FF7 AC戦い終了後(FF7)

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「よし!マリンとデンゼルは今日は父ちゃんと泊まろうな!」
戦いが終わって、教会から引き揚げる途中、 マリンを肩の上に乗せながらバレットは上機嫌で言い放った。
マリンは一瞬目をぱちくりとさせ、クラウドを見たが、 彼の頬がうっすらと頬が紅くなったのを見て
子どもなりに何かを悟ったらしく、 「うん!」と元気良く頷いて父の頭にぎゅっと抱きついた。
「バレット、そんな気を遣わないで。
家にみんなで泊まったらいいじゃない?
デンゼルもクラウドの帰りをずっと待ってたのよ。」
ティファに肩を抱かれていたデンゼルがうんうん、と何度も頷く。
クラウドは家にいない間、どこに行っていたのか、 あの銀髪の男達は何者だったのか、 どの様に彼らと闘ったのか、とりわけ武勇伝が聞きたい。
が、見上げたティファの顔も紅くなっていて、 クラウドもティファもなんだか困っているようだ。
(二人きりになりたくないんだ…)
でも、それはちょっと違うような気もする。
(嫌がっているんじゃなくて困ってるんだ…)
そうなると、男の子らしいいたずら心がこみ上げて来た。
困ってる二人をもっと困らせてみたい。
聞きたいことはたくさんあるけど明日でも大丈夫。
クラウドは帰って来たんだから。
「ティファ!俺、今日、マリンと一緒に行くよ!」
思った通り、ティファは言葉を詰まらせてデンゼルを見つめる。
一瞬混乱して呆然と成り行きを見守っていたクラウドだが、
「バレット、折角だが、今日は家族と過ごしたいんだ。」
「俺だって過ごしたい。久しぶりにマリンとデンゼルに会えたんだ。」
優先権は自分にある、と言わんばかりに悠然と言う。
そして、クラウドの肩を掴み、引き寄せると、
「何も、二人きりになってえっちしろ!つってんじゃねぇよ。」
と、小声で耳元に囁いた。
「…バレット…」
クラウドのため息まじりの口調にもバレットは気にする風でもない。
「冗談だよ。オマエ、ずっと家にいなかったんだろ?
今日は久しぶりに二人で積もる話でもしろって。な?」
「子ども達がいても出来る。」
「風呂に入れて、寝かしつけてなんてやってたら話す暇なんざねぇよ。
な?いい機会だから、ちゃんと色々話しておけよ。な?」
「おう!俺がちゃんと送ってやるから心配すんな。」
いつの間にかシドまで話に割り込んで来ている。
「オマエ見てると、時々イライラすんだよ。
なんか、こう、じれったくてよ。
な?たまにはティファを労ってやれよ。」
その言葉をそっくりそのままアンタに返してやるよ。
そう呟いたクラウドの声は
中年男二人のガハハ笑いにかき消されたのだった。
結局、仲間達に押し切られてティファと二人帰路についた。
店の前につけたバイクを停めると、 ティファは身軽に後部座席から飛び降りた。
鍵を開け、店内の明かりを点ける。
カウンターの中に入ると、コンロにかけてあった大鍋の蓋を開け、 くんくんと匂いを嗅ぎ、
「うん、大丈夫。」
と一人頷く。
「クラウド、お腹空かない?」
と、入り口に突っ立ったままのクラウドに声を掛けた。
久しぶりの帰宅に緊張している自分を気遣ってくれているのか
いつもと同じ様に振る舞うティファに、 クラウドも思わず
「あぁ。」
と頷きカウンターに座った。
やがて、大きなマグカップに入った
コンソメスープとホットドッグが出て来た。
「ごめんね、簡単なものしか出来なくて。」
「いや、うまそうだ。」
よかった、とにっこり微笑むティファの顔が正視出来ない。
ティファに、そして仲間達にどれだけ感謝しているか伝えたいのに、 どう言えばいいのか分からないのだ。
気持ちは溢れそうになのに、言葉が出て来ない。
自分一人で気まずさを感じ、それをごまかすかの様に
カップに手を伸ばし、口に運んだ。
「どうしたの、クラウド?」
一口飲んで、驚いた様に目を見開いて固まっているクラウドに
ティファは心配そうに声をかけた。
「いや…」
クラウドはまじまじとカップの中身を見つめ、 やがてそれを両手で包み込む様に持ち直し、ゆっくりと飲み干した。
カップを置いた所で、目を丸くしているティファに気付き、
「…うまかったんだ、すごく。」
クラウドの言葉にティファはほっと胸を撫で下ろした。
「びっくりした。スープが痛んでるのかと思った。」
「すまん…その…」 ティファが「ん?」と顔を覗き込んで来る。
「ティファの味だって…」
タマネギとベーコンのシンプルなコンソメスープだった。
だが、一口飲んだだけで身体に染み渡る様な優しい味だった。
漸く顔を上げたクラウドに、ティファは
「…うん。」
と、うれしそうに頷いた。
ティファも自分の分をトレイに乗せ、 カウンターから出るとクラウドの隣に腰掛けた。
そして、言葉少なくクラウドが語るのに、黙って耳を傾けた。
食事が終わると、クラウドは黙り込んでしまった。
ティファも隣で所在なげに座っている。
「なぁ、ティファ。」
ティファは黙ってクラウドを見つめる。
吸い込まれそうな薄茶色の瞳に店の照明が映ってきらきらと光っている。
「…すまなかった。」
ティファは口元に笑みを浮かべ、瞳はくるくると楽しそうだ。
「謝ってなんか、欲しくないな。」
スツールをくるりと回転させて、クラウドに背を向ける。
クラウドは慌てて立ち上がり、 ティファの背中に何かを言おうと必死に頭を巡らせる。
すると、ティファはまたくるりとクラウドの方を向き、
「感謝の言葉なら喜んで受けるけど、謝ってなんか欲しくないな。」
かわいらしく微笑むティファに釣られて、 クラウドの口元にも漸く笑みが浮かぶ。
「ティファ…」
クラウドは、スツールの上にちょこんと腰掛け、ぴんと背を伸ばし、 手を膝に乗せているティファの肩に手を置いて…
それでもなかなかその言葉は出て来なかったけど、
「ありがとう。」
ティファは腕を伸ばし、クラウドの首に
ゆるく巻き付ける様にしてその胸に飛び込んだ。
クラウドはその身体を受け止めると、きつく抱きしめた。
「もう帰って来れないと思ってた…」
「もう言わないで。」
ティファはゆっくりと身体を離すと、 クラウドの瞳を真っすぐに見つめた。
「帰って来たんだよ、クラウドは。自分の力でね。」
「ティファ…」
「私達の為に戦ってくれてありがとう。」
ティファの言葉にクラウドは顔を歪め、 ティファの首もとに顔を埋めた。
やがて、首筋に湿った感触がして、 クラウドが声を出さずに泣いているのだと知る。
「おかえり、クラウド。」
ティファはクラウドが落ち着くまでずっと、 背中を優しく撫でてやったのだった。
おわり。