男にはわからない。(DDFF/R18)

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「ライト…?」
フリオニールはライトニングの行動の意味が分からず、肩越しに振り返る。が、ライトニングはフリオニールの首の辺りに顔を埋めてしまって表情が見えない。
「…どうかしたのか?」
まさかライトニングが自分の身体を見て発情中とは思いもよらないフリオニールはいつもの調子でライトニングに尋ねるのだが、素直に「抱いてほしい」とも言えないライトニングもどう返せば良いのかわからない。ただ、身体は逞しいのにすべすべと滑らかな肌とダイレクトに伝わってくる体温に心臓の鼓動は早まるばかりだ。
フリオニールも漸くライトニングがいつもと様子が違うのに気付いたようで、
「…ライト…」
フリオニールの口調が変わり、低く、優しい声でライトニングを呼んだので、ひょっとして察してくれたのかとライトニングも思わず顔を上げ、真正面から縋るようにフリオニールを見つめる。
「…一緒に入りたいなら…」
「違う。」
「じゃあ、1人で入りたいならすぐに出るが?」
「バカか、お前は!」
キツい言葉にさすがに面食らったフリオニールだが、これはライトニングが素直になれない時に必ず出てくる言葉と知っているので、ではライトニングが何を欲しているのだろうと考えてみる。が、フリオニールは今現在自分が浸かっている天然の風呂のことに関してしか頭が回らず、一緒に入りたいのでもない、一人でも嫌だとしたらなんだろう、などと見当違いなことを考え続けている。
「…すまん、また…」
「いや…構わないさ。」
ライトニングも言い過ぎたと気まずげに俯いてしまう。天然の浴槽の前で跪いて俯いたままのライトニングと、それを肩越しに振り返るフリオニールはお互い動けないまま時間だけが過ぎていく。
不意にフリオニールが立上って、それがどこも隠そうとはしないので、ライトニングは顔を赤らめ、慌てて頭を上げてフリオニールの顔を見た。
「ちょっと窮屈かもだが、なんとかなる。」
そう言うと、ライトニングの手首をつかみ、ぐい、と引っ張った。引っ張られてよろけたライトニングは足だけ天然の浴槽に足を突っ込んでしまう。狭いスペースのせいでお互いの身体が触れ、ライトニングの衣服はフリオニールの身体についている水滴のせいでびしょびしょになってしまったし、ブーツの中まで湯が入り込んで。いきなり何を、と怒ろうとしたライトニングだったが、
「一緒に入ろう。」
そう言って笑いかけるフリオニールに、二の句が継げられなくなってしまう。
「…靴が…」
水浸しになった文句を言いたいのに、目の前のフリオニールの裸体がまぶしくて強く言うことができない。
「ああ、すまない。でも、すぐに乾くさ。」
フリオニールはライトニングを縁に座らせ、その足をまるで捧げ持つようにして片方のブーツを脱がせた。そのブーツをひっくり返し、中のお湯を外に捨て、反対側も同じように脱がせる。いきなり湯船に引っ張りこんだりと、やっていることは子どもなのに、靴を脱がせる仕草はまるで童話に出てくる王子のような跪き、ガラスの靴でも扱うように、ブーツを丁寧に脱がせる。
膝から下を暖かい湯に浸すと、それだけで気持ちが緩む。フリオニールは湯船の中に座ったままライトニングが入ってくるのを待っている。それこそ、ほこほこと湯気を立てている湯の中でなにも邪なことなど考えていないように見える。
(今から一緒に泳ごうと誘っている子どもみたいな顔だ…)
ライトニングはフリオニールの言う通り、このまま一緒に入ってもよいのではないか、と思えてきた。
「…あっちを向いてろ。」
フリオニールは素直に分かった、と答えてライトニングに背を向ける。ライトニングは周りに誰も居ないかきょろきょろと周りを見回し、手袋、肩甲、武器のホルスターを外した。胸の下にあるベルトを外し、ジャケットを脱ぐ。足を上げてスカートも脱ぐ。そこで手が止まった。
(別に…全部脱がなくても…)
だが、余分な贅肉はほんの一片もついていない大きな背中が目に入り、はっと息を飲んだ。
(誰も…居ない…)
そうして、誰も来ないで欲しいと心から願った。どうぞどうぞ今だけはと強く願うと、ライトニングはファスナーを下ろしてニットを脱いだ。両手を背中に回し、下着のホックも外す。足を湯から浮かし、レギンスと、下着も脱ぎ一糸まとわぬ姿となる。そのままフリオニールに歩み寄ると、そっと身体を屈め、フリオニールの大きな背中にぴったりと身体を寄せ、抱きしめた。
ああ、なんて心地よいのだろう、とライトニングは思った。自分がずっと探していた物はひょっとしてこれなのではないかと思うくらいだ。肌と肌が触れると心地よい、暖かい体温が心地よい、大きくて固い背中が心地よい。
一方フリオニールは落ち着かない。ライトニングの肌は滑らかで、自分を抱きしめてくる腕は抜けるように白い。背中に押し付けられる2つのむっちりとした膨らみが二人の身体に押しつぶされている。その柔らかい感覚に一気に湯にのぼせたかのように頭に血が上る。
「…ライト…」
おそるおそる肩越しに振り返ってみると、ライトニングはフリオニールの背中にぴったりと頬をあてて、きゅっと目を閉じていた。睫毛には湯気のせいか水滴が溜まり、微かに震えていた。いつもはライトニングの激しさや鋭さに隠れた優しさと臆病さが露わになり、どこか痛々しく見え、フリオニールの心をかき乱した。いつもよりもずっと幼く、そしてまるで少女のように可憐に見えた。
「ライト。」
フリオニールは振り返りざま、自分の額をライトニングの額に合わせ、瞳を覗きこむ。ライトニングが腕を回しているので身動きができないので、自分の額でライトニングの顔を上げさせ、じっとその瞳を見つめる。
「…君が…とても大切で…どう言えばいいんだろう…」
ライトニングの頬は湯の温かみで赤みがさしている。
「明るくて、きれいな所に連れていってあげたい。俺と君が好きな、あの花が咲いてるところだ。」
ライトニングがまるで眩しい光でも見たかのように、目をすぅっと細めた。
「暖かい場所に連れていってあげたい。暖炉があって、柔らかいベッドがあって、うまい食べ物があって。」
言葉を重ねれば重ねるほど、フリオニールは自分が何もできない、無力な子どものように思えた。さっきまでライトニングがあどけなく見えていたのに、今は出来もしないことを延々と並べたてるフリオニールの心を見通し、そしてそれを許してくれるように優しく微笑えんでくれるように思える。
「…言っただろう…」
ぽつりとライトニングが呟いた。
「お前が居れば…何も怖くない…何も…」
ライトニングは言葉を切って、フリオニールの身体に回していた手を解き、頬を両手で包んだ。いつもフリオニールが自分にしてくれるのを真似てみたのだ。
「何も、要らないんんだ…今、お前がここに居てくれる…それだけで。」
恋人の言葉が何よりもうれしく、同時に切ない。当たり前の幸せなど望むべくもないこの世界で出会ったことは悲劇なのか、それともささやかながらも幸せな時間を持てることは僥倖なのだろうか。何が正しいのかフリオニールには分かるはずもない。ただ、今できることは一つしかないと、ライトニングを強く抱きしめた。
狭いのでフリオニールはライトニングを膝に乗せる。ライトニングはフリオニールの胸に大人しく身体を預けてくる。白い肌がばら色に染まり、すらりとした足も腕も小さく折りたたみ、それが花びらのように見えて、ライトニングは本当にあの花みたいだとフリオニールは思う。
柔らかい髪を指に絡めると、ライトニングも同じようにしてフリオニールの髪をくるくると指に巻き付け、首を少し傾げてみる。ライトニングの意図が分からず、濡れて額に張り付いた前髪をそっとかきあげてやると、ライトニングはクスクス笑いながら首を横に振る。分からない、という表情で首を傾げてみせると、ライトニングが声を立てて笑う。バカみたいだ、とライトニングは思うが、二人してまるで赤ん坊にでもなったかのような、幼稚な遊びが楽しくてうれしくてくすぐったくて。フリオニールは今度こそはと、ライトニングの額や頬に口付ける。どれも間違いだとライトニングが首を横に振る。
「こら。」
フリオニールの頬を摘んでみる。きっとフリオニールの身体で指で挟んで摘める箇所はここくらいだろう、などと思いながら。
「うん?」
「本当はわかってるんだろ?」
「バレたか。」
フリオニールがくっくと笑う。抱えられて、触れている腹筋が引きつるのが分かる。そうしてゆっくりと柔らかな口唇を自らので覆う。湯に浸かっていて身体は温まっていたが、軽く触れただけなのに、更に体温が上がった気がした。
「ここでいいのか?」
「他にどこがある?」
「そうだな…」
フリオニールはライトニングの手を取り、手の甲に口づけた。
「ここはどうだ?」
「どうかな?」
そこからちゅっと音を立てて、手首から腕、肘、二の腕にかけて印を押すかのようにキスを落とす。そのまま首筋に顔を埋められ、そっと歯を立てられ、くすぐったくて身体が小さく跳ねた。
「お前は全部知ってるくせに。」
「ライトもそうだろ?」
「言わなくてもわかってるくせに。」
「そうだな。もう一度キスしたらいいんだろ?」
フリオニールの指先がライトニングの口唇を撫でる。ライトニングはまるで羽ばたくように優美に腕を伸ばし、フリオニールの首に優しく巻きつけた。
「もう一度だ。」
フリオニールは紅い口唇にそっと口付ける。ライトニングはすぐに自ら口唇を開き、フリオニールの舌が忍び込んでくる。泣きたくなるほど幸せな気分で、ライトニングはそれを受け入れると自らのをフリオニールの舌に絡めた。
「お前が、何を欲しがってるかわかってる。」
「俺もだ。」
「本当か?」
いつも自分が察して欲しいことと見当違いの答えをしてくるのに、とライトニングが訝しげに軽く睨んでみせる。フリオニールはライトニングの細い顎を指でそっと持ち上げ、
「簡単だ。俺はライトが一番好きで、ライトは俺が一番好きだ。俺はライトが欲しくて、ライトも俺が欲しい。」
ライトニングは一瞬目を丸くしたが、すぐに口角を上げて笑ってみせる。どうやらフリオニールの答えに満足したようだ。
「ライト、愛してる。君が欲しいんだ。」
いつもみたいに照れることもなく、ライトニングの瞳を真っ直ぐ見つめ心をこめて伝える。ライトニングはフリオニールの瞳を見つめ返し、
「お前にやる。全部やる。だから、お前の全てをくれ。私とお前が一緒にいる間、ずっと…ずっとだ。」
「うん。ずっとだ。」
まるで母親の胎内にいる双子のように、同じことを考え、感じていた。身体が一つになったかのようだった。小さな子ども二人がうれしくてうれしくてたまらなくてはしゃいでいるようだ。
言葉は尽きて、ライトニングはの顔が近づいてきた。二人は何度も口づけを交わし、舌を絡め、それはどんどん深くなっていった。お互いが相手の気持ちに応えようとする、真摯なキスだった。

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