「甘える」(ヴェイン✕ヴェーネス(擬人化))

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※ねつ造激しく注意
※FF12ネタバレ激しく注意
※めいさんが描かれたヴェインとヴェネ子(擬人化して女性化したヴェーネス)が原案です。
可愛い仕草の嫁と旦那の反応を頑張って文章にしたら絵に描いてもらえるなら頑張る!よりめいさんのリクエストでヴェイン✕ヴェーネス(擬人化)で「甘える」


扉を開けた途端、なにか固くて鋭いものがものすごいスピードで胸にぶつかった。ヴァインは部屋の奥まで吹っ飛び、書棚に背中から突っ込んだ。たくさんの本が頭上からばらばらと落ちてきて、そのいくつかは頭を直撃した。
何ごとかと顔を上げようとすると、胸に激痛が走った。胸骨から肋骨にかけて骨が折れている。いくつかは肺に突き刺さったようだ。息を吐こうとすると、口から血が吹き出した。うまく呼吸ができなくて意識が遠のきそうだ。そのとき、視界の端に先が尖った踵の高いヒールと、ほっそりとした足首が目に入った。
「……ヴェー……ネス……」
目にもとまらぬスピードで見切ることはできなかったが、おそらく、胸にぶつけられた衝撃はこのハイヒールの踵だ。
人間の姿をするようになって以来、ヴェーネスは事あるごとに人間の、しかも自分の恋人のように振る舞いたがるようになった。だが、人間の心の機微などわかりもしない超越者故に、時おり突飛もないことをしでかす。今回もそうだろうか?だが、それにしては今回はオイタが過ぎる。いくら特別な手術を受け、改造された身体とはいえ、不意打ちで胸部にダメージを受けると反撃もできない。
ヴェーネスの手が伸びてきた。回復魔法を頼もうとしたが声が出ない。ヴェーネスはヴェインの頭頂部辺りの髪をわしづかみにすると、そのまま垂直に持ち上げた。
(不条理だ。)
無理に引き起こされたせいで、肩も外れた。激痛の下でヴェインは冷静にごちた。遠征から戻ったばかりだ。一人になりたい。ヴェーネスが居るならそれもいい。起こったことを話し合い、次に打つ手を検討するのだ。なのにこの仕打だ。ヴェーネスが本気ではないのはわかる。きっとすぐに回復はしてくれるだろう。だが、疲れているのだ。もう少し手加減とか、いや、それをヴェーネスに期待するのは無理かと、ヴェインは諦めて目を閉じた。
「どうして連絡をしてこない。」
何を言ってるのだ、とヴェインは思う。そんなことなどせずとも、思い立てばいつでもどこにでも姿を現すことができるのに。
「寂しかったぞ。」
そうか、寂しかったら10センチはあるピンヒールで心臓の真上に思い切り蹴りを入れるのか。
「言い訳のひとつもできないのか。」
言い訳もなにも、喉に血が詰まって呼吸すら困難だ。ヴェーネスも漸くそれに気付いたのか、漸く回復魔法を唱えてくれる。痛みが遠のき、ヴェインが自分での力で立ったので、ヴェーネスは手を離した。相変わらず無表情のまま自分を見上げている。
「それで……」
言いかけて、ヴェインは喉に詰まっていた血を床に吐き出した。
「今度は何を始めたんだ?」
「元老院の奥方たちに聞いた。長い間留守にして、便りの1つも送らない男は不実だそうだ。」
「…………………………なるほど。」
「奥方たちによると、そういう場合は夫をしっかりと糾弾せねばなないそうだ。」
あの奥方たちにも困ったものだとヴェインは思う。いつの間にか皇帝宮のヴェインの私室の周りをふらふらと歩きまわるヴェーネスを見つけ、男女の機微とやらをヴェーネスに吹き込む。それをヴェーネスが自分なりに解釈をし、実践するのが、その度にヴェインは振り回されっぱなしだ。
もっともあの女ぎつね達が単なるおせっかいでそんなことをしているわけではない。狡猾で陰湿で、皇帝宮内の社交を牛耳る面倒な存在だ。だからあまり近づかないように言い聞かせているのだが、
(それでもヴェーネスを取り込んでしまうところは年の功と言うべきか……)
「それで、君は本当に寂しかったのか?」
すると、ヴェーネスは視線を反らせ、あらぬ方に視線をやってしまう。これは、ヴェインに質問された時のヴェーネスの癖だ。
「……君がいない間、君のことを考えた。」
「そうか。」
ヴェーネスはヴェインが愛用している一人がけのソファを見た。
「そこに君が居ればいいと思った。13日と3時間42分前に君がそこに腰をかけて、私が足元に座り、君の膝の上に頭をのせてうたた寝をした。その時のことを思い出した。」
「子どものようだな。」
「甘えたいのだ。私は。」
ヴェインはおや?と目を見開いた。まるで駄々をこねる子どものような顔を見せたのだ。眉はハの字で頬を少し膨らませて唇を尖らせて。ラーサーに似せた美しい顔がひどくあどけなく見えた。
「では君の望むようにしよう。」
「本当か。」
「まずは着替えを用意してくれ。」
「わかった。」
何しろ、大怪我と血を吐いたせいで、服がひどいことになっている。だが、ヴェーネスはしばらくじっとヴェインの顔を見つめ、不意にその体を抱えるようにして抱きしめた。相変わらず無表情だが、さっきの笑顔は表情の動きの滑らかさがなかなか人間らしかった。うれしいのか、こうしてしがみついてくるのも、
(かわいらしいではないか……)
しかし、血まみれになった衣服と、それがヴェーネスの白いドレスに移ってしまったのを見て、今度何か会って自分を糾弾するときは、決して怪我をさせないようにしっかりと言い聞かせないととヴェインは思うのだった。
(でないと、どんな噂が宮中に撒き散らされるやら…)
だが、最近ではその工作も面倒ではない。それは多分、さっきの甘える表情に、自分もときめいたからだろうとヴェインは思うのだった。
終わり。