ヴェイン✕ヴェーネス(擬人化)(3)(FF12)

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※ねつ造激しく注意
※FF12ネタバレ激しく注意
※めいさんが描かれたヴェインとヴェネ子(擬人化して女性化したヴェーネス)が原案です。
前の話はこちら

  1. 「甘える」(ヴェイン✕ヴェーネス(擬人化))
  2. ヴェイン✕ヴェーネス(擬人化)(2)(FF12/R18)

私室に戻った途端、まばゆい光が隊列を成して目にも止まらぬスピードで近づいて来たかと思うと鋭い痛みがいくつも胸を貫いた。ふっ飛ばされたヴェインは扉に叩きつけられ、そのままずるずると床にへたり込んだ。あっという間に息が上がり、痛みで気が遠くなった。
遠のきかける意識の中でヴェインは、「ああ、またか。」と思い、ため息を吐こうとしたところで気管を血がこみ上げ、血を吐いた。
霞む視界の端に、彫像のように美しいくるぶしとほっそりとした足首、まるでそこにキスをして欲しいと言わんばかりに、ふっくらとしたカーブを描いた足の甲が見えた。
「これはなんだ?」
頭の上から声が聞こえた。なんだ?と聞かれても顔を上げることすらできないのに。
ヴェインが顔を上げることすらできないことがわかったのか、ヴェーネスは床に膝をついてかがむと、ヴェインの目の前に何かを差し出した。香水の瓶だった。
彼女の目を引いたのは、それがヴェインの部屋に不似合いだったからだ。
ヴェインの寝室で家具らしい家具といえば、書棚と引き出しのついた書き物机とベッドだけだ。着替えや必要なものはその都度持ってこさせるので、クロゼットすらない。それでも昔はもらった勲章やトロフィー、ソリドール家の歴史を綴ったタピストリー、家族の肖像画などを飾ったりしてはいたのだが、今は全て片付けてしまった。
最も存在感を持ち、部屋の主の人となりを表しているのは本棚だ。壁一面に配置され、数え切れないほどの書物がびっしりと収まっている。ヴェーネスはその棚の一画に、吹きガラスで作られた優美な曲線の瓶が置かれていたのを見つけたのだ。
(どうしてこうも、見つけて欲しくないものを見つけるのだ……)
ヴェインが不在のとき、ヴェーネスはその本を片っ端から読んでいるらしい。几帳面にも、左上のいちばん上の棚の1冊めからだ。そんなことをしていれば、いつかこの瓶に行き当たるのは分かっていたのだが、当の本人ですら存在を忘れてホコリを被っていたのだ。
察するに、ヴェーネスは他の女性との関係を疑っているのだろう。男女の機微どころか人間の情緒すら理解できないヴェーネスは、ことあるごとに皇帝宮にたむろしている元老院の奥方たちにこれは何かと尋ねに行って、適当なことを吹き込まれて戻ってくるのだ。
(その度に不実だ、不貞だと殺されかけるのは命がいくつあっても足りないな……)
いつになったら加減というものを覚えるのだろうか、そう思ったところで幼かった頃の記憶が突然脳裏に浮かんだ。ああ、これが走馬灯というやつか、覇道の途上で、こんなくだらない死に方をする前に早く回復魔法を、と思っていると、ふっと痛みが体から消え去った。
「すまない。私はまたやり過ぎたようだ。」
ヴェインは口の中に溜まった血を吐き出した。本当は自分の部屋の中でそんなことはしたくはないので、これはヴェーネスの謝罪への当てつけだ。
「すまない、と謝罪しているが、本心は早くそれが何か知りたいのではないのか?」
じっとヴェインを見つめつつも、視線が時おりちらちらと瓶に移るのですぐにわかった。
「否定はしない。」
「それで、奥方たちの見解はなんと?」
「君と性的な関係がある、私以外の女性の存在だ。だが、これはこの部屋に置かれてからおおむね4年が経過している。そこで疑問なのだが、これも不貞に値するのだろうか。奥方たちには言葉を濁されてしまったが。」
ヴェーネスはあまり瞬きをしない。人間らしい表情を自然に作るのが不得手なのだ。それでも彼女が怒っていないことはわかる。「不貞をはたらいたパートナーには厳しい制裁を」と教わったことを、彼女なりに消化し、実践した結果がこれなのだ。
「君はどう思うのだ?」
そんなくだらない理由であの世とこの世の境界まで行って、それでこれはなんだと聞かれ、説明する気になれず、半ばヤケクソで問うてみる。
ヴェーネスは瓶の裏側に貼られたラベルをヴェインに見せた。
「奥方たちの言う通り、これは女性のための香水だ。香水とは化粧品の一種だ。香料を身体や衣服にふりかけて香りを楽しむ。間違いないか?」
ヴェインは黙って頷いた。
「これはとても高価なものだ。となると、持ち主は高貴な女性だ。奥方たちは、若い貴婦人たちのあいだで当時流行ったものだと言っていたから、持ち主は年若い女性だ。」
そんなことはわざわざ説明されなくともわかる。それに、ヴェインはその持ち主のことをよく知っていた。
(今はもう、顔も思い出せんが……)
遊びと割り切った関係だった。女性の方にはあわよくばという下心はあったようだが、それでも、ヴェインのどこか厭世的なところ、そしてその根源をなんとなく察し、自然と離れていったのだった。
それを説明せねばならないのかと思うと、ヴェインはうんざりしてしまう。
「アルケイディアの法典を調べても、未婚で4年経過した関係が不貞にあたるかとうかはどこにも書かれてはいなかった。」
「それは法が関与しない、ごく個人的な関係だからだ。」
「なら不貞には当たらないな。」
ヴェーネスはあっさりと審判する。
「だが、気になって仕方がないのだ。これは君が彼女に贈ったものなのか?なぜ彼女はこれを君の部屋に置いていったのだ?」
こんな風に質問を繰り返すヴェーネスは小さな子どもと同じだとヴェインは思う。空はどうして青いの?海はどうして青いの?そんな感じだ。どうでもいい、それでいて答えるのが面倒な質問ばかりしてくる。
だいたいどうしてそんなことが気になるのだ。使った用途は覚えているが、どちらが言い出したのか、どちらがこの部屋に持ち込んだのかも思い出せない。
(まるで嫉妬ではないか……)
ばかばかしい、と鼻で笑いつつ、ヴェーネスはヴェインに瓶を差し出したまま、じっと答えを待って微動だにしない。こんなとき、彼女が人間に擬態するモデルにラーサーを選んだことが気に障る。無碍にできないではないか。
「……立たせてくれ。」
先ほどの攻撃のダメージもだいぶ回復してきた。いつまでも床に座り込んでいるわけにはいくまい。
「断る。」
ヴェインは、おや?と顔を上げ、改めてヴェーネスを見つめた。すると、ヴェーネスはぷい、と横を向いてしまし、
「答えてくれるまで、君に触れたくない。」
これは彼女の心からの言葉なのだろうか、それとも、有用性のかけらもないロマンス小説でも読んで、「嫉妬にかられた女性はこうするもの」と学んでそのとおりにしているのだろうか。
面倒だと思っていたヴェインだが、俄然興味が湧いてきた。このところ超越者であるヴェーネスに感情らしきものが顕れ始めたと感じていたところだ。これは本物の嫉妬なのだろうか、それとも学習結果による反射なのだろうか。
「それは彼女がこの部屋に持ち込んだものだ。」
そっぽを向いたままだったヴェーネスがゆっくりとヴェインに向き直った。
「遊びに使うためだ。」
「遊び……」
思わず言葉が出たのは、香水は身だしなみのためにつけるものと学んだからだろう。しかも、4年前と言えばヴェインは23歳だ。
「その頃の君はもう成人しているはずだ。」
ヴェインは鼻で笑う。投げ出した足の膝を曲げて座り直し、その上で手を組んだ。
「寝所の中で使うのだ。」
ヴェーネスが首を傾げた。いいぞ、その仕草はなかなか人間らしい。(・・・・・・・・)
「この香水を、体の、キスをして欲しいどこかに吹き付ける。パートナーはそれを探し、見つけたらそこに口づける。」
それがどういう意味かわかるな?という言葉の代わりに、ヴェインは軽く肩をすくめてみせる。
ヴェインの言葉を受け、ヴェーネスは手元の香水の瓶に視線を落とし、なにやらじっと考えている。が、やおら立ち上がると、突然、ドレスのスカートの部分を捲り上げた。ボリュームがある生地がバサっという音と共にヴェーネスの腕の中にまとめられ、同時に真っ白なふとももが露わになった。呆気にとられるヴェインを顧みることなく、ヴェーネスは香水の瓶のフタを取り、足を開き、股間に吹きつけようとする。
「ヴェ──────────────ネス!!!!!!!」
珍しく激昂するヴェインに、ヴェーネスは無表情なまま顔を上げてヴェインを見つめ返した。落ち着くのだ、ヴェインは自分にそう言い聞かせる。立ち上がって、ヴェーネスが持っている瓶を乱暴に奪う。
「……足を閉じて、スカートの裾を下ろすんだ。」
ヴェインの声が震えているのにさすがのヴェーネスも驚いたのか、言われたとおり足を閉じ、スカートの裾を下ろした。ヴェインはスカートの部分を手で整えてやるが、その仕草はいつもと比べると乱暴だ。
「怒っているのか、ヴェイン。」
当たり前だ、そう言いかけて、ヴェインは大きくため息を吐いて、ヴェーネスをにらみつけた。
「体の、口づけて欲しいところに香水をつけるのではないのか?」
「確かにそうだ、だが…!」
「私は、君にここにキスをしてもらうとすごく気持ちがいい。」
ヴェインは顔を手で覆ってしまう。下品だ。あまりにも下品だ。いくら人間ではない超越者だからと言って、はじらいはおろか、奥ゆかしさのかけらもない。あんまりだ。
「ヴェイン、君が言った“遊び”とは性的な欲求を刺激しあうことなのだろう?」
「わかった。私の言葉が足りなかった。」
ヴェインはなんとか冷静さを取り戻す。
「まず、前提として、香水をつける所を相手に見られてはいけない。わからないから探す、そこに“遊び”の意味がある。」
「なるほど。理解した。」
ヴェーネスは頷いた。
「だが、君があんなに声を荒げた理由がわからない。」
「……ヴェーネス、君がとった行動は褒められたものではない。」
「何故だ。」
「はしたない。」
「……はしたない。」
「見苦しい。」
「……見苦しい。」
ヴェインの言葉をいちいち反芻するのは、自分の行動とヴェインの言葉を比べあわせているのだろう。
「私は、女性のそういうみっともない姿は見たくはない。」
しかも、最愛の弟に似せた姿で。
「しかし、ベッドの中ではもっと……」
「ヴェーネス!」
それ以上聞きたくない、とヴェインは言葉を遮る。
「ベッドの中のことを、その外に持ち出すことはマナー違反だ。」
「それは、見苦しくて、はしたないからか。」
「そうだ。」
しかめ面で頷くヴェインを、ヴェーネスは黙って見つめたままだ。
沈黙が続いた。さすがに言い過ぎたかとヴェインも反省する。そもそもヴェーネスが人間の姿をするのは人間のことを知りたいという知識欲からだが、自分を慰めるためでもあるではないか。不器用ながらも思いやりのある友だ。だが、人の姿になった途端起こす行動に、ヴェインは振り回され、疲れ果ててしまう。
だが、ヴェイン自身が感じているこの気まずい雰囲気をなんとかしなければ、と思う。ヴェーネス自身がどう感じているのかは、その表情からはとても読み取れないが。どうしたものかと考えを巡らせ、さっきヴェーネスから奪った香水の瓶が目についた。
ヴェンは銀色の円錐型のふたをとると、立ち尽くしているヴェーネスに歩み寄り、髪の房をひと束手にとり、そこに吹き付けた。みずみずしい果実と芳香な花の香りが辺りに広がった。
「ヴェーネス、香水は本来、うなじや手首につける。」
「………ヴェイン、そこは髪だ。」
なぜだかヴェーネスが戸惑っているのがわかった。素直にかわいいと思えた。
「私が君の髪にキスをしたいと思ったからだ。」
最初に感じ取ったのは、彼女が安心したことだ。体から力が抜けたのが見てとれた。無表情のせいでわからなかったが、ヴェインの反応に驚き、気が張っていたのだろう。
次に見せたのはきれいな笑顔だった。ゆっくりと口角が上がり、頬の肉がやわらかく盛り上がる。眉が優しく垂れて、目を細める。冷たく凍った湖水が割れ、そこにあらわれた水面に春の光が反射した、そんな笑顔だった。
「君は、優しいな。」
「許してほしい。女性にあのような言い方は…」
「見苦しい?」
ヴェーネスの切り返しに、ヴェインは苦笑いを浮かべる。
「そうだな。」
「ヴェイン。」
ヴェーネスは手を伸ばし、ヴェインの目尻に触れる。
「今、ここにたくさん皺ができている。」
「笑い皺だ。」
「君はいつも眉間にも皺を寄せているが、私は今の顔の方が好きだ。」
大きなお世話だと思いつつ、ヴェインはヴェーネスを引き寄せた。今、好きだと言ったその意味を、彼女は理解しているのだろうかと思いながら。