自信のないバルフレア(FF12/R18)

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最初は手に入れた宝物に夢中だったので気付かなかった。
行為の最中、パンネロは目を合わせようとしない。
そう気付いてからは、
(まだ慣れていないから恥ずかしがってるんだろ。)
と、単純に思っていた。
むしろ、泣き出しそうな顔の目尻に悦楽の涙がにじみ、きゅっと噛み締めた唇がやがてほころび、可愛らしい喘ぎ声が溢れてくる様がますますバルフレアを焚き付けていた。
だが最近ではその仕草を見ていると、自分が何か悪いことをしている様な気がしてきて。
それだけではない。
こみ上げて来る不安にいたたまれなくなって、息苦しくなる。
バルフレアは思わず動きを止めた。
パンネロはと言うと、バルフレアの身体の下で、ベッドに顔を押し付ける様にして顔を伏せ、左手の甲で目を隠す様に覆ってしまっている。
「パンネロ。」
甘くて苦しい快感に翻弄されていたパンネロは、不意に止んだ嵐に、恐る恐る顔を上げる。
バルフレアもパンネロの顔を覆っていた手を取り、繋いだままシーツに押し付ける。
お互いの鼻の頭が触れ合うのではないかと思う程間近にバルフレアの顔があり、パンネロは慌てて目を反らせてしまう。
分かっている。
恥ずかしがっているだけだ。
なのに、どうして置いてけぼりにされた様な気持ちになるのだろう。
「パンネロ。」
もう一度呼ばれ、パンネロはおずおずと顔を上げる。
「なんて顔をしてるんだ。」
パンネロは行為の最中の自分の表情がよっぽどおかしいのかと慌てて弁解のために口を開きかけたが、
「…どうしたの?」
思わず尋ねてしまったのは、バルフレアの方がよっぽどひどい顔をしていたからだ。
不安そうに、じっとパンネロを見下ろしている。
パンネロは開いた右手で、そっとバルフレアの頬に触れた。
最初は不機嫌になっているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
パンネロはもう一度バルフレアの名を呼ぼうとしたが、先にバルフレアが唇を優しく押し付けて来た。
そのまま、パンネロの上唇だけを自分の口にそっと含む。
次に下唇も。
バルフレアの意図が分からず、パンネロは大人しくされるがままになっている。
「パンネロ。」
何を言われるのだろうと不安になり、パンネロはじっとバルフレアの緑色の瞳を見つめ返す。
「声を噛むな。」
そして、人差し指でそっとパンネロの唇を撫でる。
「唇が、こんなに腫れちまってる。」
だって、と口を開きかけたが、眉間に眉を寄せ、どこか辛そうなバルフレアにパンネロは何も言えなくなってしまう。
バルフレアは今度はパンネロの目尻に唇を寄せる。
「目も、閉じるな。顔も隠すな。」
畳み掛ける様に言われ、パンネロは返す言葉が浮かばない。
何故バルフレアがこんな事を言い出したのか分からず、見つめる事しか出来ない。
だが、バルフレアの思い詰めた様な表情を見ていると、胸が苦しくなる。
「だって、私…きっとほら、こ〜んな顔してるもの。そんな顔、バルフレアに見られたら恥ずかしいよ。」
パンネロは重い空気をなんとかしようと、“こ〜んな顔”でわざとしかめ面をしてみる。
が、バルフレアはニコリともしない。
それどころか、眉間に刻まれた皺が一層深くなったような。
パンネロは自分の作戦の失敗を悟り、首を竦めた。
「俺は、お前の身体だけが欲しいんじゃない。」
唐突に、唸る様に吐かれた言葉に、パンネロは息を飲んだ。
バルフレアはパンネロの首筋に乱暴に顔を埋めると、
「声を噛むな。目を閉じるな。顔を隠すな。」
同じ言葉を繰り返し、そして、
「……頼む。」
耳元で囁かれた言葉は消え入りそうな小さな声だった。
今まで見た事がないバルフレアの態度は、パンネロにとって驚きだった。
両腕をおそるおそる、バルフレアの首に回し、頭を優しく撫でてやる。
「バルフレア、大好き。」
抱きしめていたバルフレアが小さく身じろいだ。
「優しくて、カッコよくて、スマートで。私みたいな子供、相手になんかされないと思ってた。だから、バルフレアが私と同じ様に想っててくれたって知った時、“こんな素敵な人が本当なの?嘘じゃないの?”って。」
バルフレアは漸く顔を上げた。
「ねぇ、知らなかった?」
いつもの余裕のある、どこかからかう様な表情とは違い、真剣だが、まだ少し不安が残っている表情だ。
いつも経験が豊かなバルフレアに翻弄されて、自分が幼くて未熟に思えて本当に恥ずかしかっただけだ。
決して意図して取った態度ではなかった。
なのに、それがこの自信とプライドの塊の様な男をここまで追いつめていたなんて。
「ごめんね。私…ちゃんと言ってなかったね。バルフレアはいつもたくさん言ってくれるのに。」
パンネロはバルフレアの頭をそっと引き寄せ、強く唇を重ね合わせた。
ふと目の端に飛び込んで来たバルフレアの表情は少し気まずそうではあるが、喜びを隠せない屈託のない笑顔だった。
(なんだか、かわいい…)
今までに見た事のない照れた様な表情が愛おしくてたまらない。
唇を離すと、またすぐに塞がれた。
温かい唇に覆われ、すぐに熱い舌が優しくパンネロの唇をなぞる。
パンネロが唇を薄く開くと、すぐに口内に潜り込んで来る。
そして、ゆっくりと口の中をなぞり、パンネロの舌を掬い上げ、絡ませた。
長い長い口づけで、それだけで身体の芯が熱くなり、心が震えた。
唇が離れると、バルフレアは愛おしげにパンネロを見下ろし、パンネロもその瞳を真っすぐに見つめ返す。
「ねぇ、バルフレア?バルフレアは私の何が欲しいの?」
バルフレアは唇の端を少し上げ、にやりと笑った。
いつもの、あの笑顔だ。
「身体だけじゃないって言ったよね?心も?」
「だったら、もう全部俺の物だな。」
すっかりいつもの調子を取り戻しているバルフレアにパンネロは呆れてしまって、上目遣いで睨みつける。
「そんな可愛らしい顔で睨まれても、ちっとも怖くないな。」
そんな軽口を叩きつつも、ふと真顔になる。
「お前に拒まれている様な気がした…てことは、盗まれたのは俺の方か…」
「もっと言った方がいい?」
バルフレアはパンネロのあごを掴んで顔を持ち上げ、もう一度軽くキスすると、
「まずは、さっきの続きだな。」
パンネロの返事を待たずに動きを再開させたのは、多分、きっと照れくさいからだろう。
やがて、穏やかな快感がパンネロの身体を満たしていく。
それは激しいうねりとなり、パンネロを揺さぶった。
パンネロはもう躊躇うことはなかった。
(だって、バルフレアの方が私の事を好きなんだもん。)
そうして、思う存分何度もバルフレアの名を呼び、視線を絡ませた。
おわり。