下心。(FF12)

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前にTumblrに投稿したのを発掘してきました。


「もう、クロゼットいっぱいって言ったでしょ?」
パンネロは複雑な表情でバルフレアが持ってきた贈り物の箱の山を見つめる。
だが、バルフレアはどこ吹く風で、どうやら今回一番気に入っているのであろう、淡いパステルカラーシルクジョーゼットの丈の短いドレスをパンネロにあててみる。が、思った程ではなかったのか顔を顰め、また次の箱を開けようとする。
「だいたい、どこに着ていけばいいの?私、パーティなんか行かないのに…」
「俺と会う時だけでいい。」
バルフレアは端的に答えると、今度はサーモンピンクに黒いサテンのリボンでパイピングされたドレスを取り出してくる。そうして、大事なことを言い忘れた、とパンネロの顔を真剣に見つめ、
「他のヤツに見せるなんて、冗談じゃない。」
全くパーティなんて冗談じゃない、と心の底から思う。着飾ったパンネロは、それこそ出来ればきれいな箱に、大事に大事にしまっておきたいくらいなのに。
合わせて買ったエナメルのフラットシューズはどこだと、バルフレアは今度は靴の箱に手をかける。
「もう!バルフレア、そうじゃなくて!ちゃんと聞いて!」
パンネロが少し声を荒らげ、バルフレアは漸く手を止めた。
「私、お人形じゃないんだよ。そんなにたくさんお洋服くれてどうするの?」
珍しくパンネロが怒っているので、バルフレアはパンネロの意向に従い、とりあえず靴の箱を床に置く。
「言ったでしょ?もう、クロゼットいっぱいって。」
「じゃあ、受け取ってくれないのか?」
「お店に返してきて。」
「本当に?」
「うん…あ!でも、このベルトは好き…」
なんだかんだでパンネロもバルフレアに甘い。せっかくの贈り物を全て突き返すなんて、とても出来そうにない。
(…それに、これは本当に素敵…)
真っ白に染められたバックスキンに金色の糸で見事な文様が刺繍されているのだ。勝手にプレゼントをしてくるようで、バルフレアの選んでくるものは見立てもよく、パンネロの好みから外れることはない。それも困ってしまう原因の一つなのだ。
「ああ、それはいいな。前に贈った黒い羽のついたドレスに逢う。」
「贈った服を全部覚えてるの?」
「もちろんだ。パンネロに似合うと思って選んでくるからな。」
そんな風に言われたらこれ以上強く言えなくなってしまう。
「…ねぇ、バルフレア、どうしていつもこんなにドレスばっかり贈ってくれるの?うれしいけど…本当よ!本当にうれしいの。でも…こんなにたくさん…」
困り果てて口ごもってしまうパンネロに、バルフレアはパンネロが手に持っていたバックスキンのベルトを細い腰に巻き付けてやる。
「パンネロも、もうそろそと覚えておいた方がいいな。」
「何を?」
「俺だけじゃないさ。男が女に服を贈る理由なんて一つだけだ。」
「なぁに?」
口唇を少し尖らせて、首を傾げるパンネロの肩にバルフレアは両手を置き、まるでキスをするかのように首を傾げ、そっと耳元に何かを囁いた。途端にパンネロの顔が見る見る赤くなり、
「もう!バルフレアったら!」
きゃあきゃあと腕の中でじたばたするパンネロの背中を優しくとんとんと叩きながら、バルフレアは笑いを堪えるのに必死だ。パンネロでなくても怒るだろう、「着せた後に脱がせるため。」なんて言われたら。
バルフレアはパンネロがひと通り暴れ終えるのを見計らって、わざと真面目な顔を作ってみせると、
「わかった。これからは控える。」
「…本当?」
「俺がお前に嘘をついたことがあるか?」
あるような、ないような。
まだ顔を赤くして、頬をぷぅと膨らませ、今ひとつ納得がいかないと可愛らしく表現しているパンネロの額にバルフレアは優しくキスをしてやると、
「約束する。」
でも、覗き込んだ瞳が何かを企んでいるようにパンネロには見えて。
「…今度、持ってきたら、本当に怒るからね。」
「そんなことはさせないさ。」
「本当の本当に?」
「誓って。」
バルフレアは芝居のかかった仕草で胸に手を当てて頭を下げる。
「その代わり、俺以外の誰かに贈られた服なんか、絶対に着るんじゃない。」
そう言って抱きしめてやると、パンネロはもう大人しくなって、素直にバルフレアに身体を預けてくる。
「そんなこと…ないよ。絶対に。」
「いい子だ。」
もう、また子供扱い、と言うパンネロの柔らかい口唇を塞ぎ、バルフレアはひそかにほくそ笑む。
約束だからドレス「は」もう贈らない。それに、パンネロはクロゼットがいっぱいだと言っていたので、
「てことは、チェストはまだ空いてるな。」
「何か言った?」
「いや。」
チェストに入れるものと言えば下着が相場と決まっている。またたくさんのプレゼントの箱を持ってきて、その中身が色とりどりのランジェリーだと知ったらパンネロはどうするだろう?
(拗ねて、口をきいてくれないかもな。)
それでも、ベッドでパンネロにそれを着せる自信はある。
好きな相手をそうやってからかう自分も大人げないなと思うのだが、なにしろさっきみたいに怒ってるパンネロもカワイイので。
とりあえず、今夜はさっきのピンクのドレスにエナメルのフラットシューズだ、と決める。パンネロをベッドに座らせて、跪いてその靴を脱がせたら、まだ幼い恋人はどんな恥じらいを見せるのか。
一方パンネロは「俺以外の誰かに云々」という台詞が効いたのか、バルフレアの胸に頬を埋め、うっとりと目を閉じた。
おわり。