エッジ前哨戦(FF7)

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連れ戻すと言っても、エッジの街はまだ先だ。
とりあえず電話をしようと思うが、
ひょっとして今のティファは自分からの電話に出ないのではないか?
それでも、今はそれしか方法がないのだ。
ティファの番号にかけてみる。が、呼び出し音が空しく耳に響く。
(頼む…出てくれ!)
手に力が入り過ぎて、携帯を握りつぶしそうだ。
不意に呼び出し音が途切れた。
「クラウド…?」
「ティファ!俺だ…今どこにいるんだ!?」
とりあえず出てくれた事にホッとして、安心した反動でつい大声になる。
「エッジの街の、端まで来てるわ。」
「なんでそんな所にいるんだ!」
「ごめんなさい…でも、ミミが気になる事を言ってたの。」
ミミの一言で今回の襲撃は、どうも神羅の何かが関係していると確信したのだと言う。
「だから…神羅ビルを探ってみようと思うの。ミッドガルに向かうわ。」
「ダメだ!」
ティファは小さく溜め息を吐いた。
「そう言って聞く私ではないのは、誰よりあなたが知ってるでしょう?」
「でも!」
その時、ティファの背後から何者かが飛び出して来た。
殺気を感じるそれに対し、ティファは振り向きもせず、
右腕に左手を添え、肘を鋭く後ろ向きに突き出す。
エルボーがきれいに入って、犬とも人間とも思えない不気味な生物が
「ギャン!」
と悲鳴を上げて地面に落ちた。
ティファは戦闘不能に陥ったそれを見下ろし、再び携帯を耳に当てた。
「あなたが来るまでに出来る事をしておきたいの。」
「おい!ティファ!」
そこで電話が切れた。
電話が切れたあと、クラウドは電話を叩き付けそうになり、
辛うじて思いとどまった。
クラウドはものすごく怒っていた。
こんなに腹を立てたのは久しぶりだ。
何に腹を立てているのかというと、自分の言う事を聞かないティファと、
彼女を止めるどころか、まともに話すら出来なかった自分の口下手さと、
家族の危機に側に居ない間の悪い自分にだ。
「くそっ…」
1年前、教会で倒れていた彼女の姿を思い出し、スピードを上げた。
ミッドガルに向かうとなると、まずは乗り物を確保しなくては。
乗り捨てられたトラックがあり、ティファは運転席によじ上る。
中には息絶えた運転手がハンドルに突っ伏していた。
(ひどい…)
ティファは眉を顰めた。
足下から怒りが湧いて来る。
運転手をそっと抱き起こし、助手席に横たえてからエンジンをかけてみるが、
キーが空回りするだけだ。
(ダメだわ…エンジンも撃たれたのね)
それにしても、襲撃者は一体何が目的なのだろう?
ミッドガルのすぐ近くにあり、人工も多い街だが、軍事的拠点というわけではない。
WROの基地ではなく、この街が目的なのは何故だろう。
ティファはここに辿り着くまで、たくさんの亡くなった人たちを見て来た。
大人も子供も関係なく折り重なって倒れていた。
街の制圧が目的ではないようだ。
むしろこれはまるで、
(皆殺しが…目的みたい…)
自分の考えにぞっとした。
背筋が寒くなる。
(早く…行かなきゃ。)
運転席を降りる前に、助手席を振り返る。
「あなたの…敵はきっと取るから…」
そんな事で、死んだ人間は帰って来ないのだが。
もう少し早く辿り着いていたらこの人は助かっただろうか。
自分の無力さに崩れ落ちそうになるのを必死で踏みとどまり、
車を探すためにティファはまた駆け出した。
次々と光るブルーのラインの入った戦闘服を着た兵士がティファに機銃を浴びせる。
それを相手の懐に飛び込み、掌打を浴びせ、足を払い、投げ飛ばし片端から倒して行く。
ふと攻撃の波が途切れた。
息が上がるのを、呼吸法で整える。
如何に手練れとは言え数が多過ぎた。
しかも、銃を持った相手だと瞬間にダッシュして
相手の胸元に飛び込んで倒さなければならない。
「ちょっと…なまってるかな?」
そう強がったた所に、頭上から何かが落ちて来た。
(な、何…?)
と、思った所で身体ごと何かに引っ張られて宙に浮いた。
(網…?)
落ちて来たのはがっしりとしたワイヤーで出来た捕獲用のネットだった。
振り向くと、蜘蛛の様な足を持った巨大な機械の塊がいた。
頭頂部からマジックハンドが出ていて、その先に自分はぶら下げられているのだ。
(油断した…)
歯痒さに奥歯を噛み締める。
ワイヤーを切ろうともがけばもがく程、身体に絡み付く。
身体の位置が定まらず、気が付けば頭が下に来ている。
(…もう、最悪ねコレ!)
自分の不甲斐なさをとりあえずネットのせいにする。
ふと機械の方を見ると、銃口が伸びて来て、ティファに標準をぴたりと合わせた。
銃口の奥にチラリと炎が見え、ティファは息を飲んだ。
(…クラウド!)
頭が下、足が上という不自由な体制で、ティファは思い切り反動を付ける為に身体を揺する。
ゆらゆらと振り子の様に揺れるネットの中で銃口の火がまさに飛び出さんとする瞬間を見極める。
(今だ…!)
さらに反動を付け、ネットごとジャンプする。
間一髪で炎が足の下を通過する。
高熱で溶けかけた部分に手をかけ、引きちぎり、そこから辛うじて抜け出すと、
自分を捕らえていた忌々しい機械の塊の上に降り立ち、掌打ラッシュを浴びせる。
鉄板が、ティファの拳の形にどんどん凹んでいく。
蜘蛛の様な足の一本ががくん、と崩れた所で足下に飛び降り、
本体を片手で持ち上げると、高々とジャンプし、地面に叩き付けた。
バラバラに砕け散り、火を吹くそれの傍らに降り立つ。
「倍返しよ。」
そううそぶくと、スクラップとなった塊に
見向きもせずにまた駆け出したのだった。
それにしても、ピンチの時になると彼の顔が過るのは、以前のままらしい。
彼は今頃、猛スピードでこちらに向かっているはずだ。
(でも、きっと、とても怒ってるだろうけど…)
入り組んだ路地を駆け抜け、南側の広場の手前で足を止めた。
物陰から様子を伺うと、『神羅』の文字の入ったカーゴに
たくさんの人が詰め込まれている所だ。
周りを兵士が取り囲んでいる。
ティファにも今の神羅がここまでするとは思えなかった。
腹の底こそ分からないが、ルーファスを始めとする残存勢力は
今では『借り』を返す為復旧に全面的に協力していると聞く。
(でも…やっぱり怪しいわ。)
中には奇妙なヘルメットの様な物を被っているが、
ソルジャーの服装の者もいたからだ。
ティファはますます確信を深めた。
そして、現状をどうすべきか頭を巡らせる。
今、飛び出して戦うと、街の人を巻き込んでしまう。
大きなプロペラを付けた巨大なヘリコプターが街の人を乗せたカーゴを積み込み、
どんどん飛び立っていくのを物陰に隠れて見ているだけだ。
またもや自分の無力さにティファは唇を血がにじむほど噛み締めた。
不意にティファのいる反対側の道路からジープが走って来た。
乗っているのは家族連れのようだ。
後ろから、さっき倒したのと同じ、奇妙な生物ービーストソルジャーが追いすがる。
ティファはすぐにこちらに走ってくるジープに向かって駆け出した。
必死で運転していた父親は思わず悲鳴を上げた。
後ろからは得体の知れない獣が追いかけて来て、
正面からは人間が突っ込んできたからだ。
思わず目を閉じ、急ブレーキを踏む、と、
正面の人物は走っている車のフロントにとん…と両手をつくと、
まるで跳び箱でも飛ぶかの様に軽々とジャンプしジープを飛び越えた。
かと思うと、掌拳で一匹目のビーストソルジャーを吹き飛ばした。
掌拳の勢いで身体を回転させると、
残り1匹を鮮やかな回転蹴りを喰らわす。
飛ばされたビーストソルジャーは壁に叩き付けられ、
ずるずると地面に滑り落ちた。
蹴り飛ばされた方は宙に舞い上がり、即座に地面に叩き付けられた。
着地したティファはすぐにジープに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
乗っていた家族は父親と母親、そして二人の女の子だった。
何が起こったか漸く理解した父親はすぐにティファに礼を言った。
「街の外に逃げようと思ったんだが…周り中、銃を持った兵士ばかりで…」
「私の家に下水道に続く隠し扉があります…
そこに近所の人みんな避難してもらってるんです…そこへ行って下さい。」
ティファはそう言うと、ポケットから鍵を取り出し、父親に渡した。
「入り組んだ路地なので車では行けませんが…ここに来るまでの敵は残らず倒しました。
だから子供連れでも大丈夫です。」
「倒したって…あんたが一人で…?」
ティファは曖昧に微笑む。
「もうすぐ救援も来ます。でも、急いで。」
ティファは店の場所、隠し扉の位置、3回ノックのルールを伝えた。
「でも…鍵をもらっちゃったら、あんたが入れないんじゃ…」
横にいた母親が心配そうに尋ねる。
「もう一つ鍵を持ってるの。だから心配しないで。
それと…私、どうしても行かなきゃいけない所があるの。
このジープを借りてもいいかしら?」
7th Heavenに向かう家族を見送り、ティファはホッと息を吐いた。
一人でも多く助けられる事が前に進む活力を与えてくれるのだ。
鍵を渡してしまったが、心配ない。
(そう…鍵はもう一つあるの)
もう一つの鍵は、フェンリルのキーにぶらさがっているはずだ。
クラウドはきっと来てくれる。
だから、鍵は一つでいいのだ。
ティファはジープに飛び乗ると、エンジンをかけた。
そして、街から臨む魔晄キャノンを一睨みすると、
「首を洗って待ってらっしゃい!」
そう呟いて、アクセルを乱暴に踏み込んだ。

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