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逃げようと身体をよじったり、体中から沸き起こる得体のしれない甘ったるい熱から気持ちを逸らせようとしても、それらはすべて徒労に終わった。逃げようとする身体はたくましい腕にしっかりと抱き締められ、ライトニングの舌に絡みついてくるフリオニールのざらりとしたそれは、肌をぞわりと粟立たせた。
ひたむきにライトニングを欲する熱情からはどんなに逃げようともがいても果たせない。触れる体温、しっとりと汗ばんだ肌をシャツ越しに感じて自分が纏っている衣服が不意に邪魔に感じてしまい、またそのことがライトニングを混乱させた。
何もかもがフリオニールのペースだ。自分を抱きしめ、愛撫してるのは今までにこにことライトニングの話を聞いていたあの気立ての良いフリオニールではなかった。ライトニングの頭の中は疑問符でいっぱいだった。どうしてフリオニールがこんなに豹変してしまったのかが分からない。
「や…め……」
口唇が首筋に移り、細い喉を食むように口づけ、時には首筋を舐め上げる。どうして、と心は戸惑うのに鼓動はどんどん速くなって、突然の強い刺激にはドクンと心臓が跳ねる。全力でフリオニールを止めなくては、そう思うのにどうしても抗うことが出来ない。
「ライト…」
低く、かすれた声で名前を呼ばれた。
「止めたって、無理だ…」
首筋に顔を埋めて囁かれたせいで吐息がくすぐったい。思わずフリオニールの頭を抱きしめるようにしてライトニングは首をすくめた。
「お…前…は、…」
「どうやったら止まるか…教えて欲しいくらいだ…」
「や……」
甘い言葉に心がとろける。鼻先で敏感な首筋をくすぐられ、ライトニングは思わず声を上げ、その声に自分で驚く。こんな甘ったるい声を自分が上げるなんで。思わずいやいやと頭を振る仕草も、フリオニールにはライトニングが駄々をこねてるようにしか思えない。
「ライト…」
フリオニールはうっとりとライトニングを見下ろし、
「そんなに恥ずかしがらないでくれ。」
恥ずかしがってるのではなく、拒否しているつもりだったライトニング、フリオニールの言葉に思わずキッとその目を睨みつける。が、薄茶色の瞳が優しくライトニングを見つめていて文句の言葉が続かなくなる。ライトニングへの想いが溢れたその眼差しに、心がどうしようもなく浮き立ってしまうのだ。頬を赤らめ、瞳を伏せてしまったライトニングにフリオニールは慌てて、
「頼むから!顔を伏せないでくれ!」
思わず上がった抗議の声にライトニングは思わず顔を上げ、フリオニールを見つめ返した。
「きれいで、見とれてるのに。」
身体中がかぁっと熱くなった。それは怒りのようでもあるのだが、敵に対する憎しみでもなく、誰かの軽薄な言動にイライラさせられるのでもなくて。なんというか、もう、いたたまれないのだ。いっそのこと殴ってでも黙らせたい!自分は戦士であり、女性的なところは見せたこどなど一度もない。時にはリーダー役として男どもをまとめたりもする、敵も味方も誰も自分を女として扱ったりしない、そんな自分に恥ずかしがるなとかきれいとか。今だって睨みつけていたはずなのにそれがどうしてきれいだとか見とれてるとか言えるのか。
「…そんな…こと、…言うな……」
なのに出てきたのは拳ではなく消え入りそうな声だ。フリオニールは再び顔を隠してしまおうとするライトニングに逆らわず、優しくその頭ごと抱きしめ、前髪の分かれている辺りに口づけた。手がジャケットの襟元からその奥へと忍び込んできた。ライトニングは驚いて身体を離そうとするが、元よりフリオニールにしっかりと抱き締められていてそれも叶わない。慌てて両腕で胸を庇うが、既にフリオニールの掌に侵入を許したあとだ。
「フリオニール…っ!」
ライトニングの制止の声を無視してフリオニールはライトニングの乳房を大きな掌で覆う。
「離せ…!」
その大きな手で触れられただけなのに、そこが甘く熱を持ったようで。ライトニングはフリオニールの手首を掴み襟元から引き抜こうとするのだが、フリオニールの空いた手が逆にライトニングの手首をそこから引き剥がした。
「……んっ……!」
フリオニールの長く節ばった指が柔らかい胸に食い込んだ。しばらくはその柔らかい感覚を指先で確認するようにじっとしたいたのだが、指はやがて恐るおそる動き始めた。
「…ライト、すごく柔らかい…」
逃げることも叶わず、ライトニングはフリオニールの固い身体に自分の身体を押し付け、出来るだけ身体を縮めようとする。フリオニールの身体も熱い。はーはー、と荒い息が頭上から聞こえてくる。胸に耳を当てなくても鼓動が聞こえてきそうな程だ。熱い身体と吐息に封じ込められているのに身体も意識もふわふわと舞い上がりそうだ。
「ぁ……っ」
柔らかい感覚に慣れの愛撫が徐々に大胆になっていくにつれ、ニットの上から揉まれているので生地が皮膚に擦れてヒリヒリする。
「フリオ、ニール……」
「…なんだ?ライト?」
か細い声は興奮しているフリオニールの耳にはなかなか届かなくて、ライトニングが何度も呼びかけあとでやっとそれに気付いたフリオニールが答えた。
「……服…が、擦れて、痛い…」
痛い、という言葉に驚いてフリオニールは慌てて手の動きを止めた。
「…ごめん…!」
漸く止まった愛撫にライトニングはホッと大きく息を吐いた。申し訳無さそうな声もいつものフリオニールだ。ライトニングはぎゅっと縮めていたままだった身体の力をゆるめて顔を上げ、大丈夫だとフリオニールに答えようとして思わず声を荒げた。
「お前…!何をしている!」
フリオニールの指がファスナーの引き手をつまみ、一気に引き下ろしたのだ。思わず手が出たライトニングの手首をフリオニールは造作もなく捕らえた。
「ライト……!」
フリオニールの目は見事な造形の半球に釘付けになっている。感動のあまり言葉が続かないようだ。それは柔らかく、たっぷりとした質量を持っているのに、重力などおかまいなしにつん、と上を向いている。フリオニールはそこに触れたくてたまらないのに左手でライトニングを抱き締め、右手でライトニングの手首を押さえているのでそれが出来ない。ライトニングは開かれた胸を隠そうとまだ必死で腕で振りほどこうとしているのだ。
フリオニールはそんなライトニングの抵抗など意にも介さず、引き寄せられるようにライトニングの胸に顔を寄せ、そこに口づけた。
「……ふ……っ」
ライトニングは羞恥に身体を震わせる。フリオニールはそんなライトニングの様子に気付いているのかいないのか、暗闇でもほんのりと光るように白いそのまろみに口づけていたが、胸の半分を覆う無粋な下着が邪魔に思え、肩紐を歯で噛み、ずり下ろしてしまう。
「いやっ!フリオ……!」
「今、”フリオ”って呼んだ。」
未だに自分がこんなことをされているのが信じられないライトニングに、フリオニールはそんなことを言ってのける。
「ライト…本当に……」
続きの言葉はライトニングの耳に届かなかった。フリオニールがまろみの先端でぴん、と尖っている淡い色の果実を口にふくんだからだ。柔らかい口唇と暖かく湿った口腔に包まれ、腰が抜けるほど甘い愉悦がそこから湧き上がった。フリオニールはすぐさま舌でそこをねぶり、ざらり、と舐め上げる。
「っ…ぁ、あ……んっ……」
自分の口から飛び出した甘ったるい声、初めての感覚なのに、待ちわびていたような、知っていたような気持ちの良さ。まるで獣のように自分の胸を愛撫するフリオニール。もう何も考えられなくなって、力がすっかりと抜けてしまう。
それを良いことに、フリオニールはライトニングの手首を掴んでいた方の手を離し、反対側の肩紐もずらしてしまう。ライトニングは力なく首を横に振ったが、もう抵抗の意思を失ったようだ。フリオニールは倒しても押し込んでもすぐに元の位置にもどっていまう乳首を飽きることなく舌でねぶり続け、空いた手を露わになったもう片方の乳房に手を食い込ませた。
「はあ……あ…あぁ……っ」
身体が火照ってどうしようもなかった。全身の力が抜けているのに、ブーツの中で足の爪先だけが妙につっぱっていて。指と舌が敏感な箇所に触れ、擦る度に肩がぴくん、ぴくんと跳ねた。触れられる心地よさに恍惚となった。愛撫されているのは胸なのに、腰の辺りからとろりとした愉悦が溢れてきて。
「……ぁ……あ……、ん……っ」
いつの間にかライトニングはフリオニールの頭をしっかりと抱きしめていた。この男は抑えきれないほどに自分が欲しいのだと思うとぞくぞくする程の幸福感で全身が満たされた。
その時、フリオニールの手が、今度はライトニングの太ももを撫で、ゆっくりと上へ上へと上がってくるのに気が付いた。
「だめだ…っ!」
今までにない強い拒絶の声に、フリオニールは思わず手を止めた。身体を屈め、首をすくめているライトニングを正面から見つめる。ライトニングは瞳と口唇をぎゅっと閉じている。その瞼はあまりにも力をこめて固く閉じ過ぎていているせいだろう、まつ毛がふるふると震えていた。
フリオニールは嘆息し、不意に屈んだかと思うとライトニングをひょい、と抱き上げた。突然身体が浮くような感じに驚いてライトニングは慌ててフリオニールにしがみついた。
「な、なんだ、突然!?」
驚くライトニングに笑いかけると、ずり下ろされ、胸の下で丸まっていたブラジャーを整えてやり、ライトニングを下に降ろした。
「…そんなに嫌なら…仕方がないな。」
は?とライトニングは耳を疑った。
「誰がいつ、嫌だと言った?」
ライトニングの剣幕にフリオニールはたじろぐ。
「いや…ライトはずっとこんなことダメだとか。」
「そっ……!」
そうなのだけども。その通りなのだけども。ライトニングはイライラと開いたままのニットのファスナーを上げようとするが上手くいかない。
「な、なんなんだ…そんな言い方だと…まるで私が悪いみたいだ…」
「いや…そんなつもりは…だが、俺はライトが好きだし、ライトも俺のことが好きでいてくれると思ってたから、これくらいのことは当たり前だと思ってた。」
「これくらいのこと!?」
ライトニングの眉がキリキリと釣り上がる。
「”これくらいのこと”とはなんだ!?」
怒り心頭のライトニングだが、それでももしものことを考えて、フリオニールを怒鳴りつける声はそこそこに押さえてある。
「私は…!時と場合を考えろとずっと言っているだけで、お前が嫌いだとか、お前が悪いとか、私が嫌がってるとか、そんなことを言った覚えはない。」
「嫌じゃないんだ!」
フリオニールが心底ホッとした表情を見せたので、ライトニングは怒りの気勢がへなへなと崩れ落ちていくのを感じた。
「俺には、ライトが言っていることの方が分からない。好きなら触れたい、当たり前のことだ。」
「だから、場を考えろと!」
「場?ここには今俺たち以外誰もいないのに?」
咬み合わない会話にライトニングは苛立つ。フリオニールはまるで、どんなに言って聞かせても、”どうして?”を繰り返す子供のようではないか。
(…子供?)
ここに来てフリオニールのシンプル過ぎる考え方は、お互いが元いた世界での考え方の傾向の違いではないか、という考えにライトニングは漸く辿り着いた。
(フリオニールの居た世界は…男女の関係が私の居た世界よりも大らかなのかもしれない…)
原因は分かったが解決はしない。たとえばライトニングの世界でのテクノロジー、自動車でもなんでも良い、それらをフリオニールにいくら説明して聞かせても、きっと今のように首を傾げるばかりだろう。見たことがないものを理解させるなんて芸当は、ライトニングは相当ハードルが高い。
「…とにかく!」
“どうして?”攻撃を遮るため、ライトニングは勢いよくはっきりと言う。
「この話は…また今度だ。」
「今度?」
「次に、2人、で会った時だ!」
2人で、の箇所だけは小声になった。
「何故だ?」
今度と言ったら今度だ、ライトニングは思わずそう言い返そうとして、フリオニールの真剣な表情に気付き、言葉を慌てて飲み込む。
「それ…は、その、もう少し時間をかけて…」
フリオニールはぎゅっと眉を寄せ、ますますライトニングの考えが分からない、という風に首を振り、
「俺達に…」
フリオニールは言いかけて、一旦言葉を切った。続きを言っていいものかと少し躊躇したが、
「時間なんて残されてないのに?」
************
気まずい沈黙のあと、長い時間皆から離れるのは危険だとライトニングが提案し、フリオニールも納得し陣屋に戻ることにした。肩を並べて歩いている間も、2人はほとんど言葉を交わさなかった。
(分かっていたはずだ…)
「ライト。」
呼ばれてライトニングは我に返った。一緒に戻ると目立つので、いつも陣屋の手前で別れる。ライト、と呼んだきり何も言えなくなってしまったフリオニールに、
「…また、明日。」
「…うん。」
フリオニールは自分のテントに戻っていくのを見届けてからライトニングは自分のテントに戻った。コテージが尽きて今夜からはテントで休むことになっていた。回復アイテムが減ってきていることが、さっきのフリオニールの言葉と相まって、ライトニングに現状の厳しさを更に容赦なく知らしめていた。
コテージだと簡易ベッドがあるが、テントだと寝袋だ。ライトニングは横になる気にもなれず、膝を抱えて座り込んだ。昨夜の幼い考えの自分がひどく滑稽に思えた。
(私は…何を脳天気に…)
頭から冷たい水を浴びせられたようだった。現実の過酷さもそうだが、2人で過ごす時はいつも穏やかに笑っていたフリオニールが、
(そんな風に思っていたのか…)
眠らなければとライトニングは寝袋に足を突っ込み、横になった。身体をもぞもぞと動かして寝袋に馴染ませる。そのまま胎児の様に身体を丸めた。