エッジ前哨戦(FF7)

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頭上でノックと、鍵が回される音が聞こえ、マリンはハッと顔を上げた。
「ティファ!」
マリンはすぐに立ち上がって、地上へのはしごに駆け寄り、デンゼルも後に続く。
ティファが戻って来てくれたことと、
これでマリンも落ち着くだろうと思い、少し気が軽くなる。
だが、降りて来たのは見知らぬ家族だった。
呆然とする二人に、
「あんたら…あの髪の長い女の人の知り合いかい?」
デンゼルが頷く。
マリンは呆然として、それすら出来ない。
「逃げてる途中であの人に助けられてね。ここに来るようにって、鍵をもらったんだ。」
父親の方が鍵をデンゼルに渡す。
「ティファ…は?」
「行かなきゃならないところがあるって…私達のジープを貸してあげたんだよ。」
二人はいかにティファが強かったか、 どれだけ感謝しているかわからない、
と語るのがデンゼルには誇らしい。
が、マリンの口がどんどんへの字型になるのが気が気でない。
その時、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
デンゼルは救われた気がして、話が終わらない家族連れと、マリンに、
「ご…ごめんなさい…ちょっと見て来ます!」
そう言って、慌ててその場を離れた。
泣いているのはミミが抱いてる赤ん坊だ。
「どうしたの?」
「デンゼル…ミルクはあるんだけど…水が足りないの。」
ティファはちゃんと非常用キットを用意していてくれたのだが、
避難する人数の方が多過ぎた。
「俺、汲んで来るよ!」
「だめ!」
いつの間に側に来たのか、マリンが叫ぶ。
「危ないよ!絶対にだめ!」
でも、泣いてる赤ん坊を放っておけないし、泣き声で見つかってしまうかもしれない。
「すぐ上の、店の厨房だし平気だよ!」
大人達も口々に止めるが、 少しでもクラウド達の役に立ちたい気持ちと、
子供らしい冒険心と、 何よりも泣いている赤ん坊を守ってあげたくて。
「大丈夫!俺、こう見えてもWROの隊員なんだ。」
訝しげな大人達の顔をぐるりと見渡し、デンゼルは努めて明るい声で続ける。
「本当だよ!訓練だって出てことあるんだ。
見つからないように…すぐそこだし、大丈夫!」
実際は何度かボランティアとして参加しただけだった。
だが、これくらい言わないと、大人達が納得しないと思ったのだ。
「確かに、今のところ怪しいやつらはいなかったけどねぇ…」
ティファに助けられた家族の、母親の方が呟く。
「様子を見て、危ないようならすぐに戻ります。」
「デンゼル!」
「マリン…」
デンゼルはマリンの手を取った。
「一緒に行くぞ!」
「え…?」
「怖い?」
びっくりして、まんまるになった目がデンゼルを見つめ返す。
やがてにっこりと笑うと、大きく頷いた。
「うん!待っているのはもうやだ!待つのはきらい…一緒に行く!」
二人はしっかりと手を繋ぐと、心配気な大人達を後目にはしごに向かった。
一方、ティファは、物陰から神羅ビルを伺っていた。
アバランチ時代のお陰で迂回路を知っているとはいえ、
発見されずに辿り着けたのは奇跡に近い。
しかも大多数はエッジに進軍中で、人影もまばらだ。
(ツイてる…)
それでも地下から兵士や兵器ロボットが断続的に出て来るので、
侵入は裏からにする事にする。
(こういうの、ユフィの方が得意なんだろうけど…)
クラウドには探って来ると言ったものの、
巨大な神羅ビル跡地のどこを重点的に探ればいいのか見当も付かない。
もう一度ビルを見上げ、上層部は崩壊がひどいし、
大量の行方不明者が出た地下がやはり怪しいだろう…くらいは分かる。
(後は成り行き任せ…かな?)
とりあえず、裏口を前まで来ると、一瞬にして過去がよみがえった。
長い長い階段、ナナキとの出会い、プレジデントの死…
(そして、エアリス…)
ここには、エアリスを助ける為に来たのだ。
(もうあなたに甘えられないんだよね。)
エッジからもミッドガル…特にこの魔晄キャノンはよく見えた。
それは日常の風景の一部となっていたが、こうしてその足下に立つと、
3年前の戦いがまざまざと思い出された。
でも、それは感傷ではなかった。
彼女の事を思い出すと、自然に力が湧いて来た。
立ち止まらず、前に進まなければと思う。
今なら誰が来ても負ける気がしない。
(安心して、エアリス…私たちが、必ず守るから。)
裏口には兵士が二人立っていた。
ティファが飛び出す。
まるで弾丸のようだ。
たちまち機銃が火を吹く。
それを軽く身体を捻ってかわし、あっという間に敵の胸元に飛び込む。
一人をドルフィンブロウで倒し、ジャンプした勢いでもう一人を蹴り倒す。
倒れた兵士のポケットからカードキーを取り出し、扉横の端末に差し込んで開けた。
1フロア降りた所に壁一面にいくつものモニターがあり、
そこに指令書らしき物がいくつか表示されていた。
ティファは手前にある端末を操作し、指令書がどこから出てるのかを探る。
(もう…!また間違えた…)
どうにか指令書の出所を突き止めた。
(でも…ここじゃないわ。ここで中継されてるから…)
端末の操作にはあまり慣れていないので、時間がかかる。
「お手上げだわ。」
指令書は出所を探られない様に、いくつかのサーバーを経由しているようだ。
「とりあえず、この中継地点まで降りてみることね。地下12階か…」
エレベーターを使うか、階段を使うか迷う所だ。
(確か…階段にはカメラもついてなかったわよね。)
だが、地上フロアと地下フロアが同じ施設だとは限らない。
迷った末、階段を降りる事にした。
狭いエレベーターの中だと動きが制限されてティファにとっては不利だからだ。
(上るよりマシ…ね。)
帰りの事はあまり考えない様にして、ティファは非常階段を降り始めた。
マリンとデンゼルはそっと音がしないよう、扉を開けて床下に出た。
床板はしっかりとはめられていて、子供でも屈むくらいのスペースしかない。
「ねぇ、デンゼル、どうするの?こんな大きな板、持ち上げられる?」
「ダメだよ、持ち上げたら上の椅子が倒れて、音で見つかっちゃうよ。」
「そっか…じゃあ、どうやって出るの?」
「前に店の周りを掃除して見つけたんだ。反対側から表に出られる所があるんだ。」
デンゼルが先に立って四つん這いのまま進むのに、マリンも続く。
「そこから一旦外に出て、店の入り口から入るしかないよ。」
外に出ると聞いてマリンが驚く。
「大丈夫なの?」
「ほんの2~3メートルさ。マリンが見張ってくれてる間に、
俺が走って店に入る。で、水を汲んですぐに戻って来るから。」
うん、とマリンが頷く。
「え~っと…」
現在地のおおよその見当をつけ、デンゼルは更に床下を進み、マリンが後に続く。
「うん、ここだ。」
床下の、湿気を逃がすための通風口がある。
メッシュ状になったそれの内側から外の様子を伺う。
道路、屋根の上…デンゼルは怪しい奴がいないか、何度も確認する。
「大丈夫だ。」
そして、網戸を外すと、外に出て、
もう一度周りを見渡すしてから床下のマリンを手招く。
マリンも頷いて立ち上がると、デンゼルに続く。
二人は忍び足で店の入り口から中に入ると、鍵を閉めた。
「はーっ…」
二人同時に大きく息を吐く。
やはりドキドキしたが、無事に中に入れた。
冒険が成功した様な気持ちになって、顔を見合わせて笑った。
「早く水を。」
「うん!」
マリンが床に落ちた割れた食器の中から、
プラスチック製の保存用容器を拾うと、
デンゼルがそれを受け取り、蛇口を捻る。
が、肝心の水が出ない。
「水が…止まってる…」
ミネラルウォーターを探したがない。
汲み置きの水もない。
でも、このままでは戻れない。
(でも…どこに水があるんだよ!)
幼い二人は途方に暮れてしまった。
「デンゼル!地下よ!」
「え…?」
「ボイラーの中なら、お水が残ってるんじゃない?」
以前、お湯が出なくなった事があって、地下室に置いてあるボイラーを
クラウドが直してくれたのをデンゼルも思い出した。
「あのお水を、湧かしてあげたらいいんじゃない?」
避難キットの中に携帯用のコンロがあったはずだ。
「よし!汲みに行こう!」
喜び勇んで二人は駆け出し…
そして…つい、いつものクセで扉をバタン!と強く閉めてしまった。
地下室には保存のきく食料や、
酒や飲み物の瓶がきちんと整理して置かれている。
ボイラーは高さ2m程の筒状の物で、
下の方に中の水を抜く為の蛇口が付いている。
二人はすぐにそこに取り付き、捻ろうとすると、錆び付いて動かない。
(クラウドは簡単そうに開いてたのに…)
デンゼルはポケットから花柄のハンカチを取り出すと、蛇口にかけ、力一杯捻る。
「だめだ…」
「デンゼル!」
マリンがクラウドの工具箱を持って来た。
自分が守ってあげなくてはいけないのに、
さっきからマリンにフォローして貰ってばかりだ。
(しっかりしなくちゃ…!)
「ありがとう。」
デンゼルはそれを受け取ると、蓋を開ける。
色々な形の工具がきちんと収められている。
バイクの整備をいつも横で見ていたので、工具の使い方なら分かる。
錆(さび)を落とすスプレーをかけ、
ペンチで挟んで動かすと、勢いよく水が出て来た。
それを、マリンがタイミング良く容器を差し出し、溢れない様に入れる。
8分目くらいで蛇口を止めると、しっかりと蓋をした。
「よし、行こう!」
工具を直しかけて、ふと金づちが目に入った。
大丈夫だと思う。けど、
(何かあった時のために持って行こう。)
その”何か”が何なのか深く考えず、軽い気持ちでポケットに入れた。

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