招待状。(FF12)

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新婚さんのバルフレアとパンネロで完全捏造です。結婚後空賊を引退し帝都に工房を構えたバルフレアと新妻のパンネロ。そういうネタが苦手な方はご注意ください。ラーサーからの招待を受けてヤキモチをやくバルフレアの話。


厚みのある高級紙にぴしっとした折り目のその封筒には、あまり歓迎したくないソリドール家の紋で封蝋されていた。それを持って来た使者は家の前で家人の帰りを待っていたようだ。パンネロは出かけているようで、先に帰ってきたバルフレアにそれを渡すと、恭しく礼をし、立ち去った。バルフレアは面白くない気持ちでその封筒をまじまじと眺めた。
あの日々はもう遠い過去のことだとバルフレア思っていた。今はパンネロと2人だけの生活を満喫している。あの刺激的すぎる日々は、良き思い出ではあるが戻りたいとは思ってはいない。そんなときに、突如舞い降りてきたこの封筒。
(嫌な予感しかしないぜ……)
さっさと捨ててしまおう。だが、中身は気になる。見るだけ見て捨てるか、そう思って玄関先で封を切った。箔が押された美しいカードが入っていて、それを上に視線を走らせ、バルフレアは眉をひそめた。
「皇帝陛下主催の晩餐会だあ…?」
名目は、どこかの企業エンジンの基幹部分を改良し劇的にその動力を向上させたとかなんとか。バルフレアにしてみると、そう言えばそんな仕事を受けたっけな、という程度のものだ。おそらく、下請けで回ってきた仕事で、それがそんな大掛かりなものとはバルフレアも気づいてなかったのだ。
(ギャラが破格だったのはそういうことか……)
その時はパンチングがされた白いレザーの大きなリボンがついたサンダルを買って、まだ冬なのにとパンネロの呆れられたのを思い出した。そして、どういう経緯でそれが皇帝陛下に伝わったのかはわからないが、その功を認められ、自分とパンネロは皇帝宮で定期的に行われる晩餐会に招待されたらいしのだ。
最後の一文字を読み終わった時点で、これは直ぐ様、薪にくべて燃やしてしまおうとバルフレアは心に決めた。
(パンネロをラーサーに会わせるなんて、とんでもない話だ。)
そう思った時に、すぐ後ろから声がした
「お帰りなさい、バルフレア。」
果物をたくさん詰めた紙袋抱えて、パンネロが後ろに立っていた。
「バルフレアより先に帰れるかなって思ったんだけど、同じだったね。」
にこにこと笑う笑顔が今日は後ろめたい。
(なんてタイミングで鉢合わせだ……)
バルフレアは己の不幸を嘆き、天を呪った。
「あら?お手紙?」
「いや、なんでもない。」
「請求書かな?前にカーテン全部取り替えたでしょ?あれのかな……」
パンネロが手を伸ばしたので、バルフレアはとっさにその招待状背後に隠してしまった。パンネロは怪訝そうにバルフレアを見上げている。
「……………どうしたの?何の手紙?」
パンネロの声が珍しく、くぐもったものになる。バルフレアはものすごく焦った。背中を冷たい汗が滑り落ちた。
結婚前に、いや正確に言うと、パンネロと出会う前に親しい間柄というか、深い間柄になった女性の何人からか手紙が来たことがああったのだ。
しっかり者といわれているパンネロでも、さすがに情緒不安定になった。過去にやきもちを焼いても仕方がないと自分に言い聞かせつつも、気持ちがそれを受け入れられないらしく、しかも手紙の内容がかなり赤裸々かつ攻撃的なものだったことに更にショックを受けて、
『しばらくそっとしておいて』
テーブルに残されたその置き手紙を見たとき、バルフレアはこの世の終わりかの様に落ち込み、そして、その続きに綴られていた家出先を見て、恐怖に震えたのだった。
なんと、パンネロはアーシェのところに転がり込んでしまったのだ。女同士でいつの間にどうやって連絡を取り合っていたのか、バルフレアには皆目見当もつかないのだが、沈み込んでしまったパンネロをアーシェが慰めている内に真相を知り、パンネロに深く同情し、バルフレアには烈火のごとく怒ったのだ。
すったもんだの末、アーシェの猛攻を耐え抜き、パンネロにひたすら謝罪して戻ってきてくれたのだが、そんな修羅場があって以来、バルフレアは郵便をこまめにチェックするようになったのだ。
「見せて。」
パンネロが珍しく強い口調で言う。
「いや……これは……。」
「……まさか……また、女の人……なの?」
パンネロの声が震えているのに気づき、バルフレアは覚悟を決めた。
「わかったちゃんと見せる。」
そう言って、パンネロがが抱えている紙袋を持ってやる。
「だが、玄関先でいつまでも押し問答していられないだろう?」
そう言って玄関の扉を開いた。玄関入ってすぐ横にある小さな飾り用の机の上に果物を置き、皇帝宮からの招待状をパンネロに渡した。パンネロは険しい顔をして一心に読んでいたのだが、書いてあることが予想と違ったことにまず面食らう。
「バルフレア、これって…?」
そして、その内容があまりにも現実離れしすぎていて、自分の解釈が本当に正しいのだろうか確認するかのようにバルフレアを仰ぎ見る。
「見ての通り、皇帝陛下から晩餐会のお誘いさ。」
「ラーサー様から!?」
パンネロの表情がぱっと華やいだ。さっきまで沈痛な表情していたのが嘘のような笑顔になる。うれしそうに招待状をまた読みなおす。
「本当だ……本当にラーサー様だ……!」
パンネロは、大事そうに招待状を胸に抱きしめた。
「私のこと覚えててくれたんだね。」
そう言って、うれしそうに微笑むのだ。その時、バルフレアはそれを口元に優しい笑みを浮かべ見守りながらも、心の中ではぶちぶちと花びらをちぎっていた。ソリドール家の象徴である黄色いバラの花の花びらだ。
「ねぇ、バルフレア、私、どんなドレスにしたらいいかな……?厳しいお作法とか…あるんでしょう?」
「パンネロならどこに顔を出しても恥ずかしくはないさ。」
さすが踊り子だけあって、パンネロは一つ一つの仕草がたまらないほど愛らしい。おじぎ一つにしても、現実味を感じさせないのだ。たとえば、妖精か何かが踊りの途中でふわりと体を絡めると、それがどんな姫君も負けない位くらい、品の良いかわいらしいお辞儀になるように。
その愛らしさ思い出すと、バルフレアますますパネルをラーサーに会わせてなるものかと思う。この頃になると、バルフレアは一応笑顔は浮かべるものの、心の中ではラーサーを模した藁人形に釘を打ち付けていた。
「ドレスね、黄色いのにしようと思うの。」
「前に買ったレモンイエローのやつか?あれに合うイヤリングがいるな。」
「本当?いつ買いに行くの?」
いつもなら買い物は控えさせようとするパンネロがおねだりするのも、それがラーサーのためかと思うと頭がおかしくなってしまいそうだ。
「あのね、ラーサー様にお会いした時の服って、あのドレスと色が似てるでしょ?だから、一緒に旅をしたことを思い出してくれるかなって……。」
そんなかわいらしいことを言うパンネロの頬を手の甲でくすぐってやる。だが本当は、今すぐめちゃくちゃに抱きしめて、晩餐会の日まで1歩も外には、いやベッドからも出したくない。
「ねぇ、バルフレア……?」
うれしそうに頬を紅潮させているが、それは自分に対してではなくラーサーに対してのものなのだ。火山の噴煙のごとく黒い嫉妬心が湧いてくる。だがそれを悟られてはいけない、と忍の一字で耐える。
「私、一緒に旅をしていた頃より、きれいになっていると思う?」
もう限界だった。これは消してヤキモチではない。決して違う。亭主のいる身でありながら、他の男の話をうれしそうに語り、あまつさえ、
(きれいになったかだって……?)
これはもう不貞だと言っても良いのではないだろうか。自分はそのことを妻によく言い含めなくてはいけないのだ。
「パンネロ。」
「なぁに?」
「どうして、きれいになったかどうかが気になるんだ?」
「バルフレア、なんだか顔が引きつって……」
「気のせいだ。」
きっぱりと言い切るのが、頬がひきつっているし、唇も少し震えている。
(目も……少し、怖い……)
だが、バルフレアが何を怒っているのかよくわからないパンネロは首を傾げてしまう。自分のような庶民とラーサーがどうにかなるなどと、どう考えてもありえない。ましてや自分は既婚者だ。だから、バルフレアが妬いているのではなく、別のことで怒っているのではないかとパンネロは思ったのだ。話している内に、バルフレアの考えがわかるかもしれないと、まずはバルフレアの質問に答えることにする。
「あのね、私、バルフレアに可愛くて綺麗だって言ってもらいたいから頑張って毎日おしゃれしているでしょう?私ね、それがすごく幸せなの。だからね、私は今こんなに幸せなんですよって、ラーサーさまにに見ていただいて、安心していただきたいの。」
ああ、まただ、とバルフレアは思った。さっきまでの嫉妬とか怒りのどす黒い感情は嘘のように晴れ、まるで青空を雲と一緒に漂っているかのようなフワフワとした安らいだ気持ちになる。肩から自然に力が抜けて、顔の強張りもいつの間にか治っていた。
「じゃあ、とびきり綺麗なパンネロを見せないとな。」
バルフレアがわかってくれたのがうれしくて、パンネロは大きく頷く。
「さっそく買いに行こう。」
「モールベリ区のショップがいいな。」
「お望みなら。」
「うれしい!」
パンネロは飛び上がるようにして、バルフレアの首に腕を回してしがみついた。
「そうだ、その前に大切なことを教えておかないとな。」
「なあに?」
「晩餐会のあとだ。」
「うん?」
「俺以外と、踊るなよ?」
バルフレアはしがみついていたパンネロを横抱きにする。パンネロはうっとりとバルフレアの頬に手を当て、
「ラーサー様に誘われても?」
「当然だ。」
「そんなことしたら、私、捕まっちゃうかも。」
「お前に指一本触れさせないさ。それに……」
パンネロは、なあに?とバルフレアの顔を覗き込む。バルフレアはパンネロに片目をつぶって見せ、
「捕まっても、すぐに助けだす。」
パンネロはうれしそうに声を上げて笑う。
「バルフレアが空賊だったってこと、忘れてた。」
「“お嬢ちゃん”もだろ?」
「そうやって呼ばれるの、久しぶり。」
二人して顔を見合わせて笑う。
「バルフレアも、おめかししてね?私、うんと自慢するの。」
いつもと逆だな、とバルフレアは思う。
「みんなに自慢するの。私の大切な大切な、旦那様ってね!」
おわり