導く。
そう言ってから、やはり恥ずかしさがこみ上げて来て、ぎゅっと固く目を閉じる。からかわれたらどうしよう、笑われたらどうしよう、ドキドキしながらゆっくりと目を開くと、バルフレアは目を細めてパンネロを見つめている。
パンネロの不安げな上目遣いがたまらなく可愛らしい。頬を赤くして、目尻に涙まで浮かべておねだりされて、嫌と言えるはずもなく。
だが、こんなけなげな様を見せられると、どうしても意地悪をしたいという気持ちも抑えられない。
「俺も、触って欲しいな。」
パンネロがきょとん、と首を傾げる。バルフレアはパンネロと同じ様にして手を自らの股間に導く。パンネロはそこに触れ、驚いた様に手を引っ込める。
「どうした?」
「あ、だって…」
触れた場所が既に熱を持ち、硬く張りつめていたからだ。
俯いて、胸の中で小さく震えるパンネロに、バルフレアはまだ無理だったかと申し訳なく思う。だが、やはりパンネロに触れられたいのも正直な気持ちで。
「さっき、言ったろ?」
バルフレアはもう一度パンネロの腕を取ると、再び股間にあてがう。
「俺の方がパンネロの事が好きだって。」
耳元で囁きながら、反対側の手でパンネロの上衣越しに、少し強くこねるように胸を撫でる。
「あ…っ…」
じんわりとした快感が広がるのと、手のひらで触れた熱にパンネロは、ほう、と大きく息を吐いた。バルフレアの言葉だけで、身体が熱くてどうしようもなくて、うれしくてたまらないのに涙がこぼれ落ちそうになる。
「だから、俺も触れられたい。」
身体がぞく、と震えた。
パンネロはおずおずとズボン越しに張りつめた場所をそっと撫でてみる。バルフレアが小さく息を詰めたのが分かった。
「バルフレア、もっと自信を持っていいよ。」
パンネロはバルフレアを見上げると、
「私の方が、ずっとバルフレアのこと、好き。」
「パンネロは、可愛いな。」
からかうような口調でいて、それは優しい眼でバルフレアはパンネロを見つめる。
バルフレアは胸に触れていた手をパンネロの頬に添えて優しくキスをした。パンネロは、ぎゅう、とバルフレアの広い背に手を回し、しがみ付く。
「バルフレア、すごく嬉しそうな顔してる。」
バルフレアはもう答えずに、照れた様に笑ってから、パンネロの唇に己のそれを押し付けた。

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