エッジ前哨戦(FF7)

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登場人物:クラウド×ティファ
オールメンバー(リーブ、ヴィンセント、シド、ユフィ以外)、マリン、デンゼル

DCでエッジが襲われた時、登場人物以外のメンバーは何をしていたのか気になって書いたお話。
ティファがどうしてディーグラウンドの地図を持っていたのか、エンディングにしか登場しなかったナナキは何をしていたのか…等等。


遠雷が聞こえて、ティファは手を止め、窓の外に目をやった。
『本日のスープ』に使うキャベツを小さな手に抱えた子ども達も同じ様に外を見る。
「雨かな?」
「クラウド、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫よ。」
心配そうなマリンとデンゼルは窓から声の主に視線を移す。
「通り雨よ。」
「通り雨?」
「そう。この季節は多いの。
でも、雨が降る場所も狭い範囲だし、すぐに雨は止んじゃうわ。
クラウドが今日行ってる辺りだと、逆にいいお天気かもしれないわ。」
本当にそうだといいんだけど、と心の中でティファは付け足す。
それに、この季節に雷が鳴る事はめったにない。
それがティファの心に小さな不安を呼び起こす。
「クラウドったら、レインコート持ってるかしら?」
「そんな物なくても平気さ。」
女の子らしい心配をするマリンに、男の子らしい負けん気のデンゼル。
二人の気を反らせようと、次のお手伝いをティファが言いかけたその時、
空気を裂く様な音がし、すぐに爆音が響いた。
『7th Heaven』が激しく揺れて、ティファは咄嗟に二人に覆いかぶさった。
棚から食器が派手な音を立てて落ちて来る。
子ども達は何が起こったのか分からず、ティファの下で呆然としている。
(…爆弾?)
いや、その前に頭上から空気を裂く、ヒュウウウ…という嫌な音がした。
(ミサイル…?それとも爆撃?)
カダージュ達の登場、セフィロス復活から1年経っていた。
世界はまた復興に向けた進み始めたのに、一体何者の襲撃なのだろう。
しかし、今はそんな事を考えている場合ではない。
声もなく震えている、この子達を守らなくては。
(クラウド…!)
ここにいない、自分だけの英雄の名前を呼ぶ。
爆発は途切れる事なく続き、激しい揺れが続く。
それでも、棚の物はひとしきり落ちてしまったようだ。
ティファは立ち上がり、二人を立たせると、フロアのテーブルの下に隠れさせた。
落ち着かなくては。
子供達を怖がらせちゃいけない… 出来るだけ、いつもの声音で、
「いい?動いちゃだめよ、ね?」
ぎこちなく頷く二人の頭を撫でると、ティファは立ち上がった。
何かあった時に、どう動くか…
ちゃんとクラウドと相談しておいてよかった。
カウンターの椅子を乱暴にどけると、床板と床板の間の3cm程の幅の隙間がある。
それが目印だ。
「はぁっ!」
気合いと共にその隙間に手を垂直に差し入れる、
と同時に床板をまくり上げた。
畳一畳はあるかの板を軽々と捲り上げたティファに、
テーブルの下で震えていた二人も息を飲んだ。
床下に現れた1m四方の金属の扉を開けると、二人を庇う様にして扉の側まで連れて行く。
「いい?扉を3回叩くから。」
「ティファ!」
「それ以外は何があっても開けちゃだめよ。」
「ティファ!ティファはどうするの…?」
「大丈夫。ちょっと街の様子を見て来るだけ。」
「やだ!危ないよ!ティファも一緒に…」
「マリン…」
縋り付くマリンの頭を優しく撫でてやると、ティファはウィンクをしてみせる。
「孤児院の様子も見に行きたいの…大丈夫よ。
私だって、クラウドやバレットにだって負けやしないんだから。」
「でも…」
マリンは大きな瞳に涙をいっぱい溜めてティファを見上げる。
「分かって、マリン…私は、そうしなければいけないの。」
真剣なティファの瞳に、マリンは言葉を失う。
でも、行かせてはならないと必死に言葉を巡らせる。
「大丈夫だよ、ティファ!マリンは俺が守る!」
「デンゼル…」
「マリン、俺と行こう」
「やだ!」
マリンは大きく頭を振る。
「デンゼル、ここを降りると、下水道よ。そこでじっとしていなさい。
食料と、水と、緊急用に電話があるわ。もし…」
言いかけて、ティファは口を噤んだ。
(いえ、そんな事があってはいけないのだけど…)
言い淀んだティファを察したのか、
「俺、マリンの父ちゃんに連絡するよ!クラウドにも!」
元気にデンゼルが答えた。そして、マリンの手を取ると、
「俺たち、大事な役目があるんだ。行こう!マリン!」
マリンはきゅっと唇を噛んで、ティファを見、そしてデンゼルを見て、漸く頷いたのだった。
外に飛び出すと、空が真っ赤だ。
隣のおばさんが不安げに空を見上げている。
「おばさん!」
「あぁ…ティファちゃん…一体何が…」
「話はあと!早く家へ!」
ティファは近所の住民を、子ども達が避難した下水道への扉に誘導する。
「いいですか?扉を叩くのは3回です。敵に見つからない様に…」
「敵?…敵って誰だい?」
それはティファが聞きたいくらいだった。
不安がる住民達をとりあえず下水道に避難させると、
2ブロック先にある孤児院に向かう。
中から子供達の泣き声が聞こえるが、まだ火の手は上がっていない。
「大丈夫?」
ティファが入って来たのを見た、二人いた保母はホッとしたように、
「助かるわ、ティファ。子ども達、みんな泣き出して動けなかったのよ。」
小さな子供は抱きかかえて、歩ける子は歩かせて、
なんとか店の中まで連れて行く事が出来た。
先に避難させていた住民達に手伝ってもらい、子供達を地下に降ろす。
最後に残ったのは保母の一人でミミという女性だった。
ティファとは歳も近く、7thHeavenにもよく食事に来ていた。
「あなたが最後よ、ミミ。」
「ありがとう、ティファ…でも…一体何が起こったの?
たくさんの人がミッドガルで行方不明になったり…」
行方不明者の中にはミミの恋人もいたのだ。
ミミの何気ない言葉がティファの頭の中で何かと何かを結びつけた。
「ティファ…?」
「う…うん、なんでもない…」
「ティファ、早く!」
老人や子供を率先して手助けをしていたデンゼルが顔を出して叫ぶ。
「クラウドや、マリンの父ちゃんにはちゃんと連絡したよ!
クラウドは、こっちに向かってる!2時間くらいかかっちゃうけど。」
「バレットは?」
「シエラ号の館長さんに連絡してから来るって!
トレーラーで来るから、みんなを運べるよ!」
無駄のない報告にティファは満足げに頷いた。
ミミが下水道に降りてしまうと同時に、爆音がますます近付いて来た。
マリンも心配そうにデンゼルの横から顔を覗かせる。
「ティファ!クラウドが、ティファも一緒に待ってなさいって!」
「分かったわ、マリン。」
ティファの言葉にマリンも安心したようだ。
二人が先に降り、ティファもそれに続くのだろうと梯子の上を見上げて待っている。
しかし、ティファは降りて来ようとしない。
「ティファ?」
ティファは少し悲しそうな顔をして、ごめんね、と呟くとゆっくりと扉を閉め、
ポケットに入れてあった鍵で鍵を閉めた。
マリンは悲鳴を声を上げ、再び梯子を上る。
「ティファ!ティファ!」
中から必死に扉をを叩く。
すぐに優しい声で返事が返って来た。
「大丈夫、マリン。ちょっと様子を見て来るだけ。」
横でデンゼルが宥める声も聞こえてくる。
「ごめんね…」
(でも、行かなきゃならないの…)
ティファは振り切る様に立ち上がると、床板をはめ、その上に椅子を並べた。
カウンターのシンクの下に直してあった箱を散り出すと、
中から肘あてと革手袋を取り出し、身に着ける。
そして、とある場所に向かって駆け出した。
クラウドはデンゼルからの連絡を受け、
エッジを目指してひたすらフェンリルを走らせていた。
腰のホルダーに入れてある携帯が震えている。
着信を見るとバレットだ。
あらかじめ電話を耳から離しておいてから着信ボタンを押す。
案の定、電話の向こうで大声が響く。
エンジンの音がやかましいのに、余裕で耳まで届くほどだ。
「クラウドおー!今、どこだぁーっ?」
「エッジに向かっているところだ。」
バレットはマリンやデンゼルから連絡があったこと。
マリンがひどく怯えていること。
トレーラーで向かうので避難する人を乗せられることを伝え、
クラウドはそれを耳から遠ざけた状態で聞いた。
「それとよ、シドに聞いたんだがよ。
神羅のマークを付けた軍隊があちこちを襲っているらしい。」
「神羅の?」
「おかしいだろ?つかみ所のねぇ奴だが、
今のルーファスがそこまでやるとは考えるられねぇ!
どうもプレジデントが生きてる時代のやっかいな遺産らしい。」
「セフィロスではないんだな。」
「WROの本部も襲われた。リーブとビィンセントが一緒らしい。
エッジが襲われてるから助っ人に来てくれるとよ。」
言われてみると、昔、そんな噂を聞いたような気もする。
「…バレット!その時の責任者は誰だ?」
「スカーレットと、宝条だっ!」
「宝条…?…それは…」
「面倒な話は後だ!お前の方が先に着くはずだ!マリンを頼んだぜ!」
(やはりな…)
死んだ後もどれだけ災いを引き起こすのだろう…全ての災いの元凶だ。
だが、今は一刻も早くエッジに辿り着くことだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
あの時は間に合わなかったが、今度は間に合わせてみせる。
そして、ティファを思う一方で、
何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。
(そう言えば…)
バレットはヴィンセントもこちらに向かっていると言っていた。
(ヴィンセントがあの身体になったのも宝条のせいだったな…)
何か因縁の様な物を感じた。
残された下水道で、デンゼルの声も耳に入らないかの様にマリンが泣いている。
「泣くなよ、マリン…」
デンゼルは途方に暮れていた。
心配なのは自分も同じだか、いつも聞き分けの良いマリンがなぜ…?
「大丈夫だよ、ティファもすっげー強いんだろ?」
デンゼルは戦うティファを見たことがない。
たまに、トレーニングをしているのは知っていたが、
あの細腕でサンドバッグが折れんばかりのパンチを繰り出すのを見ていたからだ。
「知ってるよ!」
マリンの強い口調に、デンゼルはたじろいだ。
だったらどうして…と聞こうとするが、マリンはぎゅっと唇を結んで開こうとしない。
(なんなんだよ、一体…)
途方に暮れて、ポケットに手を突っ込むと、指先に電話が当たった。
(ティファの事を報告しなきゃ…)
デンゼルはそれを取り出し、再びクラウドにかけた。
電話はすぐに繋がった。
「クラウド!ティファが…」
「どうした?」
「様子を見に行くって、出て行っちゃったんだ!」
クラウド、ハンドルを切り損ね、危うく転倒しそうになる。
「クラウド?」
「ああ…」
ひどく動揺している自分がいた。
と、同時にティファならそうすると分かっていたのに、
何故注意しなかったのかと自分を責める。
「ティファは…子供の頃からそうだった。いつも自分の事は後回しなんだ。」
「クラウド…?」
クラウドが何を言っているのか分からず、デンゼルは鼻白んだ。
でも、泣いているマリンをどう扱えばいいのか分からない。
泣きたいのは自分も同じだ。
クラウドに何か言ってもらいたい。
「クラウド、マリンが泣いてるんだ。ティファを心配して。」
一瞬、自分の思考に沈みかけたが、デンゼルの悲痛な叫びに現実に呼び戻される。
「デンゼル。ティファは俺が連れ戻す。信じろ。」
「分かった!」
はっきりと言い切ったクラウドにホッとして電話を切る。
「マリン!クラウドが大丈夫だって!ティファを連れ戻すって!」
膝を抱え、そこに顔を埋めていたマリンがゆっくりと顔を上げる。
「うそ。」
「マリン?」
「だって、この前、クラウド来なかった…」
「この前って…?」
「教会で…ティファが…やられてるのに…
“クラウド!”って呼んだのに、来なかった…」
マリンが言っているのは1年前のセフィロスの復活の時の事らしい。
(それで…)
いつも聞き分けの良いマリンがと不思議だったのが漸く合点がいった。
「分かってるよ。ティファを信じなきゃ。
でも…怖かったの。ティファが死んじゃうって。」
マリンは再び、膝を抱えるようにして顔を伏せてしまった。

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