続・これは恋ではない。(FF6・FF12/R18)

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これは恋ではない。の続きです。


「この前、図書室の奥深くで見つけた書物に書かれていた。」
そう言ってヴェインが取り出したのは細い金の針だった。ただ、装飾具や縫い物をするもののように先は鋭く尖ってはいない。先端はやや細くなってはいるが丸くなっていて、最終的には触れた物に傷を付けない配慮のもとで設計されたものだと分かる。
エドガーはそれが何の目的をもって作られたかすぐに察し、大きくため息を吐いた。ヴェインとのセックスは彼からの歪んだ愛情だ。それを受け止めるのはやぶさかではない。だが、歪んでいる故に苦痛も伴うのだ。
「…君の…愛情表現は毎度過激だな…」
エドガーがため息を吐いたのには理由があった。たった今脱走の企てが露見し、囚人としての厳しい罰則、つまり拷問を受けたあとだからだ。頭上で鎖と手枷で両手を括られ、鞭で打たれた。執行人はジャッジと呼ばれる帝国の公安機関だかソリドール家の親衛隊だかの騎士だ。ヴェインではない。
さんざ鞭で打たれた身体は弱り切っていた。まず殴られたかのような衝撃、次いで皮膚が避け、えぐり取られる痛み、そのあと焼けるような痛みが襲う。エドガーは6発打たれた所で意識が遠退き、数えるのを断念した。遠のいた意識は次の一撃で無理やり覚醒され、今度は4発打たれた所で意識が遠のいた。意識が遠退き、覚まされる感覚はどんどん短くなった。痛みの上に痛みが重なり、ただひたすらこの刑が早く終ることだけを願った。
気がついた時には刑は終わっていて静寂だけが残っていた。だが、体中が溶岩にでも浸さされたかのように熱く、針のベッドに横たわってるのではないかと思うほど痛みは絶え間なくエドガーを打ちのめした。思考の全てがそれに支配され、痛みを少しでも逃したいがためにうめき声を上げていた。
そんな時にヴェインがやって来たのだ。エドガーは苦しい息の下で、それでもヴェインに微笑みかけた。
「…どうせなら君に打たれたかったよ。」
「私もそう思う。」
「傷に汗が染みるよ。」
「水をやろう。」
そう言って、持っていた瓶の中身を自らの口に含むと、血を流し、腫れているエドガーの口唇を合わせ、口の中に流し込んだ。飲まされたそれは水ではなかった。一口飲むごとに痛みが薄らぐ。エドガーは我を忘れて自ら舌をヴェインの口の中に挿し入れ、中身を貪った。口の中はすぐに空になり、ヴェインが再び瓶の中を口に流し込む。エドガーは自ら顔を突き出し、ヴェインの口唇を貪った。
何度そんな口づけを交わしたのか。気が付くと痛みはなくなっていた。残った傷はその一つ一つにヴェインが手のひらをかざし、何やら魔法を唱えると傷はみるみる内に塞がった。が、鞭で打たれた傷を探すため、ヴェインは内腿などおよそ鞭が届かないような場所まで丹念に調べるのにはエドガーも閉口した。
やっとその検査が終わった所でヴェインがおかしな器具を取り出したのだ。その金の針のようなものを。
「私を心配して来てくれたと思ったのだが。」
「せっかく楽しもうと思っていたのに逃げ出す方が悪いな。」
エドガーはおや、と口の端を上げて笑う。今、楽しむと言った。
(楽しむ…とね。)
「それで、その知識の宝庫の奥深くに封印されていたいかがわしい本には何が書かれていたんだい?」
「聞くまでもないだろう。」
ヴェインは臍の下から手を挿し入れ、萎えたままのエドガー自身を握る。
「色々と書いてあったが、金でなくてはいかんらしい。」
「この戒めは解いてくれないのかい?」
「解いて暴れると手元が狂うかもしれんぞ。」
ヴェインはまだきゅっと閉じられたその先端にある小さな孔にその針をゆっくりと埋めていく。
「う…っ…あ、…!!」
エドガーは喉を反らせて喘ぎ、そのせいで手首を封じてある鎖がガチャガチャと音を立てた。
「…痛むか…?」
ほんの1cmほどしか針は挿し入れられていないが、エドガーはもう冷や汗を流し、目元に涙をにじませていた。返事をする余裕も、いつもの余裕も一瞬で吹き飛んだ。内臓の、それもひどく敏感な所に針を刺された恐怖心、ぴっちりと閉じられた道を針でこじあけられるおぞましさに肌が泡だった。
針の根本の方はそれなりの太さがあり、針が全てそのごくごく細い通り道に飲み込まれないように設計はされている。が、それでも、もしそれが奥深く入りこみ、詰まってしまったらと思うと冷たい汗が背中を流れる。
「ヴェ……イン……」
恐怖で歯が鳴りそうなのを息を大きく吸い込み、吐き出して耐えた。
「…取って…くれ…これ…は……っ…」
「いいものだな、エドガー。」
ヴェインは針の根本とほんの2~3ミリほど、軽い力で揺すってみた。
「う…っあ!あぁっ!」
エドガーが悲鳴を上げ、口唇を噛み締めた。痛みと強い快感がそこから下半身に脳天まで突き抜けるように響き、エドガーは何度も腰を跳ねさせた。ヴェインは膝立ちになると、そんなエドガーの頭を胸に引き寄せる。
「心配しなくていい。」
噛み締め過ぎて血の滲んだ口唇を舌先で優しくなめてやる。
「これをいきなり君の中に突き立てたりしない。」
ヴェインはボロボロに破れてしまったシャツを開け、現れた突起に舌を這わせた。エドガーが肩をビク、と跳ねさせる。
「時間をかけて、ゆっくりだ。」
「楽しむため、か…」
「そうだ。」
「お互いに?」
「私はそのつもりだ。」
そう言うと、ヴェインはエドガーの形の良い耳たぶにそっと歯を立てた。苦しげな息が徐々に艶を帯びてくる。
「一つ…聞きたい…」
長丁場を覚悟した所でエドガーが切り出した。
「なんなりと。」
「傷を治したのは…楽しむためかい?」
ヴェインは身体を離し、いつもと変わらない表情のままエドガーを見つめた。
「愛しているからさ。」
「君の愛してる、は謎多き美女百人が束になっても叶わないほど妖しく、神秘的だな。」
ヴェインは口元に、エドガーにも読み取れない謎の笑みを浮かべると、もう余計なことは言わせないと囚われた王の口唇を口づけで塞いだ。

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