雨の日。(FF12)

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新婚さんのバルフレアとパンネロで完全捏造です。結婚後空賊を引退し帝都に工房を構えたバルフレアと新妻のパンネロ。そういうネタが苦手な方はご注意ください。


「バルフレア、起きて!」
シーツをはぎ取られ、ゆさゆさと体を揺さぶられてもバルフレア起きようとしない。
「もう仕事に行く時間だよ!早く出かけないと、今日は雨なんだから。」
パンネロがカーテンを開ると、バルフレアは光から逃れるように頭を抱え込んだ、が、雨という言葉に反応した。
「……今日は雨なのか?」
「そうだよ。早く出かけないと、雨がひどくなるんだって。」
バルフレアは眠そうに窓に背を向け、
「雨ならば今日は休みだ。」
「今日の作業はお外だったの?」
「工房に行くまでに服が濡れる。」
パンネロは開いた口がふさがらない。
「え?服……?」
確かに服好きのバルフレアだが、本気で言っているのだろうか?
きっと、いつもの冗談に決まっている、そう思い直し、シーツの中に再び中に潜り込んだバルフレアの体を根気強く揺さぶる。
「そんな冗談を言ってないで、早く出かけないと!新しいググロセアエンジンなんでしょう?成功したらシュトラールよりも早いって言ってたじゃない!」
「成功しようがしまいが、雨の日は出かけたくない。」
呆れて二の句が継げられないパンネロだった。そして、この大きな子どもをどうやってベッドから引っ張りだそうかと思案していると、不意に腕が伸びてきてパンネロの手首を掴み強く引っ張った。
「きゃあ!」
あっという間にベットの中に引きずり込まれ、気が付くともうバルフレアの腕の中だった。暖かい体温とパンネロの大好きなコロンの香りがする。少し肌寒い朝に、この環境は確かに魅力的過ぎた。
「いい匂いだ。このコーヒーはベルベニア産だな。」
「もう、ふざけないで!コーヒーも入っているんだから、ちゃんと起きてお食事して!」
「後でいい。」
バルフレアは胸の中で腕を突っ張って、体を離そうともがいているパンネロを、さらにきつく抱きしめた。
「どうせ雨だったら、このまま昼寝をしよう。」
「昼寝じゃないよ!朝なの!朝ごはんを食べて!そしてお仕事に行くの!」
「だから雨だ。」
「傘をさして行くの!そうすれば濡れないでしょ!」
「靴が濡れる。」
さすがのパンネロも、バルフレアのあまりものはわがままに堪忍袋のが切れそうになる。このままベッドの中で一戦、という下心が見え見えだ。
「バルフレア。」
「なんだ?」
バルフレアは顔を背けようとするパンネロにキスしようと首を伸ばして顔を覗き込んでくる。
「私、私のパパみたいな人が理想なの。パパのお嫁さんになるのが夢だったの。」
「そりゃあいい。女の子の小さな時の夢だな。親父さんってのは、お前がいつも話してくれる働き者の…」
「そうなの。私、一生懸命働く人が好き。怠け者は嫌い。」
きっぱりと言い切られた言葉に、バルフレアはようやく動きを止め、そして、不機嫌そうに前髪をかき上げた。パンネロは自分の言葉が効果を上げたのがうれしくて、上機嫌で続ける。
「ね?早く、お顔洗っておひげもちゃんと剃って!」
「お前の親父さんが、身だしなみもきちんとされていたようだな。」
バルフレアはそれでも名残をしそうパンネロに頬ずりをする。
「バルフレア、おひげが痛いの。」
手のひらでバルフレアを転がし、ベッドから連れ出すことに成功して、パンネロが少し得意げだ。ちゃんと夫を思うように誘導している妻という感じがする。
「そうだよ、私、きちんとしているバルフレアは大好き。」
「まったく、お前にはかなわないな。」
バルフレアは漸く起き上がり、ベッドから出てくる。きちんとしたバルフレアが好き、とは言ったが、こんな風に前髪を下ろし、髪がぼさぼさで、パジャマのズボンが辛うじて腰に引っかかって、あくびをしているバルフレアもパンネロは大好きなのだ。
「好きと嫌いだけで。俺は思うように操縦している。」
「私、バルフレアの操縦なら、イヴァリースで1番かな。」
「ああ。誰もかなわないさ。」
くすぐったそうに笑うパンネロがかわいらしくて、寝起きの不機嫌さは消し飛んだ。朝食を作るためにふんわりとしたフリルのエプロンを着けたパンネロはとても愛らしく、バルフレアは上機嫌になる。すぐさま体を屈め、その頬にキスをした。
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それでも、やはり雨だと言うことで出かけるの億劫がるバルフレアの尻を叩いて服を着るように言いつけ、食事をさせ、さあ仕事に送り出そうと扉を開いたところで、扉の外はまるで滝のような雨が降っていた。誰も通りを歩いていおらず、どの家もしっかりと戸締りをしている。
おまけに風も強く、雨が吹きこんでくる。パンネロが驚いて外を眺めたまま呆然としているので、バルフレアが腕を伸ばして扉を閉めてやる。
「さすがにこの天気で仕事に行くやつはいないな。」
パンネロは複雑そうな顔をしてバルフレアを見上げる。バルフレアは体を屈め、パンネロの耳元にとっておきの話を打ち明けるかのように、
「これで今日、一日ベッドの上で過ごしてもいいことになったな。」
「もう!どうしてそうなるの?」
いくら天候が荒れて家から出られないからと言って、一日をベッドで自堕落に過ごしていい理由にはならない。ここで甘やかしてなるものかとパンネロは頑張る。
「仕事に行けない。今日一日退屈だ。」
「だから、どうしていつもベットになるの?」
「いつだって、柔らかくて、小さくて、かわいい声で鳴くお前を抱きしめたいからさ。」
ついにパンネロが怒って、ポカポカと小さなこぼしてバルフレアの胸を叩く。
「じゃあ、他に何をするんだ?」
「えっと… 2人でおうちのことを…」
「それはいい。クローゼットの整理でもするか。」
確かに、ひっきりなしにパンネロに(もちろん自分にも)、バルフレアは服を買ってくるので、クロゼットには、まだ包すら解いていない箱が積まれてるほどだ。なので、バルフレアの提案は適切なように響いた。パンネロはそうだね、と、同意しかけたが、前に一緒にクロゼットを片付けた時に途中から着せ替えごっこになってしまったことがあったのだ。脱いだり着たりをしている内に、その場でことに及んでしまい、あまりにも行儀が悪かったのではないかとパンネロを大いに落ち込ませたのだ。バルフレアのことだ、それを覚えていてわざとパンネロをからかっているのだ。負けてなるものかとパンネロは別の提案をする。
「えっと…お家の事はいいよ。バルフレア、お仕事で疲れてるでしょ?リビングでゆっくりでも本読んで?」
「それはいいアイディアだな。うちの奥さんは本当に旦那をいたわる方法をご存じだ。」
そう言われてちょっと得意になったパンネロだが、前にリビングでバルフレアが本を読んでいて、その隣でパンネロも隣に座ってバルフレアに体をもたれかけさせていると、いつの間にか腕が伸びてきて、引き寄せられ、気がつくとソファーの上であられもない格好させられていたことを思い出した。
「やっぱり、一緒にお料理をしようよ。たくさん、お肉をいただいたの。それを燻製に……」
そこまでいかけて、パンネロはまた思い出したのだ。前に一緒にお菓子を焼こうとして、気がついたらカウンターの冷たい大理石の上に横たえられて、ものすごく恥ずかしいことされたことがあったのだ。
バルフレアは、さもおかしそうに、パンネロを見つめている。まるで、家の中で2人がセックスしていない場所がどこかにあったのかと言わんばかりだ。パンネロはきゅっと唇を噛みしめる。
「な?だから、ベットの中が1番いいんだろ?」
「バルフレア、ずるい……さっきの仕返し?」
バルフレアは大げさに肩をすくめてみせる。
「とんでもない。幸運にも降って湧いた休日を、有効に使おうと提案しているだけさ。」
そして、悔しいのか、むぅと唇を尖らすパンネロの額に優しくキスをする。
「な?朝だけだ。昼前にはちゃんとベッドから出る。」
「……本当に?」
「誓って。」
バルフレアは胸に手を当てて、恭しく礼をする。
「……ちょっと……だけだよ?」
やっとのことで、お許しをもらい、バルフレアはしてやったりとほくそ笑む。拗ねて困ったパンネロのなんとかわいらしいことか。おまけに、今日のエプロンのまたなんと可憐なことか。新妻を包む真っ白なリボンだ。
「ベッドまでは抱いて行った方がいいかな?」
まだ意地を張っているのか、パンネロは返事をしない。だが、返事の代わりに背伸びをし、バルフレアの首に自分の腕を巻きつける。これは、パンネロがバルフレアに抱っこをおねだりする時のお決まりの仕草だ。
「イイ子だ。」
バルフレアはパンネロを軽々と抱き上げると、そのままベッドへと運んで行ったのだった。
おわり。